CCUS 用アプリ建キャリで資格確認は可能か?




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工場の前で考える男女

※ イメージ図(©photoAC)

建設キャリアアップシステム(CCUS)は、国土交通省の主唱するシステムです。個々の技能労働者について、その就業履歴の他、保有資格、各種教育の受講歴などの情報を、システムのサーバに集積することで、その労働者の経歴等を管理するシステムです。

技能労働者がこのシステムを利用するには登録が必要で、技能者と事業者の双方が登録しなければなりません。2025年3月末現在、約 162 万7千人の技能者が登録を行っています。

そして、2024 年 11 月には、建設キャリアアップシステム(CCUS)のスマホアプリ「建キャリ」がリリースされました。この建キャリについて、国土交通省が、「建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会」に提出した「令和7年度協議会資料」に「建設キャリアアップシステム(CCUS)のスマホアプリ「建キャリ」で、CCUS へ登録した資格者証の画像を表示することで、資格確認に活用できます」と表記したのです。

これによると、対象となる「資格」として、労働安全衛生法に基づく特別教育、労働安全衛生法に基づく職長教育・安全衛生責任者教育、及び、登録基幹技能者(※)が挙げられています。

※ 登録基幹技能者は、国交大臣の登録を受けた講習の修了者であり、安衛法とは直接関係がないので、本稿の対象とはしていない。

しかし、そもそも安衛法の特別教育、及び、職長教育の受講は資格という位置づけではなく、これらの実施時に修了証の発行は義務付けられておらず、作業時にも修了証の携行は義務付けられていません。また、安全衛生責任者教育は、行政通達「建設業における安全衛生責任者に対する安全衛生教育の推進について」(最終改正:平18年5月12日 基発第0512004号)によるもので、法律上の教育ですらありません。すなわち、これらの教育の修了証を携行しなくても法違反にならない以上、建キャリを修了証の代わりに携行したとしても、安衛法違反の問題は起きません。

ただ、現実には、専門の教育機関などが行う特別教育や職長教育を受講することは、多くの事業者にとって「資格」だと考えられています。逆から言えば、特別教育の対象業務に労働者を従事させるときや新たに職長として従事させるときに、その労働者が過去にその教育をすでに受講していれば、事業者はその教育の実施を省略している実態があるのです(※)。そして、過去の教育の受講を確認するために、教育機関が発行した「修了証」を用いるわけです。すなわち、教育の修了証が「資格証」のように扱われているわけです。

※ 安衛則第 37 条(特別教育)又は、第 40 条第3項(職長教育)により、教育を省略することは違法ではない。しかし、そのことが労働安全衛生の観点から望ましいことかどうかについては、様々な考えがあり得よう。なお、事業者と建設技能労働者の間に雇用関係がなければ、事業場内で特別教育未受講の技能者が対象業務を行ったとしても、事業者は安衛法違反とはならない。

ここで、国土交通省は、あくまでも(法律上の義務ではない)修了証の携行の確認は建キャリで行えばよいとしたにすぎません。気を付けて頂きたいのですが、対象となる教育を過去に受講していること(すなわちその事業者が教育を省略できること)の確認についてまで、建キャリで行えばよいとはしていないのです。

そして、安衛法を所掌する厚労省は、国交省の本件に関する主張については、一切、コメントをしていません。これは、資格証の携行は、安衛法上の義務ではないのですから当然のことです。また、労働基準監督官のほとんどは、この国交省の主張については知らないものと思われます。

そもそも、特別教育も職長教育も、本来、労働者を対象業務や職長に従事させる事業者が責任をもって実施するべきことです。仮に、これを省略するのであれば、省略要件を満たしていることを間違いのない方法で確認する必要があります。その確認の方法について、国交省は何かを言える立場にはありません。

本稿では、「建キャリ」で技能労働者の過去の特別教育受講の有無を判断することの是非について解説します。



1 はじめに

執筆日時:

最終改訂:


(1)建設キャリアアップシステム(CCUS)の目的と仕組み

現場で働く女性技能労働者

※ イメージ図(©photoAC)

建設キャリアアップシステム(CCUS:シーシーユーエスと読む)は、国交省の WEB サイトによると、「技能者が、技能・経験に応じて適切に処遇される建設業を目指して、技能者の資格や現場での就業履歴等を登録・蓄積し、能力評価につなげる仕組みです」とされており、外国人技能者も登録の対象となる。

その利用には、事業者のみならず技能労働者も登録をする必要がある(※)。そして、これを現場で運用するためには、さらに元請事業者は現場登録を、下請事業者は施工体制の登録をそれぞれする必要がある。

※ 建設業の事業者にはこの制度に対する不満も多く、2021年には、日経XTECH「笛吹けど踊らぬ働き方改革、「CCUS を導入しない」が4割」(2021年4月19日)では、普及が進まない状況が指摘されている。

このようなこともあり、2023年には登録が原則義務化されている。しかしながら、罰則はなく、登録をしていない現場が存在していることも事実である。建設キャリアアップシステムのWEBサイト「建設産業専門団体連合会の建設キャリアアップシステム登録状況」でも「所属技能者の全員実施完了が46.2%で最多、次に、所属技能者の一部完了が26.2%。現在申請中が2.2%」「建設キャリアアップシステムは2024年3月現在、約140万人の業者が登録を行っております。その中で、能力評価に取組んでいるのは約10万人たったの7%です」とされる。

この登録には、簡略型と詳細型があり、技能労働者が登録を行うと、キャリアアップカード(ICカード)が交付される。

登録項目 登録料 レベル判定
簡略型 本人情報(本人氏名・生年月日・性別・血液型・国籍・現住所・電話番号・メールアドレス・カード送付先・緊急連絡先の住所 / 番号 / 氏名)、所属事業者、職種、経験、社会保険(健康保険・年金保険・雇用保険)、建退共、中退共 2,500円 不可
詳細型 簡易型に加えて、労災保険特別加入、健康診断、学歴、登録基幹技能者資格、保有資格等、研修等受講履歴、表彰履歴 4,900円 可能

技能労働者が現場で働く場合、その現場の元受け事業者が建設キャリアアップシステムに登録しているとカードリーダーが設置されている。入場の際に、キャリアアップカードをカードリーダーに読み込ませると、その現場で作業に従事したことが、(作業の内容を含めて)就業実績として記録されることとなる。


(2)「資格の登録」の方法

問題は、保有資格および研修受講履歴の登録の内容の真実性である。真実性が担保されるには、登録の内容が公的に確認されている必要がある。

登録は、技能労働者の申請によって行われる。そして、保有資格等の登録のためには、次の書類の写しを提出することが必要である。

種類 内容
保有資格等 合格証・免許証・技能講習修了証・安全衛生教育修了証
研修等の受講履歴 研修名・氏名・受講年月日を確認できる書類

ただ、申請はインターネット経由でも可能であり、その場合は、上記書類を JPG 形式の電子ファイルにして添付することとされているのである。

しかし、JPG 形式の画像では、氏名欄に特殊なフォントでも使用していない限り(※1)、簡単に変造・修正が可能である。分かりやすく言えば、ネット経由の場合は、申請を受け付ける側で保有資格等の発行機関に問い合わせをする等の確認をしない限り(※2)、簡単に偽造ができてしまうのではないかという疑念が払しょくできないのである。

※1 氏名に特殊なフォントを使用していれば、偽造がやりにくいことは事実だが、特別教育の修了証は各教育機関が独自に作成するのでそのようなことはしていない。また、していたとしても、修了証を確認する側にそれに関する知識がなければ意味はない。

※2 そして、そのような確認は行われていない。現実には、そのような確認を行うことは不可能に近いだろう。


2 国土交通省が建キャリの活用で資格者証の携行が不要になると表明

(1)建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会資料

スマホアプリ「建キャリ」の活用で資格者証の携行が不要に!

図をクリックすると拡大します

※ 「建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会」の「令和7年度協議会資料」より抜粋

ところが、国土交通省(国交省)は、建設業キャリアアップシステムの普及に力を入れているが、同システムのスマホ用アプリである「建キャリ」を用いることで「資格者証の携行が不要になる」として、これを建設業キャリアアップシステムのメリットになると主張したのである。

図は、「建設キャリアアップシステム処遇改善推進協議会」に、国交省が提出した「令和7年度協議会資料」から抜粋したものである。

これによると、「建設キャリアアップシステム(CCUS)のスマホアプリ「建キャリ」で、CCUSへ登録した資格者証の画像を表示することで、資格確認に活用できます」としているのである。

しかし、ここには重大な事実誤認がある。そもそも、安衛法の「特別教育」にしても、「職長教育」にしても、それを受講することは、資格という位置づけではない。そればかりかこれらの教育を実施するときに修了証の発行は義務付けられていないのである。当然のことながら、業務を行うときに修了証の携行も義務付けられていない。

安全衛生責任者教育となると、法律で義務付けられた教育でさえない。行政通達「建設業における安全衛生責任者に対する安全衛生教育の推進について」(最終改正:平18年5月12日 基発第0512004号)により、行政指導としてその実施を求めているもので、法律上の教育でさえないのである。

従って、修了証を携行する法的な義務がない以上、その携行を「建キャリ」に変えたところで安衛法上の問題はない。国土交通省は、この確認(修了証を携行していることの確認)については、「建キャリ」を用いて行えばよいとしたのである。しかしながら、安衛法を所掌する厚労省は、本件について、一切、コメントをしていない。そもそも資格証の携行は、安衛法上の義務ではないのだから当然のことである。また、労働基準監督官のほとんどは、この国交省のコメントについて知りもしないだろう。


(2)建キャリの確認で教育を省略してよいか

ア 教育の省略をするための要件の確認

ただ、問題は、専門の教育機関などは特別教育や職長教育を実施するに際しては、現に修了証を発行しており、少なくない事業者はこの修了証を「資格証」のように扱っているという実態があるということである。つまり、特別教育の対象業務に労働者を従事させるときや、労働者を新たに職長として従事させるときに、労働者がこの修了証を保有していることを確認することによって、本来実施するべき教育を省略してしまう(安衛則第 37 条(特別教育)又は、第 40 条第3項(職長教育)が根拠となり違法ではない(※))のである。

※ このことが労働安全衛生の観点から望ましいことかどうかについては、様々な考えがあり得よう。

そもそも特別教育にしても、職長教育についても、事業者には実施しなければならないことが安衛法で義務付けられている。確かに、条文上は「十分な知識及び技能を有していると認められる者」については教育を省略することができる。このため、過去に一度でも該当する教育を受けていれば、それが他の事業者に雇用されているときのものであったとしても、法的にはその教育は省略できるのである(※)

※ しかし、だからといって、その教育が自社における安全な業務や適切な職長業務をこなす上で適切なものかどうかは別問題なのである。本来は、その教育を自ら実施することが望ましいことは言うまでもないだろう。

問題は、国交省はその確認(安衛則第 37 条又は第 40 条第3項による教育の省略の要件を満たしていることの確認)についてまで、「建キャリ」で確認してよいなどとは言っていないということである。そもそも国交省には、そのようなことを言う権限などないのだ。

仮に、自ら教育することを省略するにしても、その労働者が実際に過去にその教育等を実施しているかどうかは、事業者において確実な方法で確認する必要がある。仮に、偽造された修了証(による建キャリの表示)で特別教育を受講したと労働者が主張したため、その労働者に特別教育を行わなかった場合、安衛法違反を免れることができるとは限らないということは理解しておいた方が良い。


イ 建キャリは要件の確認に十分な証書となるか

問題は、建キャリによる確認で、確実に過去の教育の受講歴の確認をしたといえるかどうかである。国交省が、できることとして欲しいと厚労省に対して要望していることは事実である。しかし、厚労省は、そのことについて公式には何も言っていない。

このことについては技能講習のケースが参考となろう。安衛法第61条による就業制限業務を行う場合は、同条第3項の規定により、免許証や技能講習修了証等を携帯していなければならないとされている。

実を言えば、国交省側は、厚労省に対して免許証等の携帯についても、キャリアアップカードを携行することでよいと認めてほしいと、要望しているという経緯があるのだ。しかし、厚労省としてはその真実性が担保できないという理由でこれを認めていない。

就業制限業務についての資格証の携行について、キャリアアップカードの真実性に不安があるから認められないのなら、建キャリによって過去にその特別教育を受講しているかどうか(特別教育等の省略が可能かどうか)を確認することもできないというべきであろう。


3 まとめ

男性技能労働者

※ イメージ図(©photoAC)

建キャリの利用によって、特別教育や職長教育の修了証の携行が(これまでは必要だったが)不要になると、いくつかの報道機関が報じている(※)

※ 例えば、日刊建設工業新聞「国交省/資格者証携行、一部不要に/安衛特別教育など「建キャリ」画像表示で」(2025年6月17日)など

確かに、国交省が、公式な資料にそのように記述していることは事実である。国交省がそのように述べていると言われれば、事業者は、建キャリを確認すれば過去の教育の受講歴の確認として十分なのだと思うだろう。

しかし、繰り返すが、国交省が言っているのは「携行」の確認を建キャリで行えるということであって、過去の教育の「受講歴」を確認できるとは言っていないのである。国交省は安衛法を所管する省庁ではない。教育の受講歴を確認する方法についてあれこれ言う権限はないのである。

仮に、特別教育の未受講者を特別教育の実施が必要な業務に従事させれば、国交省が何を言おうと安衛法の条文に抵触するのである(※)

※ その技能者が自ら雇用する労働者でなければ、たとえ特別教育の未受講者であっても、自社の事業場内で特別教育の必要な業務を行っていたとしても、その事業者が安衛法違反に問われることはない(就業制限業務の場合は違反となる)。しかし、災害が発生した場合に、そのことが過失とされて民事賠償請求を受けるおそれがあることは否定できないのである。

建キャリで、過去の特別教育の受講歴を確認したとしても、先述したように真実性に不安のあるシステムであることは否定できない。安易に建キャリのみで特別教育の受講の有無を確認するのではなく、適切な方法で受講歴を確認することが必要である。





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