問15 厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく健康保持増進対策に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)健康保持増進措置は、主に生活習慣上の課題を有する労働者の健康状態の改善を目指すために個々の労働者に対して実施するものと、事業場全体の健康状態の改善や健康保持増進に係る取組の活性化等、生活習慣上の課題の有無に関わらず労働者を集団として捉えて実施するものがある。
(2)健康保持増進に関する課題の把握や目標の設定等においては、労働者の健康状態等を客観的に把握できる数値を活用することが望ましい。
(3)健康測定の結果に基づき行う健康指導には、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、口腔保健指導、保健指導が含まれる。
(4)健康保持増進対策の推進に当たっては、事業者が労働者等の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組を行うため、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用する。
(5)医療保険者と連携したコラボヘルス等の労働者の健康保持増進対策を推進するためであっても、定期健康診断の結果の記録等、労働者の健康状態等が把握できる客観的な数値等を医療保険者に提供してはならない。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、試験協会が2025年10月に公表した第2種衛生管理者試験問題の解説を行っています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。
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2025年10月公表問題 | 問15 | 難易度 | THP指針に関する過去問の肢を、一部新しいものと入れ替えた問題。過去問の学習だけでも正答できる。 |
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THP指針 | 3 |
問15 厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に基づく健康保持増進対策に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)健康保持増進措置は、主に生活習慣上の課題を有する労働者の健康状態の改善を目指すために個々の労働者に対して実施するものと、事業場全体の健康状態の改善や健康保持増進に係る取組の活性化等、生活習慣上の課題の有無に関わらず労働者を集団として捉えて実施するものがある。
(2)健康保持増進に関する課題の把握や目標の設定等においては、労働者の健康状態等を客観的に把握できる数値を活用することが望ましい。
(3)健康測定の結果に基づき行う健康指導には、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、口腔保健指導、保健指導が含まれる。
(4)健康保持増進対策の推進に当たっては、事業者が労働者等の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組を行うため、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用する。
(5)医療保険者と連携したコラボヘルス等の労働者の健康保持増進対策を推進するためであっても、定期健康診断の結果の記録等、労働者の健康状態等が把握できる客観的な数値等を医療保険者に提供してはならない。
正答(5)
【解説】
本問は、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP指針)に関する問題である。
THP指針は 2020 年3月に大幅な改正が行われ、その後、2023 年4月公表問題までは「健康測定における運動機能検査の項目とその測定種目」しか出題されなくなっていた。
それが 2023 年4月公表問題問 20 で様相を変えてTHP指針全般についての出題がされたのである。その後、2024 年4月公表問題問 15では再び「健康測定における運動機能検査の項目とその測定種目」が出題された。2025年4月公表問題問 16 では、またTHP指針全般の問題に戻り、内容は2023 年4月公表問題問 20 と全く同じであった。
今回は、2025 年4月公表問題に引き続いて、THP指針全般の問題となり、選択肢の順序を入れ替えて、正答である(5)に新しい肢を入れている。ただ、問題文の「雰囲気」からこれが正答だと分かるような書き方がしてある。なお、今後も2種類のタイプの問題が繰り返して使用される可能性はある。
(1)適切である。THP指針の2の「① 健康保持増進対策における対象の考え方」には「健康保持増進措置は、主に生活習慣上の課題を有する労働者の健康状態の改善を目指すために個々の労働者に対して実施するものと、事業場全体の健康状態の改善や健康増進に係る取組の活性化等、生活習慣上の課題の有無に関わらず労働者を集団として捉えて実施するものがある
」とされている。
【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】
2 健康保持増進対策の基本的考え方
(本文略)
① 健康保持増進対策における対象の考え方
健康保持増進措置は、主に生活習慣上の課題を有する労働者の健康状態の改善を目指すために個々の労働者に対して実施するものと、事業場全体の健康状態の改善や健康保持増進に係る取組の活性化等、生活習慣上の課題の有無に関わらず労働者を集団として捉えて実施するものがある。事業者はそれぞれの措置の特徴を理解したうえで、これらの措置を効果的に組み合わせて健康保持増進対策に取り組むことが望ましい。
②及び③ (略)
※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)
(2)適切である。THP指針の5の「(1)客観的な数値の活用」には「課題の把握や目標の設定等においては、労働者の健康状態等を客観的に把握できる数値を活用することが望ましい
」とされている。
【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】
5 健康保持増進対策の推進における留意事項
(1)客観的な数値の活用
事業場における健康保持増進の問題点についての正確な把握や達成すべき目標の明確化等が可能となることから、課題の把握や目標の設定等においては、労働者の健康状態等を客観的に把握できる数値を活用することが望ましい。数値については、例えば、定期健康診断結果や医療保険者から提供される事業場内外の複数の集団間の健康状態を比較したデータ等を活用することが考えられる。
(2)~(4) (略)
※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)
(3)適切である。THP指針の4の(2)のイの「(ロ)健康指導の実施」には、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、口腔保健指導、保健指導が挙げられている。
【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】
4 健康保持増進対策の推進に当たって事業場ごとに定める事項
(2)健康保持増進措置の内容
イ 健康指導
(ロ)健康指導の実施
労働者の健康状態の把握を踏まえ実施される労働者に対する健康指導については、以下の項目を含むもの又は関係するものとする。また、事業者は、希望する労働者に対して個別に健康相談等を行うように努めることが必要である。
・ 労働者の生活状況、希望等が十分に考慮され、運動の種類及び内容が安全に楽しくかつ効果的に実践できるよう配慮された運動指導
・ ストレスに対する気付きへの援助、リラクセーションの指導等のメンタルヘルスケア
・ 食習慣や食行動の改善に向けた栄養指導
・ 歯と口の健康づくりに向けた口腔保健指導
・ 勤務形態や生活習慣による健康上の問題を解決するために職場生活を通して行う、睡眠、喫煙、飲酒等に関する健康的な生活に向けた保健指導
(以下略)
※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)
(4)適切である。THP指針の「3 健康保持増進対策の推進に当たっての基本事項」には「健康保持増進対策の推進に当たっては、事業者が労働者等の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組を行うため、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用して以下の項目(略す:引用者)に取り組むとともに、各項目の内容について関係者に周知することが必要である
」とされている。
【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】
3 健康保持増進対策の推進に当たっての基本事項
事業者は、健康保持増進対策を中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行うため、以下の項目に沿って積極的に進めていく必要がある。また、健康保持増進対策の推進に当たっては、事業者が労働者等の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組を行うため、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用して以下の項目に取り組む
(以下略)
※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)
(5)適切ではない。THP指針の4の(2)のイの「(イ)労働者の健康状態の把握」には「データヘルスやコラボヘルス等の労働者の健康保持増進対策を推進するため、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の結果の記録等、労働者の健康状態等が把握できる客観的な数値等を医療保険者に共有することが必要であり、そのデータを医療保険者と連携して、事業場内外の複数の集団間のデータと比較し、事業場における労働者の健康状態の改善や健康保持増進に係る取組の決定等に積極的に活用することが重要である
」とされている(※)。
※ なお、かつての旧THP指針には、このような記述はなかった。
【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】
4 健康保持増進対策の推進に当たって事業場ごとに定める事項
(2)健康保持増進措置の内容
イ 健康指導
(イ)労働者の健康状態の把握
(略)
また、データヘルスやコラボヘルス等の労働者の健康保持増進対策を推進するため、労働安全衛生法に基づく定期健康診断の結果の記録等、労働者の健康状態等が把握できる客観的な数値等を医療保険者に共有することが必要であり、そのデータを医療保険者と連携して、事業場内外の複数の集団間のデータと比較し、事業場における労働者の健康状態の改善や健康保持増進に係る取組の決定等に積極的に活用することが重要である。
※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)