問27 筋肉に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)筋肉は、神経から送られてくる刺激によって収縮するが、神経に比べて疲労しやすい。
(2)筋収縮には、グリコーゲン、りん酸化合物などのエネルギー源が必要で、特に、直接のエネルギーはATPの加水分解によってまかなわれる。
(3)筋肉が収縮して出す最大筋力は、筋肉の単位断面積当たりの平均値をとると、性差や年齢差はほとんどない。
(4)運動することによって筋肉が太くなることを筋肉の活動性肥大という。
(5)筋肉中のグリコーゲンは、酸素が十分に供給されると完全に分解され、最後に乳酸になる。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、試験協会が2025年4月に公表した第2種衛生管理者試験問題の解説を行っています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。
他の問題の解説をご覧になる場合は、下表の左欄、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
2025年04月公表問題 | 問27 | 難易度 | 筋肉に関する問題は過去問にもあるが、今回は新しい肢が多用されている。 |
---|---|---|---|
筋肉の特徴等 | 5 |
問27 筋肉に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)筋肉は、神経から送られてくる刺激によって収縮するが、神経に比べて疲労しやすい。
(2)筋収縮には、グリコーゲン、りん酸化合物などのエネルギー源が必要で、特に、直接のエネルギーはATPの加水分解によってまかなわれる。
(3)筋肉が収縮して出す最大筋力は、筋肉の単位断面積当たりの平均値をとると、性差や年齢差はほとんどない。
(4)運動することによって筋肉が太くなることを筋肉の活動性肥大という。
(5)筋肉中のグリコーゲンは、酸素が十分に供給されると完全に分解され、最後に乳酸になる。
正答(5)
【解説】
筋肉に関する問題は、本サイトが解説を載せている2017年4月公表問題から前回までで、7回出題されている。今回は、(1)と(3)は過去の公表問題の修正であるが、(2)、(4)及び(5)はまったくの新規の問題である。
(1)正しいとしておく。本肢の前半の筋肉が神経から送られてくる信号によって収縮することが正しいことは問題はないだろう。
次に、筋肉が神経に比べて疲労しやすいかどうかに答えるためには、まず「疲労」とは何かを明確にする必要がある。日本疲労学会は「疲労」を「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である」と定義している。
つまり、「疲労」とは「筋肉」や「神経」を有する人間に起きるものだと考えられているのである。「筋肉」又は「神経」が独自に起こし、その起きやすさを比較できるようなものなのか、やや疑問は湧く。そこで切り口を変えて、「疲労」を生理的にみて、その原因は何なのかを考えてみよう。
古典的な考え方によれば、筋肉が疲労するのは、筋肉が運動するためにブドウ糖を利用するとき、酸素が十分に供給されないと乳酸が生じ、この乳酸によって筋肉が十分に働けなくなった常態であるとされている。あるいは、傷付いた筋繊維などが回復する際に、炎症を起こして痛み物質が発生して、疲労が起きるという考え方もある。これらによれば、神経にはもちろんこんなことは起きないから、本肢は正しいといえるだろう。
もっとも、疲労が乳酸によるとする考え方は誤りだとする説もある。それによると、疲労の原因は、活性酸素による酸化ストレスで神経細胞が破壊されることだとされている。
こうなると、問題文のいう「筋肉は神経に比べて疲労しやすい」という部分は、やや意味不明であり、正誤もはっきりしない。しかし(5)が明らかに誤りなので、一応、正しいとしておく。
なお、2023 年 10 月公表問題の問 27 では、「筋肉は神経からの刺激によって収縮するが、神経より疲労しにくい」となっており、誤りの肢であった。
(2)正しい。筋収縮のエネルギーは、筋細胞内のATP(Adenosine Triphosphate/アデノシン三リン酸)をATP分解酵素(actomyosin ATPase)が加水分解して、ADP(Adenosine Diphosphate/アデノシン二リン酸)とオルトリン酸(Pi/H3PO4)に分解することによって得られる。
従って、筋を繰り返して収縮させるには、ATPを再合成して補充する必要がある。ATPの再合成のエネルギーは、グリコーゲンを解糖系で分解したエネルギーや、りん酸化合物などのエネルギー源などが用いられる。
(3)正しい。筋肉が収縮して出す最大筋力は、筋肉の単位断面積当たりの平均値をとると、性差又は年齢差がほとんどない。個人による筋力の差は、筋線維全体の太さによる。
(4)正しい。負荷の重い運動を繰り返して行うと筋肉が太くなることはよく知られている。このことを活動性肥大(functional hypertrophy)と呼ぶ。なお、運動をしなければ逆に筋肉が細くなるが、こちらは不動性萎縮(disuse atrophy)と呼ばれる。今後、どちらも出題されることがあり得るので、この機会に覚えておこう。
(5)誤り。短距離走などの無酸素運動を行っているとき、筋肉中のグリコーゲンは、筋細胞内で解糖経路をたどって乳酸とATPに分解される。このATPはエネルギー源として使用され、乳酸は最終的に血中に放出される。この解糖経路は、酸素がなくても可能だが、乳酸が合成されることになり、この乳酸が(古典的な考えにおいては)疲労の原因となるとされている。