第2種衛生管理者試験 2020年10月公表 問29

睡眠など




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合格

 このページは、試験協会が2020年10月に公表した第2種衛生管理者試験問題の解説を行っています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2020年10月公表問題 問29 難易度 睡眠に関する基本的な知識問題である。確実に正答できなければならない。
睡眠など

問29 睡眠に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)睡眠は、睡眠中の目の動きなどによって、レム睡眠とノンレム睡眠に分類される。

(2)甲状腺ホルモンは、夜間に分泌が上昇するホルモンで、睡眠と覚醒のリズムの調節に関与している。

(3)睡眠と食事は深く関係しているため、就寝直前の過食は、肥満のほか不眠を招くことになる。

(4)夜間に働いた後の昼間に睡眠する場合は、一般に、就寝から入眠までの時間が長くなり、睡眠時間が短縮し、睡眠の質も低下する。

(5)睡眠中には、体温の低下、心拍数の減少などがみられる。

正答(2)

【解説】

(1)正しい。レム睡眠は眼球が動いている眠りの浅い状態であり、ノンレム睡眠は眼球が動かない熟睡している状態である。睡眠中は、ほぼ90分周期でノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返している。

(2)誤り。甲状腺ホルモンが夜間に分泌が上昇することは正しい。しかし、その分泌は睡眠によって抑制される(※)。甲状腺ホルモンが睡眠と覚醒のリズムの調節に関与しているわけではないのである。むしろ甲状腺ホルモンが少なすぎると眠くなることがある。甲状腺ホルモンの役割は、単純化して言えば「新陳代謝の調節」である。

※ 例えば、田ヶ谷浩邦「睡眠関連ホルモンの計測」(生体医工学 46(2)(2008年))

夜間に分泌が上昇するホルモンで、睡眠と覚醒のリズムの調節に関与しているのは、コルチゾールと呼ばれる副腎皮質ホルモンであり、血糖値の調節などの働きをする。ストレスによって分泌量が増えることが知られているが、正常であれば朝方の起床前後が最も高く、夜にかけて低くなり、一日の活動のリズムを整える。

(3)正しい。就寝直前の過食が良くないことは、常識として知っておかなければならない。睡眠前の食事が肥満に影響を与えることについて異論がないわけではない(※)が、「過食」をすれば睡眠前でなくとも肥満になるだろう。また、睡眠前の食事が概日時計に影響をして不眠を招くことがあることはよく知られている。

※ 例えば、小澤啓子他「夜遅い食事と肥満との関連:英文文献を用いたシステマティックレビュー」(日健教誌 第24巻 第4号 2016年)は、文研研究の結果から「夜遅い食事と肥満との関連について結論を出すことは難しい」としている。

(4)正しいとしておくがやや疑問。本肢前段の「夜間に働いた後の昼間に睡眠する場合に、一般に、就寝から入眠までの時間が長くなり、睡眠時間が短縮する」ことについて、確実なエビデンスがあるとは思えない(※)

※ 本肢は、夜勤では寝つきが悪くて睡眠時間が悪くなるとしている。ここにいう寝つきとは、睡眠潜時(消灯又は就床時刻から睡眠開始までの時刻)あるいは入眠潜時(眠るように指示して消灯した時点から睡眠開始までの時間)のことであろう。しかし、夜勤時に睡眠潜時が長くなるという学術論文は見つからなかった。

むしろ逆に、例えば、松本光寛他「客観的・主観的指標を用いた交代勤務看護師の睡眠評価」(産業衛生学雑誌 第56巻 3号 2014年)は、入眠潜時について「日勤日睡眠と夜勤後休日睡眠,夜勤中仮眠と夜勤明け日中仮眠を比較したところ,有意な差はみられなかった」としている。

また、折山早苗他「12時間の二交代制勤務看護師の睡眠および眠気と疲労の特徴」(日本看護科学会誌 39巻 2019年)も、「日勤後から夜勤後4日目までの7日間の主睡眠と副睡眠を分析した結果,主睡眠の睡眠効率,睡眠潜時は差がなかった」としている。

なお、夜間に働いた後の昼間に睡眠する場合に睡眠の質が低下することについては、エビデンスがあると言ってよいだろう。

(5)正しい。睡眠中には、体温の低下、心拍数の減少などがみられる。

※ 例えば、小山恵美「ヒトの日常生活における直腸温と心拍数計測および両者日内変動の相関関係」(BME Vol.7,No.2,1993年)の図2-3等を参照。

2021年01月06日執筆