問17 特殊健康診断に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)有害業務への配置替えの際に行う特殊健康診断には、業務適性の判断と、その後の業務による影響を調べるための基礎資料を得るという目的がある。
(2)特殊健康診断が法定労働時間外に行われた場合には、割増賃金を支払う必要がある。
(3)眼底検査は、電離放射線健康診断で実施され、動脈硬化の進展の有無を検査する。
(4)振動工具取扱い作業者に対する特殊健康診断を1年に2回実施する場合、そのうち1回は冬季に行うとよい。
(5)特殊健康診断において適切な健診デザインを行うためには、作業内容と有害要因へのばく露状況を把握する必要がある。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、試験協会が2025年10月に公表した第1種衛生管理者試験問題の解説を行っています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。
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2025年10月公表問題 | 問17 | 難易度 | 過去問にない肢やひねった肢が多いが、基本的に過去問の学習で正答可能な問題。 |
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特殊健康診断 | 3 |
問17 特殊健康診断に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)有害業務への配置替えの際に行う特殊健康診断には、業務適性の判断と、その後の業務による影響を調べるための基礎資料を得るという目的がある。
(2)特殊健康診断が法定労働時間外に行われた場合には、割増賃金を支払う必要がある。
(3)眼底検査は、電離放射線健康診断で実施され、動脈硬化の進展の有無を検査する。
(4)振動工具取扱い作業者に対する特殊健康診断を1年に2回実施する場合、そのうち1回は冬季に行うとよい。
(5)特殊健康診断において適切な健診デザインを行うためには、作業内容と有害要因へのばく露状況を把握する必要がある。
正答(3)
【解説】
(1)正しい。有害業務への配置替えの際に行う特殊健康診断には、業務適性の判断と、その後の業務の影響を調べるための基礎資料を得るという目的がある。
よく中小企業の事業主等で、健康診断の結果はプライバシーに関することなので事業主は、一切その内容を知ってはならないと誤解しているケースがあるが、その結果を全く事業主の側が知らなければ健康診断を行ったことにはならず、安衛法違反となる。
(2)正しい。昭和47年9月18日基発第602号「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」に次のようにされている。
なお、本肢は、当サイトが解説を掲示している 2017 年4月公表問題以降では初出である。
【健康診断と賃金の支払い】
Ⅰ 法律関係
13 健康管理
(2)第六六条関係
イ (略)
ロ 健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般に対して行なわれる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行なわれるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可決な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと
特定の有害な業務に従事する労働者について行なわれる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行なわれるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行なわれた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること。
ハ (略)
※ 厚生労働省「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」(昭和47年9月18日基発第602号)(下線強調引用者)
(3)誤り。電離則第56条第1項の特殊健康診断項目に眼底検査は定められていない。
眼底検査は、有機則による特殊健康診断で二硫化炭素を製造又は取扱う業務で実施される。二硫化炭素にばく露すると糖尿病に類似した症状が現れ、二硫化炭素の長期間高濃度曝露により眼底に微細動脈瘤が生じるので、その調査を行うのが目的である(※)。
※ 日本産業衛生学会「二硫化炭素」(産衛誌 Vol.57 2015年)など
【電離放射線障害防止規則】
(健康診断)
第56条 事業者は、放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入るものに対し、雇入れ又は当該業務に配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 被ばく歴の有無(被ばく歴を有する者については、作業の場所、内容及び期間、放射線障害の有無、自覚症状の有無その他放射線による被ばくに関する事項)の調査及びその評価
二 白血球数及び白血球百分率の検査
三 赤血球数の検査及び血色素量又はヘマトクリット値の検査
四 白内障に関する眼の検査
五 皮膚の検査
2~5 (略)
【有機溶剤中毒予防規則】
(健康診断)
第29条 (第1項及び第2項 略)
3事業者は、前項に規定するもののほか、第1項の業務で別表の上欄に掲げる有機溶剤等に係るものに常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月以内ごとに1回、定期に、別表の上欄に掲げる有機溶剤等の区分に応じ、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない
4~6 (略)
別表 (第二十九条関係)
有機溶剤等 | 項目 | |
---|---|---|
(略) | (略) | (略) |
(七) |
一 二硫化炭素 二 前号に掲げる有機溶剤をその重量の五パーセントを超えて含有する物 |
眼底検査 |
(略) | (略) | (略) |
(4)正しい。「振動工具(チエンソー等を除く。)の取扱い等の業務に係る特殊健康診断について」において、振動工具の取扱い業務に係る特殊健康診断の実施時期は、少なくとも1回は冬季に行われることとされている。
日本産業衛生学会の「振動障害の診断ガイドライン 2013」でも「冷水浸漬検査の水温は 10℃± 0.5℃以内とし、恒温漕内の水温均一化のために検査中は攪拌する。検査は原則として寒冷期(秋から冬)に、午前 9 時から午後 6 時の間に実施する
」とされている。
(5)正しい。これは当然であろう。作業内容と有害要因へのばく露状況は、問診で把握する必要がある。それをしておかないと、所見があっても、それとばく露との関係が明確にならないからである。