第1種衛生管理者試験 2025年10月公表 問15

化学物質のリスクアセスメント指針




問題文
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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、試験協会が2025年10月に公表した第1種衛生管理者試験問題の解説を行っています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。

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2025年10月公表問題 問15 難易度 リスクアセスメント指針に関する基本的な問題である。このような問題は確実に正答できるようにしたい。
化学物質RA指針

問15 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)リスクアセスメントの基本的手順のうち最初に実施するのは、労働者の就業に係るリスクアセスメント対象物による危険性又は有害性を特定することである。

(2)ハザードは、労働災害発生の可能性と負傷又は疾病の重大性(重篤度)の組合せであると定義される。

(3)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討では、リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な保護具の使用よりも作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策を優先する。

(4)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討では、法令に定められた事項を除けば、危険性又は有害性のより低い物質への代替等を最優先する。

(5)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討に当たっては、より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討は必要ない。

正答(2)

【解説】

本問は、問題文本文にもあるように「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(以下「指針」という)に関する問題である。なお、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号:以下「通達」という)も、適宜、参照されたい。

(1)正しい。指針の「3 実施内容」において、リスクアセスメントの実施事項が記載されているが、その最初の項目は「(1)化学物質等による危険性又は有害性の特定」となっている(※)

※ もちろん、現実には、最初に行うべきは「リスクアセスメントの対象の選定」であり、次に行うのは「情報の入手」である。指針では、この2つはリスクアセスメントの準備段階として位置付けられており、「リスクアセスメントの基本的手順」の前段階なので、本肢は正答となる。

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】

3 実施内容

  事業者は、法第57条の3第1項に基づくリスクアセスメントとして、(1)から(3)までに掲げる事項を、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第34条の2の8に基づき(5)に掲げる事項を実施しなければならない。また、法第57条の3第2項に基づき、安衛則第577条の2に基づく措置その他の法令の規定による措置を講ずるほか(4)に掲げる事項を実施するよう努めなければならない。

(1)リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性の特定

(2)~(5)(略)

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)

(2)誤り。通達の「1 趣旨等について」の(2)において「指針の1の「危険性又は有害性」とは、ILO 等において、「危険有害要因」、「ハザード(hazard)」等の用語で表現されているものであること」とされている。すなわち、ハザードとは、危険又は有害性のことであって、災害が起きたときの被害の大きさだと考えればよい。

本肢の「労働災害発生の可能性と負傷又は疾病の重大性(重篤度)の組合せ」は、指針の「3 実施内容」の(2)にあるように「リスク」のことである。

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について】

1 趣旨等について

(2)指針の1の「危険性又は有害性」とは、ILO 等において、「危険有害要因」、「ハザード(hazard)」等の用語で表現されているものであること。

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(最終改正:令和5年4月 27 日 基発 0427 第3号)

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】

3 実施内容

(2)(1)により特定されたリスクアセスメント対象物による危険性又は有害性並びに当該リスクアセスメント対象物を取り扱う作業方法、設備等により業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又は当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度及び当該危険又は健康障害の程度(以下「リスク」という。)の見積り(安衛則第 577 条の2第2項の厚生労働大臣が定める濃度の基準(以下「濃度基準値」という。)が定められている物質については、屋内事業場における労働者のばく露の程度が濃度基準値を超えるおそれの把握を含む。)

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)

(3)正しい。化学物質等による疾病のリスク低減措置の検討は、「法令に定められた事項」があればまずそれを実施する。次に、検討の優先順位を、「本質安全化」、「工学的対策」、「管理的対策」、「保護具の着用」の順序とする。

化学物質を取り扱う作業現場では、作業環境が保護具が必要のない状況になっていることが望ましい。そこで、保護具の着用よりも、作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策や、局所排気装置の設置等の機械・設備による工学的対策を優先するのである。

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】

10 リスク低減措置の検討及び実施

(1)事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の内容を検討するものとする。ただし、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として、労働者がばく露される程度が濃度基準値又はばく露限界を十分に下回ることが確認できる場合は、当該リスクは、許容範囲内であり、追加のリスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること。

 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱うリスクアセスメント対象物の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減

 リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又はリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策

 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策

 リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な保護具の選択及び使用

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)

(4)正しい。指針の「10 リスク低減措置の検討及び実施」の(1)にあるように、リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討では、法令に定められた事項を除けば、危険性又は有害性のより低い物質への代替等を最優先する。

ただ、このことは「教科書的」には正しいが、実際には「危険性又は有害性のより低い物質」に代替したつもりで、実際には有害性のそれほど違わない物質へ代替し、工学的対策などの他の対策を採らなかったために災害が起きるという事例が後を絶たない。

金科玉条的に「より危険性又は有害性のより低い物質への代替化」を優先させるのは、極めて危険な行為だと言える。

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】

10 リスク低減措置の検討及び実施

(1)事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の内容を検討するものとする。ただし、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として、労働者がばく露される程度が濃度基準値又はばく露限界を十分に下回ることが確認できる場合は、当該リスクは、許容範囲内であり、追加のリスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること。

 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱うリスクアセスメント対象物の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減

 リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又はリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策

 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策

 リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な保護具の選択及び使用

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)

(5)正しい。指針の「10 リスク低減措置の検討及び実施」において、「より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討まで要するものではないこと」とされている。

ただし、実務においては、「管理的対策」は、「本質安全化」「工学的対策」により十分にリスクが低くなった場合であっても必要な場合があることに留意すること。また、「管理的対策」によってリスクが十分に低くなったと判断される場合であっても、保護具の着用を行うべきことがあると考えておくこと。

【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】

10 リスク低減措置の検討及び実施

(1)(略)

(2)(1)の検討に当たっては、より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討まで要するものではないこと。また、リスク低減に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要があるものとする。

(3)及び(4)(略)

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)
2025年10月04日執筆