問20 特殊健康診断に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)有害物質による健康障害は、多くの場合、諸検査の異常などの他覚的所見より、自覚症状が先に出現するため、特殊健康診断では問診の重要性が高い。
(2)特殊健康診断における生物学的モニタリングによる検査は、有害物の体内摂取量や有害物による健康影響の程度を把握するための検査である。
(3)体内に取り込まれた有機溶剤の生物学的半減期は、数か月と長いので、有機溶剤健康診断における採尿は、任意の時期に行ってよい。
(4)体内に取り込まれた鉛の生物学的半減期は、数時間と短いので、鉛健康診断における採尿及び採血の時期は、厳重にチェックする必要がある。
(5)情報機器作業に係る健康診断では、眼科学的検査などとともに、上肢及び下肢の運動機能の検査を行う。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、試験協会が2025年4月に公表した第1種衛生管理者試験問題の解説を行っています。
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2025年04月公表問題 | 問20 | 難易度 | 過去問にない肢やひねった肢が多いが、基本的に過去問の学習で正答可能な問題。 |
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特殊健康診断 | 4 |
問20 特殊健康診断に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
(1)有害物質による健康障害は、多くの場合、諸検査の異常などの他覚的所見より、自覚症状が先に出現するため、特殊健康診断では問診の重要性が高い。
(2)特殊健康診断における生物学的モニタリングによる検査は、有害物の体内摂取量や有害物による健康影響の程度を把握するための検査である。
(3)体内に取り込まれた有機溶剤の生物学的半減期は、数か月と長いので、有機溶剤健康診断における採尿は、任意の時期に行ってよい。
(4)体内に取り込まれた鉛の生物学的半減期は、数時間と短いので、鉛健康診断における採尿及び採血の時期は、厳重にチェックする必要がある。
(5)情報機器作業に係る健康診断では、眼科学的検査などとともに、上肢及び下肢の運動機能の検査を行う。
正答(2)
【解説】
(1)誤り。有害物質による健康診断では、問診が重要であることは言うまでもない。それは、問診における自覚症状やばく露状況の把握が重要だからであって、本肢のような理由からではない。
そもそも、有害物質による健康障害で、諸検査の異常などの他覚的所見より自覚症状が先に出現するとは限らない。また、問診では重要な所見を見落とすリスクもある。
(2)正しい。特殊健康診断における生物学的モニタリングによる検査は、有害物の体内摂取量や有害物による健康影響の程度を把握するための検査である(※)。
※ 厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の安全衛生キーワード「生物学的モニタリング」によれば「作業者の尿、血液等の生体試料中の有害物の濃度、その有害物の代謝物の濃度、または、予防すべき影響の発生を予測・警告できるような影響の大きさを測定することを生物学的モニタリングといいます
」とされている。
(3)誤り。有機溶剤は、生物学的半減期が短い。尿中の馬尿酸が 1.5 時間程度、メチル馬尿酸が3時間程度、マンデル酸が4時間程度である。そのため、採尿の時期が非常に重要となる。
理想的には、連続した作業日の最終日(休み前の日)の作業終了の2時間前に一度排尿し、作業終了時に採尿するのが望ましい。休日明けの初日の最初に採尿しても意味はない。
(4)誤り。鉛の生物学的モニタリング項目には血中鉛と尿中δ-アミノレブリン酸がある。血中鉛と尿中δ-アミノレブリン酸の生物学的半減期は、双方とも 900 時間程度とかなり長い(※)。そのため、鉛の特殊健康診断においては、採血・採尿の時期を気にする必要はない。
※ American Conference of Governmental Industrial Hygienists (2010): TLVs and BEIs. Signature Publications, Cincinnati, OHによる。なお、食品安全委員会「鉛の評価書に関するQ&A」によると「鉛の生物学的半減期は血液及び軟組織(肝臓、肺、脾臓、腎臓及び骨髄)で約40日、骨で約20年とされています
」とされている。
(5)誤り。「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(通達:令和元年7月 12 日基発 0712 第3号)によれば、情報機器作業に係る健康診断では、眼科学的検査などとともに、上肢の運動機能の検査を行うとされているが、下肢の運動機能の検査を行うとはされていない。
常識的に考えても、情報機器端末で長時間の作業を行ったとしても、(歩行等の運動をする時間がそれによって極端に短くなればともかく(※))下肢の運動機能が衰えるリスクはあまり高くはないだろう。
※ そういうリスクもないとは言わないが、それは事務作業全般に言えることである。情報機器作業のリスクというより、「ブラック企業のリスク」と言うべきだろう😅。
【情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン】
7 健康管理
(1)健康診断
ロ 定期健康診断
e 筋骨格系に関する検査
(a)上肢の運動機能、圧痛点等の検査
(b)その他医師が必要と認める検査
※ 厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月 12 日基発 0712 第3号)