問11 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)リスクアセスメントの基本的手順のうち最初に実施するのは、労働者の就業に係るリスクアセスメント対象物による危険性又は有害性を特定することである。
(2)リスクの見積りに当たっては、過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もる。
(3)リスクアセスメント対象物による疾病について、当該物質への労働者のばく露濃度等を測定し、ばく露量をばく露限界と比較しリスクを見積もる場合、ばく露限界としては、管理濃度が最も適している。
(4)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討では、作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策よりも局所排気装置の設置等の衛生工学的対策を優先する。
(5)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討に当たっては、より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討は必要ない。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、試験協会が2025年4月に公表した第1種衛生管理者試験問題の解説を行っています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。
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2025年04月公表問題 | 問11 | 難易度 | リスクアセスメント指針に関する基本的な問題である。このような問題は確実に正答できるようにしたい。 |
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化学物質RA指針 | 3 |
問11 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)リスクアセスメントの基本的手順のうち最初に実施するのは、労働者の就業に係るリスクアセスメント対象物による危険性又は有害性を特定することである。
(2)リスクの見積りに当たっては、過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もる。
(3)リスクアセスメント対象物による疾病について、当該物質への労働者のばく露濃度等を測定し、ばく露量をばく露限界と比較しリスクを見積もる場合、ばく露限界としては、管理濃度が最も適している。
(4)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討では、作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策よりも局所排気装置の設置等の衛生工学的対策を優先する。
(5)リスクアセスメント対象物による疾病のリスク低減措置の検討に当たっては、より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討は必要ない。
正答(3)
【解説】
本問は、問題文本文にもあるように「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(以下「指針」という)に関する問題である。なお、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号:以下「通達」という)も、適宜、参照されたい。
(1)正しい。指針の「3 実施内容」において、リスクアセスメントの実施事項が記載されているが、その最初の項目は「(1)化学物質等による危険性又は有害性の特定」となっている(※)。
※ もちろん、現実には、最初に行うべきは「リスクアセスメントの対象の選定」であり、次に行うのは「情報の入手」である。指針では、この2つはリスクアセスメントの準備段階として位置付けられており、「リスクアセスメントの基本的手順」の前段階なので、本肢は正答となる。
【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】
3 実施内容
事業者は、法第57条の3第1項に基づくリスクアセスメントとして、(1)から(3)までに掲げる事項を、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第34条の2の8に基づき(5)に掲げる事項を実施しなければならない。また、法第57条の3第2項に基づき、安衛則第577条の2に基づく措置その他の法令の規定による措置を講ずるほか(4)に掲げる事項を実施するよう努めなければならない。
(1)リスクアセスメント対象物による危険性又は有害性の特定
(2)~(5)(略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)
(2)正しい。指針の「9 リスクの見積もり」の(3)のアにおいて「過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること
」とされている。過去に実際に発生した負傷又は疾病は、たまたま軽度のものとなった可能性もあるので、リスクの見積もりに当たっては、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もるのである。
【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】
9 リスクの見積もり
(3)事業者は、(1)のアの方法によるリスクの見積りに当たり、次に掲げる事項等に留意するものとする。
ア 過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること。
イ及びウ (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)
(3)誤り。指針の「9 リスクの見積もり」の(1)のイの(ア)にあるように、管理濃度と比較するのは「作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値」である。また、(イ)にあるように「濃度基準値が設定されている物質については、個人ばく露測定により測定した当該物質の濃度を当該物質の濃度基準値と比較する
」のである。労働者のばく露濃度等と比較するのは濃度基準値であって管理濃度ではない(※)。
※ 管理濃度と濃度基準値やばく露限界では、定められた目的が異なるのである。もっとも、管理濃度は、主要なばく露限界を参考として定められ、同じ値となっているケースが多く、これと比較したとしてもさして問題があるわけではない。
【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】
9 リスクの見積もり
(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第34条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用によりリスクアセスメント対象物によるリスクを見積もるものとする。
イ (略)
(ア)管理濃度が定められている物質については、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する方法
(イ)濃度基準値が設定されている物質については、個人ばく露測定により測定した当該物質の濃度を当該物質の濃度基準値と比較する方法
(ウ)管理濃度又は濃度基準値が設定されていない物質については、対象の業務について作業環境測定等により測定した作業場所における当該物質の気中濃度等を当該物質のばく露限界と比較する方法
(エ)及び(オ) (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)
(4)正しい。化学物質等による疾病のリスク低減措置の検討は、「法令に定められた事項」があればまずそれを実施する。次に、検討の優先順位を、「本質安全化」、「工学的対策」、「管理的対策」、「保護具の着用」の順序とする。
作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策は「人に頼る対策」なので、ヒューマンエラーが避けられない。そこで、局所排気装置の設置等の機械・設備による工学的対策を優先するのである。
【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】
10 リスク低減措置の検討及び実施
(1)事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスクアセスメント対象物に労働者がばく露する程度を最小限度とすることを含めたリスク低減措置の内容を検討するものとする。ただし、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として、労働者がばく露される程度が濃度基準値又はばく露限界を十分に下回ることが確認できる場合は、当該リスクは、許容範囲内であり、追加のリスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること。
ア 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱うリスクアセスメント対象物の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減
イ リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又はリスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策
ウ 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策
エ リスクアセスメント対象物の有害性に応じた有効な保護具の選択及び使用
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)
(5)正しい。指針の「10 リスク低減措置の検討及び実施」において、「より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討まで要するものではないこと」とされている。
ただし、実務においては、「管理的対策」は、「本質安全化」「工学的対策」により十分にリスクが低くなった場合であっても必要な場合があることに留意すること。また、「管理的対策」によってリスクが十分に低くなったと判断される場合であっても、保護具の着用を行うべきことがあると考えておくこと。
【化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針】
10 リスク低減措置の検討及び実施
(1)(略)
(2)(1)の検討に当たっては、より優先順位の高い措置を実施することにした場合であって、当該措置により十分にリスクが低減される場合には、当該措置よりも優先順位の低い措置の検討まで要するものではないこと。また、リスク低減に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求めることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措置を実施する必要があるものとする。
(3)及び(4)(略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27 日 危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)