問7 労働安全衛生法において、譲渡し、又は提供するときに名称等の表示が義務付けられている危険物及び有害物(以下「表示対象物質」という。)の表示の方法等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)表示対象物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供するときは、その容器又は包装に名称等を表示しなければならない。
(2)表示対象物質を容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときは、その包装に名称等を表示しなければならない。
(3)表示対象物質を容器に入れ、又は包装する以外の方法により譲渡し、又は提供するときは、表示すべき事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
(4)容器又は包装に表示事項等の全てを印刷し、又は表示事項等の全てを印刷した票箋を貼り付けることが困難なときは、表示事項等のうち名称以外のものについては、これらを印刷した票箋を容器又は包装に結びつけることにより表示することができる。
(5)表示対象物質を原材料等として新規に採用し、又は変更するときは、当該物質による危険性又は有害性等を調査しなければならない。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、試験協会が2025年4月に公表した第1種衛生管理者試験問題の解説を行っています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。
他の問題の解説をご覧になる場合は、下表の左欄、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
2025年04月公表問題 | 問07 | 難易度 | SDS/ラベル関連の問題は、2017 年4月以来では初出。その意味では難易度は高かったか。 |
---|---|---|---|
ラベル表示 | 5 |
問7 労働安全衛生法において、譲渡し、又は提供するときに名称等の表示が義務付けられている危険物及び有害物(以下「表示対象物質」という。)の表示の方法等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)表示対象物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供するときは、その容器又は包装に名称等を表示しなければならない。
(2)表示対象物質を容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときは、その包装に名称等を表示しなければならない。
(3)表示対象物質を容器に入れ、又は包装する以外の方法により譲渡し、又は提供するときは、表示すべき事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
(4)容器又は包装に表示事項等の全てを印刷し、又は表示事項等の全てを印刷した票箋を貼り付けることが困難なときは、表示事項等のうち名称以外のものについては、これらを印刷した票箋を容器又は包装に結びつけることにより表示することができる。
(5)表示対象物質を原材料等として新規に採用し、又は変更するときは、当該物質による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
正答(2)
【解説】
これまで衛生管理者試験では、SDSとラベルに関する問は出題されてこなかった。出題されてこなかった理由は不明だが、ここへきて出題されたのは、自律的管理の本格的な実施が関係していることは間違いないだろう。
今後、SDS/ラベルの読み方、リスクアセスメントの方法などが出題の比率を増してゆくことはあり得るので、この分野については参考書で十分に学習しておく必要がある。
ただ、本年度の問題は、正答の肢があまり本質的なものとは思えず、ほとんどのテキストに強調した書き方はしていないものである。
その意味で、化学物質管理に詳しい受験者でも正答できなかった可能性もある。正答率は、2割程度だったこともあり得よう。
(1)正しい。安衛法第 57 条第1項柱書により、表示対象物質を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供するときは、その容器又は包装に名称等を表示しなければならない。
この表示がラベルであり、厚労省は「ラベルでアクション」という標語で、取り扱う化学物質の容器にラベルがあったらリスクアセスメントを行おうというキャンペーンを行っている。
【安全衛生法】
(表示等)
第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第一項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一及び二 (略)
2 (略)
(2)誤り。安衛法第 57 条第1項柱書のカッコ書きにより、表示対象物質を容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときは、その容器に名称等を表示しなければならない。包装に表示をするのではない。
筆者(柳川)は、厚労省の現役職員だったとき、本条を制定したときの担当者に理由を尋ねたことがある。そのときの答えは「工場内などで包装が外されたら、ラベルがなくなってしまうから」とのことであった。すなわち、最終的にその化学物質を取り扱う者に情報を伝えるのがラベルの役割であり、最も内側の容器に表示をするのが原則とのことである(※)。
※ 条文を覚えるときは、丸暗記するのではなく、その理由を考えて覚えるようにすると忘れにくい。なお、例えば、容器 10 本を入れた箱にラベルを貼って出荷するときも、個々の容器にラベルを貼付する必要があり、複数の容器を入れた外装箱などにラベルを貼って対応することは認められない(化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)「Q11-1」参照)。
ただ、包装にラベルがないと、運送業で働く人には情報が伝わらないことになる。これは、当時のSDS/ラベルの考え方として、運送業で働く人は対象に含まれていなかったためである(※)。諸外国では、運送業で働く人ばかりかトラックが事故に遭ったときの救護者や周辺住民も対象に含まれ、トラックのボディにGHSのラベルが表示されていたりする。
※ その意味では、やや時代遅れの規定である。
【安全衛生法】
(表示等)
第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第1項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一及び二 (略)
2 (略)
(3)正しい。安衛法第 57 条第2項により、表示対象物質を容器に入れ、又は包装する以外の方法により譲渡し、又は提供するときは、表示すべき事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
なお、この文書はSDSではないので、誤解のないようにしたい。SDSの提供への違反(安衛法第 57 条の2)には罰則は定められていないが、この文書の提供違反(同法第 57 条第2項)には、罰則が定められている。
また、SDSを提供したからといって、この文書の提供義務を免れるわけではないと解釈されている。
【安全衛生法】
(表示等)
第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第1項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一及び二 (略)
2 前項の政令で定める物又は前条第1項の物を前項に規定する方法以外の方法により譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項各号の事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。
(4)正しい。安衛則第 32 条但書きにより、容器又は包装に表示事項等の全てを印刷し、又は表示事項等の全てを印刷した票箋を貼り付けることが困難なときは、表示事項等のうち名称以外のものについては、これらを印刷した票箋を容器又は包装に結びつけることにより表示することができる。
【安全衛生法】
(表示等)
第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第1項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一 次に掲げる事項
イ 名称
ロ 人体に及ぼす作用
ハ 貯蔵又は取扱い上の注意
ニ イからハまでに掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
二 当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの
2 (略)
【労働安全衛生規則】
(名称等の表示)
第32条 法第57条第1項の規定による表示は、当該容器又は包装に、同項各号に掲げるもの(以下この条において「表示事項等」という。)を印刷し、又は表示事項等を印刷した票箋を貼り付けて行わなければならない。ただし、当該容器又は包装に表示事項等の全てを印刷し、又は表示事項等の全てを印刷した票箋を貼り付けることが困難なときは、表示事項等のうち同項第一号ロからニまで及び同項第二号に掲げるものについては、これらを印刷した票箋を容器又は包装に結びつけることにより表示することができる。
(5)正しい。安衛則第 34 条の2の7は、リスクアセスメント対象物(安衛則第 12 条の5第1項柱書にあるように、表示対象物質はリスクアセスメント対象物に含まれる。)を原材料等として新規に採用し、又は変更するときは、当該物質によるリスクアセスメント(安衛則第 12 条の5第1項柱書にあるように、リスクアセスメントとは、安衛法第 57 条の3第1項の危険性又は有害性等の調査のことである。)するものとされている。
非常に分かりにくいとは思うが、安衛則第 34 条の2の7の規定は、安衛法第 57 条の3第1項の「厚生労働省令で定めるところ」として定められているのである。
【安全衛生法】
(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)
第57条の3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2~4 (略)
【労働安全衛生規則】
(化学物質管理者が管理する事項等)
第12条の5 (前略)法第57条の3第1項の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。以下「リスクアセスメント」という。)をしなければならない令第十八条各号に掲げる物及び法第57条の2第1項に規定する通知対象物(以下「リスクアセスメント対象物」という。)(後略)
一~七 (略)
2~5 (略)
(リスクアセスメントの実施時期等)
第34条の2の7 リスクアセスメントは、次に掲げる時期に行うものとする。
一 リスクアセスメント対象物を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。
二及び三 (略)
2 (略)