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リスクアセスメントの基本問題と解決法

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労働災害防止のためのリスクアセスメントが職場に広まりつつあります。しかし、その一方で、まだまだ職場には、リスクアセスメントは災害減少の役に立たないという意識が強いようです。

このような不信感への対応もあって、ヒューマンエラーへの対応や、高リスクという結果が出た場合に対する修正の動きがあります。

しかし、これらの考え方はリスクアセスメントの本源的な問題点をそのままにした弥縫策というべきもので、かえって問題を大きくしかねません。これへの対応を提言します。




1 製造業安全対策官民協議会

執筆日時:

最終改訂:


(1)職場のリスクアセスメントをめぐる2つの提案

JIS Q 45001及びJIS Q 45100の開発をめぐり、製造業安全対策官民協議会が様々な活動を行っている。これは中央労働災害防止協会の全国産業安全衛生大会や、同協会のWEBサイト(※)などで公開されている。このような動きは、JIS Q 45001策定への賛否を超えて歓迎すべきことであろう。

※ 中央労働災害防止協会「製造業安全対策官民協議会」のサイト

この一連の流れの中で、協議会の下部組織として設けられた向殿サブワーキンググループ(以下「向殿SWG」という。)がリスクアセスメントの標準化(共通手法)の開発に当たっておられる。これもまた、職場の安全水準の向上のために注目すべき事項であろう。

最近、向殿SWGがリスクアセスメントについて、2つの成果を公表している。本稿では、これをご紹介をするとともに、私なりに若干の疑問点と解決のための提案をしておきたい。


(2)意図的なルール違反・ヒューマンエラーの考慮

ア ヒューマンエラー等を評価するシステムの意義

2019年6月25日に「意図的なルール違反・ヒューマンエラーをリスクアセスメントに反映させる共通的な手法の開発」が製造業安全対策官民協議会からニュースリリースされている。

これは、一言で言えば、「リスクを見積もる際に『意図的なルール違反とヒューマンエラー』をシステマティックに考慮するためのツールということができよう。

意図的なルール違反やヒューマンエラーは、少なくない事業者にとっては、労働者が「きちんと」仕事をしていれば起きないのだから、労働者が「きちんと」仕事をすればよいことだけのことだと考えられ、リスク評価にあたって無視されがちである。しかし、現に、意図的なルール違反やヒューマンエラー等は起きるのであるから、リスクを評価する上で、それを無視してはならないことは当然なのである。

ところが、それをどのように評価するかの客観的な基準がこれまでなかったことも事実であり、これをシステム的に評価する手法が開発された意義は大きいというべきであろう。

筆者も、向殿SWGの功績は大であると考えるものである。

イ ヒューマンエラー等を評価する手法

(ア)基本的には厚労省の通達の方法を一部「修飾」する形式

さて、読者の誤解を避けるため、念のために言っておくと、今回開発された方法は、リスクアセスメントの方法そのものをゼロから開発しているわけではない。

ここで示されているリスクアセスメントの基本形は、厚生労働省の通達(平成18年3月10日基発第031001号:以下「RA基本通達」という。)の別添4に示された「リスク見積もり及びそれに基づく優先度の設定方法の例」に示された手法である。この手法をヒューマンエラー等によって、危害に至る可能性を修正するのである。

従って、事業者にとって、これまでのリスクアセスメントの知識が無になるわけではない。ここを誤解しないでいただきたい。

(イ)ヒューマンエラーを評価する手法

さて、ヒューマンエラー等を評価するために開発された手法の詳細は、前項でリンクを張った中央労働災害防止協会のWEBサイトを参照して頂くとして、簡単に紹介すれば、次のようなものである。

まず、この方法では、「意図的なルール違反・ヒューマンエラー等が発生する可能性の類型」が33項目にわたってチェックリストとして用意されている。その類型がどのようなものかイメージを持って頂くために、一例としてそのうちの2項目を示させて頂こう。次のようなものである。

(a)-2 作業者は、面倒がって、又は焦っていたために、意図的に又は容易に、安全カバーを 外す、安全機能を無効化、又は改造する可能性がある。

(a)-3 作業者は、面倒がって、又は焦っていたために、意図的に又は容易に、電源や機械を 止めずに、作業を行う可能性がある。

※ 向殿SWG(サブワーキンググループ)2019年

リスクアセスメントにヒューマンエラー等を反映する手法は、マトリクス法と数値化する方法の2つに対して示されている。本稿ではこのうち、マトリクス法を例に挙げて説明する。なお、数値化する方法についても考え方はそれほど異なるわけではない。

さて、マトリクス法の場合は、評価者は、シナリオ(リスクアセス評価の対象となる災害のプロセス)について、まずこれらの33項目について(※)、次のような表を参考に、A、B又はCの3つのランクに分ける。そして、33項目のうちもっとも可能性が高いと評価されたもののランク(A、B又はCのいずれか)をそのシナリオについての、ヒューマンエラー等の可能性とする。

※ そのシナリオについて該当がなければ「該当なし」とする。無理にすべての項目についてA、B又はCに評価するのではない。

可能性が高い 可能性がある 可能性がほとんどない
可能性 A B C

※ 向殿SWG(サブワーキンググループ)2019年

次に、このヒューマンエラー等の可能性を、「危害に至る可能性」に加味する。その方法はきわめて単純である。

ヒューマンエラー等を考慮せずに判定した危害に至る可能性(※)から、ヒューマンエラー等の可能性がAなら2ランク、Bなら1ランクアップさせるのである。

※ これまでも、危害の可能性を評価するに当たっては、ヒューマンエラーを考慮することとされていた。また「管理的対策」によっては危害に至る可能性は低くならないと判断することが推奨されてもいた。しかし、そのような評価を行った上で、今回の手法を合わせて行うと、ヒューマンエラー等を二重に評価してしまうことになる。

しかし、今回のツールでは、「通常のリスクアセスメントを実施した後に、見逃していた『意図的なルール違反・ヒューマンエラー』を『ケガの可能性』に反映させる観点から、再度、評価を行うことが、より効果的」であるとされている。

危険の重大性

危害に至る可能性

重度の障害 重症 軽症
可能性が高い
可能性がある
可能性がほとんどない

「A」の場合

「B」の場合

※ 向殿SWG(サブワーキンググループ)2019年

それ以降のリスクアセスメントの方法は、通達に示された方法と変わりはない。

(ウ)ヒューマンエラーを評価する手法の自由度

なお、今回の手法の解説書を見ると、ヒューマンエラー等の33の類型については、5項目のみの簡易型も準備されている。33項目について評価することが煩瑣だと考えればそちらを用いてもよい。

また、これらの項目についてヒューマンエラー等を評価するための表(各項目をA、B又はCに分けるための表)は、「原則、自社の評価基準を使用」することとされている。

従って、ヒューマンエラー等を評価する表については、自由度が高いこととなる。

一方、先述したように、マトリクス法の例で言えば、Aは2ランク、Bは1ランク、危害に至る可能性のレベルを上げるとされているが、このことは、各社において自由に決めるべきこととはされていない。すくなくとも文章上からは、この点についての自由度はないように読めるのである。


(3)リスクレベルⅠ及びⅣへの注記の追加

ア 注記をすることの意義

さて、もうひとつの改正点に話を移そう。この改正(というより厳密には提案であるが)は、リスクレベルⅠ(最もリスクが低い)とⅣ(最もリスクが高い)について、原則として必要となる「措置内容」に注釈をつけようということである。すなわち「措置内容」そのものを変更するのではない。

(ア)リスクレベルⅠについて

リスクレベルⅠについて、これは受容可能なレベルのリスクであるが、リスクレベルがⅠであるとされた場合に、それでよしとして安全管理がかえっておろそかになっては困るので、「安全対策が後退しないように適切なリスク管理を行う」ということを明記しようという注釈をつけるのである。そのこと自体は、十分に理解できる。

(イ)リスクレベルⅣについて

問題はリスクレベルⅣである。これまで、措置内容が、「リスク低減措置を直ちに行う。措置を行うまで作業を停止する」としていたのことについて、事業者の「適切なリスク低減措置の実施に時間を要する場合等には、事業者の判断(責任)により、作業を中止することなく、実施可能な暫定的な措置を直ちに実施することで、作業を行うことを可能とする」との注釈をつけるのである。

残念ながら、現在のリスクアセスメントは、リスクが高くなりすぎるため、このような注釈をつけること自体は、現実的な対応であり、理解できなくもない。しかし、そこには多くの疑問と矛盾が感じられるのである。

だが、そのことは先に回して、まずは具体的な内容を見てみよう。

イ 具体的な内容

(ア)リスクレベルⅠについて

まず、リスクレベルⅠについては、次のように「注1」をつけることが提案されている。これは、とくに問題になるようなことではないだろう。

レベルⅠ 安全衛生上の問題はほとんどない。 必要に応じてリスク低減措置を行う。(注1)

注1:

事業場として、「リスクレベルⅠ」は、受容れ可能なリスクであり、追加リスク低減措置の実施は原則として不要である。ただし、安全対策が後戻りしないように、適切なリスク管理の継続が必要になる。

※ 中央労働災害防止協会 2019年

(イ)リスクレベルⅣについて

次に、リスクレベルⅣであるが、これについては、次のように「注2」を付けることが提案されている。

レベルⅣ 安全衛生上、重大な問題がある。

リスク低減措置を直ちに行う。

措置を行うまで作業を停止する。(注2)

注2:

「リスクレベルⅣ」は、事業場として許容不可能なリスクレベルであり、リスク低減措置を行うまでは作業中止が必要となる。

ただし、技術的課題等により、適切なリスク低減措置の実施に時間を要する場合等には、事業者の判断(責任)により、作業を中止することなく、実施可能な暫定的な措置を直ちに実施することで、作業を行うことを可能とする。

※ 中央労働災害防止協会 2019年


2 今回の動きへの疑問と懸念

(1)意図的なルール違反・ヒューマンエラーの考慮

ア リスク判定の方法に関する非現実性

さて、このツールについての基本的な疑問は、マトリクス法の場合であるが、次のようなマトリクスを上げていることである。

危険の重大性

危害に至る可能性

重度の障害 重症 軽症
可能性が高い
可能性がある
可能性がほとんどない

※ 向殿SWG(サブワーキンググループ)2019年

これは、次に示すRA基本通達の別添4のマトリクスも同様なのだが、基本的に大きな問題があると思えるのである。

負傷又は疾病の重篤度
致命的 重大 中程度 軽度
負傷又は疾病の発生の可能性の度合い 極めて高い
比較的高い
可能性あり
ほとんどない

※ 厚生労働省 2006年

リスク 優先度
4~5

直ちにリスク低減措置を講ずる必要がある。

措置を講ずるまで作業停止する必要がある。

十分な経営資源を投入する必要がある。

2~3

速やかにリスク低減措置を講ずる必要がある。

措置を講ずるまで使用しないことが望ましい。

優先的に経営資源を投入する必要がある。

必要に応じてリスク低減措置を実施する。

※ 厚生労働省 2006年

(ア)危害の重大性が最大の場合のリスク

まず、危害の重大性が「重度の障害」となる場合、「可能性がほとんどない」場合でもリスクレベルがⅢになってしまうのである。これは、厚生労働省のRA基本通達にあげられている例ではさらに問題が大きく、「負傷又は疾病の重篤度」が「致命的」だと、リスクレベルは必ず最も高いランクになってしまう。

これは、あまりにも非現実的と言うべきである。製造業でも建設業でも、動力プレスや建設機械を用いて作業を行うことは多い。また、きわめて有害性の高い化学物質を用いることもあれば、超高圧の気体や、高電圧の電力を用いることもあろう。

そして、そのようなものを用いている以上、非定常作業も考慮すれば、重大な障害や致命的な負傷又は疾病となる可能性はゼロにはならないのである。

①-1 具体例(1)

大型のプレス装置を使っており、両手式押しボタンと光線式安全装置を設置している場合を考えよう。この場合、指又は手先を失うリスクはどれだけだろうか?

両手式押しボタンは、片方のスイッチの接点が溶着する可能性は否定できない。また、光線式安全装置は故障の可能性もないわけではないだろう。

それらが同時に故障し、そのタイミングで作業者が手を出す可能性もないとは言えない。

そうなると、「可能性がほとんどない」となり、リスクレベルはⅢになってしまう。=厚生労働省の通達ではリスクは「高」となってしまう。

①-2 具体例(2)

やや、極端な例としてフランスへの出張を挙げてみよう。フランスへ出張しようとすれば、多くの人は飛行機に乗るだろう。現在では飛行機の安全性はきわめて高いが、墜落する可能性はないわけではない。そして、墜落すれば乗客が死亡する可能性は極めて高い。

そうなると、このようなマトリクスを用いてリスクアセスメントをすれば、フランス出張のリスクは「Ⅲ」又は「高」になってしまう。

そうすると、十分な経営資源を投入して対策を講じる必要があり、対策を講じるまでフランスへは行けないという結論になる。

しかし、これはあまりにも非現実的な結果である。従って、リスクアセスメントを行うときは、生産を続けたければ、リスクは「ほとんどない」のではなく「ない」とごまかすしかなくなる。だが、ごまかすとなると、ごまかす「基準」はないことが普通なので、恣意的な結論となってしまう。

あるいは、「リスクアセスメントなど役に立たない」と割り切ってしまうかである。

(イ)危害に至る可能性の区分が非常識

また、この手法に示されたマトリクスは、危害に至る可能性の区分が、「可能性が高い」「可能性がある」「可能性がほとんどない」の3区分に分けられている。

しかし、重度の障害が起きる可能性について、「可能性が高い」とか「可能性がある」になる事業場など、現実世界には存在していないだろう。すなわち、どのような事業場で、どのようなシナリオについてリスクアセスメントを行っても、危害の重大性が「重度の障害」の場合は、常に「可能性がほとんどない」で「リスクがⅢ」という同じ結果になってしまうのである。

これでは、リスクアセスメントなどする意味はない。ハザードアセスメントだけで充分だということになってしまう。

このことが、この手法のマトリクスが持つ大きな問題の2つ目である。

(ウ)厚生労働省のRA基本通達の別添4の「例」について

なお、厚生労働省のRA基本通達の別添4についていえば、このマトリクスは、厚生労働省がこの通達を作成した時点では、たんにマトリクス法のイメージを示すための「形」を示すために挙げただけだったのである。

これをそのまま用いることなど、まったく想定していなかったのだ。ところが、事業者がこれを「国が定めた基準」と考えて、かなりの大手の企業でも、これを用いるケースが増え始めたのである。

しかも、(ばかげたことに)後に厚生労働省が委託事業で作成したリスクアセスメントツールにまで、このマトリクスなどが用いられるのである。

そのため、危険な機械設備や化学物質を用いていると、どれほど高度の対策を取っていても、あらゆるシナリオについてリスクレベルが「高」となってしまい、作業を中止しなければならないという結論になってしまうのである。

この結果(だけとは言わないが)、リスクアセスメントは労働災害防止の手段としては役に立たず、安全衛生教育や意識づけの手段だと考えられるようになってしまったのである。

イ さらにヒューマンエラーが追加される

(ア)ヒューマンエラーの予測など不可能である

さて、話を戻そう。この手法ではヒューマンエラーの可能性の大きさを判断しなければならないことは先ほど述べた。しかし、そのようなことは通常の事業者には不可能なのである。

意図的なルール違反については、その関係する作業者のそれまでの行動や、普段の仕事ぶりから予測がつくかもしれないが、ヒューマンエラーがどの程度発生するかについて、その可能性の大きさを見極めることなど、現実には不可能に近いというしかないのだ。

可能性が高い 可能性がある 可能性がほとんどない
可能性 A B C

※ 向殿SWG(サブワーキンググループ)2019年

【教科書的に考えると】

確かに、机上でだけ考えればやってやれないことはないと思えるかもしれない。例えば、2本のホースを2つのタンクに接続する作業で、ホースを間違ったタンクに接続してしまう可能性を考えよう。

それぞれのバルブの形を変えて、間違ったバルには物理的に連結できないようなシステムになっていれば「C」と評価し、ホースとタンクをそれぞれ同じ色にしていれば「B」とし、表示がなければ「A」とするという考え方があるかもしれない。

しかし、実際の現場はそのような教科書的な事例ばかりではないのである。多くの事業場ではヒューマンエラーについて知識のある職員など存在していない。間違いを犯さない人間など居るはずもないのだから、評価する人によって、すべてBにするか、すべてCにするかのどちらかになってしまう可能性が高いだろう。

(イ)ヒューマンエラーで1ランク上がればどうなるか

しかも、項目は33あるのだ。そして、人間は間違いを起こすことは誰にでもある。そうなると、どれかひとつくらいは「可能性がある」になってしまい、最高のレベルをとれば、必ず「B」評価になってしまうだろう。

そこへ、先ほどのマトリクスを適用すると、ただでさえリスクレベルが高いにもかかわらず、さらに1ランク上げるのだから、リスクアセスメントの結果は、すべて「Ⅳ」ということになってしまうのである。

危険の重大性

危害に至る可能性

重度の障害 重症 軽症
可能性が高い
可能性がある
可能性がほとんどない

「B」になると

※ 向殿SWG(サブワーキンググループ)2019年


(2)リスクレベルⅠ及びⅣへの注記の追加

ア 現実的なようで矛盾だらけ

リスクレベルⅠへの注1の追加については特に問題はないだろう。問題はリスクレベルⅣについてである。

前項で解説したように、この手法で示された方法でリスクアセスメントを行い、ヒューマンエラー等を考慮すると、危険な機械設備や化学物質を用いていれば、まず間違いなくリスクレベルはⅣになってしまう。

これでは仕事にならないので、このような注釈をつけることは確かに現実的かもしれない。

注2:

「リスクレベルⅣ」は、事業場として許容不可能なリスクレベルであり、リスク低減措置を行うまでは作業中止が必要となる。

ただし、技術的課題等により、適切なリスク低減措置の実施に時間を要する場合等には、事業者の判断(責任)により、作業を中止することなく、実施可能な暫定的な措置を直ちに実施することで、作業を行うことを可能とする。

※ 中央労働災害防止協会 2019年

しかし、あまりにも弥縫策というべきである。そもそも「実施可能な暫定的な措置」を直ちに実施するというが、先ほどのプレス機械やフランス出張の場合、その暫定的な措置とは一体何だろうか?

また、仮にリスクアセスメントの前にその暫定的な措置を取っている事業者がいたとして、その場合でもリスクアセスメントをすれば、その結果はやはりⅣになるだろう。その場合は別な「暫定的な」とらなければならないのだろうか。

あまりにも矛盾に満ちた注釈と言うべきである。


3 最後に

(1)適切なリスクアセスメントの要件とは

ア ある程度の「誤り」は容認しなければならない

リスクアセスメントのツールに必要な要件とはなんだろうか。

もちろん、低いリスクを過剰に高く見積もる誤りも、高いリスクを過少に低く見積もる誤りも、できるだけない方が良い。しかしながら、あまりコストがかからず、あまり専門知識がなくとも簡易に実施可能なリスクアセスメントツールでなければ、普及することはないだろう。

そうなると、ある程度の「誤り」は容認しなければならない。このことは誰も否定はしないだろう。

イ どのような「誤り」がよりマシなのか

そして、実際には高いリスクであるにもかかわらず、これを過少に見積もる誤りは、結果的に危険な状況を放置することになりかねない。それに比べれば、実際には低いリスクを過剰に高く見積も異る誤りの実害は低いということも誰も否定はしないだろう。

そうであれば、いうまでもないが、リスクアセスメント手法では、高く見積もるべきリスクを低く見積もる誤りは極力避けるべきということである。そのためには、低く見積もるべきリスクを高く見積もる誤りをある程度は容認しなければならないだろう。

ウ あまりにもリスクを高く見積もる「誤り」も危険である

だが、だからといって、軽微なリスクを含めてあらゆるリスクを高く見積もり様なリスクアセスメントもまた、結果的に危険な状況を放置することになりかねない。なぜなら、誰もそのようなリスクアセスメントの結果など顧みることはないからである。

エ どう「誤るか」のバランスが必要なのだ

残念ながら、向殿SWGによって示されたリスクアセスメント手法とヒューマンエラー等の評価方法を用いると、すべてのリスクが高く評価されすぎるのである。なお、これは現在のRA基本通達の別添4に示された「リスク見積もり及びそれに基づく優先度の設定方法の例」についても同じ問題がある。

そもそもリスクアセスメントとは、対策の優先順位を知るための手法であると、厚労省は位置付けているのである。であれば、ありとあらゆるシナリオのリスクが同じように高く評価されてしまうようでは、そのようなリスクアセスメントは役に立たないということになろう。


(2)現実的な対応=私の提案

私は、事業者にとってリスクアセスメントが役に立たないと感じられる最大の原因は、RA基本通達に示されたマトリクス(数値化する方法についても同じであるが)にあると考えている。

ばかげたことに、厚生労働省がWEBで公開しているリスクアセスメントツールに、このマトリクスを組み込んだために、ますます多くの中小規模の事業者がリスクアセスメントは役に立たないと感じられるようになってしまっている。

私は、事業者からリスクアセスメントについて相談を受けると、RA基本通達のマトリクス(くどいが数値化する方法も同じである)は使わないようにと助言している。

次のようなマトリクスを用いることで、この問題は解決するのではないかと考えている。もちろん、発生可能性の見積りが難しくなるということは理解している。しかし、役に立たないようなリスクアセスメントよりはましでろう。もっとも、この点については、異論もあろうと思う。ご批判を請いたい。

危険又は健康障害の程度
(重篤度)
死亡 後遺
障害
休業 軽傷
危険又は健康障害を生ずるおそれの程度
(発生可能性)
起こり得る
(5年に1回)
可能性はある
(10年に1回)
考えにくいが可能性がある
(50年に1回)
きわめて可能性は低い
(500年に1回)
通常、あり得ない
(5,000年に1回)

引用文献


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