※ イメージ図(©photoAC)
日本産業車両協会によると、フォークリフトの国内向け新車販売台数のうち、リーチフォークリフトの占める割合は3割を超えているとされています。
リーチフォークリフトは、カウンターバランス式と比べると走行の仕組みが大きく異なり、走行の操作方法や操作感がかなり違います。しかし、安衛法上の資格である技能講習の区分は同一で、フォークリフト運転の技能講習を修了すれば双方が運転できます。
ところが、技能講習の科目免除の関係や、技能講習の実技講習ではカウンターバランスフォークリフトが用いられることが多いことなどから、リーチフォークリフト固有の危険性や操作方法について十分な知識や技能を習得できないまま、現場でリーチフォークリフトの運転を行わざるを得ない状況があることも事実です。
そこで、本稿ではリーチフォークリフト固有の危険性についての問題と、留意事項について解説します。
- 1 リーチ式フォークリフトの増加
- (1)フォークリフトの災害の発生状況
- (2)リーチ式とカウンターバランス式フォークリフト
- (3)リーチ式フォークリフト販売実績
- 2 リーチフォークリフトの固有の問題等
- (1)リーチ式フォークリフトの固有の問題
- (2)リーチフォークリフトで発生した災害
- (3)リーチフォークリフトと技能講習
- 3 リーチフォークリフトの運転に必要なこと
- (1)走行時は必ずリーチインする
- (2)走行時のブレーキにデッドマンブレーキは使ってはならない
- (3)走行中は運転席から身体を出さない
- (4)走行中の操舵はハンドルのノブを操作する
- (5)走行中に原則として緊急停止ボタンを押してはならない
- (6)その他
- 4 最後に
1 リーチ式フォークリフトの増加
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(1)フォークリフトの災害の発生状況
すべてのフォークリフトを起因物とする労働災害を、型別にみると、はさまれ・巻き込まれ災害と激突され災害で全体の6割を超えている。
はさまれまきこまれ災害の内容は、明確な統計データがあるわけではないが、機体と建物の壁等の間に他の労働者が挟まれる事故が多いものと思われる。また、激突され災害は、機体に他の労働者ぶつけられる災害がほとんどであろう。
すなわち、フォークリフトを起因物とする労働災害は、運転者ではなく他の労働者が被災するケースが多いのである(※)。
※ なお、墜落災害は、高所の棚の上にいる労働者にフォークがぶつかりそうになってその労働者が墜落するケース、フォークリフトの機体ごと墜落して運転者が被災するケース、機体から運転者が降りるときに地上へ転落して負傷するケース等がある。
そして、これも明確なデータがあるわけではないが、近年、リーチフォークリフトによる労働災害が多発してることが問題となっている。リーチフォークリフトは後述するように、その形状や走行のための機構が従来のカウンターバランスフォークリフトとは大きく異なっており、リーチフォークリフト固有の危険性があるのだ。
しかし、後述する理由により、そのことが運転者に必ずしも周知されないという現状があるのだ。そのことが、リーチフォークリフト災害の増加の一因となっているのである。
(2)リーチ式とカウンターバランス式フォークリフト
ア リーチフォークリフト
フォークリフトは、カウンターバランス式、リーチ式、その他の方式(※)に分類される。
※ その他の方式のフォークリフトには、オーダーピッキングトラック(運転者がフォークと共に上下する)、サイドローダーフォークリフト(フォークとマストが車体の側方に付いている)、ウォーキーフォークリフト(運転者が機体を押して操作する)などがあるが、通常の職場ではほとんど使用されていないので、本稿では取り扱わない。
リーチフォークリフトとは、マスト及びフォークが前方にリーチできるフォークリフトのことである。操縦は立席で、身体を操縦席の腰高の壁にもたれさせて操作を行うものがほとんどであり、リーチ式といえば通常はこのタイプを指す。なお、現在、製造されているものはすべてバッテリー式である。
イ カウンターバランスフォークリフト
これに対し、カウンターバランスフォークリフトとは、機体内部の後方に重量のあるカウンターウェイトを内蔵し、フォークに載せる荷の質量とバランスをとるタイプのフォークリフトである(※)。
写真にあるように、座席に座って操縦するものがほとんどであり、カウンターバランス式と言えば通常はこのタイプを指す。ディーゼル式、ガソリン式、バッテリー式があるが、近年ではバッテリー式の割合が増加している。
※ かつて、カウンターバランス式フォークリフトで、マストとフォークがリーチするタイプが国内で販売されたことがある。すなわち、厳密には、カウンターバランス式とリーチ式は必ずしも相反する概念ではない。また、立席で運転するカウンターバランスフォークリフトも一部に存在していた。しかし、これらの販売実績はほとんどなく、現時点では存在していないと思われる。そのため、本稿では取り上げていない。
(3)リーチ式フォークリフト販売実績
日本産業車両協会(※)によると、フォークリフトのタイプ別国内向け販売台数は、近年ではリーチ式が3割に達しているとされている。
※ (一社)一般社団法人日本産業車両協会「フォークリフトに起因する労働災害の発生状況」(2023 年7月)。なお、日本産業車両協会によると、保有台数の統計はないとされている。
業種や地域によってはリーチフォークリフトの比率が高く、リーチフォークリフトしか運転しないという作業者も多い。しかし、後述するようにリーチフォークリフトに固有の問題が運転者に十分周知されていないという現状があるのだ。
2 リーチフォークリフトの固有の問題等
(1)リーチ式フォークリフトの固有の問題
ア リーチ式フォークリフトの特徴
リーチフォークリフトは、カウンターバランスフォークリフトに比して、次のような特徴がある。
① 立席で操作するためシートベルトが装備されていない。このため、フォークリフトが転倒したときに振り落とされるおそれがある。
② 機体を制動するためのブレーキペダルがなく(※)制動の操作は後述するスイッチバック方式で行う。
※ 運転者の立席の床の左側に付いているペダルは、デッドマンブレーキである。あくまでも安全装置であって、制動操作のために使用するものではない。
なお、操作席床の右側に大型のペダルが設置されているものがあるが、これはプレゼンススイッチであり、右足が車体の外側に出ていると危険なため、これを踏まないと走行等の操作ができないようになっている。これも安全装置である。
③ ヘッドガードの支柱が前方の2カ所にしか設置されていない(※)。すなわち、バック時に運転者を守るガードになるものが何もないのである。このため、作業者がガードされない高さに、水平な部材が作業場内にあると、次章に示す災害事例のように、バック時に運転者がこれに激突される恐れがあるのだ。
※ 支柱が後方に付いているものもあるが、まれである。
また、支柱が運転者に近いところにあるため、前方の死角がカウンターバランス式に比較して広くなるという問題もある。
④ 操縦咳が狭い上に周囲が開放されているため、手や足が車外にはみ出しやすい。そのため、周辺の壁に手足が激突するおそれがある。
⑤ 極端に小回りが利き、低面積が狭いため転倒しやすい。
⑥ これは、リーチフォークリフトに限ったことではないが、操作レバーの配置(順序)が機体によって異なっている。俗称として、TOYOTA式、ニチユ式、神鋼式(住友式)などと呼ばれるが、必ずしも製造メーカごとに決まっているわけではない。
ところが、メーカーが同じであれば、レバーの配列も同じだと思っている運転者が意外に多いのである。
そして、後述するような事情から、繰り返しになるが、運転者にこれらの特性と危険性が周知されているとは言い難い状況なのである。
(2)リーチフォークリフトで発生した災害
ア ブレーキの構造への不慣れを原因とする災害
厚労省の職場のあんぜんサイトの災害事例に掲示されている「ホーム上からリーチフォークリフトが落下、飛び降りた運転者が骨折した事例」は、運転者がリーチフォークリフトの操作方法を誤解したために発生した事故である。
この事例の被災者のXは、普段はカウンターバランスフォークリフトを使用して荷役の業務に従事している。被災当日、本来の仕事が一段落したため、事務所へ戻る途中で他の作業者Aに呼び止められた。
AはXに、他の作業者Bがホーム上に停車したままにしているリーチフォークリフト(最大荷重 1.5 トン)が邪魔なので動かして欲しいと依頼した。
Xが、リーチフォークリフトを見ると、本来の操作者(B)はその場を離れており、キーがついたままであった。Xは、本来の業務ではなかったが、リーチフォークリフトの操作方法は知っていたので、運転席に載ってホームの端まで移動させ、停止させようとしてデッドマンブレーキを踏み込んだ。
Xは、デッドマンブレーキをカウンターバランスフォークリフトのブレーキペダルと同じように操作するものと勘違いした可能性がある(※)。リーチフォークリフトが止まるはずもなく、Xは慌てて飛び降りてバランスを崩し、転倒して負傷したものである。
※ Xは、実際にリーチフォークリフトをホームの端まで移動させているのであるから、デッドマンブレーキの仕組みは理解していたはずである。おそらく、慌てて、勘違いをしたのであろう。
Xは、技能講習を修了しており、フォークリフトの安全な操作についての一定の知識はあった。しかし、リーチフォークリフトのデッドマンブレーキの使用について、慣れていなかったということである。
イ ヘッドガードの支柱の構造による災害
厚労省の職場のあんぜんサイトの災害事例に掲示されている「リーチフォークリフトと鉄製ラックの間に挟まれた事例」は、リーチフォークリフトのヘッドガードの支柱構造が事故発生の要因となった災害である。
リーチフォークリフトのヘッドガードを支える支柱は、前述したように操作者の立席の前部の両側に2本があるタイプがほとんどである。立席後部には、作業者を守るガードになるものがないのである。
このため、被災者Xが、リーチフォークリフトを後退させた際に、ラックの棚板と運転席の前部の間に挟まれたものである。これは、操縦席後部に支柱があれば防げた事故であった。
なお、本件についてもXは技能講習を修了していた。
(3)リーチフォークリフトと技能講習
ア 実技講習(走行の操作)は1受講生当たり2時間足らず
ここまで読まれた読者の方は、技能講習でリーチフォークリフトについても、十分に安全を教えるべきだと思われるかもしれない。しかし、技能講習は、安全な運転についての必要最低限の知識・技能を与える制度なのである。
技能講習を行う登録教習機関の多くが、実技講習ではカウンターバランス式フォークリフトのみを用いている。2種類のフォークリフトの操作を受講生に習熟させることは、時間的に困難なのである。
フォークリフトの運転業務の技能講習の実技時間では、「走行の操作」を 20 時間、講習することとなっている(※)。しかし、これは道交法上の運転免許の実技教習とは考え方が全く異なるのである。
※ 「フオークリフト運転技能講習規程」(昭和 47 年 9 月 30 日労働省告示第 111 号)第2条第2項による。
フォークリフトの運転業務の技能講習の実技講習は、受講生 10 人以内を1単位として行うこととされている(※)。すなわち、講師1人とフォークリフト1台に受講生 10 人の組合せで、講習時間が 20 時間なのだ。
※ 「フオークリフト運転技能講習規程」第2条第2項による。なお、ガス溶接技能講習については、20 人を1単位とされているが、他のすべての就業制限の技能講習について、実技講習は10人を1単位として行われている。
受講生1人当たりでは、フォークリフトを実際に操縦できるのは、最大でも2時間しかない。現実には、20 時間の中には「走行の前の機体の点検」も含まれ、講師の説明時間と手本を示す時間も必要なので、1人当たり2時間を確保することはできない。
そのため、実技講習では、現時点で最も多い、カウンターバランスフォークリフトに特化せざるを得ないのである(※)。
※ 実技講習にリーチフォークリフトを用いたコースを設けている登録教習機関や、実技講習はカウンターバランスフォークリフトを使用するが手待ち時間にリーチフォークリフトを扱わせるという登録教習機関もある。ただし、きわめて少数である。
イ 走行関連の科目(学科及び実技)は広範に免除対象となる
(ア)技能講習の走行関連の科目(学科及び実技)の免除
さらに、フォークリフトの実技講習では、実技の「走行の操作」と学科の「走行に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識」が免除されるケースがかなり多いのである。
図の、背景が黄色で表示している範囲は実技の「走行の操作」が免除され、赤枠で囲った部分は学科の「走行に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識」が免除される(※)のだ。
※ 現実に行われているフォークリフトの運転の技能講習は、普通自動車免許を有する受講生等を対象とした 31 時間コースが最も多い。このコースでは、学科の「走行に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識」が免除される。そして、リーチフォークリフト固有の安全に関する内容は、まさにこの免除される科目に含まれるのである。
実技講習で、カウンターバランス式のフォークリフトが使用されていると、普通自動車免許を有している受講者はリーチフォークリフトについて、まったく習わないまま技能講習を修了するということが現に起こり得るのである。
なお、学科講習の内容については、厚労省の「技能講習補助教材」の「フォークリフト運転技能講習補助教材」を参照されたい。
すなわち、大型特殊自動車免許(※)を保有していれば、リーチ式はおろかカウンターバランス式のフォークリフトの運転についてさえ、まったく走行についての講習(学科及び実技)を受けることなく資格が取れるのである。
※ 大型特殊自動車とは、大型(全長 4.7m 以下、全幅 1.7m 以下、全高 2.0m 以下、標準速度 15km/h 以下のすべてを満たすものを除く。)の農耕車、工事車両、路面整備車両などをさす。大型特殊自動車免許のうち、カタピラ限定は免除の対象とはならないが、農耕車限定は免除の対象となる。
(イ)大型特殊自動車免許の取得の方法
大型特殊自動車の中にはフォークリフトも含まれるが、他にも様々な機械がある。そして、大型特殊自動車免許の取得は教習所内のコースで3日間の教習を行って4日目に検定を行うことが多いが、すべての大型特殊自動車を操縦するわけではない。
教習は、いずれか1種類の大型特殊自動車を用いて行われることがほとんどである。従って、大型特殊自動車免許があるからといってフォークリフトに乗った経験があるとは限らないのだ(※)。
※ 図は、大型特殊自動車の一例であるホイールローダである。ホイールローダで大型特殊自動車免許の教習を受けて検定に合格して免許を取得すれば、フォークリフトの技能講習の実技の「走行の操作」と学科の「走行に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識」が免除されるのである。
ホイールローダは、フォークリフトのように後輪が方向を変えて操行するわけではない。中折れ式で内輪差や外輪差がなく、操作の感覚も全く異なっている。
しかも、リーチフォークリフトは、大型特殊自動車には該当しない。従って、大型特殊自動車免許を取得するときに、リーチフォークリフトを運転していることはあり得ないのである。
(ウ)フォークリフト運転技能講習修了とリーチフォークリフト
すなわち、フォークリフト運転の業務の技能講習を修了していることは、少なくともリーチフォークリフトの安全な運転について充分な知識を有しているということにはならないのである。技能講習の修了を、普通自動車運転の免許と同じように考えるべきではない。
むしろ、技能講習の現状からは、リーチフォークリフトを扱う場合は、各事業場において、十分な安全教育を行う必要があるというべきなのだ。
ウ 技能講習を修了していなくともフォークリフトの運転は可能
ところで、フォークリフトの運転技能講習を受ける時点で、なぜフォークリフトの運転の実務経験があるのかと疑問に思われるかもしれない。これは、次のようなケースでは、技能講習の修了をしていなくてもフォークリフトの運転が可能だからである。
【技能講習の修了なしにフォークリフトの運転ができるケース】
- 道路上の運転(技能講習は必要ない)
- 1トン未満のフォークリフトの運転(特別教育で可能)
- 安衛法の適用のない運転(個人事業主がその事業場において運転する場合等)(安衛法の資格等は不要)
- 職業能力開発促進法第27条第1項の準則訓練である普通職業訓練のうち職業能力開発促進法施行規則別表第二の訓練科の欄に定める揚重運搬機械運転系港湾荷役科の訓練(通信の方法によつて行うものを除く。)を修了した者で、フォークリフトについての訓練を受けたものによる運転(技能講習の修了は不要)
※ ただし、このうち1トン未満のフォークリフトの運転の経験は、1トン未満のフォークリフトそのものがほとんど存在していないので、行政当局はかなり厳しくチェックすることになる。また、個人事業主がその事業場において運転していたと主張しても、現実にはまず認められないだろう。
なお、リーチフォークリフトは、道路運送車両の保安基準(道路運送車両法第3章)に適合することは、ほぼあり得ないため、自動車登録ができない。従って、道交法上の道路を走行することは原則としてできないので、フォークリフトで道路上の運転をしていた経験があっても、それはリーチフォークリフトの運転の経験ではないことになる。
3 リーチフォークリフトの運転に必要なこと
(1)走行時は必ずリーチインする
リーチフォークリフトはリーチインして走行することが原則だが、作業時間を短縮したいためか、リーチアウトしたまま走行するケースが多くみられる。
しかし、よく言われることだが、リーチアウトしたままで急旋回すると、転倒する危険性が高くなるので、走行するときは必ずリーチインしなければならない。
また、リーチアウトしたまま走行していると、ブレーキをかけたとき、後輪が浮かび上がりやすくなる。後輪が浮き上がればブレーキがまったく利かなくなるので、前方に人がいれば激突事故につながりかねないのである。
(2)走行時のブレーキにデッドマンブレーキは使ってはならない
ア 走行中のブレーキはスイッチバックで行う
走行中のブレーキは、スイッチバック操作(※)によって行うこと。これは、リーチフォークリフトのほとんどのメーカが推奨している方法でもあり、取扱説明書にもそのように記載されている。
※ 前後進切り替えレバーを走行している方向とは逆側に倒して減速すること。プラギング操作ともいう。
ほとんどの運転者が誤解しているが、足元のデッドマンブレーキ(※)は、走行中のブレーキ操作に使ってはならないのである。
※ リーチフォークリフトのデッドマンブレーキは、運転者がペダルを踏んでいるときは走行が可能だが、何らかの理由でペダルから足を離すとブレーキがかかる。普通自動車やカウンターバランスフォークリフトとは逆の仕組みである。
運転者が運転席にいないときにフォークリフトが動かないようにしたり、運転者が運転席から墜落したような場合にただちに停止するための安全装置である。
イ デッドマンブレーキは走行中に速度を落とすための装置ではない
現実には、リーチフォークリフトで、デッドマンブレーキをブレーキ代わりに使用しているケースが非情に多い。
しかし、ブレーキを掛けるときは立った姿勢で片足(あるいはつま先)を上げることになり、デッドマンブレーキは急ブレーキになりやすいので、バランスを崩して逆にブレーキを踏み込んでしまうことがある。実際に、そのために機体を激突させたり、振り落とされたりする事故が起きている(※)。また、急ブレーキになるために、ドライブタイヤが偏摩耗しがちなのである。
※ このため、フォークリフトメーカーの多くは、取扱説明書でデッドマンブレーキを走行中の制動に使用しないように注意喚起している。
技能講習でリーチフォークリフトについてほとんど教えられないということもあるのだろうが、デッドマンブレーキは走行時のブレーキ操作用に使用するものと考えている運転者は非常に多い。ときには、公的な機関でさえ、そのように教えているケースがある。リーチフォークリフトに関しては正しい知識が普及されていない状況にあるのだ。
(3)走行中は運転席から身体を出さない
リーチフォークリフトは、左手でハンドル(総舵輪)ノブを操作し、右手でアクセルレバー(前後進レバー、前後進の切換えと速度の調整を行うためのレバー)を操作する。このため、操縦席が周囲に解放されてはいるが、走行中に手先が操縦席から大きくはみ出すようなことはないようになっている。
しかし、右手の肘や、デッドマンブレーキを踏まない側の足(右足)の踵が操縦席からはみ出したまま走行しているケースが多くみられる。また、デッドマンブレーキを右足で踏んで、左足が操縦席からはみ出しているというケースもある。
リーチフォークリフトは、小回りが利くために、ターンしたときに、壁等にぶつかることがある。そのとき、身体の一部が操縦席からはみ出していると、思わぬ災害につながりかねない。体の一部を操縦席からはみ出さないように留意する必要がある。
(4)走行中の操舵はハンドルのノブを操作する
また、走行中にハンドル(ステアリングホイール)のノブをつかまずに、輪の方をつかんで操作しているケースがまま見られる(※)。あまり指摘されることはないが、実は、これもかなり危険な行為なのである。リーチフォークリフトは、後輪のタイヤが1輪のみで駆動と操舵の役割を兼ねている。
※ 最近の型では、ハンドルが輪になっておらず、つかめなくなっているものも多い。
このため、後輪のタイヤが地上の障害物に乗り上げたり、さらにその障害物から外れたりしたとき、タイヤの方向が急激に変わることがある。すると、タイヤと連動しているハンドルが急回転するのだ(※)。
※ 最近のフォークリフトは、ほぼすべてパワーハンドルとなっており、タイヤの方向が障害物などによって急回転してもハンドルが急回転するようなことはないが、それでもハンドルが回転することには変わりはない。
そのときハンドルの輪の方をつかんでいて、ノブが手首を激突して骨折するという事故が実際に発生している。ハンドルが急回転しても、ノブを軽くつかんで操作していれば、それほど大きな傷害は負わなくて済むのである。リーチフォークリフトのハンドルは、必ず輪の方ではなくノブをつかんで操作するようにしたい。
(5)走行中に原則として緊急停止ボタンを押してはならない
ア 走行中に緊急停止ボタンを押しても停止しない
リーチフォークリフトには、緊急停止ボタンという誤解を呼びそうな名称かつ形状のボタンがある(※)。走行中に緊急に停止させたいときに押したくなるが、緊急停止ボタンを押しても走行は止まらない。
※ リーチフォークリフトを現に運転している数名の方に「走行中に緊急停止ボタンを押すとどうなるか」と尋ねたところ、「急停止する」と答えた方の方が多かった。
なお、かつてのリーチフォークリフトの緊急停止ボタンは、緊急停止ボタンでバッテリプラグを引き抜くようになっていたが、最近のタイプはたんにバッテリを遮断するだけで、スイッチを回転させることで復帰できる。ただ、いずれにせよたんに電源を解放しているだけであり、走行ブレーキがかかるわけではない。
緊急停止ボタンは、電源を解放するだけなので、緊急停止ボタンを押してもリーチフォークリフトは停止せず慣性で動き続ける。むしろ緊急停止ボタンを押さずに、アクセルレバーを中立にした方が早く止まる。
そればかりか、緊急停止ボタンを押すと、アクセルレバーやハンドルを動かしてもコントロールが利かなくなるのである。そのため、スイッチバックで停止させたり、進行方向を換えて衝突事故を避けることさえできなくなる。
従って、走行中はよほどのことがない限り、緊急停止ボタンを押してはならない。
イ 誤って走行中に緊急停止ボタンを押したときの措置
緊急停止ボタンを押した状態でも、(ブレーキ機構が壊れていなければ)デッドマンブレーキは作動する。誤って走行中に緊急停止ボタンを押したときは、ブレーキペダルから足を外せば停止させることができる。
ウ 緊急停止ボタンが設置されている理由
緊急停止ボタンが設置された理由は、前後進を制御するリレーの接点が融着して、停止できなくなるという場合に備えるためである(※)。現在は、接点が融着すると機体が停止する安全装置が備えれられているものがほとんどなので、緊急停止ボタンを使用する必要はほとんどないのだが、安全装置が故障した場合に備えて現在も設置されているのである。
※ ほぼすべてのリーチフォークリフトに緊急停止ボタンが接地されているが、実は、フォークリフト構造規格には緊急停止ボタンを設置しなければならないという規定はない。また、JIS D 6001-1:2016 にもそのような記述はないのである。
逆から言えば、設置するにしても基準がないのである。走行中に押してはならないボタンが運転席から容易に押せるようになっている状態は問題であり、構造規格等で緊急停止ボタンを押したときにブレーキがかかるように規定するべきではないかと思える。
(6)その他
ア 乗降の際の留意事項
また、デッドマンブレーキは安全のための装置であるから、乗降の際は、まずデッドマンブレーキを押さえる側とは反対側の足(右足)から乗る。また、降りるときはデッドマンブレーキを押さえる側の足(左足)から降りるようにする。
なお、乗降時は身体を機体側に向けて三点支持とする。また、操作レバー(特にアクセルレバー)には触れないようにすることは当然である。
イ リーチフォークリフトから降りたときは、ハンドルを直進の位置にする
リーチフォークリフトは、小回りが利くため、ハンドルをいっぱいに切ったまま運転席から離れると、次に乗った者がアクセルレバーを倒すと機体が急速に回転し、振り落とされることがある。
リーチフォークリフトから降りるときは、ハンドルを常に直進の位置にするクセを付けておくようにするとよい。
ウ リーチフォークリフトに限らず、モータ故障時に牽引しない
最近の若い労働者は、自動車が故障したときに、他の自動車で牽引しようなどという発想はしないだろう。しかし、ある程度以上の年代だと道交法の自動車免許を取得した時に、牽引の方法について習ったはずである。
このため、フォークリフトの原動機(エンジン、モータなど)が故障して作業の支障となる場所で停止してしまうと、他のフォークリフトで牽引したくなるかもしれない。もちろん、フォークリフトを牽引作業に用いることは用途外使用(安衛則第151条の14)で法違反である。また、法違反であることを別にしても、実はきわめて危険な行為なのである。
というのは、最近のフォークリフトのパワーステアリングの機構は、原動機が止まるとハンドルを切ってもタイヤの方向は変わらないようになっているのである。従って、牽引される側のフォークリフトはカーブを曲がれないので、牽引する側がカーブを曲がった時点で最悪ケースは転倒することになる。
従って、フォークリフトが故障したときに、他のフォークリフトなどで牽引することはしてはならないのである。
エ リーチフォークリフトに限らず、作業場の床にワイヤなどを放置しない
リーチフォークリフトに限らず、床にワイヤロープなどが放置してあると、これを巻き込んでワイヤの端が急回転して車体や車軸付近の制御用ワイヤを切断することがある。
リーチフォークリフトは、ドライブホイール(後部駆動輪)が、モータやブレーキなど駆動装置の入っているユニットの下部にあり、ドライブホイールと駆動装置の間には隔壁などは設けられていない。
そのため、ドライブホイールにワイヤロープが巻き付いて、その端が振り回されると、駆動装置が損傷する可能性が高いのである。
リーチフォークリフトに限らないが、床にワイヤロープなどひも状のものを放置しないようにとくに注意する必要がある。
4 最後に
※ イメージ図(©photoAC)
フォークリフトは、今や荷の操作に必要不可欠なものとなっている。しかし、これを起因物とする労働災害が多発しているために、安衛法でも構造規格(安衛法第42条)や、就業制限(安衛法第61条)の対象としている。
そのような中で、小回りが利き、操作しやすいリーチフォークリフトが急速に普及してきた。リーチフォークリフトは、カウンターバランスフォークリフトとは異なる、固有の危険性があるにもかかわらず、それを運転者に伝える仕組みが現行の制度のスキマに入っており、あまり知られていないという現状がある。
各企業においても、技能講習を修了しているからといって、独自の教育を行わずにリーチフォークリフトの運転を安易に作業者に行わせることは、災害発生の一定のリスクがあることを理解するべきである。
労働者の安全は、各企業における責任なのである。リーチフォークリフトの運転の安全は、通常の技能講習の修了だけに頼るのではなく、各企業において十分な教育が行われるようにしたい。
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