ジャングルジム火災と予見可能性




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2016年11月の神宮外苑のイベントで発生した木製ジャングルジム火災事件による児童死亡事件を題材に、予見可能性について解説しています。

労働の現場でも、公衆災害を起こすと業務上過失致死傷罪で立件される例があります。どのようなことに注意するべきかを論じています。




1 ジャングルジム火災による死亡事故

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木製ジャングルジムが発火し、火災で5歳の児童がなくなるという痛ましい事件が起きたのは、2016年11月の神宮外苑のイベントでのことであった。

火災が起きたジャングルジムは、木製の角棒を組み合わせたもので、同年11月16日に掲載された朝日新聞DIGITALの写真(火災の前日に写されたもの)を見ると、内部にかなりの量の木屑が巻き付けられ、一番外側の枠内に投光器が置かれている。同記事によると、この投光器は夜間の作業用のものが置かれていたのだという。

ジャングルジム

当日、子供たちの見守りのために現場にいた大学生のうち1名が、これを照明用だと誤解したのだろう、暗くなったので投光器を点灯したのである。だが、客観的に見ればこれは愚かな行為であった。投光器は500ワットの白熱球だというから、かなりの熱を持つことは当然である。火災が起きないにしても、子供が素手で触れば火傷をすることは確実だった。

実際には、ジャングルジム内部の木屑が発火し、燃え広がって内部にいた児童が逃げきれずに亡くなったのである。


2 重過失致死による起訴

投光器は、小規模な建築現場などでも夜間によく用いられる。冬季には、暖房の代わりに使用されることがあるくらい熱を持つ装置である。建築作業員にとって、白熱球の近くに木屑などの燃えやすい物を置いてはならないことは常識と言ってよい。

本件は、投光器を点灯した学生ら2名が重過失致死罪で起訴され、1審で有罪(執行猶予付き禁錮10月)となったが、被告側が控訴している。

過失致死罪には、たんなる過失致死罪、業務上過失致死罪、重過失致死罪の3類型があるが、たんなる過失致死罪の法定刑は最も重い罪でも罰金刑であり、人を死なせるという結果に対してあまりにも軽いことから、ほとんどの場合、業務上か重過失で起訴される。ところが、業務と言えるためには、反復継続して行われることが必要なので、本件は、重過失で立件されたものであろう。


3 重過失致死と言えるためには

業務上の過失は、特定の業務に従事する者の過失であるから、重い注意義務が課せられ比較的認定されやすい。これに対し、重過失は、比較的軽度の注意を払うことによって結果が予見できる場合でないと認定されない。

これまで、重過失が認定された例としては「被告人が飲酒酩酊の上、無免許で自動三輪車を運転」して他人を死傷させた例(最決昭和二九年四月一日)や、「製品運搬用エレベーターの減速機に注油するため、安全ピンを装着せずにメタルカバーを取り外したため」被害者が昇降台に乗り、落下、死亡した例(最決昭和四〇年四月二一日)などがある。

本件について、1審では、検察側は「投光器の白熱電球を近づければ木くずが付着して発火すると予見できた」とし、弁護人の側は「2人が投光器を使ったのは初めてで、格別高温になると想像できなかった」とした。これに対し、東京地裁は2021年7月13日、禁錮10月、執行猶予3年の有罪判決とした。

しかし、東京高裁は、2022年9月13日、投光器について「2人はあくまで照明用の器具だと認識していた。わずかな注意を払えば火災の発生を予測できたと認めるのは困難と言わざるをえない」として、重過失致死ではなく過失致死になるとして東京地裁判決を取り消し、審理を東京簡易裁判所に移送した。

これに対し、ご両親は「到底納得できない結果」だとされている。ご両親としては当然の思いであろう。被告側は、あくまで無罪を主張している。

本件が、過失致死罪となるのか、重過失が成立するのか、あるいは無罪となるのかは、もちろん判決の確定を待たなければならない。

この火災事故は、労働安全の専門家であれば、誰でも予見できるような種類の事故であるが、果たして本件の場合にどのような判断されるかは現時点ではなんともいえないのである。


4 労働安全の立場からどのように考えるべきか

本件災害(事件と言うべきか)は、もちろん、労働災害の現場では考えられないような災害ではある。しかしながら、ウレタンフォームなど発火しやすい物の近くでアーク溶接などを行って火災事故を起こす例もまた後を絶たない。

このような事業場の災害の場合、本件とは異なり「業務上過失致死傷罪」が問題となるから、断罪されるケースも多いのである。まして、公衆災害を起こした場合、重い罪が課せられ、場合によっては執行猶予がつかない実刑となる傾向がある。

本件は、唖然とするような事故ではあるが、労働災害防止の現場においても、他山の石として、火災事故防止の教訓とすべきではないかと思い、ここに紹介した。





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