積載型トラッククレーンのジブ格納




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禁止のジェスチャーをする女性

※ イメージ図(©photoAC)

積載型トラッククレーン(いわゆるユニック車)で、クレーンのジブを前方で固定したまま道路を走行しているケースがあります。

しかし、車検時の格納方式が後方であるトラッククレーンの場合、前方で格納すると前後のタイヤの接地圧が変わってしまいます。そのため、高速で走行しているときにブレーキをかけると極めて危険な状態となります。

荷台に荷を積むと、ジブを後方で格納できないために前方に回したまま走行するものですが、絶対に避けるべきです。




1 積載型トラッククレーンのジブの格納と法令

執筆日時:

最終改訂:


(1)はじめに

積載型トラッククレーン

※ 厚生労働省「技能講習補助教材」より

積載型トラッククレーン(いわゆるユニック車)の製造メーカーは、車検時のジブの格納方式を前提として設計を行っている。そして、車検時には、ジブを後方で格納する方式として検査をしているものが多い。

ところが、積載型トラッククレーンを使用して荷の運搬を行う場合、荷の高さがジブより高いとジブを後方へ回せないため、ジブを前方へ回してワイヤなどで固定して走行する事例が後を絶たないのである(※)

※ だったら、最初から前方格納で検査を受ければよいと思えるかもしれない。しかし、寝台のないトラックだと、前方格納では長いジブが積めない(4段が限度)のである。また車検時の全長が長くなるので、フェリー積載時の料金が高くなるなどの問題もある。

現実には、後方格納にしているものは、車体の軸重等の関係から、後方格納にせざるを得ずにそうしているケースがほとんどなのである。

前方で格納しても、気を付けて運転すればぶつけないと思うのかもしれない。しかし、後方格納の積載型トラッククレーンのジブを前方で格納する問題はジブが何かにぶつかることだけではないのだ。車検時格納方式以外の方向で格納して走行してはならない理由を以下に解説する。


(2)車検時格納方式と法令の規定

ア 関連する法令

まず、これが法違反になるかどうかであるが、実は、筆者は、国土交通省と警視庁に問合せをして、車検時格納方式以外の方法でジブを格納して走行することが法令に違反するかどうかを確認している。

しかし、その結論の紹介は後に回して、まずは関係しそうな法令について見ていこう。ここで、検討するのは、次の2つの法令である。

  • 道路運送車両法
  • 道路交通法

イ 道路運送車両法

(ア)第67条

道路運送車両法第67条には、「自動車の使用者は、自動車検査証の記載事項について変更があつたときは、その事由があつた日から十五日以内に、当該事項の変更について、国土交通大臣が行う自動車検査証の記入を受けなければならない」とある。

【道路運送車両法】

(自動車検査証の記載事項の変更及び構造等変更検査)

第67条 自動車の使用者は、自動車検査証の記載事項について変更があつたときは、その事由があつた日から十五日以内に、当該事項の変更について、国土交通大臣が行う自動車検査証の記入を受けなければならない。ただし、その効力を失つている自動車検査証については、これに記入を受けるべき時期は、当該自動車を使用しようとする時とすることができる。

2~4 (略)

一方、自動車の長さ、幅及び高さは、自動車車検証の記載事項となっており、後方格納式の車両は後方に格納した状態で長さを図る(道路運送車両の保安基準の細目を定める告示第6条)こととなっている。

車検時格納方式以外の方法でジブを格納して公道を走行した場合に、長さ、幅又は高さが、車検記載の数値を超えた状態で公道を走行することとなる(※)。従って、自動車検査証の変更があったにもかかわらず、その記入を受けなかったこととなり、同条の違反となるのではないかが問題となる。

※ 使用過程における自動車について、車長3センチ・車幅2センチなど一定の寸法以下のものや、指定部品の溶接又はリベット以外の方法での取り付けについては、構造等変更に係わる諸手続きは不要である。なお、指定部品にはクレーンの部品は含まれていない。

(イ)第40条

道路運送車両法第40条は、自動車は、長さ、幅及び高さが「国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない」と定めている。そして、同条の基準として「道路運送車両の保安基準」が定められている。

【道路運送車両法】

(自動車の構造)

第40条 自動車は、その構造が、次に掲げる事項について、国土交通省令で定める保安上又は公害防止その他の環境保全上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。

 長さ、幅及び高さ

二~九 (略)

【道路運送車両の保安基準】

(長さ、幅及び高さ)

第2条 自動車は、告示で定める方法により測定した場合において、長さ(セミトレーラにあつては、連結装置中心から当該セミトレーラの後端までの水平距離)十二メートル(セミトレーラのうち告示で定めるものにあつては、十三メートル)、幅二・五メートル、高さ三・八メートルを超えてはならない。

(軸重等)

第4条の2 自動車の軸重は、十トン(牽引自動車のうち告示で定めるものにあつては、十一・五トン)を超えてはならない。

 隣り合う車軸にかかる荷重の和は、その軸距が一・八メートル未満である場合にあつては十八トン(その軸距が一・三メートル以上であり、かつ、一の車軸にかかる荷重が九・五トン以下である場合にあつては、十九トン)、一・八メートル以上である場合にあつては二十トンを超えてはならない。

 自動車の輪荷重は、五トン(牽引自動車のうち告示で定めるものにあつては、五・七五トン)を超えてはならない。ただし、専ら路面の締め固め作業の用に供することを目的とする自動車の車輪のうち、当該目的に適合した構造を有し、かつ、接地部が平滑なもの(当該車輪の中心を含む鉛直面上に他の車輪の中心がないものに限る。)の輪荷重にあつては、この限りでない。

後方格納の車両のジブを前方に格納した場合に、道路運送車両法第40条による保安基準の第2条の制限を超えていると、そのまま公道を走行すると、道路運送車両法第40条違反となるのではないかが問題となる。

また、ジブの方向を変えることにより、状況によっては軸重等(第4条の2)も変化するので、車両寸法のみならず軸重も問題になり得るものと思われる。

ウ 道路交通法

(ア)第55条第2項

道路交通法第55条第2項には、「車両の運転者は、運転者の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げ、後写鏡の効用を失わせ、車両の安定を害し、又は外部から当該車両の方向指示器、車両の番号標、制動灯、尾灯若しくは後部反射器を確認することができないこととなるような乗車をさせ、又は積載をして車両を運転してはならない」とある。

【道路運送車両法】

(道路交通法)

第55条 (第1項 略)

 車両の運転者は、運転者の視野若しくはハンドルその他の装置の操作を妨げ、後写鏡の効用を失わせ、車両の安定を害し、又は外部から当該車両の方向指示器、車両の番号標、制動灯、尾灯若しくは後部反射器を確認することができないこととなるような乗車をさせ、又は積載をして車両を運転してはならない。

 (略)

長尺の荷を積み、車体からはみ出した部分が車長の1割を超えた場合に、所轄の警察署の許可を得ずに走行すると。道路交通法第55条第2項に違反する同項違反となるとの取扱いがなされている。そのため、ジブが「積載物」に該当すると判断されるなら、ジブを前方に格納した場合に、車体からはみ出した部分が車長の1割を超えていれば同項違反となるのではないかが問題となる。

また、ジブのフックブロックやジブを固定するワイヤが運転者の視野を妨げた場合も、同様な問題がある。

(イ)第70条

道路交通法第70条には、「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」とある。

【道路運送車両法】

(安全運転の義務)

第70条 車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。

公道を走行中に、ジブを前方に格納したことを原因として事故が発生すると、道路交通法第70条に違反しているとされる場合があるのではないかが問題となる。なお、本条文には、同法第119条第1項第九号及び同条第2項に罰則が定められており、たんなる訓示規定ではない。


(3)関係省庁に問い合わせた結論

ア 国土交通省(道路運送車両法)

先ほども述べたが、筆者は、かつて職務での必要があり、後方格納すべき積載型トラッククレーンで、ジブを前方格納して走行することの道路運送車両法違反の有無について国土交通省に確認したことがある。

このときに得られた回答は、積載形トラッククレーンについて、後方格納方式のジブを前方に格納して公道を走行しても、ジブを車体に溶接等で完全に固定しているわけではなく、道路運送車両法第67条及び同第40条違反の問題は発生しない(※)との見解であった。

※ 要は、昔の乗用車の三角窓を開いて走っているようなもので、車体の大きさを変更したわけではないとのことである。なお、問合せたのは、2017年7月時点であるが、その後、関係法令に改正はないので、現在も状況に変わりはない。

また、同法の他の条文についても違反とはならないとのことであった。

ただ、このとき、国土交通省の担当者から「道交法違反になる」とのご指摘を頂いた。これは次項に示すように誤りであるが、専門家でも間違うほど微妙な問題だということである。

イ 警察庁

そこで、警察庁に問い合わせたところ、積載形トラッククレーンの後方格納方式のジブを前方に格納して公道を走行したとしても、ジブは積載物とは言えず、道路交通法第55条2項違反にはならないとの見解であった。

なお、第70条に違反するおそれがあるが、公式な見解は、より実務に近い仕事をしている警視庁に確認してほしいとのことであった。確かに、第70条はかなり抽象的なことが書かれており、どのような行為でも当てはまるような気はしないでもない。

ウ 警視庁

質問に答える女性

※ イメージ図(©photoAC)

そこで、警視庁に問い合わせると、即答は避けたが、綿密に調べた上で、お電話を頂くという、とても親切な対応をして頂いた。だが、その回答は、道路交通法のどの条文についても違反にはならないとの見解であった。

しかも、警視庁では、関東陸運局にも問い合わせを行い、道路運送車両法違反についても違反にもならないとの回答を得たとのことであった。

ただ、警視庁としては「法違反には当たらないが、安全のために車検証に記載された方法で走行するべきである」との見解であった。


2 考察

(1)車両とその積載物の大きさ等に関する規制

車両とその積載物がある基準を超える場合に、そのままで公道を走行すると事故発生のリスクがあるため、一定の法的な規制がかかっている。

  • “積載物”については、車長の10%を超える場合、道路交通法第55条第2項に違反することとなる。
  • 車体を改造して、車検に記載された大きさよりも大きくした場合は、一定の手続きを取らないままで公道を走行していると、道路運送車両法第67条に違反することとなる。

(2)積載形トラッククレーンの違反該当性

しかしながら、積載形トラッククレーンのジブは、車体に固定されており、積載物であると解釈することは無理があり、道路交通法違反に当たるということはできない。

一方、ジブを前方に回転させただけでは、車体そのものの寸法を変更した(改造した)と評価することはできず、道路運送車両法違反にも問えない。

確かに、実質的に考えれば、後方格納方式のジブを前方に格納したまま公道を走行する行為は、車体の寸法(や軸重)が本来の車長(や軸重)が増加した状態で公道を走るのであるから、その危険性は積載物や車体改造の場合と変わらないと評価することもできる。

しかしながら、条文の文理解釈をする限り法に違反するとはいえないということである。これが法律に違反するかどうかについての公式な結論である。


(3)実質的な危険性

しかしながら、このことは法律の欠缺けんけつ(抜け)とまではいえないにせよ、たんなる法律の条文の関係によって違反とならないにすぎないといえよう。

そもそも積載型トラッククレーンは、クレーンメーカにおいて、通常のトラックにクレーンを取付けて製造しているのであるから、実質的な危険性は荷と変わらないという判断もできるのである。

そして、違反にならない条文を長々と説明したのは、これらの条文が規定している趣旨を理解して頂きたかったからである。ジブを車検時格納方式以外の方法で格納したまま道路を走行することは、これらの条文が禁止している行為と同じように危険な行為なのである。

また、これは専門家でさえ誤解しているほどの微妙な問題なのである。法律に違反していないからジブを車検時格納方式以外の方法で格納したまま道路を走行してよいとは考えてはならない。


3 積載型トラッククレーンのジブ方向を変えて走行してはならない4つの理由

最後になるが、なぜ積載型トラッククレーンのジブ方向を変えて走行してはならないかの理由を述べておこう。前方にジブが少々突き出していても、道路を走行しているときに何かにぶつかることはないと思うかもしれないが、問題はそのようなことだけではないのだ。

すでに何度か述べたことではあるが、次のような理由なのである。

積載型トラッククレーンのジブ方向を変えて走行してはならない4つの理由

  • 最近の積載型トラッククレーンは、環境対策のためにエンジンが重くなっており、前方の軸重やタイヤの強度が性能ぎりぎりになっていることがある。このため、ジブの方向を前方に変えると車軸(アクスル)が耐えられなくなり変形することがある。そればかりか、タイヤに許容荷重以上の荷重がかかって、高速道路を走っているときにバーストする危険さえあるのだ。
  • ジブの方向を前方に変えることにより、重心が前に偏って前後のタイヤの接地圧が変わってしまう。このため、緊急時にブレーキをかけると車体が前方に傾いて、ブレーキの利きが悪くなってしまう。
  • ジブが車検時格納方式と異なった位置に格納されていることにより、どうしても不完全な固定になることがある。そのため、カーブなどで電柱や建物に激突し、それが原因で大きな災害につながることがある。
  • ジブを前方に回転させることにより、フックブロックやフックブロックを固定するワイヤで前方の視界が遮られ、大きな災害の原因となる。また、フックブロックから潤滑油が混じった水滴がフォロントウインドウに飛び散り、それに気付かずにワイパーを動かすと、あっという間にフロントガラスの視界が遮られることになる。

実際に、ジブを前方に格納したトラックが走行中にブレーキをかけようとすると、前のめりに傾いてしまい、制動距離がかなり延びることがある。

また、積載型トラッククレーンのジブの固定が不完全なことによる災害(死亡1、負傷3)も実際に発生している。

この災害は、ジブを前方にして走行するときに、フックブロックが視界を遮らないように斜めに固定したことが遠因となっている。後方に固定していれば起きなかった事故なのである。

後方格納方式のジブを前方に格納したまま公道を走行する行為は、実質的にみれば、車長を変更したり、長大な荷物を積載したりするなどの、一定の法規制がかかっている行為と同等なものである。従って、その状況・態様によっては違法性を有するものと考えられる。

すなわち、ジブの格納方法を変えたことを原因として事故が発生した場合などに民事賠償責任が発生したり、死傷災害が発生した場合に業務上過失致死傷罪に問われたりする可能性があると考えられるのである。

積載型トラッククレーンのメーカーも、車検時格納方式以外の方法でジブを格納したまま走行しないよう、広報している。なお、積載型トラッククレーンには、ジブに格納方向を示す銘版が取り付けられている。

事故を起こせば取り返しがつかないのである。検査時に決められた格納方法以外の方法でジブを格納したまま走行してはならない。それは、きわめて危険な行為だということを理解して頂きたい。





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