墜落制止用器具の2丁掛けは危険




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ダブルランヤード墜落制止用器具

フルハーネス型の墜落制止用器具では、ランヤードを2本装着したものがあります。これは、本来は、移動時にフックをかけ替えるときに、常にどちらかのフックは掛けられた状態にすることが目的です。

作業時等に2本のフックをかけたままにすることは、製造メーカーも想定していませんでした。しかし、作業時に2本とも掛けたままにするよう指導する現場があります。

しかし、これはショックアブソーバが共有のダブルランヤードであっても極めて危険な行為です。ランヤードは1本でも充分な強度があります。特殊なケースを除いては、作業時には1丁掛けとすることを強く推奨します。




1 ダブルランヤードのフルハーネスの登場

執筆日時:

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フルハーネス型墜落制止用器具

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※ 資料出所:厚生労働省「安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!

図1:フルハーネス型墜落制止用器具

かつての安全帯が墜落制止用器具と名称を変え、建設現場などではフルハーネス型のものが主流となりつつある。フルハーネス型では、ランヤード(命綱)が2本のタイプも増えつつある。

ランヤードが2本のタイプは、かつての安全帯の時代の胴ベルト型(※)でもなかったわけではない。しかし、胴ベルト型では、ランヤードのうち1本は補助用と位置付けられ、移動時にメインのランヤードを付け替えるときに、補助用として用いるだけのものが多かった。

※ 墜落制止用器具でも胴ベルト型とフルハーネス型があり、安全帯の時代にも胴ベルト型(1本吊り及びU字吊り)とフルハーネス型があった。しかし、安全帯の時代には、どのような高さであってもフルハーネス型が義務付けられていたわけではないので、フルハーネス型はあまり普及していなかった。

しかし、フルハーネス型の墜落制止用器具では、補助用としてではなく作業時にも使用できる正規のランヤードが2本取り付けられるようになったのである。このため、現場ではフルハーネス型のランヤードが2本あるなら、作業を行っているときにも2本とも掛けておく方が安全ではないかと考えるようになった。万一、墜落したときに、1本しかフックを掛けておかないと、それが何らかの原因で外れると墜落を制止することができない。それなら2本とも掛けておいた方が安全だと考えたわけである。

ただ、製造メーカーとしては、ダブルランヤードはあくまでも移動時のランヤードの付け替え用として想定しており、作業時に2本のランヤードのフックをかけることは想定していなかった。


2 作業時のランヤードは1丁掛けか2丁掛けかの混乱

(1)特別教育のテキストの記述

ここで、混乱に拍車をかけたのが、いくつかの特別教育用のテキストの記述である。テキストの中には、作業時に2本のランヤードを掛けておくようにするべきというものと、作業時にはランヤードを2本掛けてはならないというものがあったのである。このため、製造メーカーにどうするべきかという問合せが入るようになっていた

実は、これらの特別教育のテキストの、一見、相反するような記述は必ずしも矛盾しているわけではない。2本とも掛けるべきとするテキストは、共有の1個のショックアブソーバに2本のランヤードがついているタイプ(図1に示すもの)を想定している。一方、作業時にはランヤードを2本掛けてはならないとするものは、それぞれにショックアブソーバを備えたランヤードを2本用いるケース(図2に示すもの)を想定しているのである。


(2)ショックアブソーバ2個タイプの2丁掛けの危険性

それぞれにショックアブソーバを備えたランヤードを2本用いるケースでは、作業時に2本のランヤードを同時に掛けていると、墜落したときに2本のショックアブソーバーが働くため、身体に加わる衝撃が2倍になって危険なのである。

しかし、現場では、特別教育のテキストの作業時には2本のランヤードのフックをかけておくべきという記述を誤解するケースも多く、それぞれにショックアブソーバを備えたランヤードを2本用いるケースでも、作業時にランヤードを2本とも掛けるように作業者を指導するケースがあるのだ。

2丁掛け使用の禁止

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※ 資料出所:藤井電工「フルハーネス型使用上の注意事項

図2:禁止される使用方法

そのため、製造メーカーも、それぞれにショックアブソーバを備えたランヤードを2本用いるケースでは、水平移動時や作業時などではランヤードは同時に2本掛けないようにとの広報を始めている。ショックアブソーバが2個ある場合は、あくまでも移動時の掛けかえのときのみ、同時に2本を掛けるようにしなければならない。


3 ショックアブソーバが1本のときの2丁掛けの危険性

現時点では、製造メーカーも1個のショックアブソーバを共有するランヤードでは作業時に2丁掛けをすることを禁止してはいない。

しかし、作業時に2丁掛けをすることは、かなり危険な行為であると筆者は考えている。それは、次の理由からである。

【作業時に2丁掛けが危険な理由】

  • 胸バンドのD環にランヤードを取り付けている場合、前方の左右の2箇所にフックを掛けていると、前方に墜落した場合にランヤードの二股に分かれた部分に頸をかける危険性がある。その場合、ランヤードが伸び切った瞬間に頸が締まって死亡事故となるおそれがある。
  • 背部のD環にランヤードを取り付けて、2本のランヤードを左右の腋の下を通して前方の左右の2箇所にフックを掛けている場合、墜落時に両方のランヤードが腋の下に入ると、ランヤードが伸びきった瞬間にショックアブソーバが開かず、身体が大きくバウンドして、両腕が損傷する危険性がある。
  • 墜落時にランヤード2本の間に腕又は足が挟まり、2本のランヤードが捻じれると、手首又は足首がランヤードから外れなくなる可能性がある。この状態でショックアブソーバが開くと、身体が手首で吊り下げられて衝撃を受けるおそれがある。
  • ※ なお、そもそもランヤードが首の前にある状態や、腋・股にはさんだ状態で作業をしてはならない。

このように、2本のランヤードがあると、墜落時に頸部や身体がはさまれる恐れがあり、きわめて危険なのである。

ランヤードは1本でも十分な強度がある。2本掛けることのメリットはほとんどないといってよい。作業時や移動時に2丁掛けをすることは、ショックアブソーバが1個のタイプでも避けるべきだと筆者は考えている(※)

※ その場合でも、使っていないランヤードのフックは、作業中フックハンガー(又はランヤードホルダ)以外には掛けないこと。胸バンドのD環などに掛けていると、墜落したときに胸バンドの連結金具が壊れてフルハーネスが脱げてしまう可能性がある。


4 2丁掛けにするべき場合

ただし、1個のショックアブソーバのダブルランヤードを用いるのであれば、作業時に2丁掛けとするべき場合も存在している。絶対に作業時に2丁掛けにしてはならないということではない。

その場合とは、取付け設備の強度が判断できない場合である。強度が充分にあるかどうか分からない取付け設備しかなく、かつそれが複数ある場合は、2つのフックをそれぞれ別な設備にかけるべきなのである(※)

※ この場合でも、2個のショックアブソーバを用いるタイプでは、2個のフックを1か所にかけるとかえって危険である。ショックアブソーバが並列で働くので、(時間は短くなるが)2倍の力がかかるからである。

そうすることで、取付け設備に力が加わっている時間を短くすることができるからである。


5 最後に

なお、1個のショックアブソーバのダブルランヤードを用いる場合、作業時等に2丁掛けとするか、1丁掛けとするかの判断はご自身の責任と判断において行って頂きたい。

私は原則として2丁掛けとするべきではないと考えている。しかし、2丁掛けを推奨している専門家もいる(※)。それらを意見の根拠を理解した上で、ご自身の現場における最良の方法を考えて頂きたい。

※ 繰り返しになるが、特別教育のテキストでそのように書かれているものがある。

形式的・機械的に決めるのではなく、根拠を理解した上で、事業者の責任において判断すること、それが、安全を守るための鉄則である。





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