化学物質に関して、作業環境測定と特殊健康診断を行っている場合に、リスクアセスメントもしなければいけないのでしょうか。
この3つの関係を説明し、その疑問に答えます。
- 1 ある衛生管理者の方からの質問
- 2 化学物質のリスクアセスメントの目的
- (1)ハザードの切り分け
- (2)慢性毒性:吸入ばく露
- (3)慢性毒性:経皮ばく露
- (4)アクシデントによる急性ばく露
- 3 冒頭の質問への回答
1 ある衛生管理者の方からの質問
執筆日時:
最終改訂:
知り合いの衛生管理者の方からメールでご質問を受けた。かなりの勉強家で、労働衛生コンサルタント試験に挑戦している方である。他にも、同じような悩みを抱えておられる方もおられると思うので、サイトの記事として回答させていただくことにしたい。
【衛生管理者の方からの質問】
有機溶剤を使っているが、社長からリスクアセスメントをするようにと言われた。どうすればよいだろうか。
作業環境測定と特殊健康診断は行っているが、リスクアセスメントもしなければいけないのだろうか
2 化学物質のリスクアセスメントの目的
(1)ハザードの切り分け
このご質問への回答のためには、化学物質のリスクアセスメントのハザードを以下の3通りに切り分けて考えなければならない。すべてのハザードのリスクをアセスメントする手法は、残念ながら存在していないのだ。
- 慢性毒性:吸入ばく露
- 慢性毒性:経皮ばく露
- アクシデントによる急性ばく露
※ なお化学物質の危険性については、今回の健闘の対象とはしていない。
(2)慢性毒性:吸入ばく露
ここでは、「慢性毒性:吸入ばく露」としたが、厳密には気中の蒸気やミストなどによるばく露であり、経皮吸収されるケースも含んだものだと考えて欲しい。
化学物質のリスクアセスメントと言えば、通常はこれを指す場合が多い。実は、このリスクをアセスメントする最も確実な方法のひとつが、作業環境測定なのである。個人ばく露測定もリスクアセスメントとして用いることができる。
当然のことながら、その作業環境測定が適切に実施されているということが前提ではあるが。この質問をされた衛生管理者の事業場は、化学物質のリスクアセスメントのうち、基本的なところはすでにできているのである。
(3)慢性毒性:経皮ばく露
しかしながら、作業環境測定は、気中の化学物質の濃度を測定するものであるから、作業者が有機溶剤に直接触れて経皮ばく露をする場合には無力である。気中の濃度がいくら低くても、直接液体に触って経皮ばく露していたのでは意味がないことは当然であろう。
経皮ばく露のリスク評価については、特殊健康診断の生物学的モニタリングが有効である。なお、生物学的モニタリングは、万能なリスクアセスメント手法で、吸入ばく露、経皮ばく露などばく露の経路を問わずに有効なのである。
ただ、いかんせん対象となる化学物質の種類があまり多くないのである。生物学的モニタリングの指標がなければどうすることもできない。
また、有機溶剤は、ばく露してから測定までの時間が短くないと効果がない。月曜から金曜まで働いている作業者が、月曜の勤務の前に健康診断を受けても、まず、役には立たないのだ。
しかしながら、健康診断を勤務後の適切な時間帯に行っており、かつ指標が存在していれば、慢性毒性については、経皮ばく露を含めてリスクアセスメントはできていることになる。
(4)アクシデントによる急性ばく露
一方、アクシデント(事故)による化学物質の漏洩によって、作業者が急性中毒になるリスクは、まったく別な手法でリスクアセスメントを行わなければならない。シナリオを抽出し、結果の重大性とその災害の発生する可能性からリスクを判定する必要がある。
このリスクアセスメントの手法は、化学物質以外の一般のリスクアセスメントと考え方は同じである。
3 冒頭の質問への回答
従って、冒頭のご質問に対しては、以下のように回答することになろうか。
慢性毒性については、作業環境測定と特殊健康診断(生物学的モニタリング)を行っていれば、リスクアセスメントはできていると考えてよい。しかしながら、作業環境測定と特殊健康診断(生物学的モニタリング)が適切に行われていることが前提である。
また、それは、あくまでも作業環境測定と特殊健康診断の生物学的モニタリングの対象となる物質に限ってのことであり、それ以外の化学物質については別途、リスクアセスメントを行う必要がある。
さらに、アクシデントによる漏洩での急性中毒についてのリスクアセスメントも、別途行うことが望ましい。