特定化学物質障害予防規則では、発がん性のある有機溶剤について特別有機溶剤として規制を行っています。
本稿では、分かりにくいとされる特別有機溶剤について、その範囲についての解説を行っています。
- 1 はじめに
- (1)条文の分かりやすさとは何か
- (2)労働安全衛生法の最近の条文
- (3)本稿の目的
- 2 特別有機溶剤
- (1)まず定義を探してみる
- (2)特別有機溶剤に対する規制
- (3)特定有機溶剤混合物について
- 3 まとめ
1 はじめに
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最終改訂:
(1)条文の分かりやすさとは何か
ア 「分かりやすい」という言葉には2つの意味がある
私が労働省に入省した昭和60年のころは、労働安全衛生法(安衛法)関係の法令といえば、"分かりやすい"法令のひとつだったといってよいと思う。ただ、"分かりやすい"という言葉には2つの意味がある。「読めば日本語として理解できる」という意味と「意味が明確で、誤解の余地がない」という2つの意味である。そして、この2つはしばしば相反するのだ。
ここで私がいう安衛法が"分かりやすかった"というのは、前者の意味である。
イ 言葉は分かるが意味は不明な例?
安衛法以外の一般の法律の中にも、日本語としては分かりやすいが、必ずしも意味が明確ではないという条文がかなりある。例えば、民法第1条第2項は一般条項と呼ばれるが、契約関係について「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」とある(※)。
※ この条文は、安全配慮義務を事業者が履行しなければならないことの根拠となる条文であり、産業保健担当者にとっても重要なものである。
これなどはその典型であろう。日本語としては、読めば意味は分かる。しかし、現実に行われた権利の行使や義務の履行の方法が「信義に従い誠実に行わ」れていたかどうかといわれても、人によって答えは違うであろう。"信義・誠実"が具体的に何を意味するかは、解釈(現実には、判例でどう判断されているか)を見ないと分からないのである。そういう意味では分かりにくいともいえる。
ウ 刑事法は厳格ではなければならないが・・・
刑事法は、民法の一般条項ほどではないものの、古い法律ではやはり解釈の余地の大きなものもある。刑法の殺人罪にいう「人を殺す」という条文はその日本語としての意味は読めば誰にでも判る。
しかし、人は胎児が出産して人になり、やがて亡くなって死体になる。胎児や死体は、刑法の殺人罪の「人」ではない。では、胎児が人になるのはどの時点か、人が死ぬ(人でなくなる=死体になる)のはどの時点かなど、必ずしも明確ではない。厳密なところは条文を見ただけでは分からない。
そこで、条文を「人(母体から一部でも露出した時点から、心拍動の停止(心臓停止による脈拍が停止すること)、独立呼吸停止(息をしないこと)、瞳孔拡大・対光反射停止(瞳孔が開き、目に光を当てても瞳孔が縮まる反応を示さないこと)のすべての兆候が表れるまでをいう。)を殺す」とでもすれば、意味は明確にはなるが日本語としてはきわめて分かりにくくなる。
【ちょっと休憩】
・ 刑事事件における人とは?
胎児を殺害すると堕胎罪になるが人を殺害すれば殺人罪になる。そして、後者の方が罪は重い。ところが、刑法にはどの時点で胎児が人になるかは記されていない。このため、胎児が母親の身体から出かけたところで、これを殺害した場合に、堕胎罪になるのか殺人罪になるのかが、条文を見ただけでは分からないのである。実際に、学説も胎児が人となる時期について、一部露出説、全部露出説、独立呼吸説などに分かれている。なお、判例は刑法については一部露出説をとっているので、この場合は「殺人罪」になる。
また、死体の首を切断したとしても死体損壊罪になるだけだが、仮にその時点でその被害者が生きていれば殺人罪になることもある(※)。そのため、被害者がどの時点で人から死体になった(死亡した)と判断するかが重大な問題となるのである。例えば、ある人物が心拍は停止したが呼吸はまだあるという状況で、他人がこの人物の首を切断したような場合に、死体損壊罪になるのか殺人罪になるのかが問題となる(※)のである。
※ 実際には「犯人」が被害者(又は死体)がどのような状態(死の3兆候がどのように現れているか)だと認識していたかで結論は異なる
・ 民事事件における人とは
死亡の時点がいつかという判断は、民法の世界においても、相続関係において深刻な問題をもたらすことがある。例えば、ある男性に、両親と妻と子供が1人いる場合に、男性と子どもが事故に遭って、病院で死亡したとしよう。法定相続割合で相続するとした場合、男性の方が先に死亡すれば、遺産はすべて妻が相続(二分の一は子供が相続し、さらにその親である男性の妻が相続する)する。ところが、子供が先に死亡すると、両親が三分の一、妻が三分の二を相続することになるのである。
このため、心拍停止は男性の方が早かったが、瞳孔拡大は子供の方が早かったというような場合に、どちらが先に死亡したかがきわめて重大な問題となるのである。
また、子供のいない夫婦で、夫に両親が健在で妻が妊娠している場合に夫が死亡したとしよう。妻の子供が生まれるとき、一部露出したときは生きていたが全部露出したときは死亡していたという場合、この子供が夫(子供にとっては父)の遺産を相続できるかどうか(従って妻(子供にとっては母)がさらに相続できるか)が問題となるのである。なお、この場合についての判例はないが、相続できないとするのが通説である。
エ 特別法の文章作成の傾向
一方、最近の技術的な内容を持つ特別法は、条文を厳密な文章にして、解釈の余地をできるだけ排除しようとする傾向がある。そのため、条文の文章は読みにくく、日本語としては分かりにくいが、内容は比較的明確で解釈の余地が少ないものが多い。
また、最近では、法律が適用されるケースと、適用されないケースをきわめて精緻に分ける傾向がある。そのこと自体はよいことであるが、結果的に条文は複雑になる。
さらに、AというケースとBというケースで同様な規制をかけるという場合に、条文の書き方として、BのケースはAのケースの条文を準用する方法と、双方のケースにそれぞれ同じような文章を書くという方法があるのだが、最近の傾向としては前者が多用されるようになっている。そして、AのケースとBのケースの細かな違いを「この場合において、○○は適用しない」などと書き加えたりする。このため、かなり分かりにくくなっているように思える。
オ 誤読しやすい条文の例
また、"準用"だけならなんとかなるのだが、次のような条文も存在している。
【準用以外の注意すべき例】
第甲条 Aケースの場合は○○○とする。ただし、○○○については○○○とする(以下、第乙条において同じ。)。
・
・
・
第乙条 Bケースの場合は○○○とする。
特別有機溶剤に関する例としては、第甲条が特化則第12条の2、第乙条が第22条第1項、第22条の2第1項、第25条第2項及び第3項、第43条並びに第44四条が挙げられる。第12条の2は"ぼろ等の処理"に関する条文なのだが「特定化学物質」に汚染されたものについて規制をかけているが、この特定化学物質について、「クロロホルム等及びクロロホルム等以外のものであつて別表第一第三十七号に掲げる物を除く。第二十二条第一項、第二十二条の二第一項、第二十五条第二項及び第三項並びに第四十三条において同じ」という括弧書きによる注釈が付いているのである。
このようなケースでは、第乙条と第甲条が離れていると、Bのケースについて調べているときに、第甲条の但書を見落としてしまうことがあるので注意しなければならない。これなどビジネス文書であれば、分かりにくい悪例の際たるものであろうが、法律の条文ではままあることなのである。
この結果、最近の特別法の条文を読んでも何が書いてあるかがすぐには理解できず、ほとんど"解読"といってもよいような作業が必要になってきたのである。
(2)労働安全衛生法の最近の条文
安衛法関係の法令ではどうだろうか。例えば、労働安全衛生法施行令(安衛令)第5条の「法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする」という条文は、日本語の意味としてはよく分かる。「法第十三条第一項の政令で定める規模」も安衛令を見れば書いてある。しかし、「常時」とは何かについては、条文を見ただけでは分からない。従って、この条文は日本語の意味としてはよく分かるが、具体的な内容については分かりにくいともいえる。
ただ、安衛法関係法令の条文は、冒頭にも述べたように、かつては少なくとも"日本語としては"判る法令だったのである。しかし、最近はそうでもなくなってきた。例えば、最近の条文に「危険性又は有害性等を調査」という用語があるが、これは"リスクアセスメント"の意味である。しかし、一般の事業者にそのことがすぐに分かるとは思えない。
これは、法律にはカタカナを使いたがらないという理由によるのだろうと思う。安衛法では、「クレーン」とか「ボイラー」というカタカナの用語が使われているが、実は法律の世界ではきわめて特殊なことなのである。
また、安衛法関係法令も、他の技術的な内容の特別法と同様に、その内容が精緻を極めつつあり、準用規定も多用され、構造が複雑になっている。このため、読んでもすぐには分からない法令になりつつあるようだ。最近のその最たるもののひとつが「特別有機溶剤等」に関する条文であろう。
これは、条文を厳格にし、かつ適用の範囲などをできるだけ適切にしようとしたりした結果ではある。しかし、現場の実務家が条文を見てもすぐには意味が理解できないというのはやはり問題であろう。
(3)本稿の目的
そこで、「法令条文解読シリーズ」として、事業者に関心があると思われる産業保健関係の最近の条文を例に挙げて、法令を読み込むときのコツについて解説しようと思う。その第一回として、今回は「特別有機溶剤等」とその関係用語である「特定有機溶剤混合物」を取り上げよう。
この特別有機溶剤等とは、改正によって、有機溶剤中毒予防規則(有機則)の中の有機溶剤等のうち発がん性が認められたものを特化則に移して、改正前の「エチルベンゼン等」と合わせたものを指す用語である。改正前のエチルベンゼン等とほぼ同様な規制がかけられている。しかし、条文はかなり改正され、内容も微妙に変わっている。
【安衛法の条文解読のコツ その①】
1 〇〇物質等という用語
安衛法関係法令では、化学物質の名称などに「等」を付して、「○○物質等」というと「〇〇物質及び○○物質を含有する製剤その他の物」を意味することがほとんどである。ただし、「クロロホルム等」と「オーラミン等」の2つについては、例外的に、この原則が成り立たないので注意する必要がある。ただし、古い通達(※)などで「クロロホルム等」を「クロロホルム及びクロロホルムをその重量の1%を超えて含有するもの」の意味で用いている例があるので留意する必要がある。
※ 例えば、平成7年9月22日基発第569号(すでに廃止されている)など。
また、「エチルベンゼン等」については、省令改正のために2度も意味が変わってしまった。そのため、文献等を読むときに「エチルベンゼン等」という用語が出てきたら、その文献の執筆された時期によって意味が異なることに留意しなければならない。
2 特別有機溶剤等の「等」とは
さて、ここで、「特別有機溶剤等」の「等」は、原則通りの意味である。
なお、平成18年10月20日付基発第1020003号の中に「化学物質(純物質)及び化学物質を含有する製剤その他の物(混合物)(以下「化学物質等」という。)」という記述がある。実は、これは労働衛生の文献を読み慣れていると特に気にならない文章なのだが、読み慣れていないとかなりその意味に迷う表現である。というのは、ここにいう「純物質」とは、安衛令別表第9等に表示された化学物質のことであり、その中にはガソリンや鉱油のような混合物も含まれているからだ。そして、この通達では別表第9などに表示された物質を含む製剤その他の物を「混合物」と表示しているのである。
【製剤その他の物に廃棄物は含まれるか】
安衛法にいう「製剤その他の物」とは何だろうか。特化則別表第1第34号の2などに「溶接ヒュームを含有する製剤その他の物」という表現があり、同規則第38条の21には、「溶接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業」という言葉が出てくる。溶接ヒュームそのものは廃棄物ではないが、いずれ廃棄されるもので有用性はない。
この点について、厚生労働省に問い合わせたところ、「製剤」には、有用性を失ったものを含むという口頭の回答が得られた。
しかし、「製剤」については、昭和47年09月18日 基発第602号に、「本条の『製剤』とは、その物の有用性を利用できるように物理的に加工された物をいうのであり、利用ずみでその有用性を失つたものはこれに含まれない」とある。なお、ここにいう「本条」とは第55条(製造等の禁止)のことである。この文章は、あくまでも第55条の製剤についてのことであり、他の条文の「製剤」は別だとしていると解釈できないわけではない。またこれはあくまでも「製剤」のことであって「その他の物」は違うという解釈もできないわけではない。
ただ、行政の実務においては、安衛法にいう「製剤その他の物」とは、なんらかの「価値」を含むものに限られると理解されてきた。かつては、産業廃棄物は「製剤その他の物」には該当しないという扱いだったのである。この解釈は変更されたらしい。
なお「含有する製剤」という用語は安衛法の他、毒物及び劇物法取締法(毒劇法)にも使われているが、「製剤」の意味は法律によって意味が異なるので注意しなければならない。なお、毒劇法の製剤の意味についてはQ&Aの1の問3を参照されたい。
2 特別有機溶剤
(1)まず定義を探してみる
さて、特別有機溶剤等とは何だろうか。法律上の用語は、法令中に定義があることが多い。そこで、まず条文の中から定義を探しだしてみよう。なお、これは「有機溶剤」という名称ではあるが、実は特定化学物質であり、その定義は特定化学物質障害予防規則(特化則)の中にあるのだが、それも分かっていないとすれば、どうすればよいだろうか。
法律の中の、ある用語の定義の探し方は、次のようにする。
【法令中の用語の定義の探し方】(「特別有機溶剤等」の例)
- ① まず、政府のe-GOV法令検索を用いて、「全文」のラジオボタンをチェックして「特別有機溶剤等」で全文検索してみる。すると、「労働安全衛生規則」「特定化学物質障害予防規則」「家内労働法施行規則」「労働者災害補償保険法施行規則」の4つの省令がヒットする。
- ② そこで、その中で最も関係のありそうなもの=この場合は特化則=の全文を表示する。表示するには、ヒットした法令名の左側の「選択」ボタンをクリックすればよい。
- ③ そして、ブラウザの機能の「ページ内の検索」を用いて「特別有機溶剤等」で検索すると、その法令で最初にその言葉が出てくるところに定義がある(※)。この場合は、第2条第1項第3の3号である。
※ この方法は、「特別有機溶剤等」に限らず、ほとんどの法令用語で定義を知りたいときに使える。もしこの方法でうまくいかないようなら、そもそも法令の中に定義がないのかもしれない。
【安衛法の条文解読のコツ その②(誤解してはならないこと)】
"特別有機溶剤"と"有機溶剤"という2つの言葉を聞くと、前者は後者に含まれるような気がするが、この2つには包含関係はないので、誤解しないようにして頂きたい。
もちろん、この双方を含有する物質(混合物)はある。特別有機溶剤を含有するもの(の一部)を特別有機溶剤等といい、有機溶剤を重量濃度で5%を超えて含むものを有機溶剤等というが、特別有機溶剤等と有機溶剤等は一部が重なり合っている。すなわち、特別有機溶剤等でもあり、有機溶剤等でもある物質(混合物)も存在している。
ここを整理しておかないと、ここから先の話は、まったく分からなくなるので留意して頂きたい。
さて、見つかった第2条第1項第3の3号の定義の部分を、分かりやすいように箇条書きにすると、
【特別有機溶剤等の定義 Ⅰ】
特別有機溶剤等とは、以下の①及び②をいう。
- ① 特別有機溶剤
- ② 別表第一第三号の三、第十一号の二、第十八号の二から第十八号の四まで、第十九号の二、第十九号の三、第二十二号の二から第二十二号の五まで、第三十三号の二及び第三十七号に掲げる物
となる。次に、この条文をさらに分かりやすいように修文してゆこう。
まず、①の「特別有機溶剤」とは何かを調べなければならない。これも先ほどと同じように、ブラウザの機能の「ページ内の検索」を用いて「特別有機溶剤」でページ内検索をしてみよう。最初に出てくるのは、さきほどのすぐ前だが、特化則第2条第1項第3の2号である。定義は、
【特別有機溶剤等の定義】
- ① 特別有機溶剤:第二類物質のうち、令別表第三第二号3の3、11の2、18の2から18の4まで、19の2、19の3、22の2から22の5まで及び33の2に掲げる物
となっている。"令"とは安衛令(※)のことである。そこで、安衛令別表第三の第2号から、たんねんにひろって表にしてみよう。条文を読み込むときには、こういった作業を行うことで、かえって理解をするための時間が短縮できるのである。
※ 先述した方法でe-GOV法令検索の特化則をブラウザで全文表示し、ブラウザの機能の「ページ内検索」で「令」という用語で検索すると、最初に「令」という用語が出てくるところに書かれている。
号番号 | 物 質 |
---|---|
3の3 | エチルベンゼン |
11の2 | クロロホルム |
18の2 | 四塩化炭素 |
18の3 | 一・四―ジオキサン |
18の4 | 一・二―ジクロロエタン(別名二塩化エチレン) |
19の2 | 一・二―ジクロロプロパン |
19の3 | ジクロロメタン(別名二塩化メチレン) |
22の2 | スチレン |
22の3 | 一・一・二・二―テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン) |
22の4 | テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン) |
22の5 | トリクロロエチレン |
33の2 | メチルイソブチルケトン |
次に【特別有機溶剤等の定義 Ⅰ】の②に戻ろう。②の「別表第一」とあるのは特化則の別表第1のことである。これもたんねんに表にしてみよう。
号番号 | 本 文 | 但 書 |
---|---|---|
3の3 | エチルベンゼンを含有する製剤その他の物。 | ただし、エチルベンゼンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
11の2 | クロロホルムを含有する製剤その他の物。 | ただし、クロロホルムの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
18の2 | 四塩化炭素を含有する製剤その他の物。 | ただし、四塩化炭素の含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
18の3 | 一・四―ジオキサンを含有する製剤その他の物。 | ただし、一・四―ジオキサンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
18の4 | 一・二―ジクロロエタンを含有する製剤その他の物。 | ただし、一・二―ジクロロエタンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
19の2 | 一・二―ジクロロプロパンを含有する製剤その他の物。 | ただし、一・二―ジクロロプロパンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
19の3 | ジクロロメタンを含有する製剤その他の物。 | ただし、ジクロロメタンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
22の2 | スチレンを含有する製剤その他の物。 | ただし、スチレンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
22の3 | 一・一・二・二―テトラクロロエタンを含有する製剤その他の物。 | ただし、一・一・二・二―テトラクロロエタンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
22の4 | テトラクロロエチレンを含有する製剤その他の物。 | ただし、テトラクロロエチレンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
22の5 | トリクロロエチレンを含有する製剤その他の物。 | ただし、トリクロロエチレンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
33の2 | メチルイソブチルケトンを含有する製剤その他の物。 | ただし、メチルイソブチルケトンの含有量が重量の一パーセント以下のものを除く。 |
37 | エチルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、一・四―ジオキサン、一・二―ジクロロエタン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、スチレン、一・一・二・二―テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、メチルイソブチルケトン又は有機溶剤を含有する製剤その他の物。 |
ただし、次に掲げるものを除く。
|
さて、このように表にして2つの表を比較してみると、後の表の37号以外は、①の特別有機溶剤を含有する製剤その他の物(重量濃度1%以下のものを除く)であることが分かる。特化則は、個別の物質について原則として重量濃度1%(※)を超える物を規制している。そこで、ここでもその例によって1%以上の物を規制するためにこのような規定をおいたのである。
※ コールタール、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、パラニトロクロルベンゼン及び弗化水素は5%。
さて、ここまでで、特別有機溶剤及びこれらを単独で重量濃度1%を超えて含有する製剤その他の物は特別有機溶剤等に該当することが分かった。
【特別有機溶剤等の定義 Ⅱ】
特別有機溶剤等とは、以下の①及び②をいう。
① 純物質(特別有機溶剤)
エチルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、一・四―ジオキサン、一・二―ジクロロエタン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、スチレン、一・一・二・二―テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、メチルイソブチルケトン
② 混合物(特別有機溶剤等の「等」の部分)
- ⅰ ①のいずれかの物質を、単独で重量濃度1%を超えて含有する製剤その他の物
- ⅱ 特化則別表第1第37号のもの
問題は「特化則別表第1第37号のもの」である。その本文は「①の特別有機溶剤又は有機溶剤を含むもの」で、そこから但書でイ、ロ及びハの3つを除いている。
まず、この「有機溶剤」とは何かを調べなければならない。ここでも特化則をブラウザで表示して「有機溶剤」で検索してみよう。特化則の中で「特別有機溶剤」とか「有機溶剤業務」ではなく、単独の「有機溶剤」が最初に出てくるところを探してみる。そうすると、第25条第5項第2号に次の記述が見つかるだろう。
【特化則第25条第5項第2号】
二 特別有機溶剤又は令別表第六の二に掲げる有機溶剤(第三十六条の五及び別表第一第三十七号において単に「有機溶剤」という。)の蒸気を屋外に排出する設備
ここに、別表第1第37号の「有機溶剤」とは、「令別表第六の二に掲げる有機溶剤」だと書いてある。この「令」とは先ほども述べたように安衛令のことである。そこで安衛令別表第6の2をみてみよう。そうすると別表第1第37号の「有機溶剤」とは、有機則にいう第1種から第3種までの有機溶剤のことであると分かるだろう(有機則第3条参照)。
従って、別表第1第37号の本文の記述には、12種類の特別有機溶剤又は有機則の有機溶剤(第1種、第2種及び第3種)のいずれかを、微量でも含んでいる物質はすべて該当することになる。しかし、37号で実際に重要なのは、但書の方である。
そこで、次に本文から除かれるもの(但書)の方を順にみていこう。まず、イであるが、これは法律的な整理のためのものである。要は、イに掲げられている物は「特別有機溶剤等の定義 Ⅱ」の②のⅰと同じものである。②のⅰですでに定めているので、37号からは除くという、たんに重複を避けるための記述なのでそれほど気にしなくてもよい。
次にロである。12種類の特別有機溶剤又は有機則の有機溶剤(第1種、第2種及び第3種)が5%以下の物を除いている。要するに、国としては、特別有機溶剤も性質としては有機溶剤なので、有機則で有機溶剤と同様な規制をかけたいわけである。そして、有機則では、有機溶剤が5%を超える物を規制しているので、ここでも特別有機溶剤と有機溶剤を合わせて5%以下の物を除いたというわけである。
なお、括弧書きで「イに掲げるものを除く」としているのは、イの記述で本文から除外しているものを、わざわざロで重ねて除外する必要もないので、ロから除いただけのことである。理系の素養があって、かつ、法律の条文を読み慣れていないと、なぜわざわざこのような括弧書きを付すのかが分からないかもしれない。このような括弧書きがなくても、論理学的には問題はないからである。しかし、法律では規定の重複を嫌うのである。この場合も記述の重複を避けただけなのだが、文章の構造が複雑になっているので、頭が痛くなりそうである。しかし、落ち着いて考えればさして難しくはない。
さて、最後のハの「有機則第一条第一項第二号に規定する有機溶剤含有物(イに掲げるものを除く。)」であるが、ここでも括弧書きの趣旨はロの場合と同様なので、あまり気にしなくてよい。「有機則第一条第一項第二号に規定する有機溶剤含有物」の方は有機則に書かれている。有機則によれば、次のようになっている。
【有機則第1条第1項第2号】
二 有機溶剤等 有機溶剤又は有機溶剤含有物(有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤を当該混合物の重量の五パーセントを超えて含有するものをいう。第六号において同じ。)をいう。
そして、ここにいう「有機溶剤」も有機則の中で定義を探してみると、「安衛令別表第六の二に掲げる有機溶剤」であると分かる。これは先ほど出てきたが、第1種から第3種までの有機溶剤である。特別有機溶剤として、特別有機溶剤の含まれていない物を規制するわけにはいかないので、ハで除外しているわけである。もし、ハの記述がなければ、特別有機溶剤を含まないただの有機溶剤等が特別有機溶剤等に含まれてしまうからである。
ここまで調べたことで特別有機溶剤の定義を修正してみよう。
【特別有機溶剤等の定義 Ⅲ】
特別有機溶剤等とは、以下の①及び②をいう。
① 純物質(特別有機溶剤)
エチルベンゼン、クロロホルム、四塩化炭素、一・四―ジオキサン、一・二―ジクロロエタン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、スチレン、一・一・二・二―テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、メチルイソブチルケトン
② 混合物(特別有機溶剤等の「等」の部分)
- ⅰ ①を、単独で重量濃度1%を超えて含有する製剤その他の物
- ⅱ ⅰ以外のものであって、①及び有機溶剤を重量濃度で5%を超えて含有する製剤その他の物(有機溶剤等を除く)。
文章では、分かりにくいのでこれを図示したものが次図である。物質はなんでもよいのだが、メチルイソブチルケトンを例にとって表示している。
メチルイソブチルケトンが1%以上含まれている範囲(別表第1第33号の2で規定している部分=緑色の点線で囲まれた長方形)と、下方に三角形で突き出している部分(同37号で規定している部分=紫色の点線で囲まれた三角形)を合わせたもの(赤い点線で囲んだ部分)が特別有機溶剤の範囲である。
この図を見れば判るように、例えばメチルイソブチルケトンが0.5%含まれている物質では、有機溶剤(第1種、第2種、第3種)が、4.5%を超え5.0%以下の範囲で含まれていると、特別有機溶剤等ということになる。有機溶剤の濃度が5.0%を超えると、かえって特別有機溶剤としての規制がかからなくなるというのは、おかしいという気がするかもしれないが、有機溶剤を5%を超えて含有しているものは、いずれにせよ有機溶剤としての規制がかかるのであまり大きな問題はないと思う。具体的には次のコラムを参照してほしい。
【コラム:特別有機溶剤の逆転現象の問題】
ただし、以下の場合には問題となる。もっとも、(2)については実務上はあまり問題になることはないのではないかと思う。
- (1)特化則で37号のものについて規制をかけているが、有機則にはそのような規制がない場合。2017年1月1日に施行された特化則の改正で、①洗浄設備に係る特化則第38条各項、及び、②特化則第44条及び第45条に37号の規制がかかったことから、この問題が発生している。
- (2)有機溶剤単独では適用除外が受けられるが、特別有機溶剤を含めると適用除外が受けられないというような場合
(2)特別有機溶剤に対する規制
ア 特定化学物質としての規制は1%を超える場合
さて、せっかく、かなり複雑な記述で特別有機溶剤の定義を定めてはいるのだが、実は、本来であれば特化則で規制をかけたいのは、それぞれの特定化学物質を重量濃度の1%を超えて含有する製剤その他の物である(※1)。下に突き出した三角形の部分(特化則別表第1第37号で規定している部分)は特化則では、本来はお呼びではないのである(※2)。
※1 前の図でいえば、緑色の点線で囲んだ長方形の部分である。
※2 先述したが、2017年1月1日に施行された特化則の改正で、①洗浄設備に係る特化則第38条各項、及び、②特化則第44条及び第45条に37号の規制がかかった
そんなわけで、特化則の中の特別有機溶剤関連の規定には「別表第一第三十七号に掲げる物を除く」という記述が数カ所出てくるわけである。
イ 有機溶剤でもあるので、合わせて5%を超えれば有機則を準用
一方、特別有機溶剤は、有機溶剤でもあるから、有機則の規制もかけたい。そこで、有機則を準用して規制をかけることとしたい。ところが、有機則を準用するときは、特別有機溶剤と有機溶剤を合わせて重量濃度の5%を超えて含有するものだけを規制したいのである。
というのは、有機溶剤の有害性は似たようなものということもあり、第1種から第3種にグループ分けはしているが、個々の有機溶剤を問題にするのではなく、さまざまな有機溶剤を合わせて5%を超えるものを問題にしているからである。
このため、有機則を準用する条文は、個別物質が1%を超えて含有されていても全体として5%以下だというものは除外しなければならない。こちらの方は、有機則が定義の中で5%以下の物を除いているので、有機則を準用するときに、有機則の定義の部分を含めて準用するという方法で対応している。
なお、安全衛生規則(安衛則)の中にも、「有機溶剤」に関する規定がかなりある。ところが、有機則の中の有機溶剤を特別有機溶剤に移したとき、そのままにすると、安衛則中の有機溶剤の規定が特別有機溶剤に適用されなくなってしまう。そこで、安衛則の条文を改正して規定がかかるようにしてある。
ウ 有機則のうち特別有機溶剤に準用される条文
特化則で有機則を準用しているのは、第38条の8(作業環境測定と作業環境測定)、第36条の5(作業環境測定)、第41条の2(作業環境測定)である。これをまとめたものが次図である。この図で青く塗られた部分が準用のある部分である。
なお、有機則の第3条1項の適用除外の定めは、特別有機溶剤等についてもすべて適用がある。
エ 有機則の適用除外の規定も律儀に準用
なお、特化則の第2条の2で、特化則の規定は特別有機溶剤業務以外の業務には特化則は適用しないといっているが、有機則を準用している38条の8なども特化則の規定であるから、特別有機溶剤業務以外の業務には有機則も準用されることはないことになる。
有機則では、①物質、②場所、③業務、④消費量のそれぞれについて適用される"場合"を定めている。そして、①から④のいずれかひとつでも、定められた"場合"を外れると有機則は適用されない。このことは、特化則で準用される場合も同じだと思ってよい。ただ、①の物質、②の場所と③の業務は特化則の側で定めており(従って特化則の規定もこの2つの場合に該当しなければ適用されない)、④の消費量は有機則を準用する形で定めている。
【適用の範囲を定める条文】
- ① 物 質:特化則第2条第1項第3号の2 及び 第3号の3
- ② 場 所:特化則第2条の2第1号(イ、ロ及びハのすべてに「屋内作業場等」において行うものに限っている)
- ③ 業 務:特化則第2条の2第1号
- ④ 消費量:有機則第2条
また、適用を除外する規定(先述した第3条など)も、有機則は特化則よりも多いが、これらの有機則の適用除外の規定も、特化則で特別有機溶剤が準用される場合についても同様に適用される。
オ 有機則のうち準用されていない条文
ここで、有機則の規定のうち準用されていない条文がいくつかあるが、以下のように実質的にすべて有機則の規定と同様な規制がかかっている。なお、作業主任者については、特化則第27条により、「特別有機溶剤業務に係る作業にあつては、有機溶剤作業主任者技能講習)を修了した者のうちから、特定化学物質作業主任者を選任しなければならない」とされている。
従って、特別有機溶剤と有機溶剤の双方を用いるという場合には、作業主任者として「有機溶剤作業主任者」と「特定化学物質作業主任者」の2種類の作業主任者を選任しなければならない場合があるが、同一人物であってもかまわない(※)。
※ だめだという根拠がない。
【特別有機溶剤等で有機則が準用されていない条文の対応状況】
- 19条/19条の2/第9章は、作業主任者に関するものであり、特化則側で(1%以下のものを含めて)対応している。
- 18条1項/29条1項は実質的に特化則の他の条文で対応している。また、3項/4項は内容から準用する意味がない。
- 30条の4(緊急診断)は特化則の側(42条2項の新設)で対応している。
- 第8章は、特化則25条にほぼ同様の条文があり、準用する必要性が低い。
また、有機則を準用するに当たっては、本来、第1種有機溶剤とされるべきものは第1種、第2種有機溶剤とされるべきものは第2種として準用されるのである(特化則第38条の8参照)。
第1種有機溶剤として準用 | クロロホルム、四塩化炭素、一・二―ジクロロエタン(別名二塩化エチレン)、一・一・二・二―テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン)、トリクロロエチレン |
第2種有機溶剤として準用 | エチルベンゼン、一・四―ジオキサン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)、スチレン、テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン)、メチルイソブチルケトン |
(3)特定有機溶剤混合物について
ア 特定有機溶剤混合物の定義
さて、先ほど作業環境測定と特殊健康診断健診は、特化則の第36条の5と第41条の2で準用していると説明した。これらの条文では、「特別有機溶剤等」という言葉ではなく、「特定有機溶剤混合物」という新たな用語を定義して有機則を準用している。そこで、特定有機溶剤混合物とは何かについて、みてみよう。
特定有機溶剤混合物の定義は次のようになっている。
【特定有機溶剤混合物の定義 Ⅰ】
特別有機溶剤又は有機溶剤を含有する製剤その他の物(特別有機溶剤又は有機溶剤の含有量(これらの物を二以上含む場合にあつては、それらの含有量の合計)が重量の五パーセント以下のもの及び有機則第一条第一項第二号に規定する有機溶剤含有物(特別有機溶剤を含有するものを除く。)を除く。第四十一条の二において「特定有機溶剤混合物」という。)
かなり分かりにくいので、分かりやすくするために、文章を整理して、さらに箇条書きにしてみよう
【特定有機溶剤混合物の定義 Ⅱ】
以下の①をいう。ただし、②を除く。
- ① 以下の物を重量濃度で5%を超えて含有する製剤その他の物
- 特別有機溶剤
- 有機溶剤(第1種、第2種、第3種)
- ② 有機則第一条第一項第二号に規定する有機溶剤含有物(特別有機溶剤を含有するものを除く。)
となる。特別有機溶剤はもう分かるであろう。有機溶剤についても先ほどみたように、第1種から第3種の有機溶剤である。従って、①は、これらを重量濃度で5%を超えて含有しているものをいうわけである。
②で除いている物はなんだろうか。これは有機溶剤しか含有しておらず、特別有機溶剤を含有していない物である。①のままでは、有機溶剤しか含有していないものが特定有機溶剤混合物に含まれてしまうために、それを除いたわけである。
ただ、論理的に考えれば、「特別有機溶剤を含まない物を除く」と書いても同じことであろう。なぜ、このような複雑な書き方をしたのかはよく分からない。
ちなみに、有機則第一条第一項第二号に規定する有機溶剤含有物とは、「有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で、有機溶剤を当該混合物の重量の五パーセントを超えて含有するもの」である。これをそのまま除いたのでは、有機溶剤混合物の中には特別有機溶剤が含まれているものもあるので、わざわざそれを「除くものから除いた」(※)のである。
※ ややこしいが、除かないのである。
従って、さらに分かりやすくすると、次のようになる。
【特定有機溶剤混合物の定義 Ⅲ】
- ① 以下の物を重量濃度で5%を超えて含有する製剤その他の物
- 特別有機溶剤
- 有機溶剤(第1種、第2種)(※)
- ② ただし、特別有機溶剤を含まないものを除く。
※ 行政の実務では、作業環境測定については、第1種と第2種だけで5%を超える場合のみ適用する扱いとなっている。確かに、条文だけを読むと、特別有機溶剤と第1種、第2種、第3種をあわせて重量濃度比5%を超える物質について、その中の特別有機溶剤と第1種、第2種について測定しなければならないと解釈されるのだが、そもそも第3種は測定とは無関係なので、このように扱うのである。
ここには、特別有機溶剤の定義でみた、特化則別表1第37号のような複雑な規定はない(※)。
※ 特別有機溶剤を、有機則から特化則に移す改正の前の「エチルベンゼン等」に関する条文に比較するとかなり分かりやすくなっている。
イ 特定有機溶剤混合物への規制
さて、特化則36条の5は有機則の第二十八条(第一項を除く。)から第二十八条の四までの規定を準用するといっている。なお、「第三十八条の八において準用する有機則第三条第一項の場合における同項の業務を行う作業場を除く」といっているのは、ここでも有機則第3条第1項の適用除外の規定も準用されるということである。
ここでは、有機則の第28条についてだけ条文の解読法を解説するので、他の条文は各自で確認してほしい。有機則の第28条(第1項を除く)は次のようになっている。それほど複雑なものではない。
【有機溶剤障害予防規則】
(測定)
第28条 (略)
2 事業者は、前項の業務を行う屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、当該有機溶剤の濃度を測定しなければならない。
3 事業者は、前項の規定により測定を行なつたときは、そのつど次の事項を記録して、これを三年間保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に基づいて当該有機溶剤による労働者の健康障害の予防措置を講じたときは、当該措置の概要
要は、特定有機溶剤混合物についても、この有機則の作業環境測定の規定は準用するということである。
これを、特化則の第36条の5の読み替え規定で読み替えてみよう。要はこの条文で指定された条文の場所の読み替え前の文書を読み替え後の文書で置き換えればよいわけである。
読み替える所 | 読み替え前 | 読み替え後 |
---|---|---|
第二十八条第二項 | 当該有機溶剤の濃度 | 特定有機溶剤混合物(特定化学物質障害予防規則(昭和四十七年労働省令第三十九号)第三十六条の五に規定する特定有機溶剤混合物をいう。以下同じ。)に含有される同令第二条第三号の二に規定する特別有機溶剤(以下「特別有機溶剤」という。)又は令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤の濃度(特定有機溶剤混合物が令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤を含有する場合にあつては、特別有機溶剤及び当該有機溶剤の濃度。第二十八条の三第二項において同じ。) |
同条第三項第七号及び第二十八条の三第二項 | 有機溶剤 | 特定有機溶剤混合物に含有される特別有機溶剤又は令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤 |
すると、次のようになる。
【読み替え後の有機則第28条】
(測定)
第28条 (略)
2 事業者は、前項の業務を行う屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、特定有機溶剤混合物(特定化学物質障害予防規則(昭和四十七年労働省令第三十九号)第三十六条の五に規定する特定有機溶剤混合物をいう。以下同じ。)に含有される同令第二条第三号の二に規定する特別有機溶剤(以下「特別有機溶剤」という。)又は令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤の濃度(特定有機溶剤混合物が令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤を含有する場合にあつては、特別有機溶剤及び当該有機溶剤の濃度。第二十八条の三第二項において同じ。)を測定しなければならない。
3 事業者は、前項の規定により測定を行なつたときは、そのつど次の事項を記録して、これを三年間保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に基づいて当該特定有機溶剤混合物に含有される特別有機溶剤又は令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤による労働者の健康障害の予防措置を講じたときは、当該措置の概要
ここで、条文がかなり複雑なので、とりあえず条文中から括弧書きを取り払ってみよう。そうするとかなり見やすくなる。また、ここではしないが、修飾語を取り去っても見やすくなる。
【安衛法の条文解読のコツ その③】
条文で長いものは、とりあえず括弧書きや修飾語を取り除いて、括弧書きなどがない文章の意味を理解してから、括弧書きや修飾語の内容を理解しよう。
【読み替え後の有機則第28条から括弧書きを取り去ると】
(測定)
第28条 (略)
2 事業者は、前項の業務を行う屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、特定有機溶剤混合物に含有される同令第二条第三号の二に規定する特別有機溶剤又は令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤の濃度を測定しなければならない。
3 事業者は、前項の規定により測定を行なつたときは、そのつど次の事項を記録して、これを三年間保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に基づいて当該特定有機溶剤混合物に含有される特別有機溶剤又は令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤による労働者の健康障害の予防措置を講じたときは、当該措置の概要
ここで、「同令第二条第三号の二に規定する特別有機溶剤」は、特化則の定義を指しているのでたんに「特別有機溶剤」としてもよいだろう。なお、「同令」とは特化則のことである。
また、「令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤」は、「第1種及び第2種有機溶剤」とすればよいだろう。
【読み替え後の有機則第28条をさらに整理すると】
(測定)
第28条 (略)
2 事業者は、前項の業務を行う屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、特定有機溶剤混合物に含有される特別有機溶剤又は第1種有機溶剤若しくは第2種有機溶剤の濃度を測定しなければならない。
3 事業者は、前項の規定により測定を行なつたときは、そのつど次の事項を記録して、これを三年間保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に基づいて当該特定有機溶剤混合物に含有される特別有機溶剤又は第1種有機溶剤若しくは第2種有機溶剤による労働者の健康障害の予防措置を講じたときは、当該措置の概要
これで、かなりわかりやすくなった。要するに、特定有機溶剤混合物を製造し、取り扱う場合については、特別有機溶剤と、第1種及び第2種の有機溶剤の作業環境測定をしなければならないということである。
最後に、先ほど外した2つの括弧書きについて検討しよう。前の括弧書きは定義の部分であるから特に気にする必要はない。また、後の括弧書きは、特定有機溶剤に特別有機溶剤と有機溶剤(第1種、第2種)の双方が含まれる場合は、特別有機溶剤と有機溶剤の双方について測定しなければならないとするものである。
これについても、文章だけでは分かりにくいので図示してみたのが次図である。
作業環境測定は、特化則でも義務づけられており、さらに有機則を準用しているが、特化則の場合と有機則では保存すべき期間が異なり、さらに有機則の場合は混合物としての評価が必要になる。
なお、混合物としての評価とは、個々の化学物質ごとに気中濃度を測定して、それぞれ単独に管理濃度と比較するのではなく、それぞれの影響を足し合わせて評価しようというとである。具体的には、次のようになる。
【混合物としての評価とは】
作業環境評価基準には次のような記述がある。
4 労働安全衛生法施行令別表第六の二第一号から第四十七号までに掲げる有機溶剤(特定化学物質障害予防規則(昭和四十七年労働省令第三十九号)第三十六条の五において準用する有機溶剤中毒予防規則(昭和四十七年労働省令第三十六号)第二十八条の二第一項の規定による作業環境測定の結果の評価にあつては、特定化学物質障害予防規則第二条第一項第三号の二に規定する特別有機溶剤を含む。以下この項において同じ。)を二種類以上含有する混合物に係る単位作業場所にあっては、測定点ごとに、次の式により計算して得た換算値を当該測定点における測定値とみなして、第一項の区分を行うものとする。
この場合において、管理濃度に相当する値は、一とするものとする。
C= | C1 | + | C2 | ・・・ |
E1 | E2 |
※ この式において、C、C1、C2・・・及びE1、E2・・・は、それぞれ次の値を表すものとする。
C 換算値
C1、C2・・・有機溶剤の種類ごとの測定値
E1、E2・・・有機溶剤の種類ごとの管理濃度
なお、特定有機溶剤混合物は、特殊健康診断を準用する条文でも適用されるが、同様に理解すればよい。
3 まとめ
ここまでに見たように、かなり複雑に見える条文も、整理してみるとかなり分かりやすくなる。法改正の際に行政から出されるパンフレットも参考になるが、やはり条文を直接読まなければならないこともあろう。本稿をひとつの参考にして頂ければと思う。
特別有機溶剤の規定は、かなり複雑ではあるが、実は、有機則の規定と特化則の規定が重畳的に適用されると考えればよいわけである。もちろん、作業環境測定については同じ物質の濃度を2回測定する必要はない。
ただ、今回の条文は、離れたところの条文や、附則の中に例外規定があったりはしないので、まだわかりやすい部類だといってよい。
なお、法令の細かな改正は、他の大きな改正の機会に合わせて、とくに断らずに行われることもある。できるだけ、必要の都度、最新の条文を参照するようにした方がよい。
なお、法令の解釈については、実際には、通達を合わせて読まないと、実務では役に立たないこともあることを最後に付記しておく。