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化学物質RAの目的と考え方の基本

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一定の化学物質には、安衛法によってリスクアセスメントが義務付けられています。しかし、その普及は遅々として進まない状況にあります。

その理由のひとつとして、化学物質リスクアセスメントの目的や考え方についてかなりの誤解があることが挙げられます。

本稿では、化学物質リスクアセスメントの目的と考え方の基本について分かりやすく解説します。



1 いったい何をやればよいのか

執筆日時:

最終改訂:


(1)専門家の不安

2016年6月に、一定の化学物質について、労働災害防止のためのリスクアセスメントが、労働安全衛生法(安衛法)によって義務付けられた。しかしながら、最新の調査でも、必ずしもリスクアセスメントが定着しているとは言い難い状況にある。この理由については多くの専門家が次のようなことを指摘している。

【化学物質のリスクアセスメントが進まない理由】

  • 1 中小規模事業場を中心に、化学物質管理に関する知識を有する職員が不足している。
  • 2 日本国内に、化学物質のリスクアセスメントについてコンサルティングができる(企業外の)専門家が不足している。
  • 3 そもそもリスクアセスメントとは何かについての正しい知識が普及していない。

実際のところは、1については中堅企業でさえやや不安があり、2についても大都市圏を別にすれば「事実上存在していない」といってもよいほど不足している。

3については、最近では正しい知識の普及がかなり進んではきたものの、いまだに「法律違反にならないためのリスクアセスメントの『公的』な手法」を追い求めていると思われる事業者が少なくないことも事実なのである。ただ、誤解を避けるために言っておくが、多くの場合、そのような事業者は「コンプライアンス」を重視する「まじめな」事業者なのだ。


(2)リスクアセスメントって何? 何のためにやるの?

では、リスクアセスメントとはいったいなんだろうか。どうもリスクアセスメントという言葉は、「みんなが知っているが、実は具体的には何なのかは明確には分かっていない」用語の典型である。もっといえば、明確な定義はあるが、やや現実と乖離しているため、誰もその定義について気にしていない用語といってもよい。こんな言葉を使うから、一般の事業者は、何をしてよいかわからず普及が進まないという面も否定できないだろう。

考えてみれば、目的は労働災害の防止なのである。であれば、要は「あぶない」化学物質を使用しているときに、それによって発生する恐れのある労働災害を防止できれば、それでよいではないかという疑問があり得る。なぜ、わざわざリスクアセスメントなどという、なんだかよく分からないことをしなければならないのだ?

つまり、なぜ、リスクをアセスメント(評価)しなければならないのかという疑問だ。

【リスクアセスメントは本当に必要?】

  • 「工業的に用いる化学物質を吸入すれば病気になるかもしれない」とは誰にでも予測がつくことだろう。だったら、局所排気装置を設置するか、(適切な)保護具を用いて吸入しないようにするべきだ。
  • また、「化学物質が肌につけば、危なそうだ」という漠然とした不安も誰でも抱くだろう。だとすれば、それ以上は何も考えなくても、(適切な)化学防護手袋などを着用するべきだ。
  • ほとんどの化学物質について、上記の2点を守れば、労働災害を防止できるだろう。なぜ、わざわざリスクを「評価」する必要があるのだ?

これに対して、リスクアセスメントをしなければ、新しいタイプの労働災害が防止できないではないか、という反論があるかもしれない。だが、そもそもその質問の前提が正しいのだろうか?

【リスクアセスメントは事前予防措置って本当?】

  • リスクアセスメントをすると、それまで予想できなかった労働災害が予想できるようになるのだろうか?だとしたら、リスクアセスメントは魔法の杖だが、そんなことができるとは思えない。
  • そもそも、それ以前の問題として、予測もできないような労働災害が、現実の職場で、いったいどれだけ起こっているというのだ。ごく一部の大規模災害を除けば、ほとんどの災害は、起こるべくして起こっているのである。

であれば、リスクをアセスメントするなどという「難しいこと」をしなくても、起こるべくして起こるような災害をきちんと予見して、適切な対策をとればよいことではないか。SDSを見れば、(さして親切な書き方ではないにせよ)どのように取り扱うべきかが書いてあるのだ。

しかし、とりあえず、このような疑問への回答は、とりあえず後に回そう。


(3)安衛法改正までリスク評価をしてこなかったのか?

我が国は、昨日や今日になって「化学物質」を使い始めた新興国ではない。長年、化学物質を労働者に扱わせておきながら、それによって職業性疾病の発生や爆発・火災のおそれがあるのではないか、自分の会社のやりかたで事故が起きないのだろうかと、事業者が何も考えてこなかったとでもいうのだろうか。

多くの=つまり全部だということではないが=事業者は、現に考えていたはずである。であれば、そのこと自体がリスクアセスメントになると考えればよいのではないかという疑問が起きるのではなかろうか。

それとも考えてはいたが、それらは非科学的で合理性のないものだったとでもいうのだろうか。しかし、多くの事業者がそのようなことしかしていなかったなどということは、ありそうにない。

では、なぜリスクアセスメントを義務付ける法律改正がこれほどまでに、専門家や事業者を不安がらせるのだろうか。本稿では、そこのところを切り下げて考えてみたい。


2 リスクアセスメントの出発点

(1)化学物質の専門家がいないのはしょうがないこと?

【安全担当者からよく聞く声】

化学物質のことはよく分からない。SDSを見ても何が書いてあるのかまったく判らない。

これは、少なくない事業場の安全衛生担当者からよく聞く言葉である。確かに、大学で化学か薬学を専攻でもしていない限り、よく分からないのは仕方がないことだともいえる。

しかしである。職場で化学物質を安全に扱うための知識と、「化学の知識」はそれほど重なり合わない。そもそも労働者に命じて化学物質を扱わせる以上、事故が起きる可能性は否定できない。そして、いったん事故が起きれば、その化学物質にどんな危険有害性があるか、まったく何も知りませんでしたではすまないのである。とりわけ製造元からSDSが渡されていた場合、そこに一定の危険有害性があることが記述されていれば(いるだろうが)、事業者にSDSの内容が全く理解できなかったからといって、免責されたりはしないのである。

化学のことがよく分からないからといって、化学物質を安全に取り扱う方法まで分かりませんでしたということはできないのである。

とりわけ、重大な労働災害が発生すれば、企業の損失もまた重大となる。昔と違って、労働者も労災補償だけでは納得しなくなっている。それはすべての損害を補償するものではないからだ。場合によっては企業の存続を揺るがすほどの賠償請求をされることがある。その訴訟のコストだけでもかなりのものになるのだ。

また、かつては化学物質による労働災害の発生によって事業者が刑事上の責任を問われるのは、ほとんどの場合、安衛法違反に限られていたが、SDSの普及により事業者の過失が問われやすくなれば、業務上過失致死傷による立件が増えることもあり得ないことではなくなる。SDSによって、容易にその危険有害性を知り得たにもかかわらず、事故を起こしたことによって、過失が問われやすくなるからだ。

また、最近ではWEBを通して、企業の悪い情報が拡散することによる損害もある。今でも、学生が就職をするにあたって、希望先の企業をSNSによって調べることは常識になっているが、今後、重要な取引をしようとする企業もその相手先の企業についてWEBで調べるのが普通になる時代がくるかもしれない。複数の企業のいずれかと取引をしようというときに、化学物質の知識もなくていつ事故を起こすかわからないような企業を選ぶことには、誰でも躊躇をするだろう。

すなわち、一定の危険・有害性のある化学物質を用いるのであれば、少なくともSDSの内容くらいは理解できるようにしておかなければならないということだ。それも、たんなる表面的な意味だけではなく、その労働災害に与える意味を理解することが必要なのだ。

例えば、SDSには沸点が記載されている。沸点の意味は誰でも知っているだろう。水は100度になると沸騰する。しかし、職場の化学物質管理で必要なのは、沸点が低ければ作業空間中に出てきやすいので吸入ばく露に注意する必要があること、沸点が高ければ蒸発しにくいので皮膚に付着した場合は経皮ばく露に注意する必要があることなどの知識なのだ。

そして、この程度の知識は、様々な公的・私的機関が行う有償・無償の研修会に職員を参加させることで得ることができる。ある程度のコストは必要だが、できないことではないのだ。

もちろん、その研修会の内容がそのコストに見合うものかどうかは、きちんと評価するべきだ。参加させたということがアリバイになっているようでは意味がない。参加した職員が、求める知識を得られたかどうかは確認しなければならないし、適切な知識を与えてくれるよい研修会を選ばなければならない。役にも立たない研修会への参加にコストをかける必要はないのだ。


(2)リスクアセスメントの目的を明確にしよう

さて、リスクアセスメントとは何かである。

この質問に答えるためには、まずリスクアセスメントの目的は何かを明確にしなければならない。

筆者は、以前、ある企業の安全衛生計画で、リスクアセスメントを「労働災害の防止」のための実施事項ではなく「労働者の意識改善」のための実施事項に位置付けているものを見たことがある。唖然としたが、おそらくリスクアセスメントによって労働災害を防止できるとは本気で思っていないのであろう。事実、その他の資料を見る限り、その企業では、マニュアルに従ってかなり形式的なリスクアセスメントが行われているように感じられた。

実際にその企業の担当者にお会いしたわけではないので、資料から得た印象だけなのだが、「いつでも、誰がやっても、同じ効果が出るように」という意図のもとにマニュアル化したとしか思えないのだ。

しかしである。リスクアセスメントはファストフード店のマニュアルとはわけが違うのである。ファストフード店であれば、作業内容はお客様に飲食物を提供するという定型的な作業であるから、マニュアル化が可能であるし、また効果的でもある。

しかし、リスクアセスメントには、一定の知識が必要なのである。すなわち労働災害の発生を予見するための知識である。福井県の膀胱がんの事案では、調査結果(※)によれば、保護手袋の洗浄によって手袋の内側に付着した化学物質によって経皮ばく露したことが判明している。このようなことは知識がなければ、事前に予見することはできない。また、筆者はある中堅企業で、有機溶剤(法定のものではない)を使用する作業で、保護マスクとしてN95のマスクを使用しているケースを見たことがある。その企業は安全衛生に大きな熱意を持ってはいたが、N95では有機溶剤には何の役にも立たない。

※ 労働安全衛生総合研究所「福井県内の化学工場で発生した膀胱がんに関する災害調査」(2016年5月)

マニュアル化は重要ではあるが、それだけでは役には立たないのである。担当者が、労働災害のリスク評価のために必要な知識を持っていなければ、そもそもリスクセスメントをしても、形だけに終わってしまい、実施する意味がない。

【いかにして職員に必要な知識を習得させるか】

  • 専門知識を得る方法は、社内外の専門家の活用であっても、社員の研修会への参加でも良い。一定のコストはかかるが、方法はあるのだ。もちろん、その専門家から得る知識や研修会の内容が「リスクアセスメントのマニュアル化のためのもの」だけでは、なんの役にも立たないことはいうまでもない。
  • だが、職員が専門知識を得るようにするために、本当に必要なことは、研修会への参加などだけではなく、企業がその知識を正しく評価して、必要な知識を活用することであることはいうまでもない。たんに、いくつかの研修会に参加した者は能力があるとみなすような制度では、職員のやる気をなくしてしまう。本当の意味で企業が求める知識があるかどうかを正しく評価し、その能力を活用するなら(もちろん人事・処遇面での対応も必要となる)、放っておいても職員は専門知識を得るようになるのだ。

少なくない事業場の安全衛生担当者は、とにかく安衛法が改正されたのだから、コンプライアンスの観点からリスクアセスメントを行わなければならないと考えているように見える。

そして、「誰でもできるようにマニュアル化しよう。マニュアル化しておけばとにかくリスクアセスメントはできる」と思っているようだ。おそらくそのような企業の担当者は、「こんなやり方でもないとできませんよ」と言うだろう。

しかし、それでは、暗闇で何かを落としたとき、こちらの方が探しやすいからと言って少し離れた街灯の下でそれを探すようなものだ。「明るいところでないと探せませんよ」というわけだ。

分かり切ったことではあるが、まず以下の2点を理解するところを出発点にする必要がある。

【リスクアセスメントの出発点】

  • リスクアセスメントの目的は、労働災害の防止である。従って、労働災害発生のリスクを適切に予測でき、防止のための方法を立てることができなければリスクアセスメントをする意味はない。
  • この目的のためには、一定の知識が必要であり、知識を活用するためにはコストが必要である。

ということである。この点、危険予知訓練(KY)とは全く異なるのである。


3 結局何をやるべきか

(1)化学物質のリスクアセスメントはひとつだけではない

まず、どのような災害についてリスクアセスメントを行うかによって、話を分けて考えよう。

【リスクアセスメント実施に当たって真に重要なこと】

  • 化学物質による労働災害に限らず、ほとんどの労働災害について、リスクアセスメントを行う上でもっとも重要なことは、リスクの大きさを見積もることではなく、起こるべくして起こる災害を予測することなのだ。すなわち、スイスチーズがどのように並ぶと向こう側まで穴が突き抜けるかを予想することである。これは「シナリオ抽出」と呼ばれる。
  • ただし、これには例外が2つある。ひとつは、予測が困難でかつ大規模な災害であり、もうひとつは吸引ばく露による慢性中毒である。
  • ただ、その理由は、まったく異なっている。予測が困難で大規模な災害は、まさに「起こるべくして起こる」とは言い難い面があるからだ。すなわち「シナリオ抽出」が専門家でなければできないからである。一方、吸入ばく露による慢性中毒は、シナリオは(突発的な事故によらない)日常的な作業による慢性ばく露に決まっているのでシナリオ抽出がそれほど難しくないことによるのである。

すなわち、化学物質のリスクアセスメントには、少なくともシナリオ抽出とリスクの見積もりという段階が必要であり、その手法によって大きく異なることから、少なくとも以下の3種に分類して考えるべきなのだ。

表:シナリオ抽出の種類
シナリオ抽出
(危険有害性の特定)
リスクの見積もり

【タイプⅠ】

  • 予測が困難な大規模災害(アクシデント性の災害)

リスクの抽出は、専門家が、様々な状況を想定して判断する。場合によってはコンピュータによるシミュレーションも必要

リスクの判定には、専門的な判断が必要だが、リスクを見積もるまでもなく対策を取るべき場合が多い

【タイプⅡ】

  • 日常的な吸入ばく露による慢性中毒

シナリオは「日常的な吸入ばく露」である。

許容ばく露量と実際のばく露量を比較することにより、ほぼ定型的に実施が可能

【タイプⅢ】

  • 比較的予測が容易なアクシデントによる爆発・火災災害や急性中毒
  • 日常的な経皮ばく露による慢性中毒

以下の者の協力によって、どのようなアクシデントが起こり得るかや、どのような経皮ばく露の可能性があるかを判断する。

  • 現場をよく知っている管理監督者と労働者
  • 化学物質管理の専門家

以下の者の協力によって、結果の重大性と発生の可能性から判断する。

  • 現場をよく知っている管理監督者と労働者
  • 化学物質管理の専門家

ところが、解説書によって、化学物質のリスクアセスメントを「リスクの見積もり」のことであるかのように述べているものや、日常的な吸入ばく露による慢性中毒を対象にしたものであるかのように記されているために、混乱が起きるのである。

なお、タイプⅠ、Ⅱ、Ⅲの分類は柳川のオリジナルである。


(2)それぞれのタイプに必要なこと(簡潔な結論)

化学物質のリスクアセスメントは、結局は以下のような考え方で進めるしかない。

【タイプⅠへの対応】設備の専門家によるべきもの

タイプⅠについては、シナリオ抽出については、対象となる化学物質を扱う設備の専門家によるべきものであって、具体的なリスクアセスメントの実施内容となると産業保健や労働災害の専門家の口を出せるような領域の問題ではない。すなわち、そもそも中小の事業者が直接行うようなものではないのである。

リスクの見積もりについても、可能性については設備の専門家が、結果の重大性については毒性学や化学の専門家によるべきもので、これも通常の事業者が直接行えるようなものではない。ただ、リスクの大きさの見積もりなど行うまでもなく対策を取るべきケースがほとんどではあろう。

なお、もちろん、安衛法上、リスクアセスメントを行う義務が事業者にないなどと言っているわけではない。専門家に依頼することにより実施すべきと言っているのである。

【タイプⅡへの対応】様々なツールが使用可能

実を言えば、冒頭の専門家の不安は、ほぼタイプⅡについてのものである。なぜなら、これまで産業保健の専門家のリスクアセスメントについての関心は、タイプⅡにあったからである。

ただ、このタイプはシナリオ抽出の必要性がほとんどなく、リスクの判定も定型的にできるため、気中濃度の測定によって可能であるし、また様々な簡易的なツールも開発されている。

ところが、このツールもまったく知識がなければ、現実には使えるようなものではない。そこに不安があるというわけだ。

これは、事業場内で化学物質の知識のある者か安全衛生の担当者に教育を行うしかない。その上で、以下のような方法によることが考えられる。

  • まず、簡易的なツールを用いてリスクのスクリーニングを行う
  • その結果、リスクのレベルに問題があると判断される場合には、気中濃度の測定、個人ばく露濃度の測定、生物学的モニタリングなどによるリスクの判定を行う。
  • それでも問題がある場合には専門家と相談して対策をとる。

【タイプⅢへの対応】王道はない

タイプⅢのリスクアセスメントは、産業保健の専門家がこれまで、あまり注目してこなかった分野である。どちらかといえば、産業安全の分野の専門家が得意としてきた分野である。しかし、このタイプの労働災害のリスクアセスメントはきわめて難しく、かつあまり研究の進んでいない分野である。

シナリオ抽出は、結局は、管理監督者や労働者への安全衛生教育、KYT訓練、ヒヤリハット事例や災害時例の収集などといった地道な方法によって、彼らの能力を向上してゆくしかない。また、社外の専門家の活用も重要であろう。

リスクの見積もりはさらに困難である。抽出したシナリオについて、結果の重大性はまだしも、可能性などそう簡単には判らないからだ。中災防では、数人の人間が話し合って、「全員が納得できる最悪の状況」を採用するとしているが、これが妥当な結論が出るのかもしれない

【タイプⅢへの社会全体の課題】

また、社会全体の取組として、社外の専門家の育成といったことも重要になってくるが、そのためには企業が労働災害防止のために専門家に適正な費用を支払うということが必要だと認識しなければ難しいとは思う。

さらに、マトリックス法のマトリクスの研究(経産省のR-MAPのようなもの)など、リスクの見積もりのためのツールの開発も必要になってこよう。


4 最初の疑問への回答

ここまできて、初めて最初の疑問への回答が出てくる。

すなわち、リスクアセスメントの(隠された本当の)意義は、先ほどの3つのタイプごとに、次のように考えるべきなのである。

タイプⅠの意義は、専門家によって様々な事態を想定し、そのような事態によって災害が発生しないかを考えてみることである。いうならば、想定外の事態を想定してみることに意義があるのである。

例えば、福島第一についていえば、過去の記録にある津波(過去の記録にある以上、想定外とはいえないが)の発生という事態を想定し、海水の高さがその津波による高さになったときに何が起きるかを考えてみれば防げた可能性があるというのが、(今になってみれば)分かるであろう。

タイプⅡの意義は、まさに災害の発生を予測することにある。慢性毒性による災害というのは、結果が現れるのが数十年後になるため、しばしば十分な注意を怠りがちになるものなのだ。発生してしまうと、なぜあのときに対策をとらなかったのかということになる。「今」を「あのとき」にしないことにこそ意義があるのだ。そして、実際に事件が発生してしまうと、それによる被害のコストはリスクアセスメントのコストよりもはるかに大きくなるのである。

タイプⅢの意義は、起こるべくして起きる災害の発生をきちんと想定して対策をとることにあり、リスクの判定の目的は、対策をとるコストの優先度を決めるためと言ってもよい。

リスクアセスメントの意義は、まさにこのようなことにあるのだ。そして、そのためのコストは企業の健全な発展にとって必要なことである。

また、専門的な知識の不足についても、以下のように考えるべきである。

タイプⅠについては、関係する企業で育成していく必要がある。また、事業者も専門家の意見に耳を貸す必要がある。

事業者は、専門家の意見を聞くときには、あれはない、これはないという、思い込みから自由になることである。「あっては困ることだからない」と考えることはばかげているが、過去、そのように考えることによって、国家の存続を危うくするようなことまであったことも事実である。第二次世界大戦でドイツに攻め込まれたときのスターリンがそうであったし、カサンドラの警告に耳を貸さずにギリシャに滅ぼされたトロイの人々もそうであった。少なくない企業においても、そのような考え方から、深刻な問題を発生させたことも事実である。

タイプⅡについてはそれほど難しくはない。厚労省版のコントロールバンディングの他、ECETOCのTRA、BAuAのEMKG等の他、柳川のこのサイトでもEXCELで動くボックスモデルを公開している。化学物質によっては気中濃度の測定を行うことも可能であり、これが最も確実である。

タイプⅢについては、シナリオ抽出にもリスクの見積もりにも知識と経験が必要となるが、これも実際に運用しながら、社員の教育を行ってゆくべきであろう。


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