※ イメージ図(©photoAC)
2021年4月施行の特化則において、金属アーク溶接等作業に関する条文(第38条の21)が追加された。この第2項と第4項にヒュームの気中濃度の測定が定められている。
これは作業環境測定ではないし、そもそもの考え方が大きく異なっている。ところが、同じ測定という用語を用いているからか、先入観から様々な疑問を感じられる方がおられるようだ。
これについて、行政からQandAが示されているので、疑問の多い部分について解説している。
- 1 溶接ヒュームの測定に関する行政通達
- 2 短時間の作業なら対策のレベルは低くてよい?
- 3 「継続」と「常時性」とは異なる概念
- 4 マンガンの濃度が低くても呼吸用保護具は必要
- 5 測定するべきはマンガンだが・・・
- 6 最後に
1 溶接ヒュームの測定に関する行政通達
執筆日時:
最終改訂:
溶接ヒュームの測定に関して、厚生労働省の安全衛生部化学物質対策課長名の通達でQandAが出されている。
法改正とはそうしたものだが、確かに、今回の改正には分かりにくい面があることは事実だろう。そもそも母材か溶加材にマンガンを使用している場合、屋内のアーク溶接作業については、これまでも特化則の適用があり、作業環境測定を行わなければならなかったのであるから、新たに義務付けられることとなる気中濃度の測定との関係が分かりにくいことは否定できないだろう。
そのため、質疑応答集の形で疑問を解こうということのようだ。
2 短時間の作業なら対策のレベルは低くてよい?
まず、アーク溶接の作業時間が短ければ、対策のレベルは低くてもよいではないかという誤解があるようだ。確かに、濃度が基準値の2倍であっても、作業時間(ばく露時間)が想定(1日8時間、1週40時間)の半分以下なら問題がないではないかという疑問は分からなくもない。
意外に、ここが理解されていないようだが、新たに新特化則第 38 条の 21 第2項の規定で義務付けられる測定は、いわば、「リスクアセスメント指針」に示された気中濃度の測定の方法に近いものなのである。
実際に、作業者個人がばく露しているマンガンの濃度(吸引している総量ではない。)を測定して、それが管理濃度よりも高いか低いかを調べて、それに対する対策をとろうというのが今回の法改正の趣旨なのである。
従って、基準よりも高い濃度でばく露しているなら、短時間ばく露する場合であっても、長時間に渡ってばく露する場合であっても、原則として(少なくとも法的には)同じ濃度であれば、同じ対策が求められることになる。
3 「継続」と「常時性」とは異なる概念
新特化則第 38 条の 21 第2項の規定に基づく溶接ヒュームの濃度測定は屋内作業場等で「継続」してアーク溶接を行う場合に義務付けられる。ここで、「継続」と「常時性」とは異なる概念だということに留意しなければならない。
常時性とは、必ずしも「時間」だけで判断されるべき概念ではない。しかし、判断に当たっては「時間」が大きな重要性を持っていたことは事実だろう。
だが、「継続」は「常時性」よりも広い概念なのだ。そこには「時間」は大きな意味を持たない。頻度が少ない場合であっても、反復継続して行うのであれば、それだけで「継続」と理解されるべきなのである。これは、実務においては重要な意味を持つケースがある。アーク溶接をする回数が少ないからと言って、「継続」ではないなどと思ってはならない。
4 マンガンの濃度が低くても呼吸用保護具は必要
作業環境測定の結果、管理区分が1であれば原則として呼吸用保護具は必要はない。むしろ、呼吸用保護具の必要がない作業場こそ、めざすべき姿であった。
だが、この法改正で新たに義務付けられる測定は作業環境測定ではない。厚生労働省の通達では記の2を見て頂きたいが、マンガンの気中濃度が管理濃度より低くても呼吸用保護具は必要なのである。そこは誤解してはいけない。また、マンガン濃度がいくら低くとも、そもそも粉じん則による呼吸用保護具の義務が外れるわけもない。
5 測定するべきはマンガンだが・・・
これも誤解があるようだが、作業環境測定はマンガンが母材と溶加材に含まれていなければ、測定の義務はない。しかし、新たに義務付けられる測定の対象は、アーク溶接のヒュームなのである。マンガンが存在していなくても測定の義務は免れないのである。
もちろん、測定するべきはマンガンではあるのだが・・・。要するに、マンガンが入っていないとされる場合であっても、入っているかもしれないのだから測定はやれということなのである。
6 最後に
やや、誤解を恐れずに言えば、今回の測定とその対策は、やや不合理という気がするかもしれない。それだからこそ、分かりにくいという面もある。法令と通達の文章だけを見ていると「そんなバカな」と思えるのである。
しかし、実際には、近代的な産業保健理論の帰結とも言うべきものが、この改正の神髄と言ってよい。不合理とは言えないのである。
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