化学物質の表示(ラベル)制度




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労働安全衛生法(安衛法)では、一定の危険・有害な化学物質を容器に入れ又は包装して譲渡提供する場合に表示義務、いわゆる"ラベル表示"に関する制度を規定しています。

しかし、意外にその内容が知られていないようです。本稿では、表示制度について実務家の方に必要な知識の解説をしています。




1 初めに

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最終改訂:

労働安全衛生法(安衛法)では、一定の危険・有害な化学物質を容器に入れ又は包装して譲渡提供する場合に表示義務、いわゆる"ラベル表示"に関する制度を規定しているが、意外にその内容が知られていないのだ。

専門書ではさすがにそのようなことはないが、法律系の出版社などが出す安衛法全般についての解説本で、表示に関して意外に間違いが多いのである。これは安衛法がきわめて幅広い分野なので、著者が必ずしもすべての分野を掌握できておらず、しかも出版社にも専門家がいないので内容をチェックしきれていないということが原因なのだろう。

ひどいケースでは、ラベルに成分の表示が必要だと書いてあったりする書籍さえみかけることがある。行政が「ラベルでアクション」キャンペーンを推進しているにもかかわらず、ラベルについての知識の普及が不十分なように思える。

そこで、化学物質のラベル表示について安衛法に関する規定をまとめてみた。


2 2016年の安衛法の改正

2016年6月に改正安衛法が施行され、ラベルに関して大きく制度が変わった。そのときの改正の主なものは以下の4点である。

【2016年6月施行時のラベル制度の改正内容】

① 対象となる物質(※1)が、通知対象物と同じになったこと。

② 塊状のまま譲渡提供されるものの表示義務がなくなったこと。

③ 成分表示の義務がなくなったこと

④ 物質によっては、裾切り値(※2)が改正されたものがあること。

※1 SDSの対象となるものは安衛法第57条の2で「通知対象物」というとされており、リスクアセスメントの対象となるものは安衛則第34条の2の7第1項第1号で「調査対象物」というとされているが、表示の対象となるものには法令で名前が付けられていない。

※2 ここでは、ある物質の濃度がその値に満たない場合には、表示・通知・リスクアセスメントの義務をかけないとする、その値をいう。


(1)対象物質の規定と、塊状の物の表示義務の適用除外

ア 法令の規定

表示の義務、通知(SDS)の義務、リスクアセスメント(危険性又は有害性等の調査)の義務の対象となるものは、安衛法ではそれぞれ以下の表のように定められている。

表示の義務 通知(SDS)提供の義務 危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)の義務
規定する条文 第57条 第57条の2 第57条の3
対象物 政令で定めるもの又は前条(第56条)第1項の物 政令で定めるもの又は第56条第1項の物(通知対象物) 第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物
適用が除外されるもの 容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのもの 主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合 主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るもの(安衛則第34条の2の7)

「対象物」の欄について、このままでは分かりにくいので、それぞれの「政令」のところに具体的な政令の条文を当てはめると次のようになる。

表示の義務 通知(SDS)提供の義務 危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)の義務
対象物
  • ① 安衛令第17条で定める物
  • ② 安衛令第18条で定める物
  • ③ 安衛令第17条で定める物
  • ④ 安衛令第18条の2で定める物
左の2つの欄に示されたもののうち②、③及び④

そして、これらの安衛令の条文を具体的に書き起こすと次のようになる。

表:表示制度の対象物質、調査対象物、通知対象物

 やや複雑な表であるが、表示の対象物を通知対象物(SDSの対象物)と比較すると、ほぼ以下のようになっており、やや範囲が狭い(四アルキル鉛はやや複雑であるが)が物質の種類としては同じである。

表示の対象物 通知対象物
物質の種類
  • ① 第一類特定化学物質7物質
  • ② 安衛令別表第9の669物質
  • ③ ①、②を含む製剤その他の物
  • (合計で676物質)
裾切値 以下に定める(※1)(通知の対象より高いものがある。)
①安衛則31条
②安衛則別表第2の中欄
以下に定める(※2)(表示の対象より低いものがある)
①安衛則34条の2の2
②安衛則別表第2の下欄
純物質の適用除外 水銀等以外の金属については粉状(※3)の物以外のものが除かれている。 なし
混合物の適用除外 第一類特定化学物質等以外の混合物(製剤その他の物)では、運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物(例外あり)が除かれている。 なし

※1:四アルキル鉛を含有する製剤その他の物については加鉛ガソリンを除く。また、ニトログリセリンを含有する製剤その他の物については、98%以上の不揮発性で水に溶けない鈍感剤で鈍性化した物であって、ニトログリセリンの含有量が1%未満のものを除く。

※2:ニトログリセリンを含有する製剤その他の物については、98%以上の不揮発性で水に溶けない鈍感剤で鈍性化した物であって、ニトログリセリンの含有量が0.1%未満のものを除く。

※3:ここで粉状の物とはインハラブル粒子を言う。

これらについて、以下にもう少し詳細に説明しよう。

【調査委対象物、表示の対象物質、通知対象物の関係】

なお、リスクアセスメントの対象となるもの(調査対象物)は、表示の対象物と通知対象物の双方であるが、前述したように表示の対象物は通知対象物よりもやや範囲が狭い。そのため調査対象物は、結果として通知対象物と同じになるのである(四アルキル鉛はやや複雑であるが。)。

イ 対象物質の拡大

表示の対象物質は、2016年の改正まで104物質であったが、そのときの改正で通知対象物質と同じ640物質(※)となった。その後も、2017年(平成29年)3月に27物質が追加されるなど、安衛令別表第9への追加の改正が行われており、2021年6月時点では676物質となっている。

※ 当時は、安衛令別表第9に633物質、同別表第3第1項(並びに安衛則第31条及び同34条の2の2)に7物質で、640物質であった。

ウ 裾切値の見直し

表示の対象物と通知対象物の裾切値(安衛則別表第2)は、2016年の改正で全面的に見直された。数値が低くなった(対象の範囲が広がった)ものもあれば高くなった(対象の範囲が狭まった)ものもある。見直しに当たっては、政府のモデルGHS分類を前提として、原則としてGHSのカットオフ値(コラム参照)を裾切値として流用するという方法をとっている。

ただし、そのまま流用するのではなく、以下のような修正をしている。

  • カットオフ値が1%を超える場合は、裾切値は一律に1%とする。
  • 複数の有害性区分を有する物質については、最も低い数値を採用する。
  • リスク評価結果など特別な事情がある場合は、専門家の意見を聴いて定める。

【コラム】カットオフ値とは

例えばA物質が発がん性区分1であるとした場合、A物質を重量比で0.1%以上を含んでいる混合物についても発がん性を区分1とする(※)。カットオフ値とはこの0.1%の値のことで、危険有害性クラス(=危険有害性の種類)及び危険有害性区分ごとに定められている。

※ 混合物そのもののGHS区分はないとし、つなぎの原則の適用等は考慮しないものとしている。

裾切り値(重量濃度【%】)は具体的には次のようになる。

政府のモデルGHS分類 表示
(ラベル)
通知
(SDS)
GHSの有害性クラス 区分
急性毒性 1~5 1.0 1.0
皮膚腐食性/刺激性 1~3
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 1~2
呼吸器感作性(固体/液体) 1.0 0.1
呼吸器感作性(気体) 0.2
皮膚感作性 1.0 0.1
生殖細胞変異原性 0.1 0.1
1.0 1.0
発がん性 0.1 0.1
1.0
生殖毒性 0.3 0.1
1.0
標的臓器毒性(単回ばく露) 1~2 1.0 1.0
標的臓器毒性(反復ばく露) 1~2
吸引性呼吸器有害性 1~2

エ 塊状の物の適用除外

(ア)純物質

表示の対象として、安衛令別表第9に列挙してある物質のうち、20種類の金属(※)については、安衛令第18条第1号の括弧書きにより、粉状の物に限っている。この20物質とは、別表第9の物質のうち水銀以外の金属をすべて列挙したものである。

※ Al、Y、In、Cd、Ag、Cr、Co、Sn、Tl、W、Ta、Cu、Pb、Ni、Pt、Hf、フェロバナジウム、Mn、Mo又はRh

これは、2016年(平成28年)6月施行の労働安全衛生法改正の際に、譲渡提供の過程において粉状になるおそれがなく、かつ①危険物、②爆発・火災の原因となる物、③皮膚腐食性のある物のいずれでもなければ表示の必要はないと考えられたためである。そのようなものを安衛令別表第9の物質(当時633物質であった。)から抜き出してすべて列挙したところ、19物質になったのである。その後、2017年(平成29年)3月施行の安衛令改正で、別表第9への追加の対象となった27物質の中で、アルミニウムが粉状の物に限られたので20物質となった。

(イ)混合物

また、混合物(安衛則第30条及び第31条で定めるもの)については、運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物が表示の対象から除かれている。ただし、次のいずれかに該当するものは粉状以外の物であっても表示しなければならない。

  • ① 危険物(令別表第一に掲げる危険物をいう。以下同じ。)
  • ② 危険物以外の可燃性の物等爆発又は火災の原因となるおそれのある物
  • ③ 酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等を含有する製剤その他の物であって皮膚に対して腐食の危険を生ずるもの

【塊状の第一類物質に表示義務はあるか】

1 塊状の第一類物質に表示義務はないという誤解

よく誤解されていることに、塊状の第一類物質に表示義務はあるかという問題がある。

安衛令第18条(第三号)で、名称等を表示すべき危険物及び有害物として、「別表第三第一号1から7までに掲げる物を含有する製剤その他の物(同号8に掲げる物を除く。)で、厚生労働省令で定めるもの」を定めている。すなわち第1類特定化学物質を定めているのである。

そして、この省令の定めは、安衛則第31条にあるが、「令第十八条第三号の厚生労働省令で定める物は、次に掲げる物とする。ただし、前条ただし書の物を除く」として、「運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物」を原則として除いている(例外あり。)のである(※)

※ さらに、安衛令の改正通達(平成27年8月3日基発0803第2号)の「第3 改正政令及び改正省令に係る細部事項」の「2 表示に係る固形物の適用除外の創設等」には「令 別表第9に掲げる物(純物質)及び令別表第9又は別表第3第1号1から7までに 掲げる物を含有する製剤その他の物(混合物)のうち、運搬中及び貯蔵中において、 固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物について、表示義務の適用を除外することとした」とあり、第一類特定化学物質等についても表示の必要はないと受け取れる表現がある。

このため、第一類特定化学物質についても、「運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物」は表示の対象から除かれるという誤解が根強くある。

2 塊状の第一類物質に表示義務があることは条文上明らか

しかしながら、安衛法第57条は、「爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第一項の物」に対して表示義務をかけている。

ここにいう「前条第一項の物」とは、「ジクロルベンジジン、ジクロルベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずるおそれのある物で、政令で定めるもの」である。安衛令第17条に定めてあるが、「別表第三第一号に掲げる第一類物質及び石綿分析用試料等」である。

そして、「第一類物質及び石綿分析用試料等」については、「運搬中及び貯蔵中において固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物」について、表示の対象から外していない。

第一類特定化学物質等については、安衛法第56条第1項、同第57条、安衛令第17条、同別表第3第1号のいずれにも、「固体以外の状態にならず、かつ、粉状にならない物を除く」等の表現はないのである。

例えば、ベリリウム及びベリリウムを重量濃度1%を超えて含有する製剤その他の物(合金にあっては3%超えて含有する物に限る)などについては、塊状のもの(固体で粉状以外の物)であっても表示が必要となる。一方、ベリリウム重量濃度が0.1%以上1%以下(合金にあっては0.1%以上3%以下)のものについては、塊状であって、①危険物、②爆発・火災の原因となる物、③皮膚腐食性のある物のいずれでもなければ(ないだろうが)表示の必要はないこととなる。

また、これはあくまでも表示に限られるので、鋼材や鉄板などであっても、通知対象物が重量濃度で裾切値以上の割合で含まれていれば、原則としてSDSの提供の対象となるので留意されたい。


(2)ラベルには成分表示の義務はない

2016年6月施行の改正で、表示すべき事項から"成分表示"が除かれた。これは、その時点で表示の対象となるものが640物質に拡大されるため、全ての成分名を表示すると、表示すべき内容が増えて、表示も小さくなって、かえって労働者に危険・有害性に関する情報が伝わりにくくなることが危惧されたためである。

ただし、このことは成分を表示することが望ましくないということではない。重篤な健康影響や危険性を有するものなど、労働災害を防止するうえで重要なものについては、その成分のみを表示することはむしろ望ましいことであることはいうまでもない。

このことは、厚生労働省の「化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)」においても、次のように示されている。

【ラベルへの成分表示】

Q38.ラベルに成分を記載する必要があるか。

A.従来は、成分もラベルの必須記載項目でしたが、2016年6月以降は表示及び通知義務対象物が大幅に増加し、その全ての物質の成分を記載した場合にラベルの視認性が悪化する可能性があることから、任意記載項目となりました。ただし、事業者が化学品の使用者に伝えることが適切と判断する成分については、記載することが望まれます。

※ 厚生労働省「化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)」より

ここで、「事業者が化学品の使用者に伝えることが適切と判断する成分」とあるが、実は2014年9月に公表された「改正労働安全衛生法 Q&A集」のQ8では「主要な成分」とされていた。これは「主要な成分」としていたのでは、重量濃度の大きな成分と誤解されるおそれがあるために訂正したものであろう。重量濃度が大きな成分だからといって、労働災害防止のために重要な成分とは限らない。あくまでも労働災害を防止するという観点から、たとえ重量濃度は低くてもそれが含まれていることを取扱う労働者に知らせるべき成分を記載してほしいという趣旨である。

法改正後のラベル表示については、日本化学工業協会から「改正安衛法に基づくラベル作成の手引き」が2015年8月に公表されている。これを参考にするとよいと思う。


3 表示に関するいくつかの論点

(1)表示をしなければならない者とは

ア 問題の所在

安衛則第24条の14第1項第1号ニの「表示をする者の氏名(法人にあつては、その名称)、住所及び電話番号」を表示せよとなっている。最近では、かなり誤解は少なくなってきたが、ここにいう「表示をする者」とは、対象となる化学物質を容器に入れ又は包装して譲渡提供する者である。

すなわち、ある化学物質が次のように流通するとしよう。

甲化学株式会社
(製造会社)
株式会社乙販売
(販売会社)
丙電機株式会社
(加工会社)

この場合、株式会社乙販売(以下「乙販売」という。)が丙電機株式会社(以下「丙電機」という。)に化学物質を販売するときの容器には、甲化学株式会社(以下「甲化学」という。)ではなく、乙販売の名称等を表示しなければならないのである。ところが、甲化学が乙販売に納品するときの容器には、甲化学の名称が表示されている。そのため、乙販売は甲化学から仕入れた化学物質をそのままの容器で丙電機に納品する場合であっても、ラベルを貼り換えなければならないことになる。そこで以下のような疑問があり得る。

【表示をする者についてあり得る疑問】

  • ① 乙販売が化学物質の販売をするにあたってラベルを貼り換えなければならないとすることは、乙販売に過度な負担をかけることになり、国民経済の全体のためにならないのではないだろうか。
  • ② 乙販売は甲化学に比較すれば、商品の有害性に関する知識が少ないことが通常であろう。従って、甲化学の名称や連絡先を表示する方が、労働災害防止の観点からも合理的ではなかろうか。

事実、これについては経済界からも制度改正を望む声が多いことも事実である。

イ 改正を行うとした場合の問題点

しかしながら、私自身はこの制度を改正することには、現時点においては解決すべき多くの課題があり、現時点では困難といわざるをえないのではないかと思っている。

(ア)契約上の問題

まず、第一に挙げなければならないのは、丙電機と契約関係があるのは乙販売であって、甲化学ではないということである。確かに製造物責任法の問題はあるにせよ、丙電機に対して、化学物質のハザード情報を伝えるべき契約上の義務があるのはあくまでも乙販売なのである。

仮に、ハザード情報が伝えられなかったために、それが原因となって丙電機で災害が発生したとしよう。この場合、丙電機は契約上の債務の不完全履行(伝えるべき情報を伝えなかった)を理由に損害賠償請求を求めることができるのは乙販売だけである。甲化学に対しては、せいぜい製造物責任法第3条か民法第709条の責任を問えるだけのことである。

そうなると、表示をするべき名称は、やはり契約上の責任のある乙販売とすることが自然であろう。

(イ)川中企業の意識

また、表示する名称を甲化学の名称としてしまうと、乙販売は、危険・有害な化学物質を丙電機に販売しているにもかかわらず、丙電機に対して必要な情報を伝える責任が自らにあるということについて誤った理解をするのではないかという危惧があるのである。

以前、私が、ある安全衛生に関する委員会に出ていたとき、ある化学物質について、ユーザ企業側の委員が、販売会社による正確なSDSの提供が必要だと発言したことがあった。このとき、販売会社に所属する委員がこのように答えたのである。

「メーカーが企業秘密として成分を教えてくれないことがある。そうなると我々(販売会社)ではどうにもならない」

私はそこでこのように申し上げた。

「お客様に製品を売るのはあなたたちでしょう。であれば、自分たちが売るものに危険なものが入っていないかどうかを確認するのはあなたたちの責任ではないのですか。メーカーに対して、何が入っているか分からないようなものをお客様に売ることはできないから、教えてくれなければあなたのところの製品は買えないくらいのことはいうべきではないのですか。それとも、メーカーが教えてくれなければ、何が入っているか分からないようなものでも売るのですか」

この販売会社の委員の方は、自分たちは製造業者の製品を売るだけで、有害性があったとしても自分たちの責任ではないと考えているようである。もちろん企業同士のことだから有害性がある物を売るなとまでは言わないが、他社に危険・有害性のある物を売るのであれば、それをきちんと確認して相手に伝えることは、売る者の義務であろう。

厳しいことをいうようだが、万が一事故が発生して損害賠償の請求をされたようなとき、「製造元が教えてくれなかったので分からなかったので、そのまま何も言わずに売りました」と言っても、裁判所が納得してくれるとは限らないのである。

やはり表示については、責任の所在を明確にするためにも、譲渡・提供する企業の名称等を表示するべきではないかと思う。そのようにしないと、現状では販売業者の意識が低下し、結果的に、販売業者が化学物質を小分けして販売するような場合でさえ、小分けされた容器に表示が付されなくなるおそれがあるのではなかろうか。

責任の所在を明らかにするということは、その責任のある者に正しい対応を促すためにも重要なことなのである。


(2)容器に入れて包装する場合

これは安衛法の条文に明記してあるのだが、容器に入れて包装する場合のように、二重、三重に容器に入れたり、包装したりするときに、表示は外側の容器等にするべきか内側の容器等にするべきかという問題がある。

ちょっと考えると、二重包装の場合、取り扱っている者には外側しか見えないのだから外側に表示するべきと思えるかもしれない。しかし、安衛法では「容器に入れ、かつ、包装して」譲渡する場合についてのみではあるが、内側に表示せよと明記している。安衛法に記述はないが、包装して容器に入れる場合も同様に包装の側(内側)に表示するべきであろう。

これは二重包装の場合、外側の包装から内側の包装の状態のものが取り出されて、内側の包装だけで流通したり扱われたりするおそれがあるからである。すなわち、表示制度は最後に容器又は包装から取り出す労働者に対して有害性等を伝えるためのものと考えられているのである。

そうなると運送事業者や倉庫業者には表示が見えないので問題だと思われるかもしれない。しかし、この問題は、毒劇法等によって対応されるべきことである。


(3)容器が小さい場合の対応

容器が小さい場合に表示をどのようにするべきかが問題となる。法的には、安衛則第32条但書において、「容器又は包装に表示事項等の全てを印刷し、又は表示事項等の全てを印刷した票箋を貼り付けることが困難なときは、表示事項等のうち同項第一号ロからニまで及び同項第二号に掲げるものについては、これらを印刷した票箋を容器又は包装に結びつけることにより表示することができる」とされている。ここに「同項」とは安衛法第57条1項を指し、分かりやすく言えば、名称以外の事項は結び付けた票箋に記載すればよいこととされているのである。

なお、現在国連のGHS専門家小委員会で小さな容器のラベルをどうするかについて議論されていたとき、欧州化学工業連盟が蛇腹式のラベルを提出したことがある。


(4)GHSの絵表示の枠の色

GHSでは、国際的に「標章(絵表示)」については、枠を赤、内部を黒で表示することになっている。白黒表示を認めていないわけではないが、それは一部の開発途上国などで、印刷機械などの関係で赤黒表示が困難な場合を想定したものである。

そして、危険有害化学物質等(安衛則第24条の14による表示の努力義務の対象となる物質)に関するものについて、平成24年3月29日基発0329第11号「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針について」において「譲渡提供時の容器又は包装に表示する絵表示は、白い背景の上に黒いシンボルを置き、十分に幅広い赤い枠で囲んだものとすること」とされている。

日本では、標章はJIS規格(JIS Z 7253)に規定するとおりとされており、JIS規格(JIS Z 7253:2019)で、絵表示は「特定の情報を伝達することを意図するシンボル,境界線,及び背景のパターン又は色のような図的要素から構成するもの。一つの頂点で正立させた正方形の背景の上の黒の炎,どくろなどのシンボル及び赤い枠で構成する」とされている。また、面積については「危険有害性の絵表示は、1cm2以上の面積をもつことが望ましい」とされている。

なお、JIS Z 7253:2019は、区分に該当しない場合には「絵表示は、白黒で記載してもよいし、絵表示の代わりにシンボルの名称(例えば、炎、どくろなど)を用いて記載してもよい。絵表示を記載する際は、はっきり見えるように一つの頂点で正立させた正方形の背景の上に黒いシンボルを置き、十分に幅広い枠で囲む」とされている。しかしながら、白黒表示をすることなど好ましいことではないことはいうまでもない。


(5)輸入する場合の英語の表示は有効か

これまで私が講師を務めた研修会で、外国から輸入された化学物質の容器のラベル表示が英語でされている場合、そのままでもよいかとの質問を、何度か受けたことがある。

これについても、厚労省の「化学物質対策に関するQ&A(ラベル・SDS関係)」でも「危険有害性や取扱い上の注意を、事業者、労働者が読めるようにすることが重要であるため、輸入品を日本国内で最初に譲渡・提供する事業者が、外国語を日本語に翻訳したラベルとSDSを作成して提供する必要があります。令和元年7月25日付け基安化発0725第1号において、ラベルとSDSは邦文で記載するとしており、また、JIS Z 7253「GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法-ラベル,作業場内の表示及び安全データシート(SDS)」においてもラベル及びSDSは日本語で表記すると示されています」とされている。

そもそも表示には、その表示をした者の名称等を記す必要があり、その者は国内で譲渡提供を行う者であろうから、いずれにせよ表示の印刷はしなければならないのである。なぜ英語表示をしたいのかよく分からないが、そもそもこの制度は日本国内で、国内の労働者等に化学物質の危険有害性等を知らせるための制度であり、考えるまでもなく外国語の表示で良いわけがなかろう。





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