労働安全衛生法の化学物質のリスクアセスメントの規定では、「結果に基づく措置」が努力義務になっています。
このため、結果に基づく措置は行わなくてもよいという誤解が一部にあるようです。現実には、措置を取らなかったために事故が起きれば、刑事上、民事上の責任を問われ得ます。
これが努力義務であることの意味を解説します。
- 1 最初に
- 2 なぜRAに基づく措置は努力義務とされたのか
- (1)国法の義務規定は明確でなければならない
- (2)RAの結果に基づく措置を義務化する意義
- 3 RAの結果に基づく措置を義務化するべきか
- (1)義務化するとした場合の弊害
- (2)義務化することの困難性
- 4 RAの結果に基づく措置と安全配慮義務
- (1)問題の所在
- (2)安衛法中の努力義務
- (3)努力義務と安全配慮義務
- (4)RAの結果に基づく措置と安全配慮義務
- 5 では、結局どうすればよいのか?
- (1)RAの結果に基づく措置をとらなくてよいのか
- (2)まとめ
1 最初に
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最初に次の枠内の文章を読んで頂きたい。
【ある事業場でリスクアセスメントを行ったあとの措置】
化学物質のリスクアセスメントを行ったら、あまりにも非現実的な対策をとるべきとの結果が出た。そんな対策をとることはとてもできない。法律上の対策は努力義務なのだから次善の策をとることにした。
この文章を読んで、皆さんはどのように思われるだろうか。おそらく、少なくない事業者の方は「とくに問題はない」、あるいは「そうするより他どうしようもないではないか」とお考えになるのではなかろうかと思う。
確かに、そのような考えには、十分な理由があるのかもしれない。2016年6月に施行された化学物質関連の改正労働安全衛生法(安衛法)第57条の3第2項は、次のようになっている(※)。すなわち、リスクアセスメントの結果に基づく必要な措置は努力義務なのである。であれば、次善の策をとることで何の問題もないのではなかろうか。
※ 安衛法第57条の3でリスクセスメントの義務の対象となっているのは、すべての化学物質ではなく通知対象物に限られている。しかし、煩瑣なので(一部を除き)本稿では特に区別はしない。なお、通知対象物とは何かについては、本サイトの「通知対象物質の見分け方」を参照して頂きたい。それ以外の物質については第28条の2によって努力義務の対象である。
【安衛法第57条の3第2項】
事業者は、前項の調査(リスクアセスメント)の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
※ ( )の注記は引用者による。
だが、ちょっと待ってほしい。冷静に考えて、本当にこの文章には何の問題もないのだろうか? また、この文章の主張には、もっと根本的なところでも、少しおかしなところがあるのではないだろうか?
この「リスクアセスメントの結果に基づく措置」が努力義務であることについて、一部の事業者の方の中にかなりの誤解があるように思えるのだ。そこで、本稿において、この努力義務の意味について私なりに解説を加えてみたい。
2 なぜRAに基づく措置は努力義務とされたのか
先ほどの安衛法第57条の3第2項において、「法律又はこれに基づく命令の規定による措置(※)」については「講ずる・・・なければならない」と義務規定としていることは当然としても、「リスクアセスメントの結果に基づく措置」が努力義務となっているのはなぜなのだろうか。
※ 労働安全衛生規則第576条は「事業者は、有害物を取り扱い、ガス、蒸気又は粉じんを発散(・・略・・)等有害な作業場においては、その原因を除去するため、代替物の使用、作業の方法又は機械等の改善等必要な措置を講じなければならない」とされており、また同規則第577条には「事業者は、ガス、蒸気又は粉じんを発散する屋内作業場においては、当該屋内作業場における空気中のガス、蒸気又は粉じんの含有濃度が有害な程度にならないようにするため、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置を設ける等必要な措置を講じなければならない」としている。これらもまたこの措置に該当することはいうまでもない。なお、労働安全衛生規則のこの2つの条文の根拠は労働安全衛生法第22条であるから、罰則付きの義務となっている。
私自身は、これには2つの理由があると考えている。
(1)国法の義務規定は明確でなければならない
ひとつは、安衛法の規定を含め、公法上の義務(※1)規定は、国民(※2)の権利を制限し又は義務を課すものである。であれば、その内容は明確なものでなければならない。そうでなければ、国民は何をしてはならないのか、また何をしてはならないのかが分からず、政府の恣意を許し、国民の自由を不当に制限することになりかねないからである。
※1 公法上の義務とは"国"("社会"と考えてもよい)に対する義務のことである。刑事罰が科されるものが多いが、とくにそれに限られない。これに対し、私法上の義務は、私人間の義務であり、刑事罰が科されることはないが、その義務の履行をしないと損害賠償を請求されることがある。
※2 安全衛生法のほとんどの条文の名宛人(義務の対象)は事業者であり、その多くは会社などの法人である。また個人事業主の中には外国人もいるが、ここにいう国民には法人や外国人も含めている。
一方、リスクアセスメントの結果に基づく措置などというものは、何をどこまでしなければならないのかを予め明確に定めることは、その本来の趣旨からいっても困難なのである。なぜなら、職場のリスクは多様であり、そのすべてについて予め具体的な対策を定めることが困難だからこそ、事業者が自ら化学物質の危険有害性に関する情報を取集して、その事業場における取扱い方法について、その物質による労働災害のリスクを見積もることを義務付けているのである。言葉を換えれば、事業者の自主的な判断に委ねることこそがその本来の趣旨なのである。
一言でいえば、公法上の義務は明確でなければならないにもかかわらず、リスクアセスメントの内容を明確に定めることはその趣旨を損なうことから、立法技術上の問題として、リスクアセスメントの結果に基づく措置を義務とすることは難しいのである。
さらに言えば、仮に義務化してみたところで、事業者がリスクを正しく判定できなければ結果だけ義務付けてみても意味がないであろう。例えば、シナリオを抽出(※)するときに、あるシナリオを見落としてしまえばそのリスクの見積もりなどやりようもない。また、シナリオを抽出できたとしてもリスクの見積もりを誤ればやはり同じことであろう。リスクの見積もりなどというものは、誰がやっても同じ結果が出るわけではないのである。
※ 「シナリオ抽出」とは、ある災害の発生のストーリーを洗い出すことである。すなわち、職場で発生するおそれのある災害を洗い出す(予見する)ことをいう。リスクアセスメントでは、この洗い出した災害についてリスクの見積もりを行うことになる。
(2)RAの結果に基づく措置を義務化する意義
また、二つ目の理由であるが、リスクアセスメントの結果に基づく措置を義務化してみたところで、実は、さしたる意味はないのである。というのは、厚労省のWEBサイトにある簡易なリスクアセスメント手法などは別として、リスクアセスメントの結果というのは、通常、リスクの(相対的な)レベルが分かるだけで、実施すべき対策の具多的な内容まで分かるわけではないからである。
段階的なリスクのレベルが判るだけであるから、その結果に基づく措置を義務化するといってみたところで、義務化された方もどうしてよいか分からないであろう。
3 RAの結果に基づく措置を義務化するべきか
(1)義務化するとした場合の弊害
私自身は、リスクアセスメントの結果に基づく措置を、安衛法令で義務化しなかったことは正しい判断だったと思っている。なぜなら、仮にこれを義務化するとすれば、リスクアセスメントの具体的な実施内容を法令によって明確に定めなければならなくなるからだ。
しかし、これを法令で具体的に示してしまうと、残念ながら我が国の現状においては、少なくない事業者は"それさえやればよい"と考えるようになると思わざるを得ないのである。そして、そのように考えれば、必然的に"意味は分からないがとにかく形だけ整えておこう"というところにつながる。これでは労働災害防止のためのリスクアセスメントではなく、"労働安全衛生法違反にならないためのリスクアセスメント"になってしまうのだ。形だけ整えてみてもリスクアセスメントのような制度は役に立たないのである。
言葉を変えれば、労働安全衛生法に違反していないという免罪符を得るために、コストをかけて、意味もない形だけ整えたリスクアセスメントを行うというばかげた状態になりかねないのである。
(2)義務化することの困難性
そもそも、リスクアセスメントの内容を明確に定めるといっても、不可能に近いのである。例えば、シナリオ抽出をどのようにするかを定めることが、まず不可能に近い。どこまでシナリオを想定・予見すればよいのかについて明確な基準を作ることなどできるわけがない。
また、"吸入ばく露による慢性毒性"のリスクアセスメントは、比較的、定型的に行いやすいので内容を定めやすいとはいえるが、これでさえ、汎用性のある一般的な手法を定めることは不可能に近いのである。現在、厚労省がWEBサイトで公開している簡易なシステムにしても、少なくともガス体である化学物質には使用できない。また、液体であったとしても、例えばガソリンスタンドのガソリンのリスクアセスメントを厚労省の簡易なシステムで行おうとするのは、このシステムの構造からいえば(おそらく)ばかげた行為である。
他のどの手法にしても、一長一短があり、すべての場合に適切にリスクを判定できるシステムなど存在してはいないのである。
あくまでも"現状においては"という限定つきではあるが、労働安全衛生法がリスクアセスメントの結果に基づく措置を義務化しなかったことは、正しいことであると言わざるを得ないのである。
4 RAの結果に基づく措置と安全配慮義務
(1)問題の所在
さて、では努力義務となったからには、事業者はこれを行う必要はないのであろうか。これについて、皮相的に考えれば、リスクアセスメントの結果に基づく措置は努力義務なのであるから、実施しなくともかまわないはずだし、実施しなかったからといって、少なくとも公権力によって不利益を課されるいわれはないはずである。
確かに、公権力によって不利益を課されるいわれはないことはその通りではある。しかし、その規定が労働者の健康や生命、身体の保護を目的とするものである以上、それを実施する必要はなく、事業者の完全な自由意思に任されていると言い切ってよいのだろうか。やはりそのように言い切ることには躊躇を感じざるを得ないのである。
(2)安衛法中の努力義務
ところで、安衛法中で「努めなければならない」又は「努めるものとする」となっている規定で、事業者が(努力)義務を果たすべき主体(名宛人)となっているものは、次の14の条文である。
【安衛法における事業者の努力義務】
- ① 50人未満の事業場における医師等による健康管理等(第13条の2)
- ② 安全管理者等に対する教育等(第19条の2)
- ③ 通知対象物(SDS提供の義務のある物質)のリスクアセスメント以外のリスクアセスメントの実施等(第28条の2)
- ④ 通知対象物のリスクアセスメントの結果に基づく措置(第57条の3第2項=本稿の対象)
- ⑤ 法定の義務のない危険有害業務従事者に対する安全衛生教育(第60条の2)
- ⑥ 中高年齢者等についての配慮(第62条)
- ⑦ 労働者の健康に配慮した作業管理(第65条の3)
- ⑧ 健康診断等の結果に基づく必要な者への保健指導(第66条の7)
- ⑨ 面接指導を行わない者への必要な措置(第66条の9)
- ⑩ 50人未満の事業場におけるストレスチェック(第66条の10・附則第4条)
- ⑪ 受動喫煙の防止(第68条の2)
- ⑫ 健康教育、健康相談等(第69条)
- ⑬ 体育活動等への便宜供与(第70条)
- ⑭ 快適な職場環境の形成(第71条の2)
一般に、安衛法の規定は、その対象の範囲等を政令で定め、具体的な措置については省令で定めることが多い。しかし、これらの努力義務のうち実施すべき内容を省令に委任しているのは、③、⑨及び⑩の3つのみである。しかし、⑩は、本来は義務規定であり、50人未満の事業場について附則で当分の間は努力義務としているものであるから他の規定とやや性格を異にしている。また③は省令には実施すべき時期や対象業種等を定めるのみであり、⑨も省令にそれほど詳細な規定を置いてはいない。
一方、これらの努力義務は、事業者が実施すべき措置の内容について厚生労働大臣が指針を定め、その内容について事業者等を指導できるとしているものがほとんどである。もちろん、指針の内容に定められた個別の事項がただちに安衛法上の努力義務となるわけではないが、事業主の行うべき措置の内容が行政機関によって示され、事業者等に対して指導を行う権限を与えるという構造になっているわけである。
一言でいえば、安衛法上の努力義務は、政省令によって具体的な内容を定めるのではなく、行政が事業者の実施すべき措置の内容について指針を定めて事業者等を指導できる(※)としている(にすぎない)ものがほとんどなのである。
※ もちろん、実際に指針を定めて指導している。
(3)努力義務と安全配慮義務
そして、下級審判決ではあるが、行政が発出した指導通達について「行政的な取締規定に関連するものではあるけれども、その内容が基本的に労働者の安全と健康の確保の点にあることに鑑みると、使用者の労働者に対する私法上の安全配慮義務の内容を定める基準となるものと解すべきである」としているものがある(広島地裁判決平元年9月26日)。
すなわち、行政指導とはいえ「内容が基本的に労働者の安全と健康の確保の点にある」ものについては、私法上の安全配慮義務の内容となるといっているのである。
そして、上記14の努力義務の内容を詳細にみてみると、積極的な健康の保持増進を目的とするなど、必ずしも労働災害の防止のみを直接の目的としているとはいえないものが7例(⑧から⑭まで)ある。
残る①から⑦までの7つについては、その内容は労働者の安全と健康の確保にあるものなので、広島地裁判決を前提とすれば、安全配慮義務の内容となり得ると考えられる。
(4)RAの結果に基づく措置と安全配慮義務
では、リスクアセスメントの結果に基づく措置は、安全配慮義務の内容となるのであろうか。化学物質のリスクアセスメントの結果に基づく措置が安全配慮義務の内容となるか否かに答えるためには、まずリスクアセスメントとはどのようなものなのかを考えなければならない。
まず、リスクアセスメントの対象となる災害を"危険性による爆発災害・火災災害"、"アクシデント性の急性中毒災害"などに限って考えてみよう。そうするとリスクアセスメントとは、災害発生のシナリオを予見、あるいは想定して、"そのシナリオが現実に起きた場合の結果の重大性"と、"シナリオが現実に起こり得る可能性"からリスクを見積もることと定義することができる(※)。
※ 厚生労働省の指針上は、対策の検討までがリスクアセスメントの定義に含まれる。
だとしたら、この見積もったリスクに応じた対策が努力義務に過ぎないというのは、きわめて奇妙なことではないだろうか?
というのは、事業者は、労働者と雇用契約を締結しており、契約に基づいて労働者に対して指揮命令をする権限があるのである。すなわち、働く場所、働く方法、扱うもの、作業をする働く時間などを指定して、その通りしろと命じることができるのだ。そして、労働者は、原則としてその指示に従う契約上の義務があるのである。
ところが、その命令の通りにすると、労働者の身体・生命に重大な悪影響をもたらす事故が発生する可能性があるということが分かったとしよう。そのような場合に、事業者はどう対処するべきだろうか。もちろん、このようなことは聴くまでもあるまい。誰でも、ただちになんらかの対策をとるか、でなければそのような命令は出すべきではないと考えるであろう。
であれば、リスクアセスメントを行って、高いリスクがあるという結論が出たのであれば、安全配慮義務の観点からも対策はとるべきであろう。そのようなことは労働安全衛生法の規定を待つまでもないのではなかろうか。
すなわち、安衛法の規定が努力義務規定だからという理由だけで、事業者にはその実施の義務がないとまではいえないのである。災害の発生が予見できた以上、その対策をとらないことには、やはり違法性(※)があると言わざるを得ないのである。
※ 違法性とは、ごく簡単にいえば、法律的な価値判断において"悪いこと"をいう。何かの条文に違反しているということではない。そして、違法性のある行為によって他人に損害を発生させると、損害賠償の請求をされることがあり得る。
5 では、結局どうすればよいのか?
(1)RAの結果に基づく措置をとらなくてよいのか
最後に、本稿の冒頭に掲げた文章をもう一度見て頂きたい。
【ある事業場でリスクアセスメントを行ったあとの措置】
化学物質のリスクアセスメントを行ったら、あまりにも非現実的な対策をとるべきとの結果が出た。そんな対策をとることはとてもできない。だから次善の策をとることにした。
私自身は、これには、2つの点でおかしなことがあると思う。ひとつは、「リスクアセスメントを行ったら、あまりにも非現実的な結果が出た」というところである。これは、自らが行ったリスクアセスメントが適切なものではないと言っているようなものである。あるいは、「リスクアセスメントはその方法でなければならない」ということを当然の前提として、そのような結論を出しているのであろう。
確かに、労働安全衛生規則第34条の2の7第2項にリスクアセスメントの手法が限定的に記載されてはいるが、かなり広い範囲の手法が含まれる表現となっている。実質的にみれば、限定などされてはいないのだ。また、労働安全衛生規則のこの規定を別とすれば、少なくとも関連する指針・通達類には、リスクアセスメントの手法をなにかに限定するというようなことは一言も書かれてはいない。指針関連の通達に紹介されているリスクアセスメント手法の解説には、いささかくどいほど「例」という文字が書かれている。もしなにかの手法に限定されていると考えておられるならそれは誤解に過ぎないと申し上げたい。
要は、労働安全衛生法にいうリスクアセスメントの義務化とは、事業場で発生するかもしれない労働災害のリスクを判定してほしいということである。であれば、どのような災害がどのような頻度で発生し得るのか適切に判断し、それに対する必要な対策を検討すればよいのである。そうすれば、そもそもこの枠内のようなことは問題にもならないのである。
ふたつ目の問題は、もしリスクを適切に判断したにもかかわらず、その結果に基づく措置が非現実的だから次善の策をとるというのであれば、やはりそれもおかしいというべきである。もし、労働災害の発生が容認できないようなリスクレベルであると判断したのであれば、それに対する適切な措置をとらなければならない。
簡単に次善の策をとるという判断をしてはいけない。次善の策をとるというのなら、その前に、その次善の策をとることによってリスクのレベルが容認できるレベルまで下がるのかどうかを判定・評価しなければならないのである。このことを忘れてはならない。
そして、そのような判断をするには、一定の情報と知識が必要であり、それを得るためにはコストがかかるのである。しかしながら、そのコストは必要なものなのだということをご理解頂きたいのである。
(2)まとめ
以上をまとめると、「事業者は安衛法の規定があろうとなかろうと、また努力義務であろうと義務規定であろうと、予め起きると予想できるような事故・災害を起こしてはならない」というごく当たり前のことを言っているにすぎないのである。もう少し具体的に言えば、自らの事業場で取り扱っている化学物質について、世の中にある情報を調べてみて、自らの事業場で扱っているようなことをしていれば、事故が起きるということが分かるのであれば、そのような事故が起きないように対策をとらなければならないということなのである。
もし、それを怠って災害が発生した場合、民事賠償請求訴訟を起こされれば敗訴する可能性が高いのである。そればかりか、業務上過失致死傷などの刑事罰を受けるおそれもないとはいえないのだ。
次の、甲論、乙論のいずれが正しいかは、お分かりいただけると思う。
【甲論】リスクアセスメントは、厚生労働省がWEBサイトにアップしている簡易な手法を用いれば、特別な知識がなくても費用もかからず容易にできる。また、結果に基づく措置は努力義務なのだから必ずやらなければいけないというものではない。
【乙論】有害な化学物質を労働者に扱わせるのであれば、それによる災害発生のリスクを適切に調べて、必要なら適切な対策をとらなければならない。それには一定の知識が必要であるし、また一定のコストをかけなければならない。
厚生労働省がWEBサイトにアップしている簡易な手法といっても、万能ではない。むしろ簡易なシステムであることから、かなり過度な対策を求められることになる。しかし、過度な対策を求められたときはその対策をとらないということを前提にリスクアセスメントを行うのでは、リスクアセスメントを行う意味はあるまい。
むしろ事業を健全に運営するめには、職場のリスクを評価して、事故・災害のリスクを減少させることが必要であり、そのためには一定の知識とコストが必要なのだということを理解するべきなのである。
言葉を変えれば、安衛法が、努力義務を課しているだけだからといって、リスクアセスメントの結果に基づく措置は行わなくてもよいなどと簡単に考えてはならないのである。