リスクアセスメントなど、化学物質管理を行う際に、との換算が必要になることがしばしばあります。
そこで、EXCEL を用いて簡単な換算のためのツールを作成しました。ここでは、その考え方について説明しています。
内容の無断流用はお断りします。
との換算ツール
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1 背景事情
検知管を用いて作業場の気中濃度を測定したとき、結果がで表されるにもかかわらず、それと比較すべき職業暴露限界(※)がで表されているため、リスクアセスメントを行う際に単純な比較ができないことがあります。
※ 英文では、OEL(Occupational Exposure Limit values)と表示される、作業場所の気中濃度を管理するための指標となる濃度である。通常、「1日8時間、1週 40 時間で 40 年間ばく露しても、ほとんどすべての労働者に健康影響が現れない濃度」であるとして定められていることが多い。また、「一時的にでもその濃度を超えてはならない値」として定められることもある。
具体的には、日本産業衛生学会が勧告する許容濃度、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)が勧告する TLV、英国の HSE(英国安全衛生庁)の WEL 値、ドイツの DFG(ドイツ研究振興協会)の MAK 値、欧州の専門家の委員会が定める SCOEL 値など、様々な国や機関が定めている。
なお、日本政府が定める管理濃度は、職業暴露限界としての位置づけではないが、いくつかの職業暴露限界を参考に定められることがほとんどである。
※ イメージ図(©photoAC)
また、有名なリスクアセスメントツールである ECETOC(欧州化学物質生態毒性および毒性センター)が開発した TRA では、職業暴露限界をで入力しなければなりません。このため、職業暴露限界がで定められている物質のリスクアセスメントをする場合、に換算しなければならないことになります。
そこで、この換算を簡単に行えるツールを開発してみました。利用するためには EXCEL が必要となります。
2 換算の考え方
第2章では、この「との換算ツール」が換算をしている考え方について簡単に説明します。逆に、で表された値をに換算するときは、この考え方を逆にたどればよいことになります。ちょっと難しいと思われるかもしれませんが、そのときは読まなくてもツールは使用できます。
理想気体の状態方程式は、
となっています。
ここに、は圧力で、標準大気圧のときは となります。は気体の容積、は質量、はモル気体定数で、の値になります。は絶対温度で、気温にを加えれば算出できます。は分子量で単位はありません。
今、作業空間の気体中の化学物質の濃度がだったとしましょう。は単位のないただの数値だと思ってください。は百万分率(ここでは容量の割合)ですから の作業空間中には、この化学物質は あるはずです。従って、その重量は、①式から
となります。従ってその重量を単位で表そうとすると、この数値を倍すればよいことになります。
従って、をに換算するには、(の定義は変えましたが)次のようになります。
【1気圧のもとで を に換算する方法】
この式のにで表された職業暴露限界の数値を入れると、 に換算される。なお、ここには分子量、は気温である。
3 ツールの使い方
ツールはEXCELファイルで作成されています。まず、このサイトまたはVectorからツール(EXCELファイル/VectorからDLする)をダウンロードしてください。
EXCELファイルを開くと、右図のようになっています。
で表された値をに換算するには、上側を使用します。
職業暴露限界濃度、温度及び分子量を入力すれば、とくに何もしなくても自動的に職業暴露限界が出力されるようになっています。
なお、このツールでは「職業暴露限界」と表示していますが、すべての気中濃度について作動することは当然です。
一方、で表された値をに換算するには、下側を使用します。
先ほどと同様に、「職業暴露限界」とされたセルに職業暴露限界の値を入力し、あとは温度と分子量を入力すれば、で表された職業暴露限界が出力されます。