※ イメージ図(©photoAC)
2022年に化学物質管理に関する労働安全衛生政省令の改正が行われ、事業場の化学物質管理は自律的管理へ大きく舵を切ることとなります。
その本質をごく簡単に表すと、一定の条件の下で国の規制を離れた自由な管理を認めることを志向するものです。この中で、化学物質管理の専門家として「オキュペイショナル・ハイジニスト」が挙げられています。
本稿では、この「オキュペイショナル・ハイジニスト」とは何かについて簡単に解説します。
1 オキュペイショナル・ハイジニストって誰?
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厚生労働省の自律的管理に関する公式文書で、最初に"オキュペイショナル・ハイジニスト"に言及したのは、当サイトのでも取り上げた「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会中間とりまとめ」である。
中間報告書では、まず、諸外国では化学物質の自律的な管理にはインダストリアル・ハイジニスト(※)の判断が重視されているとの認識を示した。その上で、わが国でも、「化学物質の取扱いの規模が一定以上の企業は、定期的に、自律的な管理の実施状況について、インダストリアル・ハイジニスト等の専門家の確認・指導を受けること」を義務付けることが検討されていた。
※ インダストリアル・ハイジニストはオキュペイショナル・ハイジニストと同じ意味である。なお、日本を含む多くの国ではオキュペイショナル・ハイジニストと呼ばれており、インダストリアル・ハイジニストは米国の用語である。
中間報告書では、インダストリアル・ハイジニストとされていたが、後に、厚生労働省の公式文書では、オキュペイショナル・ハイジニストと呼ばれるようになった。本稿でも、オキュペイショナル・ハイジニストで統一することとする。
その後の、自律的管理に関する政省令においては、中間報告のままではないが、オキュペイショナル・ハイジニストの活用が盛り込まれている。自律的管理についての詳細は、当サイトの特設ページ「化学物質の自律的な管理 総合サイト」を参照して頂きたい。分かりやすく言えば、事業場における化学物質管理の在り方を、特化則等による法令規制型から「自律的な管理」を基軸とする形へ移行するというのがその骨幹である。
正直に言って、多くの事業者が、国の規制に基づいた管理に慣れ、化学物質管理の専門家が不足している中で、未規制物質=無害な物質という意識が蔓延してさえいる現状では、やや理想論に走りすぎた非現実的なものという危惧の念を感じないでもない。
だが、そのことについては、本稿では触れない。本稿では、この「オキュペイショナル・ハイジニスト」について簡単に解説する。
2 オキュペイショナル・ハイジニストとは
※ イメージ図(©photoAC)
国際的に、IOHA(International Occupational Hygiene Association)という国際組織が、各国における化学物質管理の専門家の育成プログラムを審査・認証(有効期間5年)する制度がある。オキュペイショナル・ハイジニストとなるには、IOHA の認証を受けた育成プログラムを修了する必要がある。
我が国においては、(公社)日本作業環境測定協会のプログラムが認証されている。なお、日本以外では現時点で15か国においてプログラムが認定されている。
この育成プログラムには、筆者(柳川)も講師として関わったことがあるが、全体で93時間の講義の受講が必要であり、かなり高度な知識が身につくものである。受講資格として、第1種作業環境測定士、労働衛生コンサルタント又は衛生工学衛生管理者として5年以上の実務経験が必要となる。
なお、同協会のWEBサイトによると、2022年12月19日現在56名が認定されているようだ。この他、ごくわずかではあるが、外国で資格を取った方もおられるので、我が国内の人数はそれよりは多いと思う。
3 自律的管理における位置づけ
自律的管理においてはオキュペイショナル・ハイジニストは、「化学物質管理専門家」と「作業環境管理専門家」としての活用が期待されている。これらの要件にインダストリアルハイジニストが定められているのである。なお、オキュペイショナル・ハイジニストには、実務経験は要しないものとされている。
【化学物質管理専門家の要件】
- 労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)で5年以上実務経験
- 衛生工学衛生管理者として8年以上実務経験
- 作業環境測定士として6年以上実務経験かつ厚生労働省労働基準局長が定める講習を修了
- その他上記と同等以上の知識・経験を有する者(オキュペイショナル・ハイジニスト有資格者等を想定)
※ 令和4年9月7日厚生労働省告示第274号(化学物質関連)及び令和4年9月7日厚生労働省告示第275号(粉じん関連)の規定を簡略化した。
【作業環境管理専門家の要件】
- 化学物質管理専門家の要件に該当する者
- 3年以上、労働衛生コンサルタント(労働衛生工学又は化学))又は労働安全コンサルタント(試験の区分が化学であるものに合格した者に限る。)であって、3年以上化学物質又は粉じんの管理に係るその業務に従事した経験を有する者
- 6年以上、衛生工学衛生管理者としてその業務に従事した経験を有する者
- 衛生管理士(労働衛生コンサルタント試験(労働衛生工学)に合格した者に限る。)に選任された者であって、3年以上労働災害防止団体法第11条第1項の業務又は化学物質の管理に係る業務を行った経験を有する者
- 6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者
- 4年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者であって、公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する研修又は講習のうち、同協会が化学物質管理専門家の業務実施に当たり、受講することが適当と定めたものを全て修了した者
- オキュペイショナル・ハイジニスト資格又はそれと同等の外国の資格を有する者
※ 令和4年5月 31 日基発 0531 第9号「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について」
そして、化学物質管理専門家の法令上の役割には次のようなものがある。
【化学物質管理専門家の役割】
- 監督署長による改善指示を受けた事業者への助言(安衛則第34条の2の10)
- 化学物質関連特別規則の適用除外の要件としての化学物質の管理(特化則第2条の3、有機則第4条の2、鉛則第3条の2、粉じん則第3条の2)
また、作業環境管理専門家の役割には次のものがある。
【作業環境管理専門家の役割】
- 作業環境測定の結果、第3管理区分となった作業場の改善の可否の判断(特化則第36条の3の2、有機則第28条の3の2、鉛則第52条の3、粉じん則第26条の3の2)
中間報告から考えると、かなり後退した感はある。おそらく、オキュペーショナル・ハイジニストの数が少なすぎ、中間報告で提案されたような役割を果たすには困難だと思われたのかもしれない。であれば、労働衛生コンサルタントにその役割を果たす制度が出来なかったものかと個人的には思える。
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