
※ イメージ図(©photoAC)
コバルトを含有する工具を研磨する作業に、作業主任者の選任は必要でしょうか。厚生労働省の職員の見解をお聞きしました。
このくらいと思うと、同道安全衛生法令に違反するばかりか、労働者の健康影響が出ることがあります。正しい対策をとる必要があります。
1 コバルト工具の研磨作業についての質問
執筆日時:
最終改訂:
最近、ある方から次のような質問をいただいた。
【ご質問の内容】
コバルトを含有する工具(バイト)を、週に2回程度研磨する作業を行っている。この場合に作業主任者の選任は必要でしょうか。
コバルトを含有する工具は、数多く使用されており、その研磨を行っている金属加工事業場の事業者も多いことと思われる。このことは、その方々にとっても、関心があるものと思われる。
本件について、厚生労働省の本件に詳しい職員(担当職員ではない)の方に尋ねて、その考え方について回答を得た。とくに秘密を要するとも思えず、貴重な資料なので、関係者の参考に公開する。
ただし、あくまでも口頭での回答を柳川の責任でまとめたものであり、厚労省の公式見解ではなく、また細かなニュアンスが異なっていることがあり得ることにご留意頂きたい。
2 関連通達
これについて、関係のありそうな行政解釈としては、平成24年10月26日基発1026第6号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」の中の次のような記述がある。なお、ここで「作業主任者の選任等」とは「作業主任者の選任、作業環境測定、特殊健康診断」を意味している。
【厚労省関係通達より】
一方、次のような作業で、インジウム化合物等及びコバルト等の粉じん等に労働者の身体がばく露されるおそれがないものは、作業主任者の選任等の規定の対象には含まれないものであること。
※ 平成24年10月26日基発1026第2号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について」
- (ア)~(イ)略
- (ウ)コバルトを含有する合金(超硬合金、メタルボンドを含む。)を素材とする工具を通常の使用方法により用いて、他の金属等の加工等(研磨、切削、圧延を含む。)を行う作業
しかしながら、これはコバルトを含有する工具(バイト)を用いて他の金属の加工を行う場合のことであり、コバルトを含有する工具(バイト)を研磨する作業は含まれていない。
常識的には、コバルトを含有する工具によって、他の金属を検索したとしても、それほどコバルトの粉じんがそれほど発散するとは思えないが、コバルトを含有する工具を研磨すれば、コバルト粉じんが発散することは容易に予測できよう。
しかし、この他には行政の解釈はないようだ。
3 厚生労働省の職員からの回答
そこで、厚生労働省の知り合いの職員に尋ねた。この職員は、その時点では直接の担当者ではなかったが、この種の問題に詳しく、かつ信頼できる人物である。
この職員の方から、概要、以下の回答を得た。
【厚労省の職員からの回答】
- (1)「グラインダーにより、コバルトを含有する工具を研磨する作業」というだけでは、特化則の適用があるかどうかを明確に回答することは困難である。
- (2)特化則が適用されるか否かは、実際に研磨する量や時間、頻度等にもよるので、個別判断するしかない。ただし、週に2回は少ない回数とは言えないと考える。
- (3)コバルトを含有する超硬合金については、ACGIHが2015年に、コバルト(hard metals containing cobalt [7440-48-4], as Co)の他に、タングステンカーバイトコバルト超硬合金(コバルトとして)(tungsten carbide [12070-12-1], as Co)について、TLV-TWAを独立して設けた。
- そして、タングステンカーバイトコバルト超硬合金について定められたTLV/TWAの値は、0.005mg/m3(Coとして)であり、きわめて低い(※)。
- (4)実際に詳しく作業内容を検討しないと明確には言えないが、作業主任者の選任を要しないと答えることはできない。
※ なお、コバルトそのもののTLV/TWAは0.02 mg/m3である。これについては中央労働災害防止協会技術支援部の資料を参照のこと。また、日本産業衛生学会の2020年度の許容濃度等は、コバルトおよびコバルト化合物(タングステンンカーバイドを除く)[7440-48-4]について、0.05mg/m3とされている。(「平成30年度 第1回 個人サンプラーを活用した作業環境管理のための専門家検討会」に提出した資料「参考資料4-7 管理濃度と許容濃度等との比較表」を参照されたい。)
4 考察
具体的に詳細な内容を示して尋ねたわけではないので、明確な回答をいただくことはできなかった。しかしながら、バイトの研磨作業であっても、状況によっては気中濃度が0.005mg/m3に達する危険性は高いと考える。
コバルトを含有する物の加工業務であることは確かであり、また、週に2回の業務を反復継続するのであれば、「常時性」があるというべきである。
このように考えると、特化則の適用はあると考えて、同則に定められた必要な対策をとるべきだろうと思う。
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