※ イメージ図(©photoAC)
労働安全コンサルタント試験は、労働安全管理の能力を証明するための最もレベルの高い国家試験で、近年、受験者数は増加傾向にあります。
受験者は、職場の安全衛生の担当者のみならず、医師、技術士など他の分野の専門家も数多く受験しています。
本サイトは、この試験を受験するほとんどの方のご利用を頂いています。そこで、択一試験の解答した状況と、受験した方の属性についてのアンケート調査をWEB上で行いました。
その結果を公開します。内容の無断流用はお断りします。
- 1 調査の方法と回答数
- (1)調査の方法
- (2)回答数
- 2 択一式試験の解答結果
- (1)難易度の区分と正答率の分布
- (2)労働衛生と産業安全の難易度の差
- 3 受験者の属性
- (1)産業安全法令
- (2)産業安全一般
- 4 最後に
1 調査の方法と回答数
執筆日時:
(1)調査の方法
※ イメージ図(©photoAC)
当サイトは、過去問の解説を中心に労働安全衛生コンサルタント試験の受験支援を行っている。そして、Googleアナリティクスの分析結果を見ると、労働安全衛生コンサルタント試験この試験を受験しようとしている方のほとんどすべての方にご利用いただいているといってよい状況になっている。
過去問の解説のうち択一試験については、私の主観に基づいて「難易度」を付けていたが、あくまでも私の感覚に頼っており、必ずしも客観性があるわけではなかった。そこで、このサイトを閲覧頂いている方に、WEB上でお願いして、2021年(令和3年)から実際の試験で解答した内容のアンケート調査を行うことにしたのである。
そして、解答を入力して頂いた方には会員サイトのIDコードとパスワードをお知らせし、それまで一般に公開していた試験直後の「正答予想」を本年から会員サイトで行うことにしたのである。
(2)回答数
実際に解答して頂いた方の数は、次のようになった。
実施年度 | ||||
---|---|---|---|---|
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | ||
労働安全 | 労働安全法令 | 269 | 243 | 214 |
労働安全一般 | 252 | 246 | 209 |
残念ながら年を追うごとに解答者数は減少してしまった(※)が、これは 2023 年度の難易度がやや極端に高くなったため、口述試験をあきらめた受験者が多かったからではないかと思う。
※ 労働衛生コンサルタント試験は、逆に年を追うごとに解答者数が急増している。
2023年度の労働安全コンサルタント試験の筆記試験の受験者は、1,519人(2022年度1,236人)である。
しかし、実際には、労働安全衛生コンサルタントは、各科目の免除を受ける受験者がきわめて多いので、それぞれの科目については、全体の受験者の半数程度しか受験しないのが実態である。
そのように考えると、全受験者の半数近い方が解答を寄せて下さったと考えてよいのではないかと思う。解答数だけを考えれば、統計的には十分に全体を代表できる結果が出たと考えられる。
今回のアンケートでは、受験者の属性についてもいくつかの質問をさせて頂いている。氏名(ハンドルネーム可)と受験区分だけは必須入力としたが、他の項目は任意入力としている。実際には、ほとんどすべての方から御回答を頂いた。
2 択一式試験の解答結果
(1)難易度の区分と正答率の分布
ア 難易度区分
択一試験の個々の問題の解答状況はグラフにして各問題の解説の冒頭に掲げている。また、それとは別に「難易度」を示している。難易度は、正答率によって次のように分類してある。
正答率 | 難易度 |
---|---|
80%以上 | 1 |
70%以上 80%未満 | 2 |
60%以上 70%未満 | 3 |
50%以上 60%未満 | 4 |
50%未満 | 5 |
イ 難易度ごとの問題数分布
その結果、各科目の難易度ごとの問題数は、次のようになった。例えば、2023年度の産業安全一般だと、80%以上の方が正答した難易度1の問題が5問あり、50%未満の方しか正答できなかった難易度5の問題が12問あったわけである。
年度 | 難易度 | 正答率 40%未満 (内数) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||||
労働安全 | 産業安全法令 | 2023年度 | 0 | 0 | 4 | 3 | 8 | 5 |
2022年度 | 1 | 3 | 6 | 1 | 4 | 3 | ||
2021年度 | 0 | 4 | 4 | 4 | 3 | 1 | ||
産業安全一般 | 2023年度 | 5 | 3 | 3 | 7 | 12 | 7 | |
2022年度 | 6 | 4 | 6 | 4 | 10 | 5 | ||
2021年度 | 8 | 9 | 3 | 5 | 5 | 3 |
そして、難易度が年を追うごとに高くなっているのがお分かりいただけると思う。正答率 50 %未満の難易度5の問題や正答率 40 %未満の問題数が年を追うごとに急増している。当サイトの解答の入力を頂いた方の数が年を追うごとに減少しているのは、おそらくこれが原因である。
しかも、受験の結果を入力して頂いている方は、正答予測が知りたいという方が多いであろうから、本気で受験している受験者や合格の可能性がある受験者に集中している可能性はある。当然のことではあるが、成績は良い方向へバイアスがかかっていると考えるべきであろう。
例えば、2021年の産業安全一般については、70 %以上正答された問題が半数以上ある。これは、個々の問題をみてみると実感できるが、この年度のこの科目がとくに易しいということではない。解答を入力して頂いた受験者が優秀だということだと思える。
なお、現実の 2022 年度の筆記試験の結果は、合格率が 29.9 %と前年の 40.1 %を大きく下回った(※)。。ただ、過去 10 年間では、2013年の 19.9 %、2018年度の 21.8 %などと比較して、必ずしも「きわめて低い」という数値ではない。
※ 筆記試験の結果の詳細は、当サイトの「労働安全コンサルタント試験受験の勧め(2/7)」を参照されたい。
(2)2021年度から2023年度までの難易度の変化
ここで、60%以上正答すれば合格という観点から考えると、正答率が60%以上の難易度が1~3の問題数は、産業安全一般で 2023 年度が11問、2022年度が14問、2021 年度が20問である。産業安全法令では、2023 年度は4問、2022 年度は10問、2021 年度は8問となっている。総合的に見れば、2023年度はここ3年間では難易度がきわめて高いと評価できる。
また、一般と法令を合わせて27問を正答できれば合格できると考えると2023年度は難易度が1~4の問題全てと難易度が5の問題2問を正答できなければならない。2022年度は、難易度1と2の問題を全てと難易度3の問題を3問正答できれば合格である。2021年度は、やや難易度が高かったとはいえ、3の問題を6問正答できれば合格できたのであるから、2023年度の難易度の高さはやや異常と考えられよう。
なお、2023年度の筆記試験の合格率はまだ公表されていないが、2022 年度は 29.9 %で、2021年度は 40.1 %となっている。
3 受験者の属性
(1)産業安全法令
ア 試験区分
試験区分は、ほぼ昨年と同様な傾向であるが、土木が 54.7 %(2022年度 60.1%以下カッコ内 2022 年度)と過半を占め、建築が 23.8 %(16.0%)、機械が 11.7 %(12.3 %)、化学 2.8 %(6.6 %)、電気 7.0 %(4.9 %)であった。化学が激減しているが、昨年急増したのでその反動だろうか。
イ 合格までの学習時間
合格までの学習時間については 212 名とほとんどの方に御回答を頂いている。100時間以内が 42.5 %(39.6 %)で、200 時間以内の受験者が合わせて 72.6 %(73.3 %)となる。この傾向は労働衛生法令とほぼ同じであった。勤務や家庭内での責任のある方が多いであろう多くの受験者にとって、試験勉強の時間は 200 時間以内しか確保できないということのようだ。
ただ、200 時間超の方が全体で 21.7 %(24.2 %)おられ、800 時間を超えると回答した方も 1.9 %(0.4 %)おられる。やはり、多くの学習時間を費やす必要のある試験ということでもあろう。ただ、2023 年度は2022 年度より学習時間がわずかではあるが短くなっているようだ。
ウ 受験者の年齢
年齢は 207 名の方に御回答を頂いている。やはり試験の性格からか 20 代の方は 1.9 %(0.9 %)と少なかった。30代が 10.6 %(10.3 %)、40代が 26.1 %(21.4 %)と働き盛りの方が多いのは衛生コンサルタントも同様である。
意外なことに50代の方が 43.0 %(45.3 %)とかなりの割合を占めている。退職準備という意味合いがあるのだろうか。
一方、60代が 16.9 %(20.9 %)、70代以上の方が 1.4 %(1.3 %)と高齢になっても、産業安全の分野で働きたいという希望を持たれる方も多いようである。
エ 受験者のジェンダー(性別)
ジェンダー(性別)は 207 名の方に御回答を頂いている。男性が 98.1 %(97.9 %)と圧倒的な多数となった。労働安全の分野には、まだまだ女性の進出は進んでいないようだ。
女性は 1.9 %(2.1 %)と2021年度から2年連続で減少した。その他の方は2023年度は、昨年度に引き続きいらっしゃらなかった(※)。
※ このことはSOGI(LGBTQ+)の受験者の方がいないということを意味しない。そもそも本項では性的指向を訪ねてはいないし、性的指向が多数派と異なる方の多くは男性又は女性である。さらに言えば、トランスジェンダーの方も多くは男性(FtM)又は女性(MtF)である。その他に該当するのは、Gender Nonconforming、gender fluid、agender などの方であろうが、カミングアウトしていない場合も多いだろう。
オ 労働安全衛生業務の経験
労働安全衛生業務の経験は 206 名の方に御回答を頂いている。回答は、「なし」から「20年以上」まで、ばらついている。20年以上が 20.4 %(20.5 %)と、長期の経験者が多いということが分かる。
原則として受験のためには実務経験が必要なのだが、実務経験が必要でない資格をお持ちの方も多く受験しておられるようだ。
カ 所属事業場の業種
所属事業場の業種は 207 名の方に御回答を頂いている。なお、「政府機関・地方自治体・道立行政法人・その他の公務」までは通常の選択肢で、「その他(入力なし)」以下は「その他」の項目の自由回答に記載された内容である(※)。とくに修正せずにそのまま記載している。
※ 「その他(入力なし)」は、その他を選択して自由回答欄に記述のなかった方である。
建設業が最も多く 67.1 %(67.0 %)を占めた。次いで多いのが製造業の 17.4 %(17.2 %)で、この2つで 84.5 %(84.1 %)と8割を超える。「労働安全」という職能がこの2つの業種に限られているということであろうか。その他は、「政府機関・地方自治体・道立行政法人・その他の公務」の4.3%が目立つ程度で、「コンサルティング(社会保険労務士等)」、「運輸交通/貨物取扱」「商業」がそれぞれ 1.9%など、他の業種が意外なほどに少なかった。
なお、その他に「登録教習機関」があるが、これは都道府県労働局長の登録を受けて、技能講習等を行う機関である。
このことは、建設業、製造業以外の業種では、社内に労働安全の専門知識を有する職員がほとんどいないことを示している。運輸交通業で「墜落・転落災害」の現象がみられないことの原因はこんなところにもあるのかもしれない。
キ 受験者の勤務内容
勤務内容は、205 名の方から御回答を頂いた。こちらも、「その他(入力なし)」以下が「その他」の項目の自由回答である。
これまでに比して「労働安全衛生」の 41.5 %(24.3 %)が急増した。その他は「専門・技術」が 22.9 %(33.9 %)、「管理業務」の22.4%(26.5%)がこれに次いでいる。「生産部門・生産技術」の方は 9.3 %(10.0%)と意外に少なかった。
おそらく2023年度に「労働安全衛生」が急増したのは、試験問題の難易度が上がったために、他の職種の方が合格を諦めて入力しなかったということであろう。だが、労働安全コンサルタントの多くが、たんに「安全衛生」の分野の専門家の資格にとどまらず、様々な分野の専門知識を有しておられる方の資格であるということはいえよう。わが国の企業の安全を専門家として支えているのは、幅広い分野で活躍しておられる方なのである。
ク 受験者の保有する資格
受験者の保有する資格は、213名の方から御回答を頂いた。「一級計装士」(※)以下が「その他」の項目の自由回答である。
※ 2022年度まで衛生コンサルタントと選択肢を統一してきたが、2023年度以降は、歯科医師、薬剤師、保健師・看護師の選択肢をなくし、1級土木施工管理技士及び1級建築施工管理技士を加えることとした。
結果的に昨年とは大きく変わり「1級土木施工管理技士」が 56.7 %、1級建築施工管理技士が 60.0%となった。一方、「技術士」が 28.4 %(42.3%)と激減した。これは、技術士の方にとって2023年度の問題が難しかったため、多くの方が筆記試験を受けた時点で諦めたということだろう。
また、衛生管理者の資格を有する方が 50 名(51名)おられる。安全衛生全体の業務を行っておられる方が安全コンサルタント試験を受けておられるのであろう。衛生コンサルタントの資格を有する方も2名(4名)おられる。
また、法律関係の資格では社会保険労務士が3名(1名)おられる。行政書士は0名(1名)となった。労働安全コンサルタント試験は、一部の法律関係の士業の多角経営の手段ともなっているようだ。
(2)産業安全一般
ア 試験区分
労働安全コンサルタント試験は、産業安全法令と産業安全一般で、回答者がほぼ重なっている。従って、産業安全一般も産業安全法令と大きくは変わらないので、以下、その違いに着目して説明する。
試験区分は、それほど法令と異なっていない。わずかに土木が多い程度であろうか。
イ 合格までの学習時間
合格までの学習時間は 205 名とほぼ全員の方に御回答を頂いている。産業安全法令とそれほど変わらない。
ウ 受験者の年齢
年齢は 200 名の方に御回答を頂いている。産業安全法令とほぼ同様である。
エ 受験者のジェンダー(性別)
ジェンダー(性別)は199名の方に御回答を頂いている。女性が2%と産業安全法令とほぼ同様である。。
オ 労働安全衛生業務の経験
労働安全衛生業務の経験は 196 名の方に御回答を頂いている。産業安全法令と大きくは変わらないが、やや経験年数の長い方が多くなっているような印象を受ける。
カ 所属事業場の業種
所属事業場の業種は 198 名の方に御回答を頂いている。ほぼ、産業安全法令と傾向は変わらない。
キ 受験者の勤務内容
勤務内容は、196 名の方から御回答を頂いた。「調査・診断」からがその他の自由解答欄である。ほぼ、産業安全法令と傾向は変わらないが自由回答がやや多くなっているようだ。
ク 受験者の保有する資格
受験者の保有する資格は、199名の方から御回答を頂いた。「一級管工事施工管理技士」以下が「その他」の項目の自由回答である。
ほぼ産業安全法令と同様な傾向である。
4 最後に
※ イメージ図(©photoAC)
この受験者に関するこのアンケート調査は今年度で3年目になる。その結果からは、受験者の年齢の高さと経験年数の長さから、労働安全という職能分野のグループは、短期間では育成が困難な専門家の集団だということが分かる。
現時点では、建設業と製造業に集中しているが、他の運輸業や商業でも労働安全衛生に関する職能グループが育ってくることが強く望まれる。
また、労働衛生分野と比較すると、労働安全の分野は極端に男性に集中している。かつては、女性保護の立場から、女性の参入しにくい分野だったのかもしれない。しかし、近年では女性が危険な職種に就くことも増えており、それらの女性保護の観点からも、女性の感性を有する専門家の参入が望まれる。
労働災害の発生件数は、戦後の一時期に比較すると大きく減少してはいるが、ここ10年ほどは増加傾向にある。今後も幅広い分野での専門家の参入が望まれよう。
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