※ イメージ図(©photoAC)
労働安全衛生コンサルタント試験は、筆記試験と口述試験があり、筆記試験は、専門一般(択一)、法令(択一)、専門(記述)の3科目に分かれています。ところが受験者の保有している資格等によって、科目ごとに免除を受けることができる範囲が広く定められていることが大きな特徴になっています。
科目免除を受けることができる受験者は、免除を受けた方が有利になると思われるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。免除を受けてしまうと、免除を受けた科目以外で、合格基準の6割の得点をしなければならなくなります。これは、必ずしも有利な状況ではありません。
結論を言えば、免除を受けられる科目で6割以上の得点をする自信があるなら、免除は受けない方がよいのです。そして、多くの受験者にとって、免除を受けることができる科目は得意な分野でしょう。だからこそ、免除を受けることができるのです。
本稿では、択一試験の最近の各科目ごとの得点分布状況をお示ししています。ご自身が、免除を受けようとする試験科目の得点分布を参照し、高い得点を得られる機会を自ら放棄してしまうことがないように十分に注意してください。
1 得点分布の調査の方法と回答数
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(1)調査の方法
※ イメージ図(©photoAC)
本稿の得点分布の調査の方法は、当サイトを閲覧頂いている方(※)に対してWEB上でお願いし、2021年度(令和3年度)から、実際の試験で解答した内容のアンケート調査を行うことによっている。
※ Googleアナリティクスによると、当サイトの労働安全衛生コンサルタント支援のページの閲覧数は、2021年1月1日から同11月30日までのページビュー数が、1,441,973PVとなっており、そのうち417,833PV が筆記試験のある同10月1か月間で閲覧されている。労働安全衛生コンサルタント試験を受験しようとしている方には、ほとんどすべてご利用いただいているといってよい。
なお、解答を入力して頂いた方には、メリットとして会員サイトのIDコードとパスワードをお知らせしている。会員サイトにおいては、それまで一般に公開していた試験直後の「正答予想」を会員サイトに移動したほか、メールまたは掲示板でご報告いただいた口述試験の結果を掲載している。
(2)回答数
実際に回答して頂いた方の数は、次のようになった。いずれも筆記試験の実施日から口述試験の最終日までにご入力を頂いた方の統計である。
実施年度 | |||
---|---|---|---|
2022年度 | 2021年度 | ||
労働衛生 | 労働衛生法令 | 193 | 143 |
労働衛生一般 | 68 | 51 | |
労働安全 | 産業安全法令 | 243 | 269 |
産業安全一般 | 246 | 252 |
※ 2022年度の労働衛生法令の解答者数は72であったが、全問について「無解答/忘れた」と解答した方が3名、後半をすべて「無解答/忘れた」と回答した方が1名いたので統計から除いた。
2022年度の労働安全衛生コンサルタント試験の筆記試験の受験者数は、(公財)安全衛生技術試験協会の「試験協会NEWS」によると、安全コンサルタントが1,236人、衛生コンサルタントが608人である。
実際には、労働安全衛生コンサルタント試験は、各科目を免除される受験者の範囲がきわめて多いので、それぞれの科目については、全体の筆記試験受験者の半数程度しかいないのが実態である(※)。
※ 免除を受けた受験者数は公表されていない。なお、労働衛生一般について回答して頂いた方は、労働衛生法令に回答して頂いた方はよりもかなり少ない。これは、労働衛生一般を免除によって受けなかった方が多いためである。
そのように考えると、全受験者の半数以上の方が解答を寄せて下さったと考えてよいのではないかと思う。解答数だけを考えれば、統計的には十分に全体を代表できる結果であると考えられる。
ただ、受験の結果を入力して頂いている方は、正答予測が知りたいという方が多いであろうから、本気で受験している受験者や合格の可能性がある受験者に集中している可能性はある。当然のことではあるが、成績は良い方向へバイアスがかかっている(※)と考えるべきであろう。
※ 一方で、極端に正答率の低い回答が、数件、混じっていることも事実である。明らかに問題のあるケースを除き、そのようなものも統計から除いてはいない。
なお、今回のアンケートでは、受験者の属性についてもいくつかの質問をさせて頂いている。氏名(ハンドルネーム可)と受験区分だけは必須入力としたが、他の項目は任意入力としている。実際には、ほとんどすべての方から御回答を頂いた。
2 択一式試験の解答結果
(1)難易度の区分と正答率の分布
ア 難易度区分
択一試験の個々の問題の解答状況はグラフにして各問題の解説の冒頭に掲げている。また、それとは別に「難易度」を示している。難易度は、正答率によって次のように分類してある。
正答率 | 難易度 |
---|---|
80%以上 | 1 |
70%以上 80%未満 | 2 |
60%以上 70%未満 | 3 |
50%以上 60%未満 | 4 |
50%未満 | 5 |
イ 難易度ごとの問題数分布
その結果、各科目の難易度ごとの問題数は、次のようになった。例えば、2022年の労働衛生法令だと、80%以上の方が正答した難易度1の問題は4問、50%未満の方しか正答できなかった難易度5の問題が9問となるわけである。
年度 | 難易度 | 正答率 40%未満 (内数) |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||||
労働衛生 | 労働衛生法令 | 2021年度 | 4 | 0 | 1 | 1 | 9 | 6 |
2022年度 | 2 | 4 | 2 | 3 | 4 | 4 | ||
労働衛生一般 | 2021年度 | 6 | 9 | 9 | 1 | 5 | 4 | |
2022年度 | 16 | 4 | 0 | 2 | 8 | 6 | ||
労働安全 | 産業安全法令 | 2021年度 | 0 | 4 | 4 | 4 | 3 | 1 |
2022年度 | 1 | 3 | 6 | 1 | 4 | 3 | ||
産業安全一般 | 2021年度 | 8 | 9 | 3 | 5 | 5 | 3 | |
2022年度 | 6 | 4 | 6 | 4 | 10 | 5 |
これまで2年間のみの調査であるが、現実には、実施年度によってもかなりばらつくようである。また、2022年度の労働衛生一般は、難度の低い誰でも正答できるような問いと、難易度が極端に高くて誰も解けないような問いに分かれたような印象を受けた。この表を見ても、事実、そのようになっている。
また、安全コンサルタント試験は衛生コンサルタント試験よりも筆記が難しいといわれることがある。確かに、この表を見ても、産業安全一般は、労働衛生一般に比して難易度が高いという印象を受ける。これは、実際に解説を作成していてもそのように感じる。
次の図は、労働衛生一般及び産業安全一般のそれぞれの問の正答率を、正答率の高い順に左側から並べたグラフである。このグラフ(折れ線)が下にあるほど難易度が高いということになる。2022年度の労働衛生一般は、正答率70%以上の問題にすべて正答すると20問が正答できる。一方同年の産業安全一般では11問しか正答できないのである。
また、合格するためには、18点以上を確保しなければならない。仮に、正答率の高い問題の順に正答できるとすると、2022年度の労働衛生一般は正答率が 79.4 %より高い問題を解ければよい。これに対し、2022年度の産業安全一般については、正答率56.3%以上の問題まで解けなければならないのである。
では、労働衛生法令及び産業安全法令についてはどうだろうか。次のグラフを見て頂きたい。2021年度の労働衛生法令は、かなり難易度が高かった(※)が、2022年度は産業安全法令とほぼ同程度になっている。
※ 2021年度は、コロナ禍の関係で医師が筆記試験免除を受けることができないケースが多かった。そのために正答率が高くなったと思われるかもしれないが、これは後述するように事実に反する。少なくとも、当サイトの分析では、医師の正答率が他の受験者の正答率より低いという事実はない。
こちらは、合格するためには9問以上を確保しなければならない。2022年度の労働衛生法令は、正答率56.5%までの問題が解けなければならない。これに対し、2022年度の産業安全法令は正答率61.7%の問題まで解く必要がある。
これは何を意味するだろうか? 合格を有利にするという観点だけから考えるのであれば、平均的な受験者(※)にとっては、2022年度の傾向がこれからも続くなら、労働衛生コンサルタント試験については、労働衛生法令を受験するなら労働衛生一般の免除を受けるべきではないということになる。一方、労働安全コンサルタント試験の受験者にとっては、産業安全一般を受験するなら、産業安全法令は免除を受けない方がよい。
※ もちろん、それぞれの得意分野が何かによって、結論は異なる。また、免除を受けないことで、試験の機会に学習をしておけば、後の仕事に役立つということもあろう。なお、記述式の問題で、60%前後を確保できると仮定してのことである。
しかし、2021年度については、安全コンサルタント試験についても産業安全法令を受験するなら、産業安全一般は免除を受けない方がよいことになるので、安全コンサルタント試験についてはなんともいえない。
一方、衛生コンサルタントについては、2021年度も同様に、労働衛生法令を受験するなら労働衛生一般の免除を受けるべきではないということになる。
なお、医師の資格を有する受験生はかなりおられる。ほとんどの方が労働衛生法令のみを受験しておられるが、次図を見ても分かるように、成績は医師以外の受験生(※)よりよい傾向がある。
※ 「保有資格」について何らかの回答をされた方で、保有資格に「医師」が含まれていない方。医師と医師以外の資格を保有している方は「医師」に分類してある。
医師が成績を下げているというのは、誤解に過ぎない。
(2)正答数の分布
次に、受験者の正答数の分布をみてみよう。次のグラフは、労働衛生一般及び産業安全一般について、正答した問題数ごとの受験者数(割合)を示している。
合格するためには18問以上に正答しなければならない。2021年度、2022年度ともに最頻値は18問を上回っているが、2022年度の産業安全一般はぎりぎりといったところだろうか。一方、労働衛生一般は、かなりの余裕で18問を上回っている。
また、12問よりも点数が少なければ、その時点で不合格である。2022年度の産業安全一般は裾が12問を切っている。衛生一般も一部に12問を切っている受験生がいるが、これは中央の集団から離れており、ほとんど学習が進まないうちに「お試し」的な受験をしたケースかもしれない。
一方、法令については全般に成績はあまりよくない。
労働衛生法令は、2021年度、2022年度ともに最頻値が合格圏の9問を下回っている。また、安全コンサルタント試験、衛生コンサルタント試験ともに、裾切り値の6問を下回っている受験生がかなりいる。
とくに、2021年度の労働衛生法令については、裾切り値の9問を下回った受験者が 145 名中 35 名(24.1%)いる。かなりの難関だったといえよう。
ここでも、医師の資格を有する受験者と医師以外の比較をしてみよう。次図を見れば明確だが、医師の方がその他の受験生に比して成績が良いことが分かる。
医師以外の成績は、最頻値が合格ラインの9問正解を下回っている。一方、医師の成績は、2022年度の最頻値が合格ラインを上回っているのである。
ただし、注意しなければならないことは、労働衛生法令で6問から8問の正解をした受験者が、かなりいることである。医師の場合は、ほとんどが労働衛生一般と衛生管理(記述式)の免除を受けているので、6問から8問の正解をした受験者はそのまま不合格になってしまう。
ところが、医師以外の受験者の多くは労働衛生一般の免除を受けていないのである。そして、労働衛生一般は6割以上の解答をした受験者の割合がかなり高い。そのため、6問から8問の正解をした医師以外の受験者で、合格をした方もかなりいると思われるのである。このため、医師の合格率が、医師以外の受験者の合格率よりも低い可能性は否定できない。
なお、労働衛生一般に関しては、2021年度は医師で受験された方は3名のみだったが、2022年度は11名おられる。そこで、2022年度の得点の分布のグラフを次に示しておこう。
やはり医師の方が医師以外の受験者の方よりも成績は良いようだ。ただ、医師の方は、免除が受けられるにもかかわらずあえて受験しておられる方なので、そもそも労働衛生一般について自信のある方が多かっただろうから一般化はできないかもしれない。
ただ、それぞれの「問題ごとに医師の方と医師以外の方の正答率を見ると、ほぼ医師と医師以外の方で差はないが、顕著に医師の方が正答率の高い問題がある。
とくに正答率の差が大きいのは、問14(消化器の生理機能)と問15(加齢による人体の機能の変化)で、医師の方はほぼ完全に正答をしている。これに対し、医師以外の方の正答率は20%強であるから、まったく分からなかったという方がほとんどだったのだろう。
これに対し、医師の方の正答率が顕著に低かったのは、問17(作業環境測定結果の換算値変換係数の算出方法)と問30(化学物質リスクアセスメント指針)である。問17は医師以外の方も正答率は低く、ほぼ作業環境測定士が正答できただけであろう。問30もそれほど大きな違いがあるわけではない。
3 免除を受けるメリット・デメリットは
※ イメージ図(©photoAC)
最後になるが、このように見る限り、労働衛生コンサルタントに関しては、労働衛生法令を受けるのであれば、労働衛生一般の免除を受けることは、一般的には避けた方がよいことになる。
また、繰り返しになるが、合格後の仕事を適切に行うためにも、試験の免除を受けずに、受験の機会を利用して学習をしておくということも考えられる。試験のためとはいえ、一定の学習の効果は、仕事においても役に立つはずである。
もちろん、それぞれの受験生ごとに、得手不得手があるだろうからなんともいえないが、労働衛生一般の難易度はそれほど高くない。労働衛生一般の免除を受けるのであれば、慎重に検討をした方がよさそうだ。
とくに医師の受験者の方は、ほとんどの方が労働衛生法令のみを受験して、労働衛生一般を受験しておられない。しかし、先述したように、労働衛生法令のみで受験していると、6問から8問を正解しても不合格になってしまう。一方、労働衛生一般の免除を受けていなければ、合格した可能性があるのだ。
医師の方で、法令はあまり得意ではないという方は、労働衛生一般の免除を受けないことも視野に入れた方がよいかもしれない。
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