労働安全コンサルタント試験 2025年 産業安全関係法令 問11

元方事業者又は注文者の講ずべき措置




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 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2025年度(令和07年度) 問11 難易度 元方事業者に対する規制に関するやや細かな条文問題。正答率は本年度で一番高い。
元方事業者等の義務  1 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。(中途段階なので、今後、修正があり得る。)
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問11 元方事業者、注文者等の講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。

(1)化学設備の修理、清掃等で当該設備の内部に立ち入る作業に係る仕事の注文者が請負人に交付しなければならない文書に記載すべき事項には、当該仕事の作業において注意すべき安全又は衛生に関する事項が含まれる。

(2)運輸業に属する仕事の元方事業者は、関係請負人が、当該仕事に関し、労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行わなければならない。

(3)造船業の仕事を自ら行う注文者は、船舶の二重底の内部において、請負人の労働者に自動溶接機以外の交流アーク溶接機を使用させるときは、当該交流アーク溶接機に、厚生労働大臣が定める規格に適合する交流アーク溶接機用自動電撃防止装置を備えなければならない。

(4)金属製品製造業に属する事業の元方事業者は、元方事業者として行わなければならない作業場所の巡視については、少なくとも毎週1回、これを行わなければならない。

(5)請負人は、注文者が足場の作業床の最大積載荷重を足場の見やすい場所に表示しなければならない場合において、当該表示がされていないことを知ったときは、速やかにその旨を注文者に申し出なければならない。

正答(4)

【解説】

問11試験結果

試験解答状況
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本問は、本サイトが解答状況のアンケートを取り出した 2021 年度以降の産業安全関係法令で最も正答率が高かった。正答の(4)が 2021 年度の過去問とほぼ同じ問題だったからかもしれない。

(1)正しい。安衛則第 662 条の4第1項(第一号)(及び安衛法第 31 条の2・安衛令第9条の3(第一号)・安衛則第 662 条の3)により、化学設備の修理、清掃等で当該設備の内部に立ち入る作業に係る仕事の注文者が請負人に交付しなければならない文書に記載すべき事項には、当該仕事の作業において注意すべき安全又は衛生に関する事項が含まれる。

なお、これは 2006 年(平成 18 年)施行の安衛法等の改正(※)によって創設された制度である。

※ 関心があれば、施行通達(平成 18 年2月 24 日基発第 0224003 号「労働安全衛生法等の一部を改正する法律(労働安全衛生法関係)等の施行について」)を参照されたい。

【労働安全衛生法】

第31条の2 化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物を製造し、又は取り扱う設備で政令で定めるものの改造その他の厚生労働省令で定める作業に係る仕事の注文者は、当該物について、当該仕事に係る請負人の労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

【労働安全衛生法施行令】

(法第三十一条の二の政令で定める設備)

第9条の3 この政令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 化学設備(別表第一に掲げる危険物(火薬類取締法第2条第1項に規定する火薬類を除く。)を製造し、若しくは取り扱い、又はシクロヘキサノール、クレオソート油、アニリンその他の引火点が65度以上の物を引火点以上の温度で製造し、若しくは取り扱う設備で、移動式以外のものをいい、アセチレン溶接装置、ガス集合溶接装置及び乾燥設備を除く。第15条第1項第五号において同じ。)及びその附属設備

 (略)

【労働安全衛生規則】

(法第三十一条の二の厚生労働省令で定める作業)

第662条の3 法第31条の2の厚生労働省令で定める作業は、同条に規定する設備の改造、修理、清掃等で、当該設備を分解する作業又は当該設備の内部に立ち入る作業とする。

(文書の交付等)

第662条の4 法第31条の2の注文者(その仕事を他の者から請け負わないで注文している者に限る。)は、次の事項を記載した文書(その作成に代えて電磁的記録の作成がされている場合における当該電磁的記録を含む。次項において同じ。)を作成し、これをその請負人に交付しなければならない。

 法第三十一条の二に規定する物の危険性及び有害性

二~四 (略)

2及び3 (略)

(2)正しい。安衛法第 29 条第2項により、運輸業かどうかにかかわらず(※)、仕事の元方事業者は、関係請負人が、当該仕事に関し、労働安全衛生法又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行わなければならない。

※ 本項は、元方事業者全般に対するものであり、業種は限定されない(同法第 15 条の定義参照)ので、運輸業であったとしても適用される。

【労働安全衛生法】

(統括安全衛生責任者)

第15条 事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が二以上あるため、その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)(後略)

2~5 (略)

(元方事業者の講ずべき措置等)

第29条 元方事業者は、関係請負人及び関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行なわなければならない。

 元方事業者は、関係請負人又は関係請負人の労働者が、当該仕事に関し、この法律又はこれに基づく命令の規定に違反していると認めるときは、是正のため必要な指示を行なわなければならない。

 (略)

(3)正しい。安衛則第 648 条により、造船業の仕事を自ら行う注文者は、船舶の二重底の内部において、請負人の労働者に自動溶接機以外の交流アーク溶接機を使用させるときは、当該交流アーク溶接機に、厚生労働大臣が定める規格に適合する交流アーク溶接機用自動電撃防止装置を備えなければならない。

なお、安衛則第 648 条の義務が生じるのは、安衛法第 31 条第1項により、「特定事業の仕事を自ら行う注文者」である。安衛法第 15 条(及び安衛令第 15 条第1項)の特定事業の定義により、造船業は特定事業であるから、本肢の事業場は特定事業に該当する。

【労働安全衛生法】

(統括安全衛生責任者)

第15条 (前略)建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)(後略)

2~5 (略)

(注文者の講ずべき措置)

第31条 特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物、設備又は原材料(以下「建設物等」という。)を、当該仕事を行う場所においてその請負人(当該仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。第31条の4において同じ。)の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、当該労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(統括安全衛生責任者を選任すべき業種等)

第15条 法第15条第1項の政令で定める業種は、造船業とする。

 (略)

【労働安全衛生規則】

(交流アーク溶接機についての措置)

第648条 注文者は、法第31条第1項の場合において、請負人の労働者に交流アーク溶接機(自動溶接機を除く。)を使用させるときは、当該交流アーク溶接機に、法第42条の規定に基づき厚生労働大臣が定める規格に適合する交流アーク溶接機用自動電撃防止装置を備えなければならない。ただし、次の場所以外の場所において使用させるときは、この限りでない。

 船舶の二重底又はピークタンクの内部その他導電体に囲まれた著しく狭あいな場所

 (略)

(4)誤り。このような規定はない。安衛法第 30 条の2第2項は、同法第 30 条第1項の規定を準用していない。なお、特定事業の元方事業者が、元方事業者として行わなければならない作業場所の巡視については、毎作業日に少なくとも一回である。

なお、特定事業の元方事業者の巡視の義務について、2021 年度問 11 の(2)に出題されたことがある。この問題の解説を学習しておけば正答はできる問題である。

【労働安全衛生法】

(特定元方事業者等の講ずべき措置)

第30条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。

一及び二 (略)

 作業場所を巡視すること。

四~六 (略)

2~4 (略)

第30条の2 製造業その他政令で定める業種に属する事業(特定事業を除く。)の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならない。

 前条第2項の規定は、前項に規定する事業の仕事の発注者について準用する。この場合において、同条第2項中「特定元方事業者」とあるのは「元方事業者」と、「特定事業の仕事を2以上」とあるのは「仕事を2以上」と、「前項」とあるのは「次条第1項」と、「特定事業の仕事の全部」とあるのは「仕事の全部」と読み替えるものとする。

3及び4 (略)

【労働安全衛生規則】

(作業場所の巡視)

第637条 特定元方事業者は、法第30条第1項第三号の規定による巡視については、毎作業日に少なくとも一回、これを行なわなければならない。

 (略)

(5)正しい。安衛則第 663 条第1項(及び安衛則第 655 条第1項第一号)により、請負人は、注文者が足場の作業床の最大積載荷重を足場の見やすい場所に表示しなければならない場合において、当該表示がされていないことを知ったときは、速やかにその旨を注文者に申し出なければならない。

【労働安全衛生法】

(注文者の講ずべき措置)

第31条 特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物、設備又は原材料(以下「建設物等」という。)を、当該仕事を行う場所においてその請負人(当該仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。第31条の4において同じ。)の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、当該労働者の労働災害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

 (略)

(請負人の講ずべき措置等)

第32条 (第1項~第3項 略)

 第三十一条第一項の場合において、当該建設物等を使用する労働者に係る事業者である請負人は、同項の規定により講ぜられる措置に応じて、必要な措置を講じなければならない。

5~7 (略)

【労働安全衛生規則】

(足場についての措置)

第655条 注文者は、法第31条第1項の場合において、請負人の労働者に、足場を使用させるときは、当該足場について、次の措置を講じなければならない。

 構造及び材料に応じて、作業床の最大積載荷重を定め、かつ、これを足場の見やすい場所に表示すること。

二及び三 (略)

 (略)

(法第三十二条第四項の請負人の義務)

第663条 法第32条第4項の請負人は、第644条から第662条までに規定する措置が講じられていないことを知つたときは、速やかにその旨を注文者に申し出なければならない。

 (略)