労働安全コンサルタント試験 2025年 産業安全一般 問11

天井クレーンの定期自主検査指針




問題文
トップ
NEXT STAGE

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2025年度(令和07年度) 問11 難易度 かなり細かな内容の問題。現場で考えても迷う肢がある。それでも正答の肢が最も多かった。
天井クレーン  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問11 厚生労働省の「天井クレーンの定期自主検査指針」(設置後1年以内ごとに1回、定期に行う自主検査に係るもの)における天井クレーンの検査方法及び判定基準において、次のイ~ニの値について測定器等を用いて実測することにより判定するものとされているもののみを挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。

イ 使用されている電動機の巻線部分の絶縁抵抗値

ロ 定格荷重をガーダ中央部分にかけたときのガーダのたわみ量

ハ 巻過防止装置のリミットスイッチの作動位置から実際に停止するまでのフックの移動距離

ニ つり上げ試験において、定格荷重の荷をつり、定格速度で巻き上げようとしたときの荷の上昇速度

(1)イ  ロ

(2)イ  ハ

(3)イ  ニ

(4)ロ  ハ

(5)ハ  ニ

正答(1)

【解説】

問11試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

本問は、「天井クレーンの定期自主検査指針」(昭和60年12月18日自主検査指針公示第8号)に関する問題である。実際に天井クレーンの定期自主検査に関わっていなければ、知識で正答することは困難だろう。

このような問題の場合、(知識で正答できる受験者以外は)試験会場で判断して正答するしかない。本問の場合は、かなり難しいが、必ずしも現場で考えて正答できないというレベルではない。

なお、定期自主検査に関する問題は、2022年度の問 11 で動力プレスについて問われて以来である。このときも正答率は低く、20.1 %であった。

このような極端に低い正答率の範疇の問題でも、同種の問題を出題することはあるということである。

イ 測定器等を用いて実測する。指針には検査方法としては「絶縁抵抗を調べる」としかされていない(※)が、測定器を用いて実測する以外に方法はないだろう。

※ 指針の文言を読む限りでは、実測するまでもなく絶縁抵抗チェッカーによるチェックでもかまわないのではないかと思えるかもしれない。この場合、本肢の「実測」には該当せず、本肢は必ずしも正しくはないと思えるかもしれない。

実は、局所排気装置や除じん装置などは、定期自主検査指針に明確に絶縁抵抗計を用いて測定することが指定されている。であれば、そのような指定がない天井クレーンの場合は、(指針の文言だけから考えれば)絶縁抵抗計による実測の必要はなく絶縁抵抗チェッカーで調べてもかまわないとも考えられそうである。

しかし、それでは絶縁抵抗に経年変化があっても見つけることができない。また、絶縁抵抗は基準よりもかなり高いことが普通であり、基準よりもわずかに高い程度の抵抗しかなければ「何かおかしい」のであるが、絶縁抵抗チェッカーではそれに気づくことができない。常識的には、JIS C 1302:2018「絶縁抵抗計」に適合する絶縁抵抗計で調べるべきであろう。

【電動機の絶縁抵抗の測定】

Ⅱ 検査項目、検査方法及び判定基準

7 電気関係

検査項目 検査方法 判定基準

7.1 電動機

(1)巻線部分

[1] 絶縁抵抗を調べる。

[2] 発熱の有無を調べる。

[1] 絶縁抵抗値が規定の範囲内であること。

[2] 異常発熱がないこと。

(略) (略) (略)
(略) (略) (略) (略)
※ 厚生労働省「天井クレーンの定期自主検査指針」(昭和60年12月18日自主検査指針公示第8号)

ロ 測定器等を用いて実測する。指針には検査方法としては「定格荷重をガーダ中央にかけたときのたわみを調べる」としかされていないが、「たわみがスパンの1/800以下であること」とされているので、測定するしかない(※)

※ 従来はたわみゲージなどを使用してキャンバーを測定していたが、現在はレーザー平面度計測器などを用いることが多い。いずれにせよ、計測することに変わりはない。

【ガーダーのたわみの測定方法】

Ⅱ 検査項目、検査方法及び判定基準

2 鋼構造部分

検査項目 検査方法 判定基準
(略) (略) (略) (略)

2.2 ガーダ及びサドル

(略) (略) (略)

(2)ガーダ

定格荷重をガーダ中央にかけたときのたわみを調べる。

たわみがスパンの1/800以下であること。

(略) (略) (略)
(略) (略) (略) (略)
※ 厚生労働省「天井クレーンの定期自主検査指針」(昭和60年12月18日自主検査指針公示第8号)

ハ 測定器等を用いて実測するとはされていない。そもそも指針には、巻過防止装置のリミットスイッチの作動位置から実際に停止するまでのフックの移動距離を実測することとはされていない。

巻過防止装置は、リミットスイッチによって、確実に停止するかどうかが問題であって、スイッチの位置からどれだけ動くかは問題とはならないのである。そのことに気付けば、こんなものを測定させるわけがないと気付くことができるだろう。

【安全装置の検査】

Ⅱ 検査項目、検査方法及び判定基準

7 電気関係

検査項目 検査方法 判定基準

8 安全装置

(1)作動状態

[1] 作動位置及び作動状態の適否を調べる。

[2] レバー等の変形及び摩耗の有無を調べる。

[1] 定められた位置で、確実に作動すること。

[2] 変形又は摩耗がないこと。

(略) (略) (略)
(略) (略) (略) (略)
※ 厚生労働省「天井クレーンの定期自主検査指針」(昭和60年12月18日自主検査指針公示第8号)

ニ 測定器等を用いて実測するとはされていない。そもそも指針には、「定格荷重の荷をつり、定格速度で巻き上げ及び巻き下げて巻上装置の異音、発熱及び振動の有無を調べる」とされており、荷の上昇速度を測定することとはされていない。

荷の上昇速度を測定して異常が見つかるとすれば、遅くなる場合だろう(※)。だとすれば、天井クレーンに用いられている誘導電動機の速度が遅くなったということである。そうなる可能性があるのは、摩擦力が高まるなどで大きな負荷がかかっているか、電動機そのものの故障のどちらかである。

※ なお、荷の下降速度を測定して異常が見つかるとすれば、早くなる場合で、その場合はメカニカルブレーキ(停止時に荷が下降したり、下降中に本来の速度より早く下降したりしなようにするためのブレーキ)の異常である。ただ、メカニカルブレーキに異状があれば、メカニカルブレーキそのものが点検の対象なのでそちらで異状は発見できる。そもそもメカニカルブレーキに異状があれば、停止中に荷が下降するので、通常の使用が困難となり点検の前に修理に出されているだろう。

いずれにせよ、そのような場合は測定するまでもなく、クレーンを動かしてみれば、(巻上装置の異音、発熱及び振動の有無で)異常が分かるだろう。

【安全装置の検査】

Ⅱ 検査項目、検査方法及び判定基準

7 電気関係

検査項目 検査方法 判定基準

9 荷重試験

(1)つり上げ能力

[1] 無負荷運転を行い、作動状態を調べる。

[2] 定格荷重の荷をつり、定格速度で巻き上げ及び巻き下げて巻上装置の異音、発熱及び振動の有無を調べる。

[1] 円滑に巻上げ及び巻下げが行われること。

[2] 異音、著しい発熱又は振動がないこと。

(略) (略) (略)
(略) (略) (略) (略)
※ 厚生労働省「天井クレーンの定期自主検査指針」(昭和60年12月18日自主検査指針公示第8号)