労働安全コンサルタント試験 2025年 産業安全一般 問10

ヒューマンエラーによる労働災害の防止




問題文
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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2025年度(令和07年度) 問10 難易度 過去問と同様な内容で、しかも内容は基本的なもの。正答率もきわめて高く、確実に正答しておきたい。
ヒューマンエラー  1 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問10 ヒューマンチラーによる労働災害を防止するための措置に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)計器表示方法をアナログ表示からデジタル表示にして、連続的な変化の傾向と程度が一目で分かるようにした。

(2)操作装置について、操作の方向とそれによる機械の運動部分の動作の方向とが一致するようにした。

(3)キーボードで行う操作のように、操作部分と機械の運動部分の動作との間に一対一の対応がない操作について、実行される動作がディスプレイ等に明確に表示され、必要に応じ、動作が実行される前に操作を解除できるようにした。

(4)操作者が危険部分に手を近づけることがないように、操作装置を両手で同時に操作しないと機械が作動せず、手を離すと停止するものとした。

(5)操作装置を操作する際に、指差し呼称を行うこととした。

正答(1)

【解説】

問10試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

ヒューマンエラーについての過去問は多い。それらを学んでいれば正答できる問題である。本年度の労働安全コンサルタントの問題は、極端に簡単な問題と極端に易しい問題に分かれたが、本問は、正答率がきわめて高い方である。

(1)適切ではない。連続的な変化の傾向と程度が一目で分かるようにするには、計器表示方法はアナログ表示の方がデジタル表示よりも適している。

本肢は、2022年度の問10の(1)と実質的に同じ内容である。ほぼすべての受験者が本肢を選んでいる。

(2)適切でないとは言えない。本肢も、2022年度の問10の(3)と同じ趣旨の問題である。常識的にも操作の方向とそれによる機械の運動部分の動作の方向とが一致している方が操作しやすいであろう。

レバーの方向と操作対象の運動方向

図のクリックで拡大します

※ レバーの方向と操作対象の運動方向(JIS B6011:2004より)

なお、JIS B6011:2004「工作機械−操作方向」は、工作機械の操作要素の操作方向及び、それに対応する操作対象の運動方向について規定しており、「レバーの動きは,操作対象の運動方向と同一でなければならない」としている。

図は、JIS B6011:2004 からの引用であるが、このような操作の方法は人にとってきわめて分かりやすいものであろう。

(3)適切でないとは言えない。「機械の包括的な安全基準に関する指針」(平成19年7月31日基発第0731001号)の「別表第2 本質的安全設計方策」の14の(1)のキの通りである。また、そもそも本肢には、誤っていると考える余地がない。

【誤操作防止】

機械の包括的な安全基準に関する指針

別表第2 本質的安全設計方策

14 誤操作による危害を防止するため、操作装置等については、次に定める措置を講じること。

(1)操作部分等については、次に定めるものとすること。

ア~カ (略)

 キーボードで行う操作のように操作部分と動作との間に一対一の対応がない操作については、実行される動作がディスプレイ等に明確に表示され、必要に応じ、動作が実行される前に操作を解除できること。

ク~シ (略)

※ 厚生労働省「別表第2 本質的安全設計方策」(機械の包括的な安全基準に関する指針(平成19年7月31日基発第0731001号))より

(4)適切でないとは言えない。本肢の内容は、いわゆる両手操作式スイッチのことである。本肢の内容は、プレス機械等の構造規格の第 16 条第一号及び第二号に適合している。

【労働安全衛生規則】

(プレス等による危険の防止)

第131条 (第1項 略)

 事業者は、作業の性質上、前項の規定によることが困難なときは、当該プレス等を用いて作業を行う労働者の安全を確保するため、次に定めるところに適合する安全装置(手払い式安全装置を除く。)を取り付ける等必要な措置を講じなければならない。

 (略)

 両手操作式の安全装置及び感応式の安全装置にあつては、プレス等の停止性能に応じた性能を有するものであること。

 (略)

 (略)

【プレス機械又はシャーの安全装置構造規格】

(スライド等を作動させるための操作部の操作)

第16条 両手操作式安全装置は、次の各号に定めるところに適合するものでなければならない。

 スライド等を作動させるための操作部を両手で左右の操作の時間差が〇・五秒以内に操作しなければスライド等を作動させることができない構造のものであること。ただし、当該機能を有するプレス等に使用される両手操作式安全装置にあっては、この限りでない。

 スライド等の閉じ行程の作動中にスライドを作動させるための操作部から離れた手が危険限界に達するおそれが生ずる場合にあっては、スライド等の作動を停止させることができる構造のものであること。

 一行程ごとにスライド等を作動させるための操作部から両手を離さなければ再起動操作をすることができない構造のものであること。

指差呼称

※ イメージ図(©photoAC)

(5)適切でないとは言えない。指差し呼称は、厚労省安全衛生部が推奨している手法である。これを適切ではないという出題を、厚生労働省の主催する国家試験で出題するわけがないのである。

なお、指差し呼称の効果については、清宮他(※1)や、芳賀他(※2)による有名な実験結果がある。ただ、後者については、筆者の所属する研究所の職員による実験であり、無意識のうちに筆者に迎合した可能性があり、やや客観性に欠けるきらいはある。

※1 清宮栄一他「複雑選択反応における作業方法と Performance との関係について -「指差・喚呼」の効果についての予備的検討-」(鉄道労働科学 No.17 1965年)

※2 芳賀繁他「「指差呼称」のエラー防止効果の室内実験による検証」(産業・組織心理学研究 Vol.9 No.2 1996年)

また、最近では増田他による実験が公表されており、指差ありの場合は指差なしの場合に比較して、エラーの発生数が有意に減少したとしている。

※ 増田貴之他「指差喚呼のエラー防止効果の検証」(RTRI REPORT Vol.28 No.5 2014年)