労働安全コンサルタント試験 2025年 産業安全一般 問08

人間の聴覚




問題文
トップ
NEXT STAGE

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2025年度(令和07年度) 問08 難易度 人間の聴覚に関する問題は、安コンでは過去 12 回では例がない。過去問が少ないためか正答率は低かった。
人間の聴覚  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問8 人間の聴覚に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)音の高さの違いは、音の周波数の違いによるが、音の周波数が2倍になれば、1オクターブ高い音として聞こえる。

(2)いろいろな音が鳴っている中でも、自分の聴きたい音だけ選別して聴き取ることができることをカクテルパーティ効果という。

(3)マスキングとは、目的とする音が別の音によって聞こえなくなることであるが、大きな音が小さな音をマスキングするほか、音の大きさが同じであっても、低い音は高い音にマスキングされやすいという傾向がある。

(4)音源の位置は、両耳に到達する音の時間差、音圧レベルの差、耳介による音波の反射及び回折等から知覚される。

(5)耳の構造上、3 kH 付近の音は、外耳道の中で共鳴を起こしやすく音圧が上昇するので、感度が良く、小さな音量でも感知しやすい。

正答(3)

【解説】

問8試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

(1)正しい。本肢にあるように、1オクターブ(※)上の音は、振動数で言えば2倍となる。騒音や遮音性能の評価は、オクターブごとに行われることが多い。

※ オクターブとは、同じ音名の音程関係であり、例えばある「ド」の音と次の「ド」の音程差のことである。英語ではオクトは8を表すが、ドの音から次のドまでは8音程であることに由来している。

(2)正しい。カクテルパーティ効果とは、カクテルパーティーのような騒がしい場所でも、興味や関心がある話題は、自然と耳に入ってくるという心理的な効果のことである。

なお、高木(※)によると、「人間がカクテルパーティ効果を発揮しやすい状況は、①話者の音声の到来方向がずれている、②話者の音声が周波数軸上で被らない、③話者の間で音声の明瞭度が揃っているという状況であることが知られている」とされる。

※ 高木健「カクテルパーティ効果に着目したオンライン話者とオフライン話者の選択的聴取の支援」(戦略的創造研究推進事業)

(3)誤り。音のマスキング効果とは、ある音(マスキー)が別の音(マスカー)によって聞こえにくくなる現象のことである。大きな音が小さな音をマスキングすることは正しい。しかし、低い音より、高い音の方がマスキングされやすい(※)

※ 例えば、藤田佑一郎他「音の特徴を考慮した効果的なマスキング手法」(日本機械学会論文集 No.158)、西口正之「実音源と仮想音源の間の空間的マスキングについて」(日本音響学会誌 Vol.78 NO.3 2022年)など

(4)正しい。音源の位置は知覚可能であり、位置を知覚することを音源定位、音像定位などと呼ぶ。方向定位は、両耳に到達する音の強度差(音圧レベルの差)、時間差(位相差)、音色の違いによる。音色の違いは、耳介による音波の反射及び回折等から知覚される(※)

※ 例えば、森川大輔「はじめての音像定位実験」(日本音響学会誌 Vol.74 No.10 2018年)、本多明生他「頭部運動と音像定位」(日本音響学会誌 Vol.76 No.1 2020年)など参照

なお、名古屋大学大学院医学系研究科の「細胞生理学教室」のサイトに分かりやすい解説がある。

等ラウドネス曲線

図のクリックで拡大します

※ 等ラウドネス曲線(©Wikipedia「等ラウドネス曲線」より)

(5)正しい。外耳道も管であるから、ある特定の周波数の音に対して共鳴が起き、その結果として音圧が上昇することは当然である。

問題はその共鳴が起きる周波数である。これについて、ISO 226:2023 による等ラウドネス曲線(Equal loudness contour)では、最も良く聞こえる周波数は 3,150 Hz 程度となっている(※1)。なお、ISO 226 の 2023 年の改訂にあたって日本から図を提出しているが(※2)、これも同様となっている。

※1 ISO「Acoustics — Normal equal-loudness level contours」(Third edition 2023-03)

※2 鈴木陽一他「ISO 226(等ラウドネスレベル曲線)2023年版:改訂の背景と実務への影響」(日本音響学会誌 Vol.80 No.1 2024年)

また、野村他(※)も「外耳道の共振周波数は外耳道の大きさに逆比例し、1100 Hz(ウシ)~ 71000 Hz(コウモリ)である。ヒトでは 3000 Hz である。この数値はそれぞれの動物の鳴声の周波数に近い」などとしている。

※ 野村恭也他「聴覚機能とその障害」(精密機械 Vol.46 No.2 1980年)

ただし、小池(※)は、「実際には、外耳道が共鳴管として機能し、その共振周波数は4kHz 程度であり、共振により鼓膜面音圧は体外部の音圧に対して、20dB 程度上昇する」としている。

※ 小池卓二「ヒトの聴覚器官における振動伝達」(比較生理生化学)

これらを総合的に評価すれば、本肢が「外耳道では、3 kHz 付近の音が共鳴を起こしやす(い)」としていることも正しいとしてよいであろう。