労働安全コンサルタント試験 2025年 産業安全一般 問06

玉掛け用具の選定及び使用に関する措置




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2025年度(令和07年度) 問06 難易度 玉掛用の使用に関するほぼ常識問題。試験協会のサービス問題。マークミスにだけ注意すればよい。
玉掛用具  1 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問6 玉掛け作業における、玉掛用具の選定・使用について事業者が講じた措置に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)重心が偏った形状の荷をつり上げる作業において、ワイヤロープの配置によってワイヤロープの一部に過大な荷重がかかるおそれがあったため、玉掛け作業前につり角度等を再検討し、ワイヤロープを適切な位置に変更した。

(2)荷に鋭利な角部があったので、織維スリングの損傷及び破断を防ぐため、繊維スリングと荷の間に当てものを挿入する措置を講じた。

(3)高温状態の荷をつり上げる作業において、繊維スリングでは熱による劣化が懸念されるため、チェーンスリングを選定した。

(4)荷の地切り前に繊維スリングに張力を掛けたところ、当該繊維スリングがねじれたままになっていたため、繊維スリングの破断の危険があると判断し、ねじれを取り除いた上で使用した。

(5)使用するワイヤロープに赤さびが見られたが、著しい変形が見られなかったため、内部腐食の状況を確認することなく、そのまま作業に使用した。

正答(5)

【解説】

問6試験結果

試験解答状況
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(1)適切でないとはいえない。重心が偏った形状の荷をつり上げる作業では、ワイヤロープの配置を適切にしないとワイヤロープの一部に過大な荷重がかかるおそれがある。そのため、玉掛け作業前につり角度等を再検討し、ワイヤロープを適切な位置に変更することは正しいことである。

このこと自体は、当然のことであって「適切でない」と考える余地がないのである。この肢を選んだ受験者はいなかった。

ただ、実務においては、偏心荷重の重量物については専用のつり具(天秤とスリングのセット品)を作成することを検討した方がよい場合もあり、「ワイヤロープを適切な位置に変更」するだけで対応できるとは考えない方がよい。

3点調整吊り

※ 3点調整吊り(玉掛け作業の安全に係るガイドラインより引用)

また、軽量の荷の場合、「余り返し」という玉掛け用ワイヤロープの一部を折り返して長さを調節する方法をしている例があるが、そのような方法は危険なので行ってはならない(※)

※ 一部の登録教習機関の技能講習で、余り返しの手法を、推奨はしないとしつつも教えているケースがある。しかし、ワイヤロープに癖がついて強度が低下することがあるので、行ってはならない。

なお、チェーンスリングの場合は、折り返すことができる専用の玉掛用具がメーカから販売されている場合があり、それを使用するのであれば余り返しを行ってもとくに問題はない。

長さを調整する必要があれば、図に示すように軽い方の釣り具にチェーンブロックやレバーホイストを使用する「3点調整吊り」という方法を用いる。

当てものの設置

※ 当てものの設置(玉掛け作業の安全に係るガイドラインより引用)クリックで拡大

(2)適切でないとはいえない。玉掛用具の中でもとくに織維スリングは荷に鋭利な角部があると傷つくことがあるので、損傷及び破断を防ぐために繊維スリングと荷の間に当てものを挿入する措置を講じるべきである。

なお、当然ながら荷に鋭利な角部がある場合は、ワイヤロープを用いるときであっても、当てものをするべきである。また、当てものは荷の下側だけでなく上側にも当てるようにしなければならない。

(3)適切でないとはいえない。繊維スリングは熱に弱い(※)ため、高温の荷物の吊り作業には向かない。これに対し、チェーンスリングは、繊維スリングやワイヤロープに比べれば熱に強く、温度の高い場所や高温の荷物の吊り荷も可能である。

※ 日本クレーン協会「玉掛け用繊維スリングの安全な使い方」には「繊維スリングは,つり荷の温度が100℃以下のものに使用する」とされている。

また、JIS B 8817:1991「ワイヤロープスリング」の「参考1 ロープスリングの使用基準」にも「100℃を超える温度では使用してはならない」とされている。これは、100 度以上になると塗布油が流出してしまい、摩耗や断線が発生しやすくなるためである。

すなわち、繊維スリングもワイヤロープも 100 度を超えると使用できなくなるのである。

ただし、チェーンスリングといえど、どれだけ高温でも使用できるというわけではない。特殊鋼のチェーンスリングは 400 度以上では使用できないし、ステンレスのチェーンスリングでも 600 度以上では使えない。また、温度が高くなるにつれて使用荷重の減少があることにも留意しなければならない(※)

※ 詳細は、JIS B 8816:2004「巻上用チェーンスリング」の「附属書3(規定)チェーンスリングの使用基準」の「表1 各使用温度における使用荷重」を参照してほしい。

本問で、わずかながら本肢を選んだ受験者がいるが、この辺の事情を知っていたためかもしれない。しかし、チェーンスリングは、繊維スリングやワイヤロープに比べれば熱に強いことは間違いはなく、不適切とまでは言えないであろう。

(4)適切でないとはいえない。JIS B 8818:2015「ベルトスリング」の「附属書C(規定)ベルトスリングの使用基準」に「極端なねじれ,結び又は互いに引っ掛けた状態で使用してはならない」とされている。

本肢の「荷の地切り前に繊維スリングに張力を掛けたところ、当該繊維スリングがねじれたままになっていたため、繊維スリングの破断の危険があると判断し、ねじれを取り除いた上で使用した」というところには、誤っていると考える余地はない。

【ベルトスリングのねじれ】

附属書C(規定)ベルトスリングの使用基準

C.2 禁止事項

  ベルトスリングの禁止事項は,次による。

a)及びb)(略)

c)極端なねじれ,結び又は互いに引っ掛けた状態で使用してはならない。

d)ねじれた状態で長時間加圧したり,エッジ状のもので加圧した状態で放置してはならない。

e)及びf)(略)

※ JIS B 8818:2015「ベルトスリング」の「附属書C(規定)ベルトスリングの使用基準」

(5)適切ではないと言うべきである。もっとも本肢は法的にはやや微妙なのである。すなわち、クレーン則では、第 215 条第四号は「著しい形くずれ又は腐食があるもの」は使用してはならないとしている。

ところが、「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」(平成 12 年2月 24 日基発第 96 号)の別紙「主な玉掛用具の点検方法及び判定基準」では、「著しいさび、腐食がないこと」が判定基準とされ、その点検方法は、「ワイヤロープのさび、腐食の有無を目視で調べる」とされているのである。

そうなると、本肢の「使用するワイヤロープに赤さびが見られたが、著しい変形が見られなかったため、内部腐食の状況を確認することなく、そのまま作業に使用した」というのは、錆の程度によっては(※)必ずしも法令に違反しているとは言い切れないかもしれない。

※ 日本クレーン協会「玉掛け用ワイヤロープの簡易点検」には、腐食[廃棄該当例]として「腐食によって、素線表面にピッチングが生じて、あばた状になったもの」とされている。

本問で(3)と解答した受験者がわずかながらいたが、それはこの辺の事情を知っていたために(5)は正しいと考え、かえって間違えたということかもしれない。事実、多少の錆が出ている程度であれば、そのまま使用するケースは多いと思われる。しかし、やはり「内部腐食の状況を確認することなく」使用しているというのは適切とは言えないだろう。

【クレーン等安全規則】

(不適格なワイヤロープの使用禁止)

第215条 事業者は、次の各号のいずれかに該当するワイヤロープをクレーン、移動式クレーン又はデリツクの玉掛用具として使用してはならない。

 ワイヤロープ一よりの間において素線(フイラ線を除く。以下本号において同じ。)の数の十パーセント以上の素線が切断しているもの

 直径の減少が公称径の七パーセントをこえるもの

 キンクしたもの

 著しい形くずれ又は腐食があるもの

【玉掛け用ワイヤーロープの判定基準】

主な玉掛用具の点検方法及び判定基準

(1)玉掛け用ワイヤーロープ

点検部分 点検方法 判定基準
ワイヤーロープ部

1~4 (略)

5 ワイヤロープのさび、腐食の有無を目視で調べる。

6及び7 (略)

1~4 (略)

5 著しいさび、腐食がないこと。

6及び7 (略)

(略) (略) (略)
※ 厚生労働省「主な玉掛用具の点検方法及び判定基準」(「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」(平成 12 年2月 24 日基発第 96 号)の別紙)