問15 常時 800 人の労働者を使用する鉄鋼業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場において次のような状況がみられた。これらの状況のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)3人の安全管理者が選任されており、いずれの安全管理者も、当該事業場に専属の者であったが生産関係の業務を兼任していた。
(2)当該事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、関係請負人との協議組織は設置していたが、関係請負人が行う労働者の安全のための教育に対して、当該教育を行う場所の提供等の指導及び援助は行っていなかった。
(3)つり上げ荷重が 4.9 トンの天井クレーンの運転の業務に、当該業務に関する特別の教育を受けた者を就かせていたが、当該者はクレーンの運転の免許は有していなかった。
(4)水蒸気爆発を防止するため、溶融高熱物を取り扱うピットについて、内部に滞留した地下水を排出できる設備を設けていたが、地下水が内部に浸入することを防止できる構造としていなかった。
(5)機械と他の設備との間に設けられた通路の幅は、狭いところで 70 センチメートルであった。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2024年度(令和05年度) | 問15 | 難易度 | 感電防止対策は、条文が定型的なこともあり過去問の学習で正答できる。落としてはならない。 |
---|---|---|---|
労働安全衛生法(全般) | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問15 常時 800 人の労働者を使用する鉄鋼業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場において次のような状況がみられた。これらの状況のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)3人の安全管理者が選任されており、いずれの安全管理者も、当該事業場に専属の者であったが生産関係の業務を兼任していた。
(2)当該事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、関係請負人との協議組織は設置していたが、関係請負人が行う労働者の安全のための教育に対して、当該教育を行う場所の提供等の指導及び援助は行っていなかった。
(3)つり上げ荷重が 4.9 トンの天井クレーンの運転の業務に、当該業務に関する特別の教育を受けた者を就かせていたが、当該者はクレーンの運転の免許は有していなかった。
(4)水蒸気爆発を防止するため、溶融高熱物を取り扱うピットについて、内部に滞留した地下水を排出できる設備を設けていたが、地下水が内部に浸入することを防止できる構造としていなかった。
(5)機械と他の設備との間に設けられた通路の幅は、狭いところで 70 センチメートルであった。
正答(5)
【解説】
(1)違反していない。安全管理者は衛生管理者とは異なり、具体的な人数は法定されていない。従って、3人の安全管理者が選任されていることは違反にはならない。
また、原則としてその事業場に専属でなければならないが、本肢の事業場はいずれも専属であるので、この点について違反はない。
一方、専任にしなければならない場合の要件は、安衛則第4条第1項(第四号)に定められている。本肢は、時 800 人の労働者を使用する鉄鋼業の事業場であるから、専任にする必要はない。従って、生産関係の業務を兼任していることも違反にはならない。
【労働安全衛生法】
(安全管理者)
第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。
2 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)
第2条 (柱書 略)
一 (略)
二 製造業(物の加工業を含む。)(以下略)
三 (略)
(安全管理者を選任すべき事業場)
第3条 法第11条第1項の政令で定める業種及び規模の事業場は、前条第一号又は第二号に掲げる業種の事業場で、常時50人以上の労働者を使用するものとする。
【労働安全衛生規則】
(安全管理者の選任)
第4条 法第11条第1項の規定による安全管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一~三 (略)
四 次の表の中欄に掲げる業種に応じて、常時同表の下欄に掲げる数以上の労働者を使用する事業場にあつては、その事業場全体について法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理する安全管理者のうち少なくとも1人を専任の安全管理者とすること。ただし、同表四の項の業種にあつては、過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る。
(略) | (略) | (略) |
三 | 紙・パルプ製造業 鉄鋼業 造船業 |
1,000人 |
(略) | (略) | (略) |
2及び3 (略)
(2)違反していない。本肢の事業者は、鉄鋼業の事業を行う者であるから、特定元化事業者ではない。従って、安衛法第 30 条の適用はなく、第 30 条の2の適用があるのみである。
従って、関係請負人が行う労働者の安全のための教育に対して、当該教育を行う場所の提供等の指導及び援助は義務付けられていない(※)。
※ 教育を行う場所の提供等の指導及び援助は、特定元方事業者に対しても義務付けられてはいない。
【労働安全衛生法】
(特定元方事業者等の講ずべき措置)
第30条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。
一 協議組織の設置及び運営を行うこと。
二及び三 (略)
四 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助を行うこと。
五及び六 (略)
2~4 (略)
第30条の2 製造業その他政令で定める業種に属する事業(特定事業を除く。)の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならない。
2~4 (略)
(3)違反していない。就業制限業務(安衛法第 61 条により免許の取得、技能講習の修了等が必要となる業務)は、安衛令第 20 条に定められている。また、特別教育(安衛法第 59 条第3項)の必要な業務は、安衛則第 36 条に定められている。
跨線テルハ以外のクレーンの運転の業務については、就業制限となるのは安衛令第 20 条第六号により、つり上げ荷重が五トン以上のクレーンとなる(※)。また特別教育が必要となるのは、安衛則第 36 条第十五号イにより、つり上げ荷重が五トン未満のクレーンである。
※ 床上操作式クレーンは技能講習修了又は免許、それ以外のクレーンの運転には免許が必要となるが、床上運転式クレーンのみを運転するのであれば床上運転式クレーン限定免許でよい。なお、デリックの運転にはクレーン・デリック運転士免許が必要となる。
従って、つり上げ荷重が 4.9 トンの天井クレーンの運転の業務に、当該業務に関する特別の教育を受けた者を就かせていればよい。
【労働安全衛生法】
(安全衛生教育)
第59条 (第1項及び第2項 略)
3 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
(就業制限)
第61条 事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。
2~4 (略)
【安全衛生法施行令】
(就業制限に係る業務)
第20条 法第61条第1項の政令で定める業務は、次のとおりとする。
一~五 (略)
六 つり上げ荷重が五トン以上のクレーン(跨線テルハを除く。)の運転の業務
七~十六 (略)
【労働安全衛生規則】
(特別教育を必要とする業務)
第36条 法第59条第3項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。
一~十四 (略)
十五 次に掲げるクレーン(移動式クレーン(令第一条第八号の移動式クレーンをいう。以下同じ。)を除く。以下同じ。)の運転の業務
イ つり上げ荷重が五トン未満のクレーン
ロ (略)
十六~四十一 (略)
(4)違反していない。安衛則第 249 条第1号により、内部に滞留した地下水を排出できる設備を設けていれば、地下水が内部に浸入することを防止できる構造としていなくとも法違反とはならない。
ただ、かなり時代遅れの規定である。実務においては、内部に滞留した地下水を排出できる設備を設けたとしても、地下水が内部に浸入することを防止できる構造としなければならない(※)。
※ 具体的には、「鉄鋼業における水蒸気爆発の防止に関する技術上の指針」(昭和 52 年 12 月 14 日技術上の指針公示第 10 号)によるべきこととなる。
本指針においても、内部に滞留した地下水を排出できる設備を設ければ、地下水が内部に浸入することを防止できる構造としなくてもよいなどとはされていない。
【労働安全衛生規則】
(溶融高熱物を取り扱うピツト)
第249条 事業者は、水蒸気爆発を防止するため、溶融した高熱の鉱物(以下「溶融高熱物」という。)を取り扱うピツト(高熱の鉱さいを水で処理するものを除く。)については、次の措置を講じなければならない。
一 地下水が内部に浸入することを防止できる構造とすること。ただし、内部に滞留した地下水を排出できる設備を設けたときは、この限りでない。
二 (略)
(5)違反している。安衛則第 543 条の規定により、機械と他の設備との間に設けられた通路の幅は、80 センチメートル以上としなければならない。
これは覚えておくしかない。
【労働安全衛生規則】
(屋内に設ける通路)
第542条 事業者は、屋内に設ける通路については、次に定めるところによらなければならない。
一 用途に応じた幅を有すること。
二及び三 (略)
(機械間等の通路)
第543条 事業者は、機械間又はこれと他の設備との間に設ける通路については、幅80センチメートル以上のものとしなければならない。