問23 HAZOP スタディーは、プラントやシステムの安全性評価の手法として用いられる。JIS C 61882「ハザード及び運用伎の検討(HAZOP スタディー)-適用の指針に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)HAZOP スタディーでは、一連のガイドワードを系統的に用いて設計意図からの起こり得る逸脱を特定する。
(2)HAZOP スタディーにより特定されたリスク又は運用性の問題に対して、リスク対応措置を開発することが HAZOP 評価の主な目的である。
(3)HAZOP スタディーは、適切な技能及び経験をもち、直観力及び優れた判断力のある様々な分野の専門家に依存する。
(4)初期設計段階の HAZOP スタディーは、設計変更を取り込めるように漸進的に実施してもよいが、完了した HAZOP スタディーは最終的な設計意図に対応するものである必要がある。
(5)HAZOP スタディーでは、評価を容易にするため、システムは、各パートの設計意図又は機能が適切に定義可能なようにして、パートに分割する。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2024年度(令和06年度) | 問23 | 難易度 | HAZOP 単独での出題は 2012 年度以降では初出。正答率は異常なまでに低かった。 |
---|---|---|---|
HAZOP | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問23 HAZOP スタディーは、プラントやシステムの安全性評価の手法として用いられる。JIS C 61882「ハザード及び運用伎の検討(HAZOP スタディー)-適用の指針に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)HAZOP スタディーでは、一連のガイドワードを系統的に用いて設計意図からの起こり得る逸脱を特定する。
(2)HAZOP スタディーにより特定されたリスク又は運用性の問題に対して、リスク対応措置を開発することが HAZOP 評価の主な目的である。
(3)HAZOP スタディーは、適切な技能及び経験をもち、直観力及び優れた判断力のある様々な分野の専門家に依存する。
(4)初期設計段階の HAZOP スタディーは、設計変更を取り込めるように漸進的に実施してもよいが、完了した HAZOP スタディーは最終的な設計意図に対応するものである必要がある。
(5)HAZOP スタディーでは、評価を容易にするため、システムは、各パートの設計意図又は機能が適切に定義可能なようにして、パートに分割する。
正答(2)
【解説】
本問は、試験問題本文にもあるように、JIS C 61882:2023「ハザード及び運用性の検討(HAZOP スタディー)-適用の指針」からの出題である。この JIS は現時点では、WEB 上に全文は公開されていない(※)。
※ 閲覧を希望する場合は、「JIS検索」から利用者登録を行うことで閲覧は可能である。
なお、本年度は、異常に正答率の低い問題があるが、本問もその一つである。2024 年度は正解数が 60 %未満で合格したという受験者も多く、なんらかの調整が行われた可能性が強い。
他の問題の解説でも述べたが、本問のように異常に正答率が低く、しかも解答が(正答以外の)特定の肢に集中する問題は、一般に識別指数(※)が悪くなるため、出題者(試験協会)としても望ましい問題ではない。2025 年度の問題の難易度は、改善されるのではないかと期待される。
※ 合格者の正答率が高く、不合格者の正答率が低い問題が、よい問題であるという前提のもとに、試験問題の良否を評価するための指数。+1.0 から -1.0 の値を持つ。
(1)適切である。JIS C 61882「4.2 一般」によると、「HAZOP スタディーは、一連のガイドワードを系統的に用いて設計意図からの起こり得る逸脱を特定し、それらを使用してチームメンバーを刺激し、一脱がどのような結果をもたらすかを想像することによって進められる創造的なプロセスである
」とされている。なお、「4.2 評価の原則」には「各パートごとに、望ましくない結果(又は望ましい結果)を招く可能性がある設計意図からの逸脱の各属性を評価する。設計意図からの逸脱の特定は、事前に定めたガイドワードを用いた質問プロセスによって達成する
」とされている。
(2)適切ではない。JIS C 61882 序文に「システムの潜在的な運用性の問題を特定し、特に、不適合品を生むような運用の乱れ及び生産工程の逸脱の原因を特定する
」とされている。特定されたリスク又は運用性の問題に対して、リスク対応措置を開発することが HAZOP 評価の主な目的ではない。
すなわち、HAZOP スタディーの目的は、問題の本文に「プラントやシステムの安全性評価の手法」とされていることからも分かるように、問題(原因)の特定と評価であって、特定された原因の対策をとることではないのである。
【JIS C 61882 序文】
序文
この規格は、ガイドワードによるリスク特定の原則及びアプローチについて示す。歴史的に、このリスク特定のためのアプローチは、“ハザード及び運用性の検討”,又は略して“HAZOPスタディー”と呼ばれてきた。これは,ある範囲に限定してシステムを評価するための構造化された体系的な手法であって,次の目的をもつ。
- システムの運用及び保全に伴うリスクを特定する。関係するハザード又はその他のリスク源には,本質的にシステムに直近の領域だけに関連するもの,及びはるかに影響範囲が広いもの,例えば,ある種の環境ハザードの両方が含まれる。
- システムの潜在的な運用性の問題を特定し,特に,不適合品を生むような運用の乱れ及び生産工程の逸脱の原因を特定する。
※ 日本規格協会「JIS C 61882 序文」(2023 年8月)
(3)適切である。JIS C 61882「4.1 一般」に本肢と同じ記述がある。また、序文に「HAZOPスタディーは、リスク及び運用性の問題を特定するために専門のチームによって実施される詳細なプロセスである
」とされている。
本問の受験者の解答は(3)に集中した。おそらく「専門家に依存」というところに違和感を受けたためではないかと推測される。しかし、リスクアセスメントもそうだが、HAZOP というのは「仕組み、枠組み」を定めるのみであって、その効果はそれを実施する者(HAZOP の場合は実施する専門家)の能力や経験に依存せざるを得ない(※)のである。
※ ルール(法令)を定めて、それに基づいて対策を採らせるのであれば、実施する者の能力・経験には依存しないであろう。しかし、そのようなやり方から脱却して、枠組みだけ定めて、当事者(や専門家)の自由な発想(自主的な決定)に委ねようというのが、リスクアセスメントや HAZOP の主眼だと考えても良い。
このような手法の下では、実施者(HAZOP の場合は専門家)の能力(知識・経験)に依存せざるを得ないのである。
(4)適切である。JIS C 61882「4.1 一般」に本肢と同じ記述がある。
(5)適切である。JIS C 61882「4.2 評価の原則」に本肢と同じ記述がある。