労働安全コンサルタント試験 2024年 産業安全一般 問19

保護帽(ヘルメット)




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2024年度(令和06年度) 問19 難易度 保護帽に特化した問題はまれである。しかし、過去問の学習で正答は可能。正答しておきたい問題。
保護帽  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問19 保護帽に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)ABS 樹脂製保護帽は、高熱作業には不向きである。

(2)飛来・落下用の保護帽は、頭頂部への衝撃に対する衝撃吸収性能を、墜落時保護用の保護帽は、前頭部及び後頭部への衝撃に対する衝撃吸収性能を試験することとなっている。

(3)一度でも大きな衝撃を受けた保護帽は、外部に異常がなくても交換する必要がある。

(4)保護帽の中に取り付けられている着装体の交換時期の目安は、1年以内である。

(5)ポリエチレン樹脂製保護帽は、有機溶剤との接触に弱いので、これを取り扱う作業には適していない。

正答(5)

【解説】

問19試験結果

試験解答状況
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保護帽(ヘルメット)に特化した問題は 2016 年度の問 18 以来である。過去問が少ないこともあるのか、正答率は高くはなかった。

しかし、2016 年度の問 18 の解説に示した表を覚えていれば正答はできたはずである。過去問の学習をするときは、問題と答えだけに留意するのではなく、周辺の知識を含めて学習をしておきたい。過去問とまったく同じ問題は(出題されないわけではないが)、近年では出題されにくくなっている。

(1)適切である。ABS 樹脂の保護帽の常用耐熱温度は 70 ~ 100 ℃程度であり、耐熱性には劣るので、高熱作業には不向きである。

この点について、日本ヘルメット工業会の「保護帽の取扱マニュアル」も、ABS 樹脂の保護帽は高熱環境での使用には不向きとしている。

【保護帽の取扱マニュアル】

2 警告・注意

  !警告(生命又は頭部に重大な障害を及ぼします)

 (略)

 ラベルを確かめて、作業に合った種類及び材質の保護帽を使用してください。

材質 耐燃・耐熱性 耐候性 耐電圧性能 耐溶剤薬品性 備考
熱硬化性 FRP樹脂製 ○~◎ 耐候性、耐熱性には優れるが電気用帽子としては使用できない
熱可塑性 ABS樹脂製 △~○ △~○ ○~◎ ✕~△ 耐電圧性能には優れるが、高熱環境での使用には不向き
PC 樹脂製 ○~◎ ○~◎ ✕~△ 耐候性は ABS よりも優れているが、溶剤、薬品等には不向き
PE 樹脂製 ✕~△ ○~◎ ○~◎ 有機溶剤系の薬品を使用する環境には最適

◎=特に優れている ○=優れている △やや劣る ✕=劣る

③~⑩ (略)

※ 日本ヘルメット工業会「保護帽の取扱マニュアル(改訂版)」(2024 年6月)

(2)適切である。「保護帽の規格」第8条第1項のによれば、飛来・落下用の保護帽は、頭頂部への衝撃に対する衝撃吸収性能を、墜落時保護用の保護帽は、前頭部及び後頭部への衝撃に対する衝撃吸収性能を試験することとなっている。

【保護帽の規格】

(漏電による感電の防止)

第8条 保護帽は、次の表の上欄に掲げる区分に応じ、同表の中欄に定める試験方法による試験を行つた場合に、それぞれ同表の下欄に定める性能を有するものでなければならない。

区分 試験方法 性能
物体の飛来又は落下による危険を防止するための保護帽

一 保護帽について、高温処理、低温処理又は浸せき処理(以下この表において「高温処理等」という。)をした後、それぞれ、当該保護帽のヘッドバンドが人頭模型に密着しない状態で装着し、重さ5キログラムの半球形ストライカ(日本産業規格 G 3101(一般構造用圧延鋼材)に定める SS400 の規格に適合する鋼材を材料とし、かつ、半径 48 ミリメートルの半球形衝撃面を有するものに限る。)を1メートルの高さから当該保護帽の頂部に自由落下させる。

二 前号の試験は、高温処理等をした後1分以内に終了するものとする。

三 頂部すき間を調節することができる保護帽について第一号の試験を行う場合には、頂部すき間を最短にして行うものとする。

(略)
墜落による危険を防止するための保護帽

一 保護帽について、高温処理等をした後、それぞれ、中心線が水平に対し 30 度傾斜している人頭模型に衝撃点が保護帽の前頭部及び後頭部となるように装着し、重さ5キログラムの平面形ストライカ(日本産業規格 G 3101(一般構造用圧延鋼材)に定める SS400 の規格に適合する鋼材を材料とし、かつ、直径 127 ミリメートルの衝撃面を有するものに限る。)を1メートルの高さから自由落下させる。

二 前号の試験は、高温処理等をした後三分以内に終了するものとする。

三 着装体を有する保護帽について第一号の試験を行う場合には、当該着装体のヘッドバンドが人頭模型に密着しない状態で装着して行うものとする。

(略)

2及び3 (略)

※ 厚生労働省「保護帽の規格」(最終改正:令和元年6月 28 日厚生労働省告示第 48 号)

(3)適切である。日本ヘルメット工業会の「保護帽の取扱マニュアル」によれば、一度でも大きな衝撃を受けた保護帽は、外部に異常がなくても交換する必要があるとされている。

保護帽は、衝撃を受けたときは柔らかく変形することによって衝撃を吸収するようになっている。ところが、衝撃を受けた直後に保護帽をかぶったままの状態で、この変形が急激に元に戻ると、その衝撃で頸椎を痛める原因となる。そのため、保護帽は、意図的に変形が元に戻らないようにしてあるのである。

従って、一度でも衝撃を受けた保護帽は、変形していないように見えても、元の性能を保つことはない。必ず廃棄・交換する必要がある。

【保護帽の取扱マニュアル】

2 警告・注意

  !警告(生命又は頭部に重大な障害を及ぼします)

①及び② (略)

 一度でも大きな衝撃を受けたら、外観に異状がなくても使用しないでください。

  (保護帽とは度重なる衝撃に耐えるように出来ていません。衝撃を受けた保護帽は性能が低下しているので、次に衝撃を受けたときに頭部を十分に保護することができません。)

④~⑩ (略)

※ 日本ヘルメット工業会「保護帽の取扱マニュアル(改訂版)」(2024 年6月)

(4)適切である。日本ヘルメット工業会の「保護帽の取扱マニュアル」によれば、保護帽の中に取り付けられている着装体の交換時期の目安は、1年以内とされている。

【保護帽の取扱マニュアル】

2 警告・注意

  !警告(生命又は頭部に重大な障害を及ぼします)

①~④ (略)

 着装体は、衛生面も考慮し1年位で交換して下さい。構成される部品に劣化、異常が認められた場合はただちに交換して下さい。(着装体を交換するときは、同一メーカーの同一の型式の部品を使用してください。)

※ 日本ヘルメット工業会「保護帽の取扱マニュアル(改訂版)」(2024 年6月)

(5)適切ではない。日本ヘルメット工業会の「保護帽の取扱マニュアル」によれば、PE樹脂(ポリエチレン樹脂)製保護帽は、有機溶剤系の薬品を使用する環境には最適とされている(根拠は(1)の解説を参照されたい。)。