問18 感電防止に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)絶縁用保護具には、電気用ゴム手袋、電気用保護幡、絶縁衣、電気用長靴などがある。
(2)二重絶縁構造の電気機器とは、機能絶縁と保護絶縁を施したものをいい、当該電気機器を接地する必要はない。
(3)溶接棒ホルダーは、感電の防止のため、導電部分が絶縁物で覆われているが、溶接棒が短くなった状態で溶接を行うとアークの高熱によって絶縁物が焼損し、充電部分が露出するおそれがある。
(4)電動機械器具については、給電側の電路を接地した場合でも、電動機械器具の金属製外枠などを接地する必要がある。
(5)変圧器の高圧側と低圧側が混触したとき、低庄側の電路に高い電圧が発生しないように、変圧器の二次巻線の一端を接地することを保護接地という。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2024年度(令和06年度) | 問18 | 難易度 | 感電防止対策は、例年、易しい問題が多い。本年度は内容にややあいまいな部分もあり正答率は低い。 |
---|---|---|---|
感電防止対策 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問18 感電防止に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)絶縁用保護具には、電気用ゴム手袋、電気用保護幡、絶縁衣、電気用長靴などがある。
(2)二重絶縁構造の電気機器とは、機能絶縁と保護絶縁を施したものをいい、当該電気機器を接地する必要はない。
(3)溶接棒ホルダーは、感電の防止のため、導電部分が絶縁物で覆われているが、溶接棒が短くなった状態で溶接を行うとアークの高熱によって絶縁物が焼損し、充電部分が露出するおそれがある。
(4)電動機械器具については、給電側の電路を接地した場合でも、電動機械器具の金属製外枠などを接地する必要がある。
(5)変圧器の高圧側と低圧側が混触したとき、低庄側の電路に高い電圧が発生しないように、変圧器の二次巻線の一端を接地することを保護接地という。
正答(5)
【解説】
本問は、正答の(5)よりも(2)と解答した受験者の方が圧倒的に多い結果となった。残念ながら、内容から判断して、問題が適切ではないと評価するしかない。しかし、試験協会としては出題ミスであるとはしておらず、正答はあくまでも(5)であるという立場である(※)。
※ 過去には、試験協会が出題ミスを認めて正答を2つあるとして公表したケースもある(2016 年産業安全一般問 26)。しかし、今回はそのようなことはしていない。
本問の(2)については、下記で解説するが、その適否にかなりの疑問がある。確かに(5)も適切でない(正答である)と考えられ、本サイトの正答予測でも(5)を正答とはしたが、かなり迷ったのも事実である。適切ではないレベルは(2)と(5)でそれほど変わらないのではないかと思える。
(1)適切である。絶縁用保護具には、電気用ゴム手袋、電気用保護幡、絶縁衣、電気用長靴などがある。
【絶縁用保護具】
3 用語及び定義
3.2 絶縁用保護具
活線作業、活線の近接作業などで、作業者の感電などの危害を防止するために、当該作業者が着用する絶縁性のもの1)。
注1)絶縁用保護具には、電気用安全帽、電気絶縁用手袋、電気用袖カバー、電気用絶縁衣、電気用長靴などがある。
※ 日本産業規格「絶縁用保護具・防具類の耐電圧試験方法」(JIS T 8010:2017)
(2)適切であるとしておくが疑問。本肢は、①接地が必要がないとしていること、②二重絶縁を機能絶縁と保護絶縁からなると説明していることの2点が論点となる。
①の接地が必要がないとしていることについては、二重絶縁構造の電動機械器具は、安衛則第334条(第三号)の規定により、法的には接地をする必要はない。
【労働安全衛生規則】
(漏電による感電の防止)
第333条 事業者は、電動機を有する機械又は器具(以下「電動機械器具」という。)で、対地電圧が百五十ボルトをこえる移動式若しくは可搬式のもの又は水等導電性の高い液体によつて湿潤している場所その他鉄板上、鉄骨上、定盤上等導電性の高い場所において使用する移動式若しくは可搬式のものについては、漏電による感電の危険を防止するため、当該電動機械器具が接続される電路に、当該電路の定格に適合し、感度が良好であり、かつ、確実に作動する感電防止用漏電しや断装置を接続しなければならない。
2 事業者は、前項に規定する措置を講ずることが困難なときは、電動機械器具の金属製外わく、電動機の金属製外被等の金属部分を、次に定めるところにより接地して使用しなければならない。
一~三 (略)
(適用除外)
第334条 前条の規定は、次の各号のいずれかに該当する電動機械器具については、適用しない。
一及び二 (略)
三 電気用品安全法(昭和36年法律第234号)第2条第2項の特定電気用品であつて、同法第10条第1項の表示が付された二重絶縁構造の電動機械器具
しかし、安全のためには、二重絶縁構造の電動機械器具であったとしても、接地することが望ましいことは明らかである。従って、接地の必要がないとすることを「適切」とすることには同意しがたい。
次に、②の二重絶縁を機能絶縁と保護絶縁からなると説明していることについて検討する。本肢が「二重絶縁構造の電気機器とは、機能絶縁と保護絶縁を施したもの」としているのも、適切とする余地はある。例えば、奥村(※)は、二重絶縁について「電気機器側で地絡事故の防止対策を行う方法である。その代表的なものとして二重絶縁機器がある。電気機器の絶縁強化を図るために通電部分と金属製外箱間の絶縁体(機能絶縁)のほかに、更にその上部に1層の絶縁(保護絶縁)を施したもので機器の外部に電圧を生じさせないようにしたもの
」としている。
※ 奥村克夫「電気災害防止と接地の重要性」(電気設備学会誌 Vol.33 No.4 2013年)
しかし、JIS C 0365:2007「感電保護−設備及び機器の共通事項」によれば、二重絶縁(double insulation)とは、「基礎絶縁及び補助絶縁の両方で構成する絶縁
」(※)とされている。
※ なお、同じ JIS C 0365:2007 によれば、基礎絶縁(basic insulation)とは、「基本保護を行う危険充電部の絶縁。注記 この概念は、専ら機能目的のために用いる絶縁には適用しない
」とされ、補助絶縁(supplementary insulation)とは「故障保護のために,基礎絶縁に追加して施す独立した絶縁
」とされている。
【絶縁用保護具】
3 用語及び定義
3.10 絶縁(insulation)
3.10.3 二重絶縁(double insulation)
基礎絶縁及び補助絶縁の両方で構成する絶縁。
[IEV 195-06-08]
※ 日本産業規格「感電保護−設備及び機器の共通事項」(JIS C 0365:2007)
すなわち、JIS によれば、二重絶縁構造の電気機器とは、基礎絶縁(Basic Insulation)と補助絶縁(Supplementary Insulation)を施したものをいうのであり、本肢の「二重絶縁構造の電気機器とは、機能絶縁と保護絶縁を施したもの」という表現にもやや疑問を感じる(※)。
※ IEC 60950-1 などでは絶縁を5種類に分けており、機能絶縁(Operational Insulation)は「人を感電から保護するものではなく、機器が動作するための絶縁」とされ、一方、基礎絶縁は「感電に対する基礎的な保護をする絶縁」とされて、別なものと位置付けられている。また、補助絶縁とは「基礎絶縁が故障したときのために、基礎絶縁と共に用いられる追加的な絶縁」であり、保護絶縁という用語はあまり一般的ではない。
(3)適切である。溶接棒ホルダーは、感電の防止のため、導電部分が絶縁物で覆われている(※)が、溶接棒が短くなった状態で溶接を行うとアークの高熱によって絶縁物が焼損し、充電部分が露出するおそれがある。
※ 絶縁抵抗は、湿度処理後の状態で1 ㏁ 以上なければならないこととされている。なお、溶接棒ホルダには、A形ホルダ(type A electrode holder)とB形ホルダ(type B electrode holder)とがある。また、わが国の場合には、B形ホルダのうち、わが国固有の寸法規程を適用されたタイプJのホルダが規定されている。
そもそも溶接ホルダーの絶縁カバーは、熱や衝撃で劣化することが避けられないため、基本的に消耗品である。絶縁カバーが別売りされているので、定期に点検を行い(※)、絶縁抵抗が劣化したり破損したりした場合には交換しなければならない。
※ 小笠原仁夫「アーク溶接作業の安全と衛生(第2会)」(一般社団法人日本溶接協会)
(4)適切である。電動機械器具については、給電側の電路を接地した場合でも、電動機械器具の金属製外枠などを接地する必要がある。
本肢の「給電側の電路の接地」とはB種接地工事のことであり、変圧器の1次側との接触や落雷等で電路の電圧に高圧がかかっても、150 ボルト程度以上に電位を上げないようにするための接地である。一方、「電動機械器具の金属製外枠などの接地」は漏電時などにおける感電防止が目的である。この2つは目的が全く異なっており、片方を行ったからといってもう一方を省略できるようなものではない。
なお、これは電路に遮断装置を設置した場合でも同じであり、その場合でも電動機械器具の金属製外枠などを確実に接地しなければならない。
【絶縁用保護具】
2 しゃ断装置の接続
2-4 電動機械器具の接地
しゃ断装置を接続した場合であっても、電動機械器具の金属性外わく、金属性外被等の金属部分は、接地すること。
※ 厚生労働省「感電防止用漏電しゃ断装置の接続及び使用の安全基準に関する技術上の指針」(昭和 49 年7月4日技術上の指針公示第3号)
(5)適切ではない。保護接地(PE:Protective earthing)とは、非充電部に施す接地のひとつであり、絶縁不良が起きた場合などに感電や周辺機器の故障を防止するために、電気機械器具の筐体等を接地することである。なお、電気機械器具の筐体等の接地には、他に機能接地(FG:Frame ground)があるが、これは機器をゼロ電位にするための接地であり、保護接地とは区別される。
一方、本肢にいう接地は、電気設備技術基準第 12 条にいう接地(B種接地工事)で、充電部に施す接地である。その目的は、変圧器の高圧側との接触やなどによる低圧側の設備や機器の損傷を防ぐため、変圧器の2次側の電位を 150 ボルト程度以下に抑えることである。系統接地(SE:System earthing)と呼ばれ、保護接地とは別なものである。
【電気設備に関する技術基準を定める省令】
(特別高圧電路等と結合する変圧器等の火災等の防止)
第12条 高圧又は特別高圧の電路と低圧の電路とを結合する変圧器は、高圧又は特別高圧の電圧の侵入による低圧側の電気設備の損傷、感電又は火災のおそれがないよう、当該変圧器における適切な箇所に接地を施さなければならない。ただし、施設の方法又は構造によりやむを得ない場合であって、変圧器から離れた箇所における接地その他の適切な措置を講ずることにより低圧側の電気設備の損傷、感電又は火災のおそれがない場合は、この限りでない。
2 変圧器によって特別高圧の電路に結合される高圧の電路には、特別高圧の電圧の侵入による高圧側の電気設備の損傷、感電又は火災のおそれがないよう、接地を施した放電装置の施設その他の適切な措置を講じなければならない。