労働安全コンサルタント試験 2024年 産業安全一般 問12

化学物質の非定常作業におけるガイドライン




問題文
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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2024年度(令和06年度) 問12 難易度 あまり一般に知られていないガイドラインに関する問題である。内容の適否で正答は可能か。
非定常作業  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問12 化学設備の非定常作業において事業者が講じた措置についての次の記述のうち、厚生労働省の「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」において実施することが定められていないものはどれか。

(1)緊急事態に対応するため、爆発、火災、危険物・有害物等の漏えい等の想定訓練、負傷者に対する救急措置訓練を実施することとした。

(2)化学設備に該当する槽の入槽作業において、槽内は、可燃性ガス濃度は爆発下限界の5分の1以下、酸素濃度は18%以上となるように常時換気することとした。

(3)火気使用作業、入槽作業等の災害発生の危倹性の高い作業は、部門責任者の作業許可を書面により得るものとし、予定時間に作業が終了せず、翌日に作業を持ち越す場合は、改めて許可を得なければならないこととした。

(4)管理権原を有する設備の改修の仕事を注文するとき、当該仕事に関するリスクアセスメントを自ら行うことに代えて、請負人が行うリスクアセスメントに必要な情報を提供することとした。

(5)単独で実施することができる作業を限定するとともに、各個人の判断による単独作業を禁止することとした。

正答(4)

【解説】

問12試験結果

試験解答状況
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本問は、問題文にもあるように「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン最終改正:平成 20 年2月 28 日基発第 0228001 号)」(以下「ガイドライン」という)に関する問題である。

あまりよく知られたガイドラインではないので、内容を記憶しておくことは難しいだろう。しかし、内容を考えれば、(4)以外はなんらかの対策をとったのに対し、(4)だけはある対策をとる代替措置として別な対策をとったとされているのである。

そこで、(4)以外の選択肢の内容の内容を検討して安全対策にとって有用なものであれば(※)、(4)を選ぶことができたのではないだろうか。

※ もちろん、問題はガイドラインに定められているかどうかであって、選択肢の内容が安全対策に有用かどうかではない。しかし、安全対策の上で有用なものであれば、定められていると判断してよい。安全対策に有用な事項がガイドラインに定められていないとすれば、ガイドラインに不備があると言っているようなものである。そのような問題を厚労省が主管する試験に出題するわけがないのである。

(1)定められている。ガイドラインの8の(3)により、緊急事態に対応するため、爆発、火災、危険物・有害物等の漏えい等の想定訓練、負傷者に対する救急措置訓練を実施することとされている。

事故に対する想定訓練や、負傷者に対する救急措置訓練の実施が安全対策を行う上で有用性がないとは考えにくい。従って、本肢は「定められている」と考えてよいと判断できる。この選択肢を選んだ受験者は(少なくともアンケートへの回答者の中では)いなかった。

【化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン】

8 緊急事態への対応

  非定常作業実施中に爆発、火災、危険物・有害物等の漏えい、労働災害の発生等の緊急事態が生じた場合に対応するため、次の措置を講ずること

(1)及び(2)(略)

(3)爆発、火災、危険物・有害物等の漏えい等の想定訓練、負傷者に対する救急措置訓練を実施すること。

(4)及び(5)(略)

※ 厚生労働省「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」(平成 20 年2月 28 日基発第 0228001 号)

(2)定められている。ガイドラインの7の(4)のオに、化学設備に該当する槽の入槽作業において、槽内は、可燃性ガス濃度は爆発下限界の5分の1以下、酸素濃度は 18% 以上となるように常時換気することとされている。

本肢で疑わしいところがあるとすれば、「可燃性ガス濃度は爆発下限界の5分の1以下」の部分であろう。事業場によっては、さらに厳しい基準を設けているところもあるかもしれない。しかし、現実には「爆発下限界の5分の1以下」であれば、多少の揺らぎがあっても爆発することはない。国の基準は、最低ラインに定められることが多いのである。

なお、酸素濃度の 18% 以上は、労働安全衛生法令ではとくに問題はないとされている。

【化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン】

7 作業の実施

  非定常作業は、次の事項に留意して実施すること。

(1)~(3)(略)

(4)入槽作業に関する留意事項

ア~エ (略)

 槽内は、可燃性ガス濃度は、爆発下限界の 1/5 以下、酸素濃度は 18% 以上、硫化水素濃度は 10ppm 以下、その他予測される有害ガスの濃度は、健康障害を受けるおそれのない濃度以下になるように常時換気すること(安衛則第 577 条及び酸欠則第5条)。

カ~ク (略)

(5)及び(6)(略)

※ 厚生労働省「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」(平成 20 年2月 28 日基発第 0228001 号)

(3)定められている。ガイドラインの7の(6)の柱書に、火気使用作業、入槽作業等の災害発生の危倹性の高い作業は、部門責任者の作業許可を書面により得ることとされている。また、同(6)のイには、予定時間内に作業が終了しなかった場合は、改めて許可を受けることとされている。

文章を読む限り、危険性の高い作業は部門責任者の許可をとるようにとしているのみである。そのような行為が間違っているとは思えない。疑うとすれば、国のガイドラインにそこまで定めるのかということと、「部門責任者」ではなく「事業者」ではないかということがあり得るだろうか。

しかし、繰り返すが部門責任者が責任を持って許可するようにすることは安全対策を行う上で有効であろう。であれば、仮に定められていないとしても国の試験にそのような肢を出すとは考えにくいと判断できよう。一方、大規模な事業場においては、現場の小さな作業についてまで、事業者(トップ)の許可をとれというのは、あまり現実的ではないだろう。

【化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン】

7 作業の実施

  非定常作業は、次の事項に留意して実施すること。

(1)~(5)(略)

(6)作業許可

  火気使用作業、入槽作業及び高所作業等の災害発生の危険性の高い作業は、あらかじめ部門責任者(請負人にあっては、設備の管理権原を有する注文者)の書面による許可を得ること。

 (略)

 作業内容の変更が必要な場合は、新たに作業許可を受けること。また、予定時間内に作業が終了しなかった場合は、改めて許可を受けること。

ウ及びエ (略)

※ 厚生労働省「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」(平成 20 年2月 28 日基発第 0228001 号)

(4)定められていない。ガイドラインの7の本文の第3段落に「設備の管理権原を有する注文者は、注文する仕事に関する危険性又は有害性等の調査(※)を実施するとともに、請負人(元方事業者及び関係請負人を含む。)が行う危険性又は有害性等の調査に必要な情報提供、指導及び援助を行うこと」とされている。

※ ここにいう「危険性又は有害性等の調査」は、リスクアセスメントを表す法令用語である。

設備の管理権原を有する注文者については、リスクアセスメントを自ら行うこととされている。これに代えて、請負人が行うリスクアセスメントに必要な情報を提供することは認められていない。設備の管理権限があるのなら、リスクアセスメントは自ら行えということである。

【化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン】

4 危険性又は有害性等の調査

  「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年指針公示第1号)、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年指針公示第2号)及び「機械の包括的な安全基準に関する指針」(平成19年7月31日付け基発第0731001号)の第3に基づき、化学設備の非定常作業について危険性又は有害性等の調査を実施すること。

  また、危険性又は有害性等の調査を実施する際には、次の危険性又は有害性及びこれに対応する措置を考慮すること。

  設備の管理権原を有する注文者は、注文する仕事に関する危険性又は有害性等の調査を実施するとともに、請負人(元方事業者及び関係請負人を含む。)が行う危険性又は有害性等の調査に必要な情報提供、指導及び援助を行うこと。

(1)~(5)(略)

※ 厚生労働省「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」(平成 20 年2月 28 日基発第 0228001 号)

(5)定められている。ガイドラインの7の(2)のオに、単独で実施することができる作業を限定するとともに、各個人の判断による単独作業をさせないこととされている。

本肢も安全対策をとる上で、好ましいことである。

【化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン】

7 作業の実施

  非定常作業は、次の事項に留意して実施すること。

(1(略)

(2)一般的留意事項

ア~エ (略)

 単独で実施することができる作業を限定するとともに、各個人の判断による単独作業を実施させないこと。

 (略)

(3)~(6)(略)

※ 厚生労働省「化学設備の非定常作業における安全衛生対策のためのガイドライン」(平成 20 年2月 28 日基発第 0228001 号)