労働安全コンサルタント試験 2024年 産業安全一般 問10

不安全行動の背後にある人間の心理的要因




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和06年度) 問10 難易度 不安全行動の背景にある問題だが、一般にあまり知られていない事項であり、難問だっただろう。
不安全行動と心理的要因  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問10 不安全行動の背後にある人間の心理的要因に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

(1)ベルトコンベヤーで運ばれてくる部品に傷があるのを発見して、不良品であるこの部品を慌てて取り除こうとして手を出す行動は、憶測判断である。

(2)工場内の通路を白線で表示していても、それを無視して所定の通路ではなく最短距離を通ろうとして、動いている機械の横をすり抜ける行動は、場面行動本能によるものである。

(3)作業に際して、所定の作業用具を使用せずに、近くにあった他の目的に使用する用具で間に合わせる行動は、省略行為である。

(4)作業を熟知しているために、作業の個々の手順を無意識的に連続動作として進行させてしまう行動は、周縁的動作である。

(5)交差点で信号待ちをしている自動車が、前方の信号が青になってから発車するのではなく、左右の信号が赤になった途端に発車する行動は、近道反応である。

正答(3)

【解説】

問10試験結果

試験解答状況
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本問は(3)と(4)に解答が分かれた。不安全行動の背後にある人間の心理的要因については、本問で問われている事項の一部には、一般にそれほど知られていないものがある。また、必ずしも明確に分類できるようなものでもないため、受験者としても迷ったのではないだろうか。

本問は、①憶測判断、②場面行動本能、③省略行為、④周縁的動作及び⑤近道反応という5つの用語が出てくる。まず、これらの用語について理解する必要がある。

項目 内容 具体的な例
憶測判断 文字通り、周囲の状況を憶測で判断する行為 車を運転して右折しようとするときに、対向車が速度を緩めたので止まるだろうと考えて、強引に右折する行為
場面行動本能 注意が目の前にあることに集中してしまい、周囲の状況がを無視して反射的に行動すること 墜落の危険のある場所での作業中に、手にしていた部品を落としたとき、反射的に部品をつかもうとして墜落する
省略行為 正規(定められた)手順を無視して、必要な行動を省略すること。正規の手順を無視しても大丈夫という意識が背景にある。 グラインダーの作業開始前の試運転を行わずに仕事を始める行為
周縁的動作 意識して行っている本来の作業とは別に、意識の周縁で行われる無意識に近い動作 チェーンソーで伐採作業を行っているときや、回転機械を動作させながら修理しているときに、(いつものくせで)体を伸ばしたり、腕を伸ばしたりする行為
近道反応 省略行為と同様だが、正規(定められた)工程を無視して、必要な行動を省略する行為。正規の手順を無視しても大丈夫という意識が背景にある。 工場の安全通路が定められているにもかかわらず、通路ではない作業区域を横切る行為

(1)誤り。ベルトコンベヤーで運ばれてくる部品に傷があるのを発見して、不良品であるこの部品を慌てて取り除こうとして手を出す行動は、一般には場面行動本能というべきであろう。

(2)誤り。場面行動本能とは、一つの物事に集中し過ぎて周囲が見えなくなり、状況をよく見ずに本能的に行動してしまうことである。工場内の通路を白線で表示していても、それを無視して所定の通路ではなく最短距離を通ろうとして、動いている機械の横をすり抜ける行動は、一般には、近道反応によるものであろう。

(3)正しい、作業に際して、所定の作業用具を使用せずに、近くにあった他の目的に使用する用具で間に合わせる行動は、一般には、省略行為であろう。

(4)誤り。周縁的動作とは、意識して行っている本来の作業とは無関係に、記憶に残らない浅い意識下で行われる行為のことである。本来の意識して行う作業とは別(周縁)の、何気なく姿勢を変えたりする動作などのこと。

本肢は、Rasmussen の SRK モデル(※)にいう「Skill べ一ス」のことか。

※ 作業行動のパターンをスキル(Skill)ベース、ルール(Rule)ベース、ナレッジ(Knowledge)ベースに分けて説明するモデル。Skill べ一スとは、作業に慣れてしまい、とくに意識しなくても作業ができるようになったレベルをいう。作業に注意が向かなくなるため、ミスを犯しやすい状態ともいえる。

(5)誤り。近道反応とは、安全よりも効率的に行動することを優先して、必要な手順を省略して不安全な行動をとることをいう。一般には左右の信号が赤になった途端に発車する行動は、近道反応とはいわないだろう。