問8 色の特性に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)色の誘目性とは、注意の引きやすさ、目立ちやすさを表すもので、一般に、黄や橙は目を引きやすく、紫や青紫は目立ちにくいとされている。
(2)色の視認性とは、見やすさ、検出しやす会を表すもので、背景と対象との明度差が大きいほど視認性が高くなる。
(3)色の識別性とは、複数ある対象の区別(識別)のしやすさを表すもので、色により三つを識別するときは、赤、緑、黄を使うとよい。
(4)色には進出色と後退色があり、寒色系の色は進出色であり、手前にあるように見える。
(5)色に対する生理反応として、赤には興奮作用があり、青には鎮静作用があるとされている。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2024年度(令和06年度) | 問08 | 難易度 | 色の特性に関する問題も新しいタイプの問題である。正答率は高かった。 |
---|---|---|---|
色の特性 | 1 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問8 色の特性に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)色の誘目性とは、注意の引きやすさ、目立ちやすさを表すもので、一般に、黄や橙は目を引きやすく、紫や青紫は目立ちにくいとされている。
(2)色の視認性とは、見やすさ、検出しやす会を表すもので、背景と対象との明度差が大きいほど視認性が高くなる。
(3)色の識別性とは、複数ある対象の区別(識別)のしやすさを表すもので、色により三つを識別するときは、赤、緑、黄を使うとよい。
(4)色には進出色と後退色があり、寒色系の色は進出色であり、手前にあるように見える。
(5)色に対する生理反応として、赤には興奮作用があり、青には鎮静作用があるとされている。
正答(4)
【解説】
色に関する問題は、産業安全一般の科目では初出である。しかも、正答の(4)は進出色と後退色という、あまり一般には知られていない内容だった。
ところが、正答率はきわめて高いのである。これは、(4)以外は一般的な常識に沿った内容だったので、よく分からない(4)を正答(誤っている)として選んだために正答率が高くなったのかもしれない。
(1)適切である。色の誘目性とは、色彩心理学において用いられる用語である。その意味を一言でいえば「人間の対象物に対する認知しやすさ」のことである。これを別な言葉でいえば、本肢にある「注意の引きやすさ、目立ちやすさ」となろう。
とくにそれを探しているわけではない者に、それがそこに「存在していることに気付かせる」ことができるレベルなのである。
誘目性の高い色としては、彩度の高い色、明度の高い色、(寒色より)暖色が該当する。一般に、赤、黄、橙は誘目性が高く目を引きやすく、紫、青、青紫などは目立ちにくいとされている(※)。
※ 神作博「色彩の誘目性に関する実験的研究(8)」(日本心理学会第 36 回大会発表論文集 1972 年)
(2)適切である。色の視認性とは、見やすさ、検出しやすさを表す用語である。(1)の誘目性が、とくにそれを探しているわけではない(言葉を換えれば関心のない)者の注目を引く程度であるのに対し、視認性は積極的に探している者にとっての見つけやすさを意味するのである。
視認性を高めるには、背景との明度差(コントラスト)を大きくとればよいとされている(※)。例えば、黄色の地に黒い絵を描くことで視認性が上がる。
※ 例えば、(財)日本色彩研究所編「カラーコディネータのための色彩科学入門」(日本色彩事業(株)2003 年)など。
(3)適切である。色の識別性とは、他の要素との区別しやすさの度合いである。例えば、信号の赤、青(緑)、黄の表示は、赤信号が青や黄ではないと一目見て区別ができる。これが、識別性が高いということである。
識別性を高めるには、それぞれを区別しやすい色にすればよい。色により三つを識別するときは、赤、緑、黄を使うとよいとされている。
(4)適切ではない。色には進出色と後退色があることは正しい。しかし、一般的には、赤などの長波長で明るい色は進出し、青などの短波長で暗い色は後退して見えるとされている(※)。これによれば、本肢とは逆に、寒色系の色は後退色であり、遠くにあるように見えることになる。
※ 例えば、柑馬一郎「色彩のはたらき」(和田陽平他編「感覚・知覚ハンドブック」(誠信書房 1969 年)所集)など
もっとも、「人によっては必ずしもそのように見えるとは限らない」とする説もある。北岡明佳氏(※)によると「6割の人は、黒背景で赤(長波長)が手前に見え、2割の人は青(短波長)が手前に見え、2割の人には色立体視は起こらないか、あるいは赤が手前に見えたり青が手前に見えたりするようである。教科書などによく書いてある『赤は進出色だから手前に見え、青は後退色だから奥に見える』という記述は、必ずしも正しくない
」とされている。
※ 立命館大学総合心理学部教授。引用文は「北岡明佳の錯視のページ(色立体視2)」より。
図は、北岡明佳氏(※)によるものである。北岡氏によると「赤い丸が手前に見える人が多い
」とされているが、前述したように誰にとってもそう見えるとはされていない。
※ 「北岡明佳の錯視のページ」より。なお、図は、同サイトの引用条件に基づいて引用させて頂いている。
なお、このサイトには他にも錯視に関する図が、多数、アップされている。労働安全の実務家にとっても参考になるものがあると思える。
少なくとも、筆者(柳川)には、同サイトの注意書きにあるように1メートル以上離れて視ても、赤が手前にも青が手前にも見えない(※)。試験の解答としては「教科書などによく書いてある
」通りに答えるしかないが、実際にそうなるかどうかは、各自で確認して頂きたい。
※ 言われてみれば、赤が手前に見えるという気がしなくもないが、同じようなレベルで青が手前に見えるようにも見えなくもない。
(5)適切である。色には興奮色と鎮静色がある。赤みの強い色は興奮色であり、青みが強く明度・再度が低い色は鎮静色であるとされている(※)。
※ 例えば、東吉彦他「脳血流変化に基づく色の興奮・鎮静作用の検証」(日本色彩学会誌 Vol.41 No.3 2017年)など
この点について、千々岩(※)は「赤はどの色よりも情緒的興奮を呼び起こす。青は赤とは反対に鎮静作用をもたらす」と述べている。
※ 千々岩英彰「人はなぜ色に左右されるか」(河出夢新書 1997年)