労働安全コンサルタント試験 2024年 産業安全一般 問06

移動式クレーンと玉掛け




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和06年度) 問06 難易度 移動式クレーンに関する基本的な知識問題。過去問にもヒントがあり正答しておきたい。
移動式クレーン  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問6 移動式クレーンに関する次の記述のうち、適切なものはどれか。

(1)つり上げ荷重とは、アウトリガーを有する移動式クレーンにあっては、当該アウトリガーを最大限に張り出し、ジブ長さを最長に、傾斜角を最小にしたときに負荷させることのできる最大の荷重をいい、フックなどのつり具分が含まれる。

(2)定格速度とは、つり上げ荷重に相当する荷をつって、つり上げ、旋回などの作動を行う場合の、それぞれの最高の速度をいう。

(3)トラッククレーンの上部旋回体に設置された運転室には、クレーン操作装置及び走行用操縦装置が装備されている。

(4)ラフテレーンクレーンは、アウトリガーを最大限に張り出した場合は、全周共通の定格総荷重で作業ができる。

(5)玉掛け用ワイヤロープの外れ止め装置は、フックブロックのシーブから玉掛け用ワイヤロープが外れるのを防止するための装置である。

正答(4)

【解説】

問6試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

本問は、建設業の安全の業務に従事しているなど移動式クレーンに詳しい受験者であれば、簡単に正答できる問題である。しかし、移動式クレーンについての知識がない受験者にとっては、かなりの難問だったようだ。

本問は、(4)と(5)に解答が分かれた。実は、(4)も最近の大型のラフテレーンクレーンに関して言えば、誤りと考える余地がある。しかし、(5)は移動式クレーンの構造に詳しい受験者にとっては、ほとんど冗談のような内容なのだ。ただ、通常の受験者は、フックブロックという用語は知らないことが多いだろう。

とはいえ、クレーンに関する問題が出題されることは多いので、なんらかの対策は取っておくべきである。厚生労働省「小型移動式クレーン運転技能講習=補助テキスト」に目を通しておくと良いかもしれない。

つり上げ荷重

図(※1)をクリックすると拡大します

(1)適切ではない。つり上げ荷重とは、移動式クレーンの構造および材料に応じて負荷させることができる最大の荷重である。アウトリガーを最大限に張り出し、ジブ長さを最短に、傾斜角を最大にしたときに負荷させることのできる最大の荷重をいい、フックなどのつり具の質量が含まれる。

※1 図は、厚生労働省「小型移動式クレーン運転技能講習=補助テキスト」(技能講習補助教材)より引用

(2)適切ではない。クレーン則第1条第七号の定義によれば、定格速度とは、定格荷重に相当する荷をつって、つり上げ、旋回などの作動を行う場合の、それぞれの最高の速度をいうとされている。つり上げ荷重に相当する荷をつって作動を行う場合ではない。

【クレーン等安全規則】

(定義)

第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~六 (略)

 定格速度 クレーン、移動式クレーン又はデリツクにあつては、これに定格荷重に相当する荷重の荷をつつて、つり上げ、走行、旋回、トロリの横行等の作動を行なう場合のそれぞれの最高の速度を、エレベーター、建設用リフト又は簡易リフトにあつては、搬器に積載荷重に相当する荷重の荷をのせて上昇させる場合の最高の速度をいう。

トラッククレーン

図(※2)をクリックすると拡大します

(3)適切ではない。トラッククレーン(※1)の場合、上部旋回体に設置された運転室(クレーン運転室)には、クレーン操作装置が装備されている。走行用操縦装置は下部走行体に固定されたキャリア運転室に装備されている。

※1 トラッククレーンとは、通常のトラックの荷台部分にクレーンの旋回体を設置したものである。近年では、ラフテレーンクレーンが用いられるようになっており、トラッククレーンは国内ではほとんど製造されていない。

なお、ここにいうトラッククレーンに、積載型トラッククレーンは含まれていない。そもそも積載型トラッククレーンの上部旋回体には運転室は設置されていない。

※2 図は、厚生労働省「小型移動式クレーン運転技能講習=補助テキスト」(技能講習補助教材)より引用

なお、ラフテレーンクレーンやクローラークレーンなどには、上部旋回体に設置された運転室に、クレーン操作装置及び走行用操縦装置が装備されている。

(4)適切である。ラフテレーンクレーンは、アウトリガーを最大限に張り出した場合は、全周共通の定格総荷重(※1)で作業ができる(※2)。これはクローラークレーンの場合も同じである。

※1 定格総荷重とは、「各ジブ長さ及び各作業半径において許容できる最大の質量による荷重。荷のほか,フック、グラブバケットなどのつり具の質量に相当する荷重を含む」(JIS B 0146-2:2017「クレーン−用語−第2部:移動式クレーン」より)。定格総荷重は機体によって常に同じではなく、ジブの長さや傾斜角を変えれば変化する。また、定格荷重(玉掛用具を含めて実際につれる質量)は、つり具の質量だけ定格総荷重よりも小さくなる。

※2 なお、厳密に言えば、これは正しくない。最近の大型のラフテレーンクレーンは軸重の制限の関係から前後のタイヤの数を増やさざるを得ないため、前後に長くなる傾向がある。このため、機種によっては、前後の方向は横方向よりも定格総荷重が大きくなるものがあるのだ。その意味では、試験協会の出題ミスと言ってもよい問題である。

なお、これについては、2021 年度の問6の(5)の解説に、当時から書いてあった。これを覚えておいて頂ければ正答できたのだが・・・。

フックブロック

図(※)をクリックすると拡大します

(5)適切ではない。本問の「フックブロック」とは、フックが下部に取り付けられている構造体のことで、シーブ(動滑車)が収納されている。

玉掛け用ワイヤロープの外れ止め装置(移動式クレーン構造規格第 32 条)は、フックから玉掛け用ワイヤロープが外れるのを防止するための装置である。フックブロックのシーブに掛かっているのは巻上げ用ワイヤロープであって、玉掛け用ワイヤロープは掛かっていないし、外れ止め装置でシーブにかかっている巻上げ用ワイヤロープの外れ止めの効果があるわけがない。

※ 図は、厚生労働省「小型移動式クレーン運転技能講習=補助テキスト」(技能講習補助教材)より引用

【移動式クレーン構造規格】

(外れ止め装置)

第32条 フックは、玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れることを防止するための装置を備えるものでなければならない。