労働安全コンサルタント試験 2024年 産業安全一般 問01

安全管理等(一般)




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和06年度) 問01 難易度 安全管理に関するごく基本的な問題。あいまいな肢もあるが、確実に正答できなければならない。
安全管理等(一般)  3 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問1 安全管理等に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)事業場トップは、まず事業場の安全衛生についての目標を設定させ、それを踏まえ、自らの安全衛生に対する姿勢を明確にした安全衛生方針を表明する。

(2)事業場トップは、各級の管理監督者に必要な権限を委任した場合でも、それぞれの業務の履行状況の報告を求めるなどによって事業場の安全衛生管理の実状を把握し、必要な場合には改善などの措置を講じることを指示する。

(3)日常的に KYT(危険予知訓練)を行う職場では、常日頃から危険重要因を見出す訓練が行われ、危険に対する感受性が高まることから、リスクアセスメントの危険性又は有害性の特定がスムーズに行えるようになる。

(4)5Sのうちのしつけは、4S(整理、整頓、清掃、清潔)が全員に徹底され、適切に実行されるようにするための基盤である。

(5)ヒヤリ・ハット活動は、作業中にヒヤリとしたことやハッとしたことを危険情報として活用する安全衛生活動で、当事者の責任を追及するためではな、危険情報の把握をねらいとしている。

正答(1)

【解説】

問1試験結果

試験解答状況
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(1)適切ではない。安全衛生マネジメントシステムでは、事業場トップは、まず安全衛生方針を表明し、その後、それを踏まえて、事業場の安全衛生についての目標を設定させる。順序が逆である。

本問では、(4)を選んだ受験者がかなりいる。おそらく(1)を正しいと考えて、他の選択肢の中から最も誤っていそうなものを選んだということであろう。

本肢が適切ではない(正答である)とする背景にある考え方の基本は、事業場の安全衛生活動に最終的な責任を負うべきはトップであり、トップが安全衛生の基本方針を決定しなければならないということなのである。トップがまずその事業場における安全衛生の問題点その他の状況を把握・認識し、それに基づいて安全衛生方針を表明する必要があるのだ。事業場の安全衛生についての目標は、それを踏まえて決定されなければならない。

事業場の安全衛生についての目標は、労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針第 11 条にあるように「安全衛生方針に基づき」設定されるべきものなのである。実質的にもトップの方針が示されない限り、定められるようなものではない。トップの方針があって、だからどこまで行こうという目標が定まるのである。目標があってから方針を定めるのは、手段を定めてから目標を定めようというようなもので、主従が逆なのである。

【労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針】

(安全衛生方針の表明)

第5条 事業者は、安全衛生方針を表明し、労働者及び関係請負人その他の関係者に周知させるものとする。

 (略)

(安全衛生目標の設定)

第11条 事業者は、安全衛生方針に基づき、次に掲げる事項を踏まえ、安全衛生目標を設定し、当該目標において一定期間に達成すべき到達点を明らかとするとともに、当該目標を労働者及び関係請負人その他の関係者に周知するものとする。

一及び二 (略)

(2)適切でないとは言えない。当然のことであろう。

(3)適切でないとは言えない。もちろん、本肢が述べていることに科学的な根拠エビデンスが存在しているかといえば、そうとは思えない(※)。たんなる精神論(こうあって欲しいという理想論)にすぎない。なお、本肢のようになるかどうかは、その KYT が適切に行われているかどうかによるだろう。

※ たんなる精神論であり、適切だとか適切ではないなどと言えるようなものではな。そういう意味で、適切でないとは言えないのである。しかし、このような精神論を国家試験の問題にするべきではないのではないだろうか。

(4)適切でないとは言えない。本肢についても、本肢のような見解が公的な見解オフィシャルストーリーとして定められているわけでもなければ、定説コモンセンスとして一般に認められているわけでもない。これもこういう考え方もあるというだけのことであり、適切だとか適切でないとか判断できるようなものではないということである。

そもそも「しつけ」とは、親(や学校)が後見的に子供を育てるときに行うことである。そのような言葉は、労使は独立した対等な人格であるとする近代的労使関係にそぐわないというべきである。そのような理由から、(一部の地方局を除けば)行政はこれまで5Sという言葉をほとんど使ってこなかった(※)

※ 職場のあんぜんサイトの「安全衛生キーワード」の「4S(整理、整頓、清掃、清潔)」でわずかに事実関係だけを紹介している程度である。なお、YAHOO!JAPAN の検索サイトで「5S」で検索し、ドメインを「.go.jp」に限定してみれば、厚生労働省の安全衛生部が作成したページはほとんどヒットしないことが分かるだろう。ただ、一部の地方局や老健局が作成したページなどでは、近代的労使関係の意味が理解できないのか、ごく一部だが5Sという用語を用いているページがヒットする。

なお、最近では、躾とは「習慣化」のことであると解説するテキストも多いが、それなら躾などという言葉を用いず、「習慣化」といえばよいことである。これも「S」で始まる用語なのだ。

躾という言葉には、会社は労働者より優れているのだから、労働者を教導するべき立場にあるという無意識の考え方が見え隠れする。そこには、労働者にその必要性を理解させ、納得させた上で、労働者自ら行動させようという意識は感じられない。しかも、躾などという用語を使っていたのでは、Z世代など多くの若者には生理的な嫌悪感を持たれ、本心からは受け入れられないのである。

そればかりか、長期的には、労働者に対して、「上からの指示に従ってさえいればよく、自ら考えてはいけない」という意識を植え付けることになりかねない。このような日本企業の前近代的な風潮が、IT部門における日本の凋落をもたらしたというべきであろう。

【4S(整理、整頓、清掃、清潔)】

4S(整理、整頓、清掃、清潔)

  4S(よんえす)は、安全で、健康な職場づくり、そして生産性の向上をめざす活動で、整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seiso)、清潔(Seiketsu)を行う事をいいます。しつけ(Shitsuke)を加えて5Sも普及しています。

1 整理

  (内容 略)

2 整頓

  (内容 略)

3 清掃

  (内容 略)

4 清潔

  (内容 略)

5 しつけ

  「しつけ」は、決めたこと、教わったことを必ず守るように指導することです。挨拶や言葉づかい、話し方、服装のほか、作業標準を守る、ものを定められた位置に置く、機械機器は決められた方法で取扱操作するなどの仕事の手順を教育することを含みます。

  4Sとは、職場の仕事に、必要なものだけが置かれ、必要なものがいつも同じ場所にあり、必要なものが汚れのない状態であり、いつ見ても職場がその状態であって作業者の身体や服装がきれいであるかという状態にあるようにする活動のことなのです。4S活動は、職場を単にきれいにするという表面的なことでは無く、職場の安全と作業者の健康を守り、そして生産性を向上させる教育プログラムであって、この好ましい状態を維持することなのです。

※ 厚生労働省「安全衛生キーワード」の「4S(整理、整頓、清掃、清潔)」(職場のあんぜんサイト)より

(5)適切でないとは言えない。厚労省の職場のあんぜんサイトの「安全衛生キーワード」の「ヒヤリハット」の項目には「ヒヤリハットは報告する側にとっても、報告を受ける側にとっても、あまり名誉なことではありません。このため、労働者を責めないという取決めをし、これを実行しないと、制度が長続きしません」とされている。

【ヒヤリハット】

ヒヤリハット

  (前段 略)

  ヒヤリハットは報告する側にとっても、報告を受ける側にとっても、あまり名誉なことではありません。このため、労働者を責めないという取決めをし、これを実行しないと、制度が長続きしません。たとえ作業手順書どおりに作業を行わなかったことが原因であった場合も、手順書に無理があって守ることができないのかもしれません。手順書の見直しの良い機会と考えるべきです。

  (後段 略)

※ 厚生労働省「安全衛生キーワード」の「ヒヤリハット」(職場のあんぜんサイト)より