問25 第14次労働災害防止計画における死傷災害の発生状況等の分析に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)令和2年及び令和3年においては、新型コロナウイルス感染症へのり患による影響もあるが、その影響を除いても死傷者数、年千人率ともに増加傾向にある。
(2)転倒災害の発生率は身体機能の影響が大きく、性別・年齢別で大きく異なっており、令和3年では、特に女性は60歳代以上で20歳代の約15倍となる等、高年齢の女性の転倒災害の発生率が高くなっている。
(3)産業構造の変化に伴う労働移動、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一時的な雇用調整や飲食業等におけるサービス内容の変化に伴い、新たな業務に不慣れな労働者が増加していることも、死傷災害の増加要因と考えられる。
(4)経験年数が1年未満の労働者の死傷年千人率は、経験年数が1年以上の労働者の死傷年千人率に比べて高く、令和3年では、特に50~59歳の年齢階層で見た場合は3倍近い差が出ている。
(5)コロナ禍における外出自粛による宅配便取扱個数の増加等の影響もあり、陸上貨物運送事業における労働災害が増加し、令和3年では、事故の型別で見ると作業中の「転倒」が全体の約3割を占め、最多となっている。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2023年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2023年度(令和05年度) | 問25 | 難易度 | 実質的な労働災害統計に関する問題であるが、かなり詳細な内容であり、正答率は低かった。 |
---|---|---|---|
第14次労働災害防止計画 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問25 第14次労働災害防止計画における死傷災害の発生状況等の分析に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)令和2年及び令和3年においては、新型コロナウイルス感染症へのり患による影響もあるが、その影響を除いても死傷者数、年千人率ともに増加傾向にある。
(2)転倒災害の発生率は身体機能の影響が大きく、性別・年齢別で大きく異なっており、令和3年では、特に女性は60歳代以上で20歳代の約15倍となる等、高年齢の女性の転倒災害の発生率が高くなっている。
(3)産業構造の変化に伴う労働移動、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一時的な雇用調整や飲食業等におけるサービス内容の変化に伴い、新たな業務に不慣れな労働者が増加していることも、死傷災害の増加要因と考えられる。
(4)経験年数が1年未満の労働者の死傷年千人率は、経験年数が1年以上の労働者の死傷年千人率に比べて高く、令和3年では、特に50~59歳の年齢階層で見た場合は3倍近い差が出ている。
(5)コロナ禍における外出自粛による宅配便取扱個数の増加等の影響もあり、陸上貨物運送事業における労働災害が増加し、令和3年では、事故の型別で見ると作業中の「転倒」が全体の約3割を占め、最多となっている。
正答(5)
【解説】
第14次労働災害防止計画の2の「(2)死傷災害の発生状況と対策の方向性」からの出題である。従って、労働災害防止計画に書かれているかどうかによって正誤が決まるわけだが、同計画の内容を事細かに覚えていなくとも、現実に正しい内容であれば正しいとしてよい。
本問で問われているのは、あくまでも第14次労働災害防止計画の内容であるが、内容が正しいにも関わらず同計画に記載されていないから誤りなどという設問を、厚労省の国家試験に出題するはずがないのである。
(1)適切である。第14次労働災害防止計画の2の(2)に本肢のままの文章がある。2020年(令和2年)及び2021年令和3年に、新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害が大きく発生したことは正しい。しかし、その影響がなくとも、高齢化による転倒災害、動作の反動・無理な動作、墜落・転落などが増加傾向にあり、このために、死傷者数、年千人率ともに増加傾向にあるのである。
【第14次労働災害防止計画】
2 安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性
(2)死傷災害の発生状況と対策の方向性
ア 死傷災害の発生状況
死傷災害については、第 13 次労働災害防止計画期間中、増加傾向にある。令和2年及び令和3年については、新型コロナウイルス感染症へのり患による影響もあるが、その影響を除いても死傷災害件数、年千人率ともに増加傾向にある。その内訳を見ると、事故の型別では、「転倒(23%)」、「動作の反動、無理な動作(14%)」が合わせて死傷災害全体の約4割(37%)を占めている。業種別では、第三次産業が5割以上を占めているが、その内訳を見ると、事故の型別は、「転倒(28%)」や「動作の反動・無理な動作(16%)」と労働者の作業行動に起因する死傷災害が4割以上を占めている。そのうち、転倒災害の発生率は身体機能の影響も大きく、性別・年齢別で大きく異なる。男女ともに中高年齢層で発生率が高くなっており、特に女性は 60 歳代以上では 20 歳代の約 15 倍となっている等、高年齢の女性の転倒災害の発生率が高くなっている。
※ 第14次労働災害防止計画
(2)適切である。(1)の解説に示したように、第14次労働災害防止計画の2の(2)に本肢のままの文章がある。なお、図は、厚生労働省「令和4年 高年齢労働者の労働災害発生状況」の一部で、第14次労働災害防止計画についての説明に使われた資料であるが、同様な数値が挙げられているので、参考までに挙げておく。
(3)適切である。第14次労働災害防止計画の2の(2)に本肢のままの文章がある。
【第14次労働災害防止計画】
2 安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性
(2)死傷災害の発生状況と対策の方向性
イ 死傷災害の増加の要因及び対策の方向性
死傷災害の増加については、
(中略)
③ 安全衛生の取組が遅れている第三次産業や中小事業場において労働災害が多く発生しており、その背景として、厳しい経営環境等様々な事情で安全衛生対策の取組が遅れている状況があること
(中略)
上記の③に関しては、産業構造の変化に伴う労働移動、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一時的な雇用調整や飲食業等におけるサービス内容の変更に伴い、新たな業務に不慣れな労働者が増加していることが死傷災害増加の要因とも考えられる。年齢別・経験期間別死傷年千人率を見ても、経験年数が1年未満の労働者の死傷年千人率は、経験年数が1年以上の労働者の死傷年千人率に比べて高く、特に 50~59 歳の年齢階層で見た場合は3倍近い差が出ている。
(後略)
※ 第14次労働災害防止計画
(4)適切である。(3)の解説に示したように、第14次労働災害防止計画の2の(2)に本肢のままの文章がある。
(5)適切ではない。第14次労働災害防止計画の2の(2)には、「コロナ禍における外出自粛による宅配便取扱個数の増加等の影響もあり、陸上貨物運送事業における労働災害が増加し、令和3年では、事故の型別で見ると荷役作業中の「墜落・転落」が全体の約3割を占め、最多となっている
」とされている。
荷役作業は、トラックの荷台などから墜落するケースが多く、転倒災害よりも墜落・転落災害の方が多いのである。
【第14次労働災害防止計画】
2 安全衛生を取り巻く現状と施策の方向性
(2)死傷災害の発生状況と対策の方向性
イ 死傷災害の増加の要因及び対策の方向性
死傷災害の増加については、
(中略)
④ その他、直近の労働災害の増加については、新型コロナウイルス感染症の影響による生活様式の変化やこれに伴うデリバリーサービスや宅配需要の増加の影響があること
(中略)
また、上記の④について、特に物流に関しては、コロナ禍における外出自粛による宅配便取扱個数の増加等の影響もあり、陸上貨物運送事業における労働災害が増加し、荷役作業中等の「墜落・転落」が全体の約3割を占め、最多となっている。荷役作業の際の墜落・転落災害防止対策の強化をはじめ、荷役作業の実態を踏まえた安全衛生対策の強化が必要である。
(後略)
※ 第14次労働災害防止計画