労働安全コンサルタント試験 2023年 産業安全一般 問20

静電気による災害防止




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2023年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2023年度(令和05年度) 問20 難易度 静電気に関する基本的な知識問題である。しかし、同種の過去問がないためか正答率は意外に低かった。
静電気対策

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問20 静電気に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。

(1)一般に、導電性帯電物体からの火花放電は、絶縁性帯電物体からのブラシ放電よりも放電エネルギーが大きい。

(2)アルミニウム粉は導電性であるため、静電気放電によって着火することはない。

(3)作業者が静電気帯電防止用の靴を履いているときは、静電気放電による電撃を受けることはない。

(4)絶縁性液体が配管を流れると、発熱によって静電気帯電が発生する。

(5)可燃性粉体は、粉体の粒子サイズが小さいほど静電気放電による着火は起きにくい。

正答(1)

【解説】

問20試験結果

試験解答状況
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(1)適切である。ブラシ放電はブラシ状の発光を伴う不導体からの放電であり(※)、その等価放電エネルギーは最⼤で4 mJ 程度といわれ、粉じん爆発の着火源にはならないと考えられている。

※ 帯電した不導体からの放電には、コロナ放電、ブラシ放電及び沿面放電がある。等価放電エネルギーは、コロナ放電が最も小さく、ブラシ放電、沿面放電の順に大きくなる。

これに対し、火花放電は火花を伴う放電で、導体が数 kV に帯電したとき、近くにある接地導体との間に発⽣する。静電気放電の等価エネルギーは、火花放電がブラシ放電よりも大きい(※)

※ 児玉勉「静電気による爆発とその防止対策」(電気設備学会誌 2009年 Vol.29 No.8)などを参照されたい。

なお、同書によると、火花放電は、一般に数 kV に帯電した導体に接地導体が数 mm まで接近したときに起きる。これに対し、ブラシ放電は、一般に 10kV 以上に帯電した不導体に曲率半径が 4mm ~ 50mm の接地導体が数 cm~十数 cm に接近したときに起きるとされている。

また、火花放電の場合の放電エネルギーは、帯電物体の静電エネルギーと等しく、それらの静電容量(周辺部の間の浮遊容量)と放電時の帯電電位の二乗の積の2分の1となる。一方、ブラシ放電の場合の火花放電に換算した放電エネルギー(等価エネルギー)は3~4mJである。

(2)適切ではない。粉じんは、導電性であると否とにかかわらず、可燃性であれば静電気放電によって着火し得る。八島(※)によれば、「(粉じん爆発の=引用者)原因物質としては金属粉じんの割合が全体の54%を占め、特にアルミニウム、マグネシウム及びその合金の割合が高い」とされている。

※ 八島正明「粉じん爆発・火災とその防止策」(エアロゾル研究 2019年 Vol.34 No.3)

(3)適切ではない。作業者が静電気帯電防止用の靴を履いていれば、作業者が帯電する可能性は低くはなるが完全ではない。しかも、床がアスファルトや木製など電気を通しにくい物質でできていればあまり意味はない。しかも、帯電した不導体に近づいた場合、帯電防止作業靴を履いていると、かえって静電気放電による電撃を受けやすくなるだろう。

この点について松尾(※)は「帯電防止作業服の着用は、静電気災障害の防止対策として1つの有用な方法であるが、静電気に対する安全性の問題は、作業服のみの改良によって解決されるもでなく、作業服および人体の帯電防止も必要である」としている。

※ 松 尾 義 輝「講座シリーズ「消費性能評価の新しい試験方法」 12.帯電性(静電気帯電防止用安全・作業靴)」(織消誌 1999年 Vo1.40 No.11)

(4)適切ではない。絶縁性液体が配管を流れると静電気帯電が発生することは正しい。しかし、これは接触・分離による帯電現象(※)であり、発熱によって起きるわけではない。

※ 遠藤雄大「着火火災の原因となる液体の静電気帯電現象」(労働安全衛生総合研究所サイト)

(5)適切ではない。可燃性粉体は、一般に粉体の粒子サイズが小さいほど静電気放電による着火が起きやすくなる。粉体が粉じん爆発を起こしやすいのは、粉体は塊状の物よりも空気と触れる面積が大きくなることなどによる(※)。粒径が小さい方が、空気に触れる面積が大きくなるので爆発を起こしやすくなる。

鬼山他(※)は「粉じんの粒子径はその爆発性に非常に大きな影響を与える。これは、粉体の粒子径が小さくなると、その結果粉体の比表面積が増大しエネルギの付加を受ける機会が多くなることと、粒子径が小さくなるにしたがって粒子表面が活性になることに棊因しているものと推定される」としている。

※ 鬼山和彦他「粉じん雲の着火・爆発性におよぽす粒子径の影響」(安全工学 1973年 Vo1.12 No.2)

2024年01月01日執筆