問15 常時80人の労働者を使用する紙・パルプ製造業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場における状況は次のとおりで、あった。このうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)総括安全衛生管理者を選任していなかったが、工業高等学校において機械科を修めて卒業し、産業安全の実務経験が5年あり、厚生労働大臣が定める研修を修了した製造課長を安全管理者として選任していた。
(2)衛生委員会を設置しており、また、安全に関する事項について関係労働者の意見を聴くための機会を設けていたが、安全委員会も安全衛生委員会も設置していなかった。
(3)工場内では、この事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われており、当該作業はつり上げ荷重2.9トンのクレーンを用いて行うものであったが、クレーンの運転についての合図を統一的に定めていなかった
(4)フォークリフトのマストの後方に荷が落下することにより労働者に危険を及ぼすおそれがないときは、パックレストを備えていないフォークリフトを使用していた
(5)所轄都道府県労働局長から安全衛生改善計画作成の指示を受けており、改善計画を作成するに当たり、労働組合の意見を聴いていたが、労働安全コンサルタントの意見を聴いていなかった。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2022年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
2022年度(令和04年度) | 問15 | 難易度 | 安衛法全般に関する基本的な問題である。これは正答できなければならない。 |
---|---|---|---|
労働安全衛生法令全般 | 2 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問15 常時80人の労働者を使用する紙・パルプ製造業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場における状況は次のとおりで、あった。このうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)総括安全衛生管理者を選任していなかったが、工業高等学校において機械科を修めて卒業し、産業安全の実務経験が5年あり、厚生労働大臣が定める研修を修了した製造課長を安全管理者として選任していた。
(2)衛生委員会を設置しており、また、安全に関する事項について関係労働者の意見を聴くための機会を設けていたが、安全委員会も安全衛生委員会も設置していなかった。
(3)工場内では、この事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われており、当該作業はつり上げ荷重2.9トンのクレーンを用いて行うものであったが、クレーンの運転についての合図を統一的に定めていなかった
(4)フォークリフトのマストの後方に荷が落下することにより労働者に危険を及ぼすおそれがないときは、パックレストを備えていないフォークリフトを使用していた
(5)所轄都道府県労働局長から安全衛生改善計画作成の指示を受けており、改善計画を作成するに当たり、労働組合の意見を聴いていたが、労働安全コンサルタントの意見を聴いていなかった。
正答(3)
【解説】
(1)違反とはならない。製造業(物の加工業を含む。)が総括安全衛生管理者を選任しなければならないのは、常時雇用する労働者数が300人以上(安衛令第2条)であるから総括安全衛生管理者を選任していないことは違反とはならない。
また、安全管理者は安衛則第5条第一号ロにより、本肢の安全管理者は資格要件を満たしている。また、安全管理者が専任でないことは安衛則第4条第1項第四号により違反とはならない。。
【労働安全衛生法】
(総括安全衛生管理者)
第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
一~五 (略)
2及び3 (略)
(安全管理者)
第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。
2 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)
第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第10条第1項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。
一 (略)
二 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 300人
三 (略)
【労働安全衛生規則】
(安全管理者の選任)
第4条 法第11条第1項の規定による安全管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一~三 (略)
四 次の表の中欄に掲げる業種に応じて、常時同表の下欄に掲げる数以上の労働者を使用する事業場にあつては、その事業場全体について法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理する安全管理者のうち少なくとも1人を専任の安全管理者とすること。ただし、同表四の項の業種にあつては、過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る。
(略) | (略) | (略) |
三 |
紙・パルプ製造業 鉄鋼業 造船業 |
1,000人 |
(略) | (略) | (略) |
2 (略)
(安全管理者の資格)
第5条 法第11条第1項の厚生労働省令で定める資格を有する者は、次のとおりとする。
一 次のいずれかに該当する者で、法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理するのに必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了したもの
イ (略)
ロ 学校教育法による高等学校(旧中等学校令(昭和18年勅令第36号)による中等学校を含む。以下同じ。)又は中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの
二及び三 (略)
(2)違反とはならない。安衛令第8条により紙・パルプ製造業の事業場が安全委員会を設置しなければならないのは、常時、100人以上の労働者を雇用している場合である。従って、衛生委員会を設置していれば、安全委員会又は安全衛生委員会を設置していないことは違反とはならない。
【労働安全衛生法】
(安全委員会)
第17条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、安全委員会を設けなければならない。
一~三 (略)
2~5 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)
第2条 (柱書 略)
一 (略)
二 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 300人
三 (略)
(安全委員会を設けるべき事業場)
第8条 法第17条第1項の政令で定める業種及び規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。
一 林業、鉱業、建設業、製造業のうち木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業及び輸送用機械器具製造業、運送業のうち道路貨物運送業及び港湾運送業、自動車整備業、機械修理業並びに清掃業 50人
二 第2条第一号及び第二号に掲げる業種(前号に掲げる業種を除く。) 100人
【労働安全衛生規則】
(関係労働者の意見の聴取)
第23条の2 委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない。
(3)違反となる。本肢の事業者は、安衛法第15条の定義により、元方事業者となる。安衛則第643条の3が準用する同規則第639条により、元方事業者はクレーン等の運転についての合図を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない。
【労働安全衛生法】
(統括安全衛生責任者)
第15条 事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が二以上あるため、その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)(以下略)
2~5 (略)
【労働安全衛生規則】
(クレーン等の運転についての合図の統一)
第639条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われる場合において、当該作業がクレーン等(クレーン、移動式クレーン、デリック、簡易リフト又は建設用リフトで、クレーン則の適用を受けるものをいう。以下同じ。)を用いて行うものであるときは、当該クレーン等の運転についての合図を統一的に定め、これを関係請負人に周知させなければならない。
2 (略)
(クレーン等の運転についての合図の統一)
第643条の3 第639条第1項の規定は、元方事業者について準用する。
2 (略)
(4)違反とはならない(安衛則第151条の18但書)。ただし、コンサルタントになってからの実務においては、メーカが製造した純正品のアタッチメントを取り付けているような場合を除き、バックレストのないフォークリフトを使用させないこと。
【労働安全衛生規則】
(バツクレスト)
第151条の18 事業者は、フオークリフトについては、バツクレストを備えたものでなければ使用してはならない。ただし、マストの後方に荷が落下することにより労働者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。
(5)違反とはならない。安衛法第 80 条第2項は、都道府県労働局長が安全衛生改善計画作成の指示をしたときは、労働安全コンサルタント又は労働衛生コンサルタントによる安全又は衛生に係る診断を受け、かつ、安全衛生改善計画の作成又は変更について、これらの者の意見を聴くべきことを勧奨することができるとするのみである。
【労働安全衛生法】
(安全衛生診断)
第80条 厚生労働大臣は、第78条第1項又は第4項の規定による指示をした場合において、専門的な助言を必要とすると認めるときは、当該事業者に対し、労働安全コンサルタント又は労働衛生コンサルタントによる安全又は衛生に係る診断を受け、かつ、特別安全衛生改善計画の作成又は変更について、これらの者の意見を聴くべきことを勧奨することができる。
2 前項の規定は、都道府県労働局長が前条第1項の規定による指示をした場合について準用する。この場合において、前項中「作成又は変更」とあるのは、「作成」と読み替えるものとする。