労働安全コンサルタント試験 2022年 産業安全関係法令 問14

安衛法の計画の届出制度




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2022年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2022年度(令和04年度) 問14 難易度 過去に類問がないためか、かなりの難問だったようだ。
計画の届出

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問14 労働安全衛生法第88条第1項本文(下記)で規定された計画の届出制度に関する(1)~(5)の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。

(労働安全衛生法第88条第1項(本文))

  事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を妨止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の30目前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。

(1)常時使用する労働者数が 10 人未満の非工業的業種の事業者については、この計画の届出の義務が免除されている。

(2)この計画の届出の対象となる機械等であっても、機械集材装置、運材索道、架設通路又は足場で、組立てから解体までの期間が6か月未満のものは、計画の届出の対象から除かれている。

(3)この計画の届出の対象となる化学設備又は危険物乾燥設備に係る工事の計画を作成するときは、労働安全コンサルタント試験に合格した者その他一定の資格を有する者を参画させなければならない。

(4)危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置等を講じているものとして労働基準監督署長が認定した事業者については、この計画の届出の義務が免除されている。

(5)労働基準監督署長は、届け出られた計画による機械等の設置、移転、変更等の内容が労働安全衛生関係法令に違反すると認めるときは、当該届出をした事業者に対し、当該計画を変更すべきことを命ずることができるが、その届出に係る工事の開始を差し止めることはできない。

正答(4)

【解説】

問14試験結果

試験解答状況
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条文を示して問題を解かせるタイプの設問は、労働安全衛生コンサルタント試験で初めてである。しかし、条文だけでは正答に至ることはできない、やや中途半端な印象を受ける問題である。

(1)誤り。このような規定はない。10 人未満の労働者の事業場に対して義務を免除するというのは、あり得ないことではない。しかし、工業的業種であろうと非工業的業種であろうと、実際に機械等を設置するのであれば、その危険性に変わりがあるわけではないだろう。その観点からこの肢は怪しい(誤っている)と気付く必要がある。

(2)誤り。安衛則第85条第二号の規定により、機械集材装置、運材索道、架設通路又は足場で、組立てから解体までの期間が60日未満のものは、計画の届出の対象から除かれている。

さすがに6か月は長すぎるだろう。足場で6月以内に解体されるものを適用除外にすれば、ほとんどの足場が対象から外れてしまう。これでは、足場を計画の届出の対象にする意味がない。

【労働安全衛生規則】

(計画の届出をすべき機械等)

第85条 法第88条第1項の厚生労働省令で定める機械等は、法に基づく他の省令に定めるもののほか、別表第七の上欄に掲げる機械等とする。ただし、別表第七の上欄に掲げる機械等で次の各号のいずれかに該当するものを除く。

 (略)

 機械集材装置、運材索道、架設通路又は足場で、組立てから解体までの期間が60日未満のもの

別表第七 (第八十五条、第八十六条関係)

機械等の種類 事項 図面等
(略) (略) (略)

七 機械集材装置(原動機の定格出力が七・五キロワツトを超えるものに限る。)

(略) (略)

八 運材索道(支間の斜距離の合計が三百五十メートル以上のものに限る。)

(略) (略)
(略) (略) (略)

十一 架設通路(高さ及び長さがそれぞれ十メートル以上のものに限る。)

(略) (略)

十二 足場(つり足場、張出し足場以外の足場にあつては、高さが十メートル以上の構造のものに限る。)

(略) (略)
(略) (略) (略)

(3)誤り。安衛法第88条第4項により仕事の計画を作成するときに一定の資格を有する者を参画させなければならない工事は、安衛則第92条の2に定められている。化学設備又は危険物乾燥設備に係る工事は含まれていない。

なお、一定の資格については、安衛則第92条の3に定められているが、労働安全コンサルタント試験に合格した者は含まれていない。そもそも労働安全コンサルタント試験に合格しただけで登録をしなければ、安衛法令上、なんらかの資格が与えられることはない。

現実問題として、安全コンサルタントの数はそれほど多くないので、このような規定が正しければ、化学設備又は危険物乾燥設備の工事が困難になるだろう。

【労働安全衛生法】

(計画の届出等)

第88条 事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の30日前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。ただし、第28条の2第1項に規定する措置その他の厚生労働省令で定める措置を講じているものとして、厚生労働省令で定めるところにより労働基準監督署長が認定した事業者については、この限りでない。

2及び3 (略)

 事業者は、第1項の規定による届出に係る工事のうち厚生労働省令で定める工事の計画、第2項の厚生労働省令で定める仕事の計画又は前項の規定による届出に係る仕事のうち厚生労働省令で定める仕事の計画を作成するときは、当該工事に係る建設物若しくは機械等又は当該仕事から生ずる労働災害の防止を図るため、厚生労働省令で定める資格を有する者を参画させなければならない。

5~7 (略)

【労働安全衛生規則】

(資格を有する者の参画に係る工事又は仕事の範囲)

第92条の2 法第88条第四項の厚生労働省令で定める工事は、別表第七の上欄第十号及び第十二号に掲げる機械等を設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更する工事とする。

 法第88条第4項の厚生労働省令で定める仕事は、第90条第一号から第五号までに掲げる仕事(同条第一号から第三号までに掲げる仕事にあつては、建設の仕事に限る。)とする。

(計画の作成に参画する者の資格)

第92条の3 法第88条第4項の厚生労働省令で定める資格を有する者は、別表第九の上欄に掲げる工事又は仕事の区分に応じて、同表の下欄に掲げる者とする。

(4)正しい。安衛法88条第1項但書の措置は、安衛則第87条に規定されている。本肢の「危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置」は、第一号に定められている。

リスクアセスメントを実施する事業者へのインセンティブとして創設された制度である。しかし、事業者は、届出をしておいた方が法違反を犯すおそれがないと感じるのか、免除にあまり魅力を感じないようである。そのこともあり、あまり知られていない制度で、難問だったようだ。

【労働安全衛生法】

(事業者の行うべき調査等)

第28条の2 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第57条第1項の政令で定める物及び第57条の2第1項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。

2及び3 (略)

(計画の届出等)

第88条 事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の30日前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。ただし、第28条の2第1項に規定する措置その他の厚生労働省令で定める措置を講じているものとして、厚生労働省令で定めるところにより労働基準監督署長が認定した事業者については、この限りでない

2~7 (略)

【労働安全衛生規則】

(法第八十八条第一項ただし書の厚生労働省令で定める措置)

第87条 法第88条第1項ただし書の厚生労働省令で定める措置は、次に掲げる措置とする。

 法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置

 前号に掲げるもののほか、第24条の2の指針に従つて事業者が行う自主的活動

(認定の単位)

第87条の2 法第88条第1項ただし書の規定による認定(次条から第88条までにおいて「認定」という。)は、事業場ごとに、所轄労働基準監督署長が行う。

(5)誤り。安衛法第88条第6項により、労働基準監督署長は、その届出に係る事項が安衛法令に違反すると認めるときは、その届出をした事業者に対し、その届出に係る工事若しくは仕事の開始を差し止め、又は当該計画を変更すべきことを命ずることができる。

現実には、窓口の担当者が法違反となる旨を説明して変更を要請すれば、届出者がその場で変更することがほとんどである。とはいえ、届出者が法違反であることを認めず、頑として変更をしない場合には、速やかに差し止めをしないと労働者に危険を及ぼすおそれがあるのだ。

労働者の危険を防止するため、労働基準監督機関には強力な権限が認められているのである。

【労働安全衛生法】

(計画の届出等)

第88条 事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の30日前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。ただし、第28条の2第1項に規定する措置その他の厚生労働省令で定める措置を講じているものとして、厚生労働省令で定めるところにより労働基準監督署長が認定した事業者については、この限りでない。

2~5 (略)

 労働基準監督署長は第1項又は第3項の規定による届出があつた場合において、厚生労働大臣は第二項の規定による届出があつた場合において、それぞれ当該届出に係る事項がこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反すると認めるときは、当該届出をした事業者に対し、その届出に係る工事若しくは仕事の開始を差し止め、又は当該計画を変更すべきことを命ずることができる。

 (略)

2022年11月25日執筆