問23 ある労働災害の発生について分析したところ、当該災害発生を頂上事象とし、基本事象をA、B、C及びDとする次のFT図が展開できた。これらの基本事象が相互に独立して、また等しい確率で起こるとき、A~Dの基本事象のうちのいずれか一つの発生を防止することによる当該災害の発生確率の低減効果に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
(1)Aの発生を防止することは、Bの発生を防止することよりも効果が大きい。
(2)Bの発生を防止することは、Cの発生を防止することよりも効果が大きい。
(3)Cの発生を防止することは、Dの発生を防止することよりも効果が大きい。
(4)Dの発生を防止することは、Aの発生を防止することよりも効果が大きい。
(5)Dの発生を防止することは、Bの発生を防止することよりも効果が大きい。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2022年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2022年度(令和04年度) | 問23 | 難易度 | Fault Tree Analysisの問題は、頻出するのに正答率が低い。時間をかければ正答できるのに惜しい。 |
---|---|---|---|
Fault Tree Analysis | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問23 ある労働災害の発生について分析したところ、当該災害発生を頂上事象とし、基本事象をA、B、C及びDとする次のFT図が展開できた。これらの基本事象が相互に独立して、また等しい確率で起こるとき、A~Dの基本事象のうちのいずれか一つの発生を防止することによる当該災害の発生確率の低減効果に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
(1)Aの発生を防止することは、Bの発生を防止することよりも効果が大きい。
(2)Bの発生を防止することは、Cの発生を防止することよりも効果が大きい。
(3)Cの発生を防止することは、Dの発生を防止することよりも効果が大きい。
(4)Dの発生を防止することは、Aの発生を防止することよりも効果が大きい。
(5)Dの発生を防止することは、Bの発生を防止することよりも効果が大きい。
正答(3)
【解説】
1 基本的な考え方
本問は正答の(3)と解答した方が、誤答の(2)と解答した方を1名上回ったが、(3)と(2)の解答がほぼ均衡した。他の選択肢を解答した方もおられるので、正答率が5割を切るという難問であった。
ただ、じっくりと時間をかければ必ず正答できるので、本番前に過去の Fault Tree Analysis の問題をすべて解いて、確実に正答できるようにしておいて頂きたい。
解答方法はいくつかある。スマートなやりかたでなくとも、力づくで構わないので解けるようにしておこう。
2 理論式を用いた解法
最初に、理論式を用いた解法を示そう。本問のFT図の災害発生確率F0を式で表すと次のようになる。ただし、FA~FD は、基本要素 A~D の発生確率である。
F0=(FA or FB)・((FB・FD)or FC)
ここで基本事象 A を防止したときの頂上事象が発生する確率 FA=0 は、FA がゼロになるので、
FA=0=FB・((FB・FD)or FC)
となる。このままでは FB が2箇所に表れるので使いづらいため、式を変形して FB をひとつだけにしよう。
FA=0=FB・FB・FD or FB・FC
ここで、FB・FB は FB に等しいので、
FA=0=FB・FD or FB・FC
=FB・(FD or FC)
となる。同様に、基本事象 B を防止したときの頂上事象が発生する確率 FB=0 は、FB がゼロになるので、
FB=0=FA・FC
となる。同様に、基本事象 C を防止したときの頂上事象が発生する確率 FC=0 は、
FC=0=(FA or FB)・FB・FD
=FA・FB・FD or FB・FB・FD
=FA・FB・FD or FB・FD
=FB・FD・(FA or 1)
ここで(FA or 1)は1であるから、
=FB・FD
となる。最後に、基本事象 D を防止したときの頂上事象が発生する確率 FD=0 は、
FD=0=(FA or FB)・FC
となる。ここまでで、各基本事象を防止した場合の式を、それぞれ同じ基本事象の重複がないように表すことができた。各基本事象が発生する確率は同じで、かつ独立である(※)から、各事象の発生確率をR(0≦R≦1)で表すと、[R or R]は【1-(1-R)・(1-R)=2R-R2】、[R・R]は【R2】となるので、
※ ひとつの式の中に同じ基本要素が2個以上含まれていたら、同じ基本要素は当然に独立ではないから、複数の同じ基本要素に単純に R を代入してはならない。
FA=0=2R2-R3
FB=0=R2
FC=0=R2
FD=0=2R2-R3
R は1より小さいので、FB=0=FC=0>FA=0=FD=0 となり、正答は(3)となる。ここが分かり難ければ、R に 0.1 など適当な数値を代入して計算してしまってもかまわない。電卓はあるのだから。
3 表を用いたやや力づくの解法
分かり難ければ、コンサルタント試験は時間が足りなくなるということはないので、この種の問題は表にしてしまうというやりかたもある。
要素 | 状態 | |||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
a | b | c | d | e | f | g | h | i | j | k | l | m | n | o | p | |
基本事象A | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||||
基本事象B | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||||
基本事象C | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||||
基本事象D | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||||||||
頂上事象E | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
そして、各基本事象が起きる確率をRとして考えてみよう。1つの事象が発生する確率がRだと、1つの事象が発生せず2つの事象が同時に発生する確率は R2(1-R)、3つの事象が同時に発生する確率は R3であるから、
○ 基本事象Aの発生を防止すると、頂上事象Eが起きるのは、i(iは3事象が同時に発生しているので発生する確率は R3。以下同様)、j(発生確率は R2(1-R))、k(発生確率は R2(1-R))の3ケースなので、2R2-R3 となる。
○ 基本事象Bの発生を防止すると、頂上事象Eが起きるのは、e(発生確率は R3)、f(発生確率は R2(1-R))の2ケースなので R2 となる。
○ 基本事象Cの発生を防止すると、頂上事象Eが起きるのは、c(発生確率は R3)、k(発生確率は R2(1-R))の2ケースなので R2 となる。
○ 基本事象Dの発生を防止すると、頂上事象Eが起きるのは、b(発生確率は R3)、f(発生確率は R2(1-R))、j(発生確率は R2(1-R))の3ケースなので2R2-R3 となる。
先ほどと同じ結果となった。もっとも、基本要素が5つ以上になると、この表にする方法は難しいかもしれない。
4 肢(2)が誤りだと見破るには
本問は(2)と解答した方が多かった。その理由は分からないが、これを誤りだと見破るには次のように考えるとよいかもしれない。
まず、基本要素 B の発生を防止した場合を考えよう。この場合、図の中で基本要素 B に1を入れてみよう。中間事象 E1,1 は基本要素 A そのものになる。そして、中間事象 E2,1 は起こりようがなくなる。従って、中間事象 E1,2 は基本要素 C に等しくなる。
従って、頂上事象 E0,0 の発生確率は、FA=0 or FC=0となる。
まず、基本要素 C の発生を防止した場合を考えよう。この場合、基本要素 C は起きないのだから中間事象 E1,2 は中間事象 E2,1 と等しくなる。
そして、中間事象 E2,1 は無視してよいのである。なぜなら、基本要素 B が発生しない限り中間事象 E2,1 は発生し得ない。そして、基本要素 B が発生すれば、中間事象 E2,1 がどうなっていようと、頂上事象 E0,0 は発生するのである。従って、基本要素 B が発生しているときも発生していないときも、中間事象 E2,1 には意味がないのである。おそらく、受験生の多くはここを見誤ったものであろう。
従って、頂上事象 E0,0 の発生確率は、FA=0 or FB=0となる。
各基本要素の発生確率は同じであるから、基本要素 B の発生を防止した場合(頂上事象 E0,0 の発生確率は、FA=0 or FC=0)も、基本要素 C の発生を防止した場合(頂上事象 E0,0 の発生確率は、FA=0 or FB=0)も効果は同じである。
従って、(2)は誤りである。