労働安全コンサルタント試験 2021年 産業安全一般 問07

移動式クレーン等による労働災害防止




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試験を受ける女性

 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2021年度(令和03年度) 問07 難易度 移動式クレーン等に関する基本的な知識問題。正答率はかなり高い。
移動式クレーン等

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問7 移動式クレーンなどに関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)移動式クレーンは、巻上げ用ワイヤロープの巻過ぎにより、フックブロックのジブなどへの激突によるジブの破損やワイヤロープの切断による荷の落下などを防止するために、光線式又は超音波式の衝突防止装置を備えている。

(2)ワイヤロープによりジブの起伏を行う移動式クレーンのジブ起伏停止装置は、ジブの起こし過ぎによるジブの損傷や後方への転倒を防止するための装置で、ジブの起こし角が操作限界になったとき、そのまま操作レバーを引いても自動的にジブの作動を停止させる装置である。

(3)積載形トラッククレーンの安定度は荷台の積荷が少なくなると低下するので、多量の積荷がある場合、作業半径が順次小さくなるように、荷台後方の荷から降ろすことが望ましい。

(4)フォークリフトのマストは、後傾角の方が前傾角より大きくとることができるようになっている。

(5)移動式クレーンで各装置を油圧で駆動する機種の油圧回路の安全弁は、過負荷又は衝撃荷重がかかったときに、油圧回路内に異常に高い圧力が発生し、機器を破損させることを防止するための保護装置である。

正答(1)

【解説】

問7試験結果

試験解答状況
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(2)適切ではない。クレーンのワイヤーロープの巻過防止のために、超音波式の衝突防止装置を用いることは現実にはほとんどなく、光線式のものが用いられている例はおそらくないだろう(※)

※ 移動式クレーンの一部に超音波式の巻過防止装置が採用されているケースがあるが、コストの関係からきわめて少ないのが現実である。超音波式を用いるのは、機械式スイッチの場合、巻過ウエイト用のワイヤロープが絡まったり、他の工作物等にひっかかったりすることがあるため、それを避けるためである。

一方、光線式の過巻防止装置は、移動式クレーンのフックは風で大きく揺れることもあり、技術的に実現することは困難ではないかと思われる。

なお、移動式クレーン構造規格第24条は、移動式クレーンは、ワイヤロープを用いるつり上げ装置について、巻過防止装置又は巻過ぎを防止するための警報装置を備えなければならないとしている。必ずしもフックブロックのジブなどへの激突を防止するための装置(※)を備えなければならないわけではない。

※ 本肢では「衝突防止装置」とされているが、構造規格では「巻過防止装置」と呼ばれる。

また、同第25条は巻過防止装置を機械式と電気式に分けて規定しているが、光線式又は超音波式の衝突防止装置としなければならないとは定められていない。

【移動式クレーン構造規格】

(巻過防止装置等)

第24条 ワイヤロープ又はつりチェーンを用いるつり上げ装置、起伏装置及び伸縮装置は、巻過防止装置又は巻過ぎを防止するための警報装置を備えるものでなければならない。

(巻過防止装置等)

第25条 前条の巻過防止装置は、次に定めるところによるものでなければならない。

 巻過ぎを防止するため、自動的に動力を遮断し、及び作動を制動する機能を有するものであること。

 先端のシーブその他当該上面が接触するおそれがある物(ジブを除く。)の下面との間隔が〇・二五メートル以上(直働式の巻過防止装置にあっては、〇・〇五メートル以上)となるように調整できる構造とすること。

 容易に点検を行うことができる構造とすること。

 前条の巻過防止装置のうち電気式のものにあっては、前項に定めるところによるほか、次に定めるところによるものでなければならない。

 接点、端子、巻線その他電気を通ずる部分(以下この項において「通電部分」という。)の外被は、鋼板その他堅固なものであり、かつ、水、粉じん等により機能に障害を生ずるおそれがない構造のものであること。

 通電部分と前号の外被との間は、耐電圧試験において、日本工業規格C八二〇一-四-一(低圧開閉装置及び制御装置-第四部:接触器及びモータスタータ-第一節:電気機械式接触器及びモータスタータ)に定める基準に適合する絶縁効力を有する構造とすること。

 第一号の外被の見やすい箇所に、定格電圧及び定格電流を記載した銘板が取り付けられていること。

 接点が開放されることにより巻過ぎが防止される構造とすること。

 動力回路を直接遮断する構造のものにあっては、通電部分は、温度試験において、日本工業規格 C 八二〇一 -四-一(低圧開閉装置及び制御装置-第四部:接触器及びモータスタータ-第一節:電気機械式接触器及びモータスタータ)に定める基準に適合するものであること。

(2)適切である。ワイヤロープによりジブの起伏を行う移動式クレーンのジブ起伏停止装置は、ジブの起こし過ぎによるジブの損傷や後方への転倒を防止するための装置で、ジブの起こし角が操作限界になったとき、そのまま操作レバーを引いても自動的にジブの作動を停止させる装置である。

なお、油圧シリンダにより起伏を行う移動式クレーンでは、そもそもシリンダの長さで起伏角度が制限されるので、この装置は用いられていない。

(3)適切であるとしておくがやや疑問もある。積載形トラッククレーンの安定度は荷台の積荷が多いほど高くなる。一方、クレーンの作業半径は小さい方が安定するので、多量の積荷がある場合、まず荷台に荷があってより安定している間に後方の荷から降ろすことが望ましいという考えはあり得よう(※)

※ 近畿地方整備局の「あんぜん(第306号)」は、「使用するクレーンの特性を理解して作業しましょう」の項で「たくさんの積荷を順番に降ろすときは、作業半径が順次小さくなるように、荷台後方の積荷から降ろしましょう」としている。

しかし、転倒への安定度を問題にするのであれば、①荷台の右側へ荷を降ろすときは荷台の右側の荷から、左側へ降ろすときは荷台の左側の荷から降ろすようにし、②荷を降ろす位置は、最初に降ろす荷をクレーンから(降ろすスペースの中で)遠い位置(※)に降ろし、次々と近くへ降ろしていくのが基本である。荷を降ろすのとは反対側に荷があった方が、転倒に対する安定側のモーメント(安定モーメント)が大きくなり転倒モーメントが相殺されるので、荷台の反対側に荷があるうちに作業半径が大きくなる遠くへ荷を降ろすのである。

※ できるだけ荷を降ろすスペースは、クレーンに近い位置にするべきだが、多くの荷を降ろす場合においては、降ろすスペースは広くなる。そのスペースの中で遠い位置という意味である。

確かに、本肢に記述されているように、荷台の後方の荷を降ろすときは作業半径が大きくはなる。しかし、前方の荷を先に降ろしておけば、後方の荷は、地切りした後でジブ起こしによって荷台の上で前方に移動させてから降ろすことができる(※)。このやり方であれば、荷台後方の荷を最初に降ろす必要はない。荷台の上に荷がある間は転倒モーメントは発生しないのだ。

※ むしろ、本肢の記述は、荷台後方の荷を地切りした後、ジブを起こさずにそのまま前方へ回転させることを前提としているように読める。しかし、積載形トラッククレーンは後方領域が最も安定しており、側方領域、前方領域の順に安定が悪くなる。ジブを後方から側方に回転させるときは、そのことに留意する必要があり、かなり違和感があることも事実である。

小型移動式クレーンの技能講習でも、本肢のようなことを教えている登録教習機関はほとんどないのではないだろうか(※)。その意味で、本肢についてはかなり疑問も感じる。

※ 実際に、いくつかの大手の登録教習機関の実施管理者に尋ねてみたが、そんなことは教えていないと言っていた。なお、積載形トラッククレーンにおいては、荷台に荷があるかどうかによっても安定度は異なるので、荷を積んでいる状態から荷を降ろす作業においては、荷を降ろすにしたがって転倒の危険性が増すことに注意しなければならないということは徹底している。

また、まれにトラックの荷台の後ろにクレーンが付いているタイプもあり、そのような場合は当然、本肢の記述とは逆の結論となろう。

(4)適切である。フォークリフトは走行中の荷の安定をよくするため、フォークを下ろした状態で後傾させて走行する。このため後傾角を大きくとれるようになっている。一方、前傾角は大きくする必要がないので、通常はそれほど大きくはとれない構造になっている。2015年問6の(3)に類問がある。

(5)適切である。移動式クレーンで各装置を油圧で駆動する機種の油圧回路の安全弁(リリーフ弁)は、油圧回路の異常な圧力上昇を防止し、油圧機器を保護するための装置である。油圧が設定圧力以上になると安全弁が開き、自動的に作動油をタンクに戻して、常に回路の油圧が設定圧力以上にならないようにしている。

ただし、3トン未満の移動式クレーンについては「過負荷を防止するための装置」を備えれば、過負荷防止装置の取付けは現行法令では義務付けられないが、安全弁は「過負荷を防止するための装置」としては認められていないことに留意すること。

2021年11月16日執筆 2021年11月17日一部修正