問15 常時 120 人の労働者を使用し、木材加工用丸のこ盤、手押しかんな盤などを有する木材・木製品製造業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断の結果、事業場の状況は次のとおりであった。このうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)総括安全衛生管理者を選任していなかったが、工業高等学校において機械科を修めて卒業し、産業安全の実務経験が8年あり、厚生労働大臣が定める研修を修了した製造課長を安全管理者として選任していた。
(2)工場内では、この事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われており、混在作業による労働災害を防止するため、安全管理者が毎作業日に少なくとも1回、作業場所を巡視していたが、関係請負人との協議組織を設置していなかった。
(3)手押しかんな盤を用いる作業において、労働者に治具を使用させていたが、刃の接触予防装置を設けていなかった。
(4)木材加工用丸のこ盤による木材加工の業務に従事する労働者に対し、雇入れ時の安全衛生教育を行っていたが、特別教育を行っていなかった。
(5)フォークローダーが荷の落下により運転者に危険を及ぼすおそれのない構造であったので、ヘッドガードを備えていないフォークローダーを使用していた。
このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2020年度(令和02年度) | 問15 | 難易度 | 安衛法令全般からの出題。やや細かい内容の問題である。 |
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安衛法令全般 | 4 |
問15 常時 120 人の労働者を使用し、木材加工用丸のこ盤、手押しかんな盤などを有する木材・木製品製造業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断の結果、事業場の状況は次のとおりであった。このうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
(1)総括安全衛生管理者を選任していなかったが、工業高等学校において機械科を修めて卒業し、産業安全の実務経験が8年あり、厚生労働大臣が定める研修を修了した製造課長を安全管理者として選任していた。
(2)工場内では、この事業場の労働者と関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われており、混在作業による労働災害を防止するため、安全管理者が毎作業日に少なくとも1回、作業場所を巡視していたが、関係請負人との協議組織を設置していなかった。
(3)手押しかんな盤を用いる作業において、労働者に治具を使用させていたが、刃の接触予防装置を設けていなかった。
(4)木材加工用丸のこ盤による木材加工の業務に従事する労働者に対し、雇入れ時の安全衛生教育を行っていたが、特別教育を行っていなかった。
(5)フォークローダーが荷の落下により運転者に危険を及ぼすおそれのない構造であったので、ヘッドガードを備えていないフォークローダーを使用していた。
正答(3)
【解説】
(1)違反とはならない。総括安全衛生管理者を選任していないが、本肢の工場は製造業であり、安衛令第2条(第二号)の規定により、選任義務があるのは常時雇用する労働者数が300人以上の場合である。従って、この点には違反はない。
安全管理者が1名しか選任されていないことについては、安衛法令では安全管理者の人数は特殊な場合を除いて定められていないので違反とはならない。安全管理者が専任でないが、これも安衛則第4条第1項(第四号)の対象ではないので違反とはならない。
安全管理者の資格については、安衛則第5条第一号ロの要件を満足するので違反とはならない。
【労働安全衛生法】
(総括安全衛生管理者)
第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
一~五 (略)
2及び3 (略)
(安全管理者)
第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。
2 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)
第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第10条第1項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。
一 (略)
二 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 300人
三 (略)
【労働安全衛生規則】
(安全管理者の選任)
第4条 法第11条第1項の規定による安全管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
一~三 (略)
四 次の表の中欄に掲げる業種に応じて、常時同表の下欄に掲げる数以上の労働者を使用する事業場にあつては、その事業場全体について法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理する安全管理者のうち少なくとも1人を専任の安全管理者とすること。ただし、同表四の項の業種にあつては、過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る。
一 | 建設業 | 300人 |
有機化学工業製品製造業 | ||
石油製品製造業 | ||
二 | 無機化学工業製品製造業 | 500人 |
化学肥料製造業 | ||
道路貨物運送業 | ||
港湾運送業 | ||
三 | 紙・パルプ製造業 | 1,000人 |
鉄鋼業 | ||
造船業 | ||
四 | 令第二条第一号及び第二号に掲げる業種(一の項から三の項までに掲げる業種を除く。) | 2,000人 |
2 (略)
(安全管理者の資格)
第5条 法第11条第1項の厚生労働省令で定める資格を有する者は、次のとおりとする。
一 次のいずれかに該当する者で、法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理するのに必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了したもの
イ (略)
ロ 学校教育法による高等学校(旧中等学校令(昭和18年勅令第36号)による中等学校を含む。以下同じ。)又は中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの
二及び三 (略)
(2)違反とはならない。協議組織の設置及び運営を義務付ける安衛法第 30 条第1項の規定は、特定元方事業者に対して義務付けられるものである。そして、特定元方事業者とは、安衛法第15条第1項(及び安衛令第7条第1項)により、建設業と造船業の元方事業者であるから、本肢の事業者は特定元方事業者ではない。
また、製造業等の元方事業者に適用される同法第 30 条の2は、第 30 条第1項を準用していない。従って、協議組織の協議組織の設置及び運営をしていないことは違反には当たらない。
次に、安全管理者が1日に1回しか作業巡視を行っていないことに関しては、そもそも製造業等の元方事業者には「労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止する」ことを目的とした作業巡視(安衛法第 30 条第1項(第三号)及び安衛則第 637 条参照)は義務付けられていない。
また、一般的な意味での安全管理者の職場巡視については第6条に規定されているが、頻度が定められていないので、1日に1回の作業巡視であっても違反とは言えない。
【労働安全衛生法】
(統括安全衛生責任者)
第15条 事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が二以上あるため、その者が二以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)(以下略)
2~5 (略)
(特定元方事業者等の講ずべき措置)
第30条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。
一 協議組織の設置及び運営を行うこと。
二 (略)
三 作業場所を巡視すること。
四~六 (略)
2~4 (略)
第30条の2 製造業その他政令で定める業種に属する事業(特定事業を除く。)の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置を講じなければならない。
2 前条第2項の規定は、前項に規定する事業の仕事の発注者について準用する。この場合において、同条第2項中「特定元方事業者」とあるのは「元方事業者」と、「特定事業の仕事を2以上」とあるのは「仕事を2以上」と、「前項」とあるのは「次条第1項」と、「特定事業の仕事の全部」とあるのは「仕事の全部」と読み替えるものとする。
3及び4 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(統括安全衛生責任者を選任すべき業種等)
第7条 法第15条第1項の政令で定める業種は、造船業とする。
2 (略)
【労働安全衛生規則】
(安全管理者の巡視及び権限の付与)
第6条 安全管理者は、作業場等を巡視し、設備、作業方法等に危険のおそれがあるときは、直ちに、その危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
2 (略)
(作業場所の巡視)
第637条 特定元方事業者は、法第30条第1項第三号の規定による巡視については、毎作業日に少なくとも1回、これを行なわなければならない。
2 (略)
(3)違反となる。安衛則第126条の規定により、手押しかんな盤には刃の接触予防装置を設けなければならない。
【労働安全衛生規則】
(手押しかんな盤の刃の接触予防装置)
第126条 事業者は、手押しかんな盤には、刃の接触予防装置を設けなければならない。
2 (略)
(4)違反とはならない。木材加工用丸のこ盤による木材加工の業務は特別教育の対象ではない。なお、雇入れ時の安全衛生教育を行っていたことそれ自体は違反になりようがない。
【労働安全衛生法】
(安全衛生教育)
第59条 (第1項及び第2項 略)
3 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。
【労働安全衛生規則】
(特別教育を必要とする業務)
第36条 法第59条第3項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。
一~四十一 (各号は省略するが、本肢の業務は定められていない。)
(5)違反とはならない。安衛則第151条の28の規定により、フォークローダーについては、原則として堅固なヘッドガードを備えたものでなければ使用してはならないが、荷の落下により運転者に危険を及ぼすおそれのないときは除かれている(※)。
※ 現実には、ヘッドガードのないフォークローダーはまず存在していないだろう。仮にあったとしたら、荷の落下の危険の有無にかかわらず使用するべきではない。
なお、フォークローダーとは、ショベルローダーのショベルの部分がフォークになっている機械である。
※ 図は、厚生労働省「ショベルローダー等運転技能講習=補助テキスト」(技能講習補助教材)より。
【労働安全衛生規則】
(前照灯及び後照灯)
第151条の27 事業者は、シヨベルローダー又はフオークローダー(以下「シヨベルローダー等」という。)(以下略)
(ヘツドガード)
第151条の28 事業者は、シヨベルローダー等については、堅固なヘツドガードを備えたものでなければ使用してはならない。ただし、荷の落下によりシヨベルローダー等の運転者に危険を及ぼすおそれのないときは、この限りでない。