問10 不安全行動に関し、人間の意識レベル(フェーズⅠ、フェーズⅡ、フェーズⅢ、フェーズⅣ)とそれに関する次のイ~ニの説明との組合せとして、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。
イ 過度の緊張や情動の興奮のため、注意の一点集中が起き、判断の切り替えも難しくなる。
ロ 強度の疲労、単純作業の繰り返し等により強い不注意状態となる。
ハ 明快な意識に裏打ちされ、注意の対象も広い。作業上最も望ましい状態である。
ニ リラックスし、内向き思考となる。休憩状態。日常的な作業はほとんどこの状態で処理される。
フェーズⅠ | フェーズⅡ | フェーズⅢ | フェーズⅣ | ||||
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(1) | イ | ロ | ハ | ニ | |||
(2) | ロ | ハ | イ | ニ | |||
(3) | ロ | ニ | ハ | イ | |||
(4) | ハ | イ | ニ | ロ | |||
(5) | ニ | ハ | ロ | イ |
このページは、2020年の労働安全コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と正答を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2020年度(令和02年度) | 問10 | 難易度 | 意識レベルに関する知識問題のように見えるが、知識がなくとも正答できる。確実に正答したい。 |
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意識レベル | 2 |
問10 不安全行動に関し、人間の意識レベル(フェーズⅠ、フェーズⅡ、フェーズⅢ、フェーズⅣ)とそれに関する次のイ~ニの説明との組合せとして、適切なものは(1)~(5)のうちどれか。
イ 過度の緊張や情動の興奮のため、注意の一点集中が起き、判断の切り替えも難しくなる。
ロ 強度の疲労、単純作業の繰り返し等により強い不注意状態となる。
ハ 明快な意識に裏打ちされ、注意の対象も広い。作業上最も望ましい状態である。
ニ リラックスし、内向き思考となる。休憩状態。日常的な作業はほとんどこの状態で処理される。
フェーズⅠ フェーズⅡ フェーズⅢ フェーズⅣ
(1) イ ロ ハ ニ
(2) ロ ハ イ ニ
(3) ロ ニ ハ イ
(4) ハ イ ニ ロ
(5) ニ ハ ロ イ
※ 画面の小さなデバイスでは選択肢が画面からはみ出します。スクロールして確認してください。
正答(3)
【解説】
本問は、橋本邦衛博士の提唱した意識レベルとエラーの関係についての設問である。橋本博士は、意識水準を5段階に分け、意識状態の低い順に、睡眠状態のフェーズ0からパニック状態のフェーズⅣの5段階とした。高い側から2番目のフェーズⅢの状態が最も能力を発揮できる意識レベルとされている(※)。
※ なお、大橋信夫氏によると、橋本博士のフェーズ理論の背景には「人間特性の非線形性とヒューマン・エラーとの関係」と題した高木純一博士の発言があったとされる。
大橋信夫「事故原因究明と安全性の向上とに関する一考察」(『日本福祉大学研究紀要-現代と文化 2006年)によると、高木博士は「人間の精神状態は覚醒度とか刺激に対する応じ方によっていくつかの段階に分けられる」とし、精神状態を5段階に分類するとした。参考までにこのページの最下部に高木博士による分類を表にして示している。
橋本博士は意識状態を下表のように分類している。なお、本問は一見すると橋本博士のフェーズ理論についての知識問題のように見えるがそうではない。これを知らなくとも、イ~ニの各肢を読んで意識レベルの低い順に並べればよいだけである。
選択肢を意識レベルの低い順に並べれば(3)が正答だと分かるであろう。仮に、フェイズの数字が高い方と低い方のどちらが意識が高い方かを忘れていたとしても、正しい肢の逆になっている選択肢がないのだから正答は可能である。
フェーズ | 意識のモード | 注意の作用 | 生理的状態 | 信頼性 |
---|---|---|---|---|
0 | 無意識, 失神 | ゼロ | 睡眠,脳発作 | ゼロ |
Ⅰ | subnormal | inactive | 疲労,単調,居眠り, 酒酔い |
0.9以下 |
Ⅱ | normal,relaxed | passive, 心の内方 |
安静起居・休息時, 定例作業時 |
2~5nine |
Ⅲ | normal, clear | active,前向き, 注意野も広い |
積極活動時 | six nine 以上 |
Ⅳ | hyper-normal, excited |
一点に凝集 判断停止 |
緊急防衛反応 慌て→パニック |
0.9以下 |
※ 橋本邦衛「安全人間工学部会の報告・討論の総括と今後の課題 石油化学プラントの安全人間工学的諸問題を中心に」(人間工学 1976年)。脳波パターンの項は省略した
フェーズⅠ | 強度の疲労、単純作業の繰り返し等により強い不注意状態となる。度忘れ、手抜き、ポカミスが多い。 |
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フェーズⅡ | リラックスし、内向き思考となる。休憩状態。日常的な作業はほとんどこの状態で処理される。予測や創造力は働きにくく、別のことに気をとられて手順を忘れる、本当は危険なのに大丈夫と思い込むといったエラーが起こりやすい。 |
フェーズⅢ | 明快な意識に裏打ちされ、注意の対象も広い。作業上最も望ましい状態。ただ、疲れやすくこの状態は長続きしない。 |
フェーズⅣ | 過度の緊張や情動の興奮のため、注意の1点集中が起き、判断の切り替えも困難である。いわゆるパニック状態。 |
※ 橋本邦衛「安全人間工学」(中央労働災害防止協会 1994年)の箇条書きを表にした。
(1) | 一番低いフェーズは寝ているとき、居眠りをしている状態。 |
---|---|
(2) | 次は, 目覚めているが不活発な状態。 |
(3) | その次はよく目が覚めて、十分に注意を配分できる状態であって、活発な活動や労働にはこのフェーズが適しているわけである。 |
(4) | これはすこし慌てている状態であって、折角情報があってもそれが聞えない、見えない、という程度の異常さをもっている。 |
(5) | もう一つ考えておきたいのがノイローゼのような病的な状態であって、一つの物事にこだわりを感じ始めると、被害妄想のようになったり、さらには凶暴性を帯びるような状態がある。 |
※ 橋本邦衛(1976年)に紹介されている箇条書きを表にした。