労働安全コンサルタント試験 2020年 産業安全一般 問06

移動式クレーンによる労働災害防止




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合格

 このページは、2020年の労働安全コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と正答を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2020年度(令和02年度) 問06 難易度 やや高度な内容の選択肢もあるが、全体として基本的な知識問題。正答できなければならない。
移動式クレーン

問06 移動式クレーンに関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)移動式クレーンのジブ起伏停止装置は、ジブの起こし過ぎによるジブの折損や後方への転倒を防止する装置であるが、油圧シリンダにより起伏を行う移動式クレーンでは、この装置は用いられていない。

(2)ラフテレーンクレーンの旋回自動停止装置は、過負荷状態とならないように旋回を停止させるものである。

(3)移動式クレーンの伸縮ジブは剛性が高いのでつり荷の負荷によるジブのたわみは小さく、作業半径に対するたわみの影響は考慮する必要はない。

(4)クローラクレーンの支持地盤の補強策として、6.0m×1.5mの敷き鉄板を一層で敷く場合は、クレーンの二つの履帯(クローラシュー)全てが、並べた鉄板の上に入るように、鉄板長手方向を履帯と直角方向にして、隙間なく敷き詰める。

(5)運転室と荷台の間にクレーンを架装した積載型トラッククレーンでは、荷台に荷がない状態において、側方領域及び後方領域に比べ、前方領域は安定性が悪い。

正答(3)

【解説】

(1)適切である。移動式クレーンのジブ起伏停止装置とは、ジブの起こしが制限角度に達したところでリミットスイッチによって起こし動作を停止する装置である。目的は、ジブの折損や転倒(※)を防止する装置である。

※ 問題文は「後方への転倒」とされているが、起伏停止装置によるクレーンの転倒防止は、クレーンの後方に限らず全周囲に対して有効なので、やや疑問を感じる。おそらく、ここでいう後方とは、クレーン車体の後方の意味ではなく、起こしの方向から見て「後方」なのであろう。

また、油圧シリンダにより起伏を行う移動式クレーンでは、そもそもシリンダの長さで起伏角度が制限されるので、この装置は用いられていない。

※ ただし、移動式クレーンの上部旋回体は、旋回中心より後方部分の重量がかなり重い。そのため、作業する側とは反対側のアウトリガを最大張り出しにせずに、ジブを全て引き込んだ(縮めた)状態で最大に起こすと、クレーン本体が上部旋回体から見て後方に転倒する潜在的な可能性がある(詳細は当サイトの「大型の移動式クレーンを運転するときの問題」を参照されたい)。移動式クレーンは上部旋回体の前方に転倒した場合よりも、後方に転倒したときの方が破損の程度が大きくなるので、修理は不可能(買い換えるしかない)となる。作業する側とは反対側のアウトリガであっても、必ず最大張り出しにすること。

(2)適切である。ラフテレーンクレーンの旋回自動停止装置とは、アウトリガを前後左右で異なる張出幅にしたとき、旋回位置によって定格荷重(安定度)が異なるため、定格荷重の大きい位置から小さい位置に旋回するとき、過負荷にならないように旋回を停止するための装置である。

(3)適切ではない。これは、解説するまでもないであろう。重いつり荷の真上にフックを垂らして伸縮ジブ式の移動式クレーンで荷をつると、浮き上がった瞬間に外側に大きく振れる。これはジブがたわんで半径が増すからである。これを防ぐには、玉掛けをした後、荷をつり上げる前に、ジブをわずかに起こすようにする。

※ クレーン協会のWEBサイト「ホイールクレーン災害と安全ポイント」の「4.移動式クレーンの安定度について」の(3)の図が参考になる。

(4)適切である。(社)日本建設機械化協会「移動式クレーン、杭打機等の支持地盤養生マニュアル」(1994年)に、支持地盤補強方法に鉄板等を用いる場合の鉄板の寸法、枚数の目安が記載されている。これに、クローラクレーンの支持地盤の補強策として、6.0m×1.5mの敷き鉄板を一層で敷く場合の例として、クレーンの二つの履帯(クローラシュー)全てが、並べた鉄板の上に入るように、鉄板長手方向を履帯と直角方向にして、隙間なく敷き詰める図が掲載されている(※)

※ クレーン協会のWEBサイト「作業現場における移動式クレーンの地盤対策について」の「表4 クローラクレーンに必要な鉄板の枚数」の注に図が引用されている。

(5)適切であるとしておくが疑問。本問は、かなり疑問の大きい肢である。まず、アウトリガについての記載がないが、本肢を適切であるとするためには、アウトリガを張り出していることが前提である。アウトリガについて記載がない以上、本肢を適切であるとするのはやや疑問と言うべきである。

確かに、積載型トラッククレーンの定格荷重は、後方、側方、前方の順に小さく設定してあり、前方領域のつり上げ性能は、空車時定格総荷重の25%以下にしていることは事実である。また、積載型トラッククレーンの斜め前方の安定度は、側方に比して著しく低いことは間違いない。そのため、ブームを前方に旋回させることは避けなければならないのである。

しかし、実をいえば、実際の前方(前方のタイヤの間にブームがある場合)の(定格過重の値ではなく)実際の安定度は、前輪の位置によっては側方の安定度に比して悪いとは必ずしも言えないのである(※)

※ 積載型移動式クレーンで、クレーンの中心からアウトリガの位置までの距離より、前方タイヤまでの距離の方が長いか、わずかに短い程度であれば、側方より前方の安定度の方が高くなる。

以上の2点において疑問のある選択肢ではあるが、(3)が明らかに誤ってるので、本肢は適切であるとしておく。

2020年11月15日執筆 2024年06月16日一部追記