労働安全コンサルタント試験 2018年 産業安全関係法令 問13

就業制限又は安全衛生教育




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 このページは、2018年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2018年度(平成30年度) 問13 難易度 就業制限又は安全衛生教育は基本中の基本である。確実に正答できなければならない問題である。
就業制限/安全衛生教育

問13 事業者が行う就業制限又は安全衛生教育に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。

(1)つり上げ荷重が5トン以上のクレーンの運転の業務のうち、床上で運転し、かつ、当該運転をする者が荷の移動とともに移動する方式のクレーンの運転の業務については、クレーン・デリック運転士免許を受けた者であっても、床上操作式クレーン運転技能講習を修了していなければ当該業務に就かせることはできない。

(2)研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務に労働者を就かせるときは、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行わなければならない。

(3)雇入れ時の安全衛生教育において、通信業の事業場の労働者については、十分な知識及び技能を有しているか否かにかかわらず、安全衛生教育を行うべき事項のうち、「作業開始時の点検に関すること」についての教育を省略することができる。

(4)新たに職務に就くこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対して行う安全衛生教育において、法令で定められた教育を行うべき事項の一部については、十分な知識及び技能を有していると認められる者については当該事項に関する教育を省略することができるが、全部について省略することはできない。

(5)可燃性のガス及び酸素を用いて行う金属の溶接、溶断又は加熱の業務については、ガス溶接作業主任者免許を受けた者でなければ業務に就かせてはならない。

正答(2)

【解説】

(1)誤り。安衛則別表第三には、各種就業制限業務の区分と、それらの業務に就くことができるものを示している。「つり上げ荷重が5トン以上のクレーンの運転の業務のうち、床上で運転し、かつ、当該運転をする者が荷の移動とともに移動する方式のクレーンの運転の業務」については、クレーン・デリック運転士免許を受けた者は、その業務に就くことができるとされている。従って本肢は誤っている。

なお、吊り上げ荷重5トン以上の天井クレーンの資格には、①床上操作式クレーン技能講習修了、②床上運転式クレーン限定免許、③クレーン・デリック運転士免許がある。また、クレーン・デリック運転士免許ができる前の④(旧)クレーン運転士免許を受けた者も多い。

そして、③及び④の資格を有する者はすべての天井クレーンを運転することができる。②の資格を有する者は床上運転式天井クレーン及び床上操作式天井クレーン(※)のみを運転することができる。さらに①の資格を有する者は床上操作式クレーンのみを運転することができる。

※ 床上運転式クレーンとは、運転者が走行方向のみ荷とともに移動して、床上から荷の近くで運転するクレーンである。なお、現実には、②の資格を有する者は、ほとんどいないのが現状である。

また、床上操作式クレーンとは、運転者が、走行・横行方向ともに荷とともに移動して、床上から荷のすぐそばで運転するクレーン(いわゆるホイスト)である。

さらに、吊り上げ荷重 0.5 トン以上5トン未満の天井クレーンの運転の業務につくためには、特別教育を受ける必要がある。しかし、③、④、②及び①の資格を有する者は、いずれも特別教育を受けることなく、吊り上げ荷重5トン未満のすべての天井クレーンの運転の業務につくことができる。

なお、現在、床上運転式天井クレーン限定免許の上位資格として、床上無線運転式天井クレーン限定免許の創設が検討されている。詳しくは、「床上無線運転式天井クレーンの運転に係る資格の在り方に関する検討会」を参照されたい。

【労働安全衛生法】

第61条 事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。

2~4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(就業制限に係る業務)

第20条 法第61条第1項の政令で定める業務は、次のとおりとする。

一~五 (略)

 つり上げ荷重が5トン以上のクレーン(線テルハを除く。)の運転の業務

 (略)

 つり上げ荷重が5トン以上のデリックの運転の業務

 (略)

【労働安全衛生規則】

(就業制限についての資格)

第41条 法第61条第1項に規定する業務につくことができる者は、別表第三の上欄に掲げる業務の区分に応じて、それぞれ、同表の下欄に掲げる者とする。

別表第3 (第四十一条関係)

業務の区分 業務につくことができる者
(略) (略)
令第20条第六号の業務のうち次の項に掲げる業務以外の業務 クレーン・デリック運転士免許を受けた者
令第20条第六号の業務のうち床上で運転し、かつ、当該運転をする者が荷の移動とともに移動する方式のクレーンの運転の業務

一 クレーン・デリック運転士免許を受けた者

二 床上操作式クレーン運転技能講習を修了した者

(略) (略)
令第20条第八号の業務 クレーン・デリック運転士免許を受けた者
(略) (略)

(2)正しい。安衛則第36条第1号の規定により正しい。

【労働安全衛生法】

(安全衛生教育)

第59条 (第1項及び第2項 略)

 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

【労働安全衛生規則】

(特別教育を必要とする業務)

第36条 法第59条第3項の厚生労働省令で定める危険又は有害な業務は、次のとおりとする。

 研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務

二~四十一 (略)

(3)誤り。通信業の事業について、雇入れ時の教育において「作業開始時の点検に関すること」についての教育を省略することはできるとする規定はない。

なお、出題当時は、安衛則第 35 条第1項には但書があり、安衛令第2条第2号に該当する業種については、雇入れ時の教育において「作業開始時の点検に関すること」についての教育を省略することができるとされていた。しかし、通信業の事業は、安衛令第2条第2号に該当する業種ではないため、出題当時も「作業開始時の点検に関すること」は省略できず、誤りの肢であった。

現時点では、安衛則第 35 条第1項の但書きは省令改正により削除されているため、どちらにしても省略できないので誤りの肢となる。

今後は、この種の雇入れ時等の教育の科目の免除に関する出題は行われないものと思われる。

【労働安全衛生法】

(安全衛生教育)

第59条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

 (以下略)

【労働安全衛生法施行令】

(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)

第2条 (柱書 略)

 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 (略)

 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 (略)

 その他の業種 (略)

※ 安衛令第2条は、現時点では本肢とは無関係であるが、出題当時の関係条文として参考までに載せている。

【労働安全衛生規則】

(雇入れ時等の教育)

第35条 事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければならない。

一~三 (略)

 作業開始時の点検に関すること。

五~八 (略)

 (略)

※ 安衛則第 35 条第1項は出題当時は、下記のように但書があった。2024 年4月1日施行の省令改正で、現在は上記のようになっているが、本肢の正誤には影響はない。

(雇入れ時等の教育)

第35条 事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければならない。ただし、令第二条第三号に掲げる業種の事業場の労働者については、第一号から第四号までの事項についての教育を省略することができる。

一~八 (略)

 (略)

(4)誤り。職長等の教育(新たに職務に就くこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対して行う安全衛生教育)については、安衛則第 40 条第3項により、十分な知識及び技能を有していると認められる者については、全部または一部を省略することができる。

教育を省略できるのは、教えるまでもなくその者が知っているからである。そういう理由で一部を省略できるなら全部省略してもとくに問題はあるまい。なお、同趣旨の条文として、安衛則第 35 条第2項第 37 条がある。

【労働安全衛生法】

第60条 事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

一~三 (略)

【労働安全衛生規則】

(職長等の教育)

第40条 (第1項及び第2項 略)

 事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる。

(5)誤り。可燃性のガス及び酸素を用いて行う金属の溶接、溶断又は加熱の業務については、安衛則別表第三に、ガス溶接作業主任者免許を受けた者、ガス溶接技能講習を修了した者、その他厚生労働大臣が定める者は業務に就かせることができるとされている。

なお、作業主任者とは作業の指揮を行う者であるから、本肢を読んだ時点で、一定の業務について「作業主任者でなければ就いてはならない」と定めることは変だと気が付かなければならない。

また、作業主任者は作業の指揮を行う者であって業務を行う者ではないから、技能ではなく知識があることが要件となる。つまり、作業主任者は業務そのものを行うための資格ではないのである。では、ガス溶接について、なぜ作業主任者を就かせることができるとしてるのかという疑問が出るかもしれない。ガス溶接の就業制限は、機器の取扱い(ボンベに器具類を取り付けたり、取り外したりという業務など)を正しくできることという観点からのものなので、知識があれば特別な技能がなくても問題なく業務を行うことができるからである。

【労働安全衛生法】

(就業制限)

第61条 事業者は、クレーンの運転その他の業務で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の当該業務に係る免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う当該業務に係る技能講習を修了した者その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならない。

2~4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(就業制限)

第20条 法第61条第1項の政令で定める業務は、次のとおりとする。

一~九 (略)

 可燃性ガス及び酸素を用いて行なう金属の溶接、溶断又は加熱の業務

十一~十六 (略)

【労働安全衛生規則】

(就業制限についての資格)

第41条 法第61条第1項に規定する業務につくことができる者は、別表第三の上欄に掲げる業務の区分に応じて、それぞれ、同表の下欄に掲げる者とする。

別表第3 (第四十一条関係)

業務の区分 業務につくことができる者
(略) (略)
令第20条第十号の業務

一 ガス溶接作業主任者免許を受けた者

二 ガス溶接技能講習を修了した者

三 その他厚生労働大臣が定める者

(略) (略)
2018年10月28日執筆 2024年11月20日最終改訂