問3 金属材料の強度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)大気環境下の鉄鋼材料が繰り返し応力を受けるとき、およそ106~107回の繰り返し数で、S-N曲線が水平になり、これ以上回数を増やしても破断まで至らない応力振幅値を疲労限度という。
(2)腐食環境下の鉄鋼材料が繰り返し応力を受けるとき、繰り返し数に伴って破断応力振幅値が低下する。
(3)クリープ試験では、その初期ではひずみ速度が減少する遷移クリープ、その後、ひずみ速度がほぼ一定の定常クリープ、後期ではひずみ速度が増加する加速クリープの過程を経て破断に至る。
(4)クリープ強さ(クリープ強度)とは、一定の温度下で、一定時間でクリープ破断するときの応力をいう。
(5)衝撃試験では、試験温度によって、衝撃吸収エネルギーが急激に変化したり、破断面の外観が延性破面からぜい性破面に変化する。この現象に対応する温度を遷移温度という。
このページは、2018年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2018年度(平成30年度) | 問03 | 難易度 | 金属材料の強度に関するやや高度な知識を問う問題である。ただ、過去問の分析によって正答できる。 |
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金属材料の強度 | 4 |
問3 金属材料の強度に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)大気環境下の鉄鋼材料が繰り返し応力を受けるとき、およそ106~107回の繰り返し数で、S-N曲線が水平になり、これ以上回数を増やしても破断まで至らない応力振幅値を疲労限度という。
(2)腐食環境下の鉄鋼材料が繰り返し応力を受けるとき、繰り返し数に伴って破断応力振幅値が低下する。
(3)クリープ試験では、その初期ではひずみ速度が減少する遷移クリープ、その後、ひずみ速度がほぼ一定の定常クリープ、後期ではひずみ速度が増加する加速クリープの過程を経て破断に至る。
(4)クリープ強さ(クリープ強度)とは、一定の温度下で、一定時間でクリープ破断するときの応力をいう。
(5)衝撃試験では、試験温度によって、衝撃吸収エネルギーが急激に変化したり、破断面の外観が延性破面からぜい性破面に変化する。この現象に対応する温度を遷移温度という。
正答(4)
【解説】
(1)正しい。弾性限度内の大きさでも、金属に繰り返し荷重を加えると、破壊することがある。これが疲労破壊で、破壊に至る応力と、破壊に至るまでの回数を表したものがSN曲線である。応力が小さければ破壊に至るまでの過重を加える回数は増え、応力が大きければ破壊に至るまでの回数は減少する。
ところが、降伏点のはっきりしないアルミニウムなどでは、ある力より小さな応力では、繰り返し荷重を繰り返しても破壊しないものがある。そのようなものは、106回から107回で破壊しなければ、同じ応力でそれ以上の繰り返し荷重を加えても破壊しないと言われており、この応力を疲労限度という。
(2)正しい。腐食環境中で繰返し応力を受けると、著しく強度が低下する。これが腐食疲労である。そして、腐食環境中の鋼では疲労限度が存在せず、繰り返し数に伴って破断応力振幅値が低下してゆく。
なお、これは応力腐食割れとは異なる現象であることに留意すること。
(3)正しい。クリープの本来の意味は、赤ん坊や昆虫が這って歩くことである。材料力学の分野では、一定で変化しない応力を加えているときに、ひずみが時間と共に増大することを表す用語である。
この現象は、第1期は変形速度が徐々に遅くなる遷移クリープ、第2期では変形速度が一定となる定常クリープ、第3期で変形速度が加速する加速クリープを経て破断に至る。
(4)誤り。“クリープ強さ”とは、所定の温度において、あるクリープ速度(1%/10万時間)を生じる応力のことである。本肢は“クリープ破断強度”又は“応力破壊強度”の説明である。
(5)正しい。シャルピー衝撃試験では、切欠を持つ試験片を様々な温度で破壊し、それに必要なエネルギーや破面形態を調べる。このとき、低温側では脆性破壊が起こりやすく、試験温度が上がるにしたがって延性破壊が起こりやすくなる。これは徐々に変化するわけではなく、ある温度以下になると吸収エネルギー(衝撃値)が急激に低下し、脆性破断するようになる。この温度を繊維温度という。
なお、厳密には脆性破面率が50%となる温度を遷移温度という。